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絆のあとさき 4

[1] スレッドオーナー: 小田 :2024/01/07 (日) 23:07 ID:LKPNupfo No.188184



先にも書きましたが、昨年後半から投稿ペースが失速しています。
理由は多岐に亘りますから、ここでは取り上げませんが、時間に余裕が出来れば、
引き続き投稿していきます。

終わりのない旅路のような日常ですから、確かな目標を決めて投稿を開始した
のですが、一つの出来事に捉われ過ぎ、展開が非常に遅くなっています。

今投稿している出来事の後に待っている出来事など、多くはありません。
年末に向けて、少し大きな出来事が明るみに出ます。
その前後をどのように書き表すか、悩みは尽きません。

数年来コメントを頂いている皆様、読んで頂いていると思われる読者の皆様、
時間が取れる時としか今は言えませんが、できる限り投稿を続けていきます。

では、今後も読んで頂けることを願って、進めていきたいと思います。


[85] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/06 (土) 18:00 ID:9RWvaVJA No.191020



「はははっ、変わり身の早さは・・・そうだな、さっき観た”逝く速さ”といい勝負じゃないか?」
「ハヤサ?・・・字が違うでしょ?比べられないと思わない?」
「はははっ、面目ない。この分野では勝てそうにないね」
「今は勝ってるでしょ?変わり身の早さって・・・when in Rome,do as the Romans do・・・
違った?」
「攻めるね。僕の心の内が読めるんだから、敵に回したくない・・・はははっ、それはないか?
僕の妻なんだからね」
「そうよ。ナニがあってもあなたの妻、だからあなたのルールに直ぐに馴染めるの。
たとえタクマさんと・・・そうだったけど、あなたの元に帰れば全て過去のことだもの」
「僕はローマ人じゃないが、”郷に入れば郷に従え”は教訓だね」
「諺でしょ?小田に戻れば、戸田じゃなくて・・・そうだもの、うふっ」
「その逆も?」
「なりすましかな?真のいずみではないの。分かるでしょ?」
「そう見えないところがいずみなんだね?はははっ」
「難しいのよ。どちらが私なのか・・・あれ?なりすましだから二面性?」

はぐらかすのも、見え透いた常套手段です。
何度遭遇しても、新鮮さを失っていないのですから、感心すること然りです。

「はははっ、呼び付けた理由を話さないのかい?」
「うん・・・ユーモラスはいいのね?いいんだ!・・・はい、これなの?」

先程のレジ袋を差し出します。

「ブラウスだろ?ワインのシミが付いた、だろ?」
「ワインって示唆したんだもの。それにカーディガンでしょ?あなたなら直ぐに分かると思った
のよ。それよりも、”あり得ない”って指摘されそうで、チョッピリ恥ずかしかったの」
「それを持ち出すのは・・・はは〜ん、これかい?」

照明を落としたウインドウの内側に飾られているノースリーブのブラウスに目をやります。
ホテルには多くの出店がありますが、ホテルの外側から見れるその店は、エントランスへと向かう
歩道に面しています。

「あのね、お洋服に気付いて立ち止まるかなって思っていたのに、寂しいでしょ?」
「なるほどね。欲しいのか?」
「この時期でも飾ってるって売れ残りでしょ?それにRLじゃないもの。クリーニングに出すって
決めていたの。でも、シミ取りの真似事はしないと、薄くなるだけでもいいもの」

私はスーツなのですが、ネクタイは外していました。
仕事では、年中同じ様な服装ですが、いずみと同じブランドではありません。
RLはカジュアル限定と決めています。

歩き出した私の左腕に、そっと右手を廻して、

「お洋服だから・・・直接じゃないから、いいでしょ?」
「先程、別れる時に手に触ったのは?」
「合図だもの。目で訴えたのよ、分かった?」
「不可抗力かい?」
「仕方なかったの。マイルールも時として破らないといけない時ってあるでしょ?
あれ?あなたみたいだわ、うふっ」
「分からなかったね、歩き出すまでは。可能な限り早く掛けてくると思ったが、変り身より
遅くないかい?」
「逝く速さとは?」
「比較もできないだろ?逝き続けるんだから、異次元だろ?宇宙人かと思ったよ、はははっ」
「そうでしょ?タクマさんの超人的な体力は異次元だもの・・・あれ?違うの?わたし?」

何かにつけて、このように話せるのは、いずみだからです。
天然の素質が、ユーモアのセンスを引き出しているのかもしれません。


[86] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/07 (日) 12:18 ID:LKPNupfo No.191031



エレベーターに乗っても、腕を組んでいるのですが、

「あなたとなら手を繋ぎたいのに・・・」
「はははっ、二番煎じだろ?」
「そうだけど・・・寂しいんだもの、ほんとだからね」
「無理しなくてもいいよ。先程の温もりが残ってるんだろ?」
「オンナって直ぐに醒めないでしょ?でも、あなたとなのよ、こんなのって不謹慎だわ」
「はははっ、誰だよ、お願いしたのは?」
「そうだけど、本を正せば・・・言えないかな?」
「僕かい?」
「タクマさんは何も知らないのよ。私が誘導したって思ってない?」
「あってもおかしくないだろ?真実は闇の中かい?」
「難しいな?アトでいいでしょ?時間がないもの」
「タクマさんか・・・不安だから、弁明に来たってことかい?」
「それもあるかな?」


部屋に入るなり、

「あなた、お洋服を脱いでもいい?」
「ほてりを冷ます?」
「体はそうだけど、心はあなたと共に、なのよ。信じる?」
「はははっ、これも二番煎じだが、信じたいね」
「タクマさんと接した下着も・・・体はシャワー・・・あっ?もう一度しないと。心は洗う必要も
ないの、何度逝ってもあなたのもの、信じてね?」
「あぁ、そうだね。好きにしたらいいが、時間だろ?」
「あっ?ホントだ!・・・窓側のベッドに坐ってお話しするけど、いいよね?」
「約束したのか?」
「何も・・・でも、戸田さんっていう中年のスキモノさんにセックスシーンを観てもらったでしょ?
きっと掛かってくると思うの・・・でも、いつもかな?うふっ」
「やはりそうじゃないか?暗黙の了解だろ?」
「そうかな?うふふっ・・・まだ掛かって来ないから、裸になるわね?」
「今日は二回目だね、いずみのストリップは。はははっ」

窓の傍の椅子に坐って、見るでもなくいずみに目線を向けるのですが、いずみと認識できない程、
ぼやけているのです。
いずみという名の知り得ない女性と認識したいのかもしれません。

いずみは、脱いだ服と下着、バッグなど、それとレジ袋と私の上着も併せて、クローゼットに
収納します。

弁明のためだけに、石黒さんとの時間を割いたのではないと思うのですが、もしそうなら、
11時30分過ぎに掛かってくるタクマさんとの会話を聴かせたいのだと思えるのです。
話し難いことなど何もないと宣言しても、完璧な説明など不可能に近いでしょう。
それを求めているのではないのですが、いずみ自身が納得できないと思っていたとしたら、
今回は絶好の機会です。
ところが、いずみの真意が何処にあっても、私にはどうでもいいことなのです。
今ここに居るのは、信じられるいずみなのですから、全くもって無駄な時間だと思えてきます。

「あなた、ホテルのパンフレットを取ってくれない?」
「宿泊約款だろ?」
「それ!それ!ごめんね?」


[87] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/07 (日) 16:00 ID:LKPNupfo No.191036



素肌にナイトウエアを着たいずみは、ベッドボードにもたれて足を投げ出しています。
その時に必要とする準備をしているのでしょう。
宿泊約款は、ハードカバーに収まっていますが、中身がその役に立つと判断したようです。

「あっ?大変だ〜!」

慌ててベッドを降ります。
クローゼットに納めたショルダーバッグから、携帯を取り出したのでしょう、右手に持って
私に見せます。

「ダメね?まだまだだわ、うふっ」
「だね、はははっ」


ベッドに戻って、先程と同じようにリラックスした様子を演出します。
ナイトテーブルに置いた携帯には目もくれずに、約款の内容を読んでいる様に見えます。

「いずみ、約款を読んでるのか?」
「うふふっ、この時間はお仕事の時間なの。タクマさんは、そう思ってるのね。
ほんとにそうなんだけど、今は偽装でやり過ごさないといけないでしょ?
だからね、作成途中の書類のチェックとか、そうだわ、今夜はこれでいこうかな?うふっ」
「楽しそうじゃないか?」
「嫌味なの?ほんと大変なんだから・・・あれ?これも二面性?」
「はははっ、二面性が多くて大変だね?」
「もう!多面性でしょ?それは今度ね?・・・あなた、ベッドの方に移動してくれない?
スピーカーにするけど、近くの方が良く聞こえるでしょ?」

いずみとの距離は、テーブルを挟んで2m程ですが、椅子をベッド寄りに移動すれば、その距離は
1.5m弱とかなり近くなります。


腕時計は、11時35分を回ったところです。

「何だか緊張するかな?うふっ」

そうは見えないのですが、内心は穏やかではないのかもしれません。
タクマさんとの会話を私に聴かせること、それは一大イベントとは思っていないでしょうし、
以前にも録音した会話を聴かせているのですから、緊張感があるとしても、それ程の事でもないと
思うのですが、性行為を見せた後となると、少なくない不安も感じているのかもしれません。

私が口を開こうとした時、静寂の中で携帯の着信音が響き渡ります。
少し引き締まった顔を私に見せてから、そっと手を伸ばして携帯を取り上げます。

「あなた、ちょこっとイヤらしいお話もすると思うけど、気にしないでしょ?」
「あぁ、良しなに。僕が話題に上るのかな?」
「かな?・・・出るわね?」

ホテルの宿泊約款はベッドに置き、携帯は左手で持ったまま、下腹部の少し上に乗せます。


『大丈夫?』

いずみの第一声は、タクマさんへの気遣いです。


[88] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/07 (日) 18:59 ID:LKPNupfo No.191039



『少しかな?いずみちゃんこそ、腰を抜かしていない?』
『一回だったから、もっと抜きたかったでしょ?』
『時間がなかったから。いつもよりも興奮した?』
『どうかな?誰だったっけ?お名前を聞いたのに・・・』

何度も口にしていたのですから、忘れているとは思えないのですが、特に意識していなかったと
強調したいようです。

『忘れてもいいと思うよ。仮みたいに言ってただろ?』
『そうね・・・タクちゃんは?』
『初めてだろ?戸惑ったけど、いずみちゃんの一言でスムーズにできたかな?』
『じゃ、興奮したのね?』
『眠っている様に見せるって凄いと思ったよ。それだけで興奮するとは思わなかった』
『それ?・・・ほら、お名前がないと話せないでしょ?覚えていないの?』
『そうか・・・戸田さんだよ』
『そうだったかな?・・・その戸田さんに観られてじゃないの?興奮したのは』
『それもあるかな?いずみちゃんだからだと思うけど』
『ほんと?ねぇ、戸田さんってどう思う?』
『どうって・・・中年ってイヤらしいけど、優しそうって言っただろ?』
『私じゃないでしょ?』
『戸田さんで良かったかな?いずみちゃんは美人だから、興奮して参加しないか気になったけど、
思ったよりも紳士だったね』
『私は見る余裕もなかったけど、とても冷静って感じだったわね』
『きっと初めてじゃないと思うな。慣れているように思わなかった?』
『そうかな?そうかも!うふっ』
『はははっ、お気に入りだろ?また頼もうか?』
『無理でしょ?連絡先も分からないのよ。一回限りだから興奮したのよ、そうでしょ?』
『やっぱり!いずみちゃんも興奮したんだ!そうだと思ったよ。いつもとは違っていただろ?』
『タクちゃんね、少し間違っていない?いつもっていつのいつもなの?』
『えっ?・・・いつもは・・・いつもと違うかな?』
『うふふっ、いつも興奮してるもの。だからいつのいつもでもいいの、会えば楽しいのよ、お話も
アレも、でしょ?』
『アレ?おおっ!アレが待ちきれないって、いずみちゃんのアレと話したいってムクムク大きく
なってきたよ』
『扱いてるの?何だかお声が変だと思っていたの、それなの?』
『思い出すだろ?いずみちゃんは?』
『同じよ・・・でも、妄想って好きじゃないの。物理的じゃないと、分かるでしょ?』
『物理的だろ?いずみちゃんにしてもらえないから仕方ないだろ?』
『そうね、タクちゃんだと思えばいいのね?』
『いつものように・・・いいだろ?』
『また、いつもね?・・・いいわよ。でも、私の質問に答えてから、それでいい?』
『蒸し返しなら・・・』
『そうよ。話してくれないなんて寂しいでしょ?』
『もう少し待ってくれないかな?必ず話すから』
『ほんとね?約束よ、いい?』
『僕は準備完了だよ。いずみちゃんは?』
『出してるのね?』
『いずみちゃんの大好きな大きさに近づいてる・・・あれ?もうマックスかな?』
『待ってね?・・・』

顔を上げて、困った表情を見せます。
目線は携帯に注がれていますが、時々私に顔を向けながら話しているのです。
私は何のアクションも見せません。
それは、いずみに任せているからです。

結論を出したのか、携帯を持ってベッドを手で押え脚も動かして、何かの動きを携帯の向こう側に
伝えます。


[89] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/13 (土) 11:10 ID:DKB63IC2 No.191187



『・・・パンツを脱いだわよ。触るんでしょ?』
『僕の指と舌が・・・あれ?いずみちゃんも話してくれないと』
『いいわよ・・・ゆっくり・・・そうよ、タクちゃん・・・あっ?待ってくれない?・・・』

私にウインクして、

『・・・大変だわ、娘が起きたみたい。後で掛けるから切るわね?』

返事も聞かずに、切ってしまいます。


「おい!おい!いいのかい?」
「寸止め?私には彼よりも大事なモノがあるって知らさないと。そうでしょ?」

ベッドを降りたいずみは、ナイトウエアを脱いで、

「少し時間が出来たから、シャワーと歯磨きね?ないと思うけど、掛かってきても知らせない
でね?」
「あぁ、そういうことなら。悪党だないずみは?はははっ」
「うふふっ、タクマさんも大事なのよ、ベッドではね。悪いオンナかもしれないけど、
彼も楽しめるんだもの、お互い様でしょ?セフレですもの、うふっ」

納得の返答に、ぐうの音も出ません。


バスルームから聞こえるシャワーの音が、タクマさんとの滓を洗い流し、いずみを再生している
ように聞こえます。

一人取り残された思いなのですが、そう待たずにいずみは抱き付いてくる筈です。
二人の会話から読み取れるのは、イヤらしい中年の私とテレホンセックスが二大テーマのようで
したが、解けない疑問も提示されているのです。
それについては、後で説明があるでしょうが、結論に達していないようですから、何も言及しない
かもしれません。

立ち上がって窓の外に目をやるのですが、先程のダブルベッドの部屋とは、夜景が全く違って
見えます。
当然下の階なのですが、見る位置が変わると景色もこれほどまでに変わるのかと、少し大袈裟
かもしれませんが、驚愕と表現したくなります。


10分が経過した頃に、いずみが戻って来ます。

「掛かってきた?」

待たせているのですから、気になるのは当然でしょうし、タクマさん以外の他の人でも同じ対応
だと思います。

「イヤ・・・いずみ、来てみないか?」
「良かったわ・・・ナニか見えるの?」

体に巻き付けたバスタオルが落ちないように、胸元を押さえています。
私の腰に手を廻して、窓の外を見るのですが、

「どこ?何が見えるの?」
「見えるだろ?見えないのは心が汚れているからじゃないか?はははっ」
「えっ?・・・あっ?そういうことね?私にも見えるからまだ大丈夫?」


[90] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/13 (土) 16:47 ID:DKB63IC2 No.191192



私達が窓に映っているのに、気付いたようです。

「こうして映るんだから、悪女じゃない証明みたいだね?」
「そうよ、嘘も方便でしょ?大事な人と一緒なのに、映らないなんてあり得ないでしょ?うふっ」
「タクマさんも大事だろ?」
「大事違いよ。彼となら映るのは私だけ、そうじゃない?セフレはそれだけの関係だもの。
肉欲と愛情は同じテーブルには載せれないの」
「好きでもかい?」
「うん・・・好きよ、ほんとに好きなの。でも、愛してるんじゃないもの。
話したことはないけど、彼も分っていると思うし、それ以上踏み込んでこないと思うの。
そういう関係なの、私達って。求め合う気持ちに嘘はないのよ、でもそれだけ。信じてくれる
でしょ?」

私の目を見詰めるいずみの腰に手を廻して、キスを交わします。

「バスタオルが邪魔だって怒ってるわ、いい?」

私の返事など気にならないという風に床に落として、首に両手を廻してきます。

「丸見えだぞ。カーテンを閉めろよ」

窓を覗き込む様に立っていたいずみですから、抱き寄せた時に背中が窓側になったのです。

「うん・・・」

レースカーテンと内側の遮光カーテンも開けていたのですから、近くても離れていても、
同じ高さのビルからなら、見えるかもしれません。

振り返って、カーテンを閉めます。

「・・・見て欲しいのはあなただけだもの。他の人は・・・それぞれ理由があるでしょ?
タクマさんは少し違うけど、健康維持に必要かな?うふっ」
「はははっ、潤いと癒しだろ?」
「そうかな?うふっ。あっ?いけない!彼の精神衛生に良くないわ。潤いも癒しも封印するわね?
それにしても、待たせ過ぎたかな?」
「そうだね。いずみの手腕を見せてもらうよ、はははっ」
「あなたね・・・お静かに、いい?」

先程のポジションに戻って、携帯を操作します。
タクマさんは待っていたのですから、直ぐに出ます。


『遅いなぁ。掛けようかと思っていたんだぞ』
『ごめんね?なかなか寝てくれなくて。タクちゃんの事が気になるから、急ぎ過ぎたのね。
やっとよ、ホントにごめんね』

何かにつけて”ダシ”なるものを持っているのは、かなりの強みと言えます。
その強みは、相手の弱みにもなるのですから、使い方一つで、思惑通りに進めることも不可能では
ありません。
言うまでもなく、いずみはひろ子を”ダシ”に使っているのです。

『それなら・・・続けるだろ?』
『まだ元気なの?嘘でしょ?』
『超人タクマを知らないのか?はははっ』
『信じられないわ、うふっ・・・ねぇ、もうとっくに醒めてしまったの。ごめんなさい』

語尾は、さも恐縮したようにフェードアウトさせます。
タクマさんは、一瞬言葉が出てきません。


[91] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/13 (土) 22:02 ID:DKB63IC2 No.191204



『・・・ほんとに?そうだろうとは思ったんだけど。いいよ、次まで溜めておくかな?』
『ほんとにごめんなさい。頑張ってくれたタクちゃんには申し訳なくて』
『もういいって・・・さっきね、戸田さんのこと、気にしていただろ?』
『いいのね?・・・戸田さん?何だった?』
『戸田さんの名前を聞いただろ?だから何かなって』

タクマさんの優しさなのでしょう、いずみのへりくだった様子から、先程の懸念に言及したのだと
思われます。
加えて、私に話しがあると言ったことにも関係があるのかと、邪推してしまいます。

考える素振りなのでしょう、直ぐに返答しません。
纏まったのか、私に顔を向けてウインクします。

『・・・気になるっていうか、あのね、オーナーのレストランに入った時ね、ほんと驚いたのよ』
『それ?話しただろ?今は無理だって』
『違うの。タクちゃんを見た瞬間よ、ほんとに驚いたのね、だから戸田さんが見えなかったの。
携帯で話しながらだったでしょ?戸田さんの肩に当たったのに、満足な謝罪もできなかったのよ。
それだけビックリしたって分かるでしょ?』
『驚愕?それとも驚天動地?』
『難しい熟語を知ってるのね?もしかしたら・・・』
『有名大卒?はははっ、話していて分からないのなら、節穴だろ?』
『やっぱり!そうじゃないかと思っていたの。タクちゃんのヘアースタイルが変わり過ぎだもの。
疑問から確信に変わったかな?だから・・・後日ね?それまでは封印しておくから、必ず教え
てね?』
『激変だろ?思うことがあって・・・いつかのいつかかな?』
『曖昧なのね?・・・ねぇ、長くなってしまったから、今夜はここまでにしたいかな?』
『いずみちゃんは忙しいから。今からも?』
『そうよ・・・聞こえる?』

傍に置いていたホテルの約款を取り上げ、ハードカバーを開いて、約款を記した用紙を携帯の
近くでパラパラとめくります。

『プレゼン用なの?』
『あるプロジェクトの計画書・・・分からないわね?』
『僕も・・・はははっ、分かる筈もないだろ?』
『そうね・・・じゃ、いいいわね?』
『いつ会えるかな?』
『いつかのいつかね?うふっ・・・一ヶ月後かしら?木下さんとの兼ね合いね?』
『そうだな・・・じゃ、連絡を待ってるよ』
『おやすみなさい・・・大好きよ、うふっ』
『同じく・・・はははっ、おやすみ』


爽やかに締めくくります。
セフレとしての資質は十分に備わっていると判断できることに加えて、粘着質な気質でもない
ことは、いずみにとっては有難いことです。
タクマさんの出自は、ある程度の推測は出来ていますが、私に話しがあるとは、皆目見当も付き
ません。

いずみの表情からは、余韻が残っている様が読み取れます。
ベッドでの後遺症ではない事は、一目瞭然です。

上手く纏められた安堵感か、ホッとした表情でベッドを降り、抱き付いてきます。


[92] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/14 (日) 11:13 ID:J9iEAGI6 No.191214



「上手く纏めたね」
「うん、いつもと少し違うかな?アレ?またいつもって、うふっ」
「はははっ、完璧な再現は不可能だろ?いつもの?はははっ、雰囲気が見れればそれでいいよ」
「あなたまで。いつもはいつもじゃないのよ、話していたでしょ?聞こえなかった?」
「僕達にはいつもはいつでもいつも、分かるね?」
「うん、愛してるわ」

いずみは私の膝の上に乗って、両腕を首に巻き付けているのです。

「いずみね、タクマさんじゃないからね?」
「えっ?・・・あっ?ごめんね?重い?」
「比較はしたくないが、超人タクマじゃどうあがいても敵わないからね、はははっ」
「うふふっ、そのお話しは・・・あっ?忘れてたわ。大変だ〜!サワちゃんに叱られるわ」

言葉とは裏腹に、急いでいる様には見えません。
私の頬にソフトに唇を付けてから膝から降りたいずみは、もう一つの椅子を私の右傍に移動させ
ます。

「これでいいわ・・・サワちゃんに掛けてもいいでしょ?」
「交代の連絡?遅くなったのかい?」
「少しかな?」

全く気にしていない様に見えるのは、いずみを熟知している私だからかもしれません。


『いずみさん、遅いじゃないですか?』
『ごめんね?でも、まだ12時にはなっていないわよ』
『”11時を回るかも?”って。それを信じていたのに』
『だから謝ってるでしょ?ハッキリと約束したんじゃないでしょ?』
『そうですけど・・・いつもと同じかなって。時間には厳しいいずみさんって思っていたのに、
見方が変わりそうです』
『あのね、いつもはいつも一緒じゃないのよ。いつもそうなるように努力してても、いつもそう
なるとは限らないの。いつもとはそいうものなの、分かる?』

先程の”いつも”が独り歩きしているようです。
いずみ本人も制御できなくなっている様に見えても、押し切る強い気持ちが感じられます。
石黒さんにすれば、返答の機会を探すにも、その隙も見付けられない様に感じます。

『いつもはもういいです。何時になるんですか?』
『うふふっ、怒った?』
『体がいくつあっても足らないって言うでしょ?真剣に受け止めていませんから、怒る理由も
ないでしょ?』
『お利口さんね?それがサワちゃんだものね?・・・そうね、もう少し主人と話したいから、
遅くとも1時までには、ダメかしら?』
『小田さんの声を聞かせてくれたら、いいかな?』

以前にも同じパターンがあったことを思い出します。

『待ってね?・・・』


「あなた、出てくれない?」

携帯を差し出して、”チュッ!”と頬に唇を触れさせます。
”上手く纏めてね?”と示唆しているようです。


[93] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/14 (日) 15:16 ID:J9iEAGI6 No.191216



『いずみが無理なお願いをしたようで申し訳ないね。後で叱っておくから』
『これってスピーカーでしょ?』
『分かっていたんだろ?』
『いつものいつもはいつもなんですね?』
『はははっ、ご明察だよ。石黒さんには隠し事などできないね』
『でしょ?いずみさんって今夜の事を詳しく教えてくれないの。小田さんとタクマさんを
遭遇させるだけ、どういう設定なのかもナニも。それなのに小田さんとの大事な時間を割かれた
のに、いつものいつもって訳の分からない言い訳なんだもの。酷いと思いませんか?』
『いずみも分っていないんだよ。成り行きで仕方なく、そう思ってくれないか?』
『勢いですね?それならありがちなことだわ・・・いずみさん!素直になりましょうね?』

携帯をいずみに渡します。

『反省してるから、そんなに責めないでよ。今夜の事は必ず話すから、もういいでしょ?』
『うふふっ、小田さんと話せたから、今夜はいずみさんに譲ります。明日の朝まで仲良くして
下さいね』
『えっ?いいの?一か月先まで会えないのよ』
『待つのも楽しいモノなんでしょ?・・・小田さん!待たせて下さいね?』

携帯を私に渡そうとして、

「おかしいわ、スピーカーにしてるのに」

顔を寄せあった二人の前のテーブルに置きます。

『いずみに聞いたのかい?自信はないが、頑張るとしておこうか?はははっ』
『いずみさんってボキャブラリーが豊富でしょ?教えられる事ばかり、尊敬しているんです
・・・聞こえます?』
『言わないでね?お鼻が高くなるでしょ?うふふっ』
『はい、今度はオッパイって言えるようになればいいですね?うふふっ』
『もう!寄ってたかって・・・あれ?あなたは言わないから、失言でした。でも、嬉しいわ、
譲ってくれたこと。何かお返ししないといけないわね』

私が割って入ります。
タクマさんと約束した日なら、その後で石黒さんと会うことは可能です。

『再来週の月曜日はこちらに来ているからね、夜の少し遅い時間に。どうかな?』
『えっ?ほんとに?・・・』
『ほんとですか?』

二人ほぼ同時に驚きの声です。

『・・・あなた、出張なの?』
『嬉しいです。何時でも待っています・・・いずみさん、特に予定はないですね?』
『分かったわ・・・その日はサワちゃん用に空けておくから。それでいいでしょ?』
『はい、お願いします。嬉しいな!』
『はははっ、纏まったようだから、僕とはその時に。いずみとは仲良くしてくれるね?』
『はい・・・いずみさん、仲良しでしょ?』
『そうね、これからも宜しくね?・・・じゃ、明日は7時前に帰るから。いいわね?』
『はい、小田さんと仲良くして下さい。おやすみなさい』
『そうね、おやすみ』


[94] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/14 (日) 19:17 ID:J9iEAGI6 No.191219



私の顔を覗き込んで、

「仲良く?今夜は無理って言えないもの。説明するには時間が必要でしょ?私達の時間が
割かれるもの。あれ?サワちゃんの時間を割いたのに、少し説明すれば良かったかな?」

その気もないのは、丸分りです。

「まぁ、驚いた時間だったが、時間が経つと何事もなかったように思えてくるよ」
「それって自然体ってこと?」
「タクマさんと?」
「違うの?」
「いずみかな?」
「わたし?・・・いつもと変わらない姿態を見せたかったのよ。でも、変更したから、いつもの
いつもじゃなかったの」
「そうか・・・後で聞こうか?」
「あっ?ごめんなさい。シャワーでしょ?」

私は何も話さず、立ち上がります。
私の様子が気になるのでしょう、直ぐにドレスシャツのボタンに手を掛けてきます。

「気付くのが遅くなって、ほんとにごめんなさい。怒ってないでしょ?」
「怒る?それはないよ。それ以前の問題かな?終わったことには拘らないとしても、何かの
サインは欲しかったね」
「あなたの様子は見えないし、合図もできない状況で話しだけが進んでしまって」
「後で聞こうか?納得させるのは得意だろ?はははっ」
「得意?そんなんじゃないの。いつものようにありのままに、いつもと変わらず・・・あれ?
うふふっ、空気を変えようかなって」
「はははっ、いずみ節に追加するか?」
「まぁ!久し振りだわ。懐かしい響きね、うふっ」


体を洗ってもらいながらも、心なしかいつもよりも丁寧に感じるのは、いずみが気を遣っていると
思ったからですが、本人は至って冷静に見えるのです。
そう感じるのは、私が気を廻し過ぎなのかもしれません。
それもいずみなのですから、ベッドでの弁明まで気付かない振りを通します。


「ねぇ、ベッドは?」

いずみは先程のナイトウエアを、私も同じようにナイトウエアを着ます。
考えようでは、いずみはピロートーク、私は差し詰めベッドトークかと、可笑しくなってきます。

「ん?聞く?」
「えっ?そうよね、聞くまでもないわ。ごめんね?」

先程、いずみがタクマさんと携帯で話したベッドではなく、バスルーム側のベッドに並んで座り
ます。

「あれ?脚の長さってあまり変わらないと思わない?」

本題に入る前の緊張緩和を狙ったようですが、タクマさんとの性行為を観られた後では、臆する
ものがあるのでしょう。

「ん?・・・狙いは分かるけどね、フェイントは必要ないだろ?」
「はい、指摘されるって分かるのよ。でも・・・とっかかりが難しくて・・・チュッ!うふふっ
・・・これでいいわ」
「はははっ、いずみらしく話してくれないか?」


[95] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/21 (日) 13:40 ID:x8bomWrk No.191376



「うん・・・レストランで話したことでしょ?観られて興奮する事ね?・・・あっ?その前に
ブラウスをワインで汚したことを話すわね」
「それか・・・ウエイトレスの女性、名前を聞いたが・・・まぁ、それはいいとしても、
前に聞いたように上手く隠すね。いずみの腕が時折見えたけど、ブラウスを脱いでいるとは
思えなかったし、カーディガンも着るんだから、何だかマジックを見ているようだったね」
「アレでしょ?直視できないものね。時々なら断続的でしょ?現実と推測のどちらが勝るか?
妄想ってそういうことでしょ?」
「なるほどね。ここでもいずみマジックかい?」
「ほんとだ!そう言えば良かったかな?うふっ」
「タクマさんがこちらを見ているから、顔を上げるタイミングが難しかったね。
そもそもワインの理由だが、飲めないのにと思うだろ?」
「あのね、タクマさんが再会を祝ってって、それで。飲めないのは知っているのよ。
それでもって、仕方なかったの、口を付けるだけならって。でも、見えなかったかもしれないけど、
腕を絡まして飲むの、何て言うの?」
「クロス呑みかな?経験がないから間違っているかもしれないが、友情の証とか言うらしいよ」
「腕を交差するから、そう言うのね?タクマさんは再会の祝福とか言ってたけど、ワインに
口を付けたのはいいのよ、直ぐにキスしてくるんだもの。”えっ?”って思った時にはワインが
ブラウスに。少しだけだったけど、シミになるでしょ?でね、カーディガンを着ることになったの。
カーディガンの着方って変だと思ったでしょ?」
「まぁ、あり得ないね。分かる人にはセンスがないと思われるだろうけど、ブラウスを脱いだと
なると、選択肢はそれしかないものね、はははっ」
「笑わないでね?あなた以外の人って鈍感なのかな?特に変な目で見られなかったわよ」
「見て見ぬ振りだろうね?それはいいから、続けろよ」

恥ずかしいという風に、抱き付いてきます。

「ねぇ、もっとくっついてもいい?」
「今もかなりだろ?乗っかるのかい?」
「それは・・・あっ?タクマさんを想起したでしょ?」
「彼とはそうしてるのかい?」
「いつもじゃないのよ。その時によるけど、してるかな?」

正直も考えものですが、嘘も方便は使って欲しくない状況ですから、納得するしかないようです。

「全て話すのは難しいとか言ってただろ?乗っかるのは思い出したからなのか?」
「うん・・・ほんと難しいでしょ?隠すとかじゃなくても、全てなんて無理って分かるもの。
だからね、話していて”あれ?”って思い出すことってあるでしょ?今のはそうなの。
あのね、乗っかるって繋がったまま・・・挿入したままでお話しするの。
セックスしてるのにしていないような、そんな状態なの」
「やはりだね。彼の体力、チン力かな?侮れないね、はははっ」
「あなたね、笑うところじゃないでしょ?ほんとは話したくないでしょ?だって、あなたに悪い
ことしてるって思ってしまうんだもの。それでもお話しする私っておかしいと思わない?」
「僕が容認しているからだろ?そう理解しているのなら今更だろ?」
「あなたは聞きたくないのは分かっているのよ。でも、話すのが私の義務なんだもの。
セフレとは所詮セフレなの。あなたとは次元が違うんだもの」
「だから話す?それでいいんだよ。僕が仮に聞き流したとしても、いずみは誠意を示したことに
なるからね。大いに発言してくれたまえ、はははっ」
「開き直ってるの?そうなの?」
「何も・・・無の境地だよ。いずみに任せているんだから、いずみの責任で行動すればいい。
間違ったことにはならないと信じているからね」
「うん、”絶対に絶対はない”ってあなたは言うでしょ?でも、声を大にして言えるもの。
”問題になるような事は絶対にない”って、何度でも言えるもの。
あれ?聞き流しって無視されてるってこと?うふっ」
「その方が好都合だろ?僕に気を遣わなくて済むからね」
「そうだとしても、セックスの詳細は話したくないかな?それなら今夜のように観られる方が
いいかな?あなたを意識せずに話すのってほんとに難しいもの。あっ?でも、独り言だと思えば
いいのね?あなたは傍に居るのに居ないと思えば・・・できるかな?できる限り事実を事実として
話すように努力するから・・・でも、聞き流す事ってできるの?」


[96] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/21 (日) 19:59 ID:x8bomWrk No.191386



「まぁ、その時だよ。任せると言っても僕が関与できる余地は欲しいかな?」
「うん、何でも言ってね?あなたのいずみだもの。指示とか注意事項があればそれに従うの、
それが私の誠意だもの。愛してるのはあなただけだもの」
「僕が言いたいのは、分かっていることは事前に知らせる、事後連絡なら可能な限り早く、
判断に困った時は即断しない、僕に相談してから決める、そういうことだよ。
今言ったことは一例だが、理解出来るだろ?」
「うん・・・あのね、性行為は?」
「タクマさんと楽しく過ごせるのなら、特に口出しはしないよ。セフレの範囲で最大限に
楽しめばいいからね?」
「うん・・・でも、独り言は聞いてくれるでしょ?あなたに話さないって自分を欺いている
みたいで、気持ち悪いんだもの」
「思い出せればだろ?そうだろ?」
「あれ?疑ってるの?・・・でもね、睦言って二人だけの世界でしょ?それを話すのって
勇気がいるかな?話したくないってことじゃなくて、ちょこっと恥ずかしいかなって。
分かるでしょ?」
「はははっ、お任せだよ・・・ん?恥ずかしいことを話してるのか?」
「だって・・・話すとバカにされるみたいな、あの時って愛を語るって感じなんだもの。
でも、将来とかそんなお話はしないわよ。二人で見る夢、見たい夢かな?」
「ピロートークは愛情を高めるとか言うだろ?」
「うん・・・高揚感の後で訪れる安らぎって、何にも代えがたいものなのね。それに浸かって、
あれ?ピロートークじゃないの。乗っかりトーク、ライディングトークかしら?」
「だから睦言か、なるほどね。ピローを使う時間もない程?はははっ・・・ん?乗っかりトークは
分かるけどね、ライディングトークはいずみ製かい?」
「だって、時間厳守だもの。これも絶対に譲れないでしょ?鋼鉄の心はここでも健在なんだから。
あのね、ライディングトークは思い付きなの。”get on top of him"かな?あれなの、馬に乗る
って感じなのね。だから、”riding a horse"でしょ?”どうして馬なの?”って聞かないの?」
「言わせたいのか?」
「あれ?失言?・・・気分は如何?うふっ」
「僕の比じゃないのは分かっているからね。そこから導き出せるのは?」
「わたし?・・・暴れ馬かな?そう思ったから。意味はいいでしょ?」
「遠慮しなくていいんだよ。現実を観たばかりだから、間違ってるとはとても言えないからね」
「うん・・・乗りこなせないのは分かるでしょ?一時の安息がライディングトークね、ほんの少し
なの。直ぐに暴れ出すのよ、時間厳守だから。お終いかな?」
「はははっ、短く纏めたね?・・・じゃ、鑑賞会へのアプローチを聞かせてくれないか?」

考えているのか、思い出そうとしているのか、少しのタイムラグの後、

「最初って何処からって分からないでしょ?話していてふと思い付くことってあるでしょ?」
「何かマズいことでも?」
「何も・・・何もないから、入りどころが難しいのね。そうだ!あなたの肩に当たったでしょ?
そこからだったかな?」
「何処からでもいいから進めろよ」
「うん・・・ワインでブラウスが汚れて着替えた後でね、私が驚いて当たった男性、あなたね、
その男性の事が気になるって。あっ?驚いたのはね、タクマさんと話していたの覚えてる?
何を話してるのか分からなかったでしょ?」
「説明があるだろうとは思っていたが、その理由は後日なんだろ?」
「ホントに驚いたのよ。だからあなたに・・・これはいいんだわ、ごめんね?タクマさんの
ヘアスタイルの変わりようなの。言葉を失うって言うでしょ?”えっ?”って言ったかも覚えて
いないのよ。その時にあなたの肩に当たったの」

いずみの中ではほとんど消化されていると思えるのですが、説明の難しさに直面しているようです。


[97] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/27 (土) 12:50 ID:U8u3oWpA No.191483



「僕の肩に当たったのが発端かい?」
「タクマさんはどう思ったのかは分らないのよ。あなたに当たっていなくても、同じだったかも
しれないわ」
「まぁ、それはいいとして、ヘアスタイルの激変を聞こうか?」
「あなたの言うように、ほんと激変なの。前はね、肩まであったのよ。それがあれでしょ?
驚愕としか表現できないと思わない?」
「はははっ、同意を求められてもね。まぁ、思うことがあってだろ?答えは分かっているのに、
しつこく聞くんだから、いずみも人が悪いね」
「木下さんから聞いていなければ、でしょ?」
「確信がないとはいないだろ?」
「うん・・・でも、本人の口から聞きたいでしょ?堅いというか、あれ?アレじゃないのよ、
お口だから。”分かってる”って、いずみの独り言でした」
「練習してるのか?はははっ」
「だって〜、本番・・・あれ?まただわ、本番違いだから。はい、そこから離れます、うふっ」
「何かあったのか?楽しくて仕方ないと聞こえるけどね」
「あなたね、私が安らげるのはあなただけなのよ。そこから見えてくるものがあるでしょ?」
「僕と一緒だから?」
「それしかないでしょ?あなたと話せる時間って多くはないもの。アレね、すれ違い夫婦って私達
の事を言うんじゃない?」
「元を正せば・・・続けるかい?」
「私でしょ?潤いと癒し・・・私が言うって真実味がないかもしれないけど、ほんと過酷な毎日
なの。だから、それが必要になるのね。でも、年末までだもの。来年からは私の思い通りに
進められるから、不要とまでは言えないかもしれないけど、必要とも言えないそんな環境になると
思うわ」
「はははっ、否定しないのがいいね。いずみの隠された欲望は理解しているつもりだからね。
セフレが必要なら話してくれていいからね。タクマさんなら進んでとは言えないが、認めない訳
にはいかないだろ?はははっ」
「うん・・・そうなるかもしれないし、他の人になるかも。でも、セフレはあなた次第、ダメなら
その時にハッキリ言ってね?あなたの指示に従うから」
「後で恨まれないか、それが心配だね、はははっ」
「うふふっ、その時はあなたが待たせてくれるんでしょ?私にはそれが最高の悦びだもの」
「話しただろ?その途中だと。石黒さんが試金石だろうね」
「話しておくわ、”しっかりさせてね”って、うふふっ」
「はははっ、情けない話になってきたから、戻そうか?」
「うん・・・だからね、お父さんの会社に入るって言えばいいのに、もったいぶってるでしょ?
あれかな、それを話すとなると、お父さんとの軋轢を話さないといけないって思ってるのかも?
でも、”何時か”って言ってたでしょ?それまでに話せる内容を整理しておくとか、でっち上げた
お話で取り繕うのか、その内容でタクマさんの私への気持ちが見えてくるかもしれないわね」
「見えない方がいいかもしれないよ。信じたい気持ちは分かるが、所詮セフレだと理解しておか
ないと、見たい景色じゃなかった時に、後悔が大きくなるからね。いいかい?」
「うん、線引きは大丈夫よ。どちらでも動揺はしない鋼鉄の心の持ち主なんだもの」
「はははっ、頼もしいね。ヘアスタイルの件は分かったとしようか?」
「タクマさんの返答待ちね?きっと希望のお仕事に就くのよ、それがお父さんの会社じゃなくても。
その理解で正しいかな?」
「待つのは得意だろ?その時まで忘れようか?」
「はい・・・じゃ、あなたに鑑賞を頼んだ経緯だけど・・・タクマさんね、さっきも話したけど、
あなたの事が気になるみたいで、チラチラ見ていたの。向き合ってるから目線って分かるでしょ?
”どうしたの?”って聞いたら、急によ、”彼に観てもらおうか?”って、切り出してきたの。
そんなお話しはしていなかったのよ。というか、カーディガンを着て直ぐだったから、何を言って
るのか分からなくて、”観てもらう?ナニを?”って言った後に性行為の事だって分ったの。
でね、”興奮したいから?”って聞いたらね、”いずみちゃんを見せたい、彼なら大丈夫だと思う”
なの。訳分かんないでしょ?でもね、私はいい機会だって思ったの。あなたの要望なんだもの、
否定なんてできないけど、そうだからって”喜んで”って言えないでしょ?
どうお返事したらいいのか、口籠ってしまったわ」


[98] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/27 (土) 20:08 ID:U8u3oWpA No.191487



「タクマさんから?いずみが示唆したのかと・・・それはないか、いずみから言える筈もないね」
「そうでしょ?そこは抑えて・・・うすうす気付いていたと思うけど・・・えっ?淫乱ね、
口にしたくないけど。性行為を見せたいって露出趣味があるのか気になるでしょ?
ホモじゃないって認定したのに、今度は露出プレイなんだもの。”変態の仲間なの?”って
聞きたくなったわ」
「聞かなかったんだろ?」
「聞けないもの。セフレの関係でも変態はイヤかな?性行為を楽しむ関係でも、変態って引いて
しまうもの」
「その手の趣味があるようには見えなかったね。純粋にいずみを見せたかった、それだけじゃ
ないか?」
「私もそう思ったから、渋々OKのお返事をしたの。実際は”喜んで”かな?でも、あなた以外の
人なら絶対にOKしないわよ。見た目で人は判断できないでしょ?」
「だね。”中年はイヤらしい”と言っておきながら、了承とはこれ如何にだね?」
「ホント矛盾してるって思ったけど、タクマさんはそんなの関係ないって感じなの。
私が思うことよ、見せるその行為自体に興奮する、そういう性癖じゃないかって思ったの。
あのね、観る人は誰でもいいの。観る人が昂奮すればもっと興奮できる、そういう性癖、何て言う
んだったかな?・・・性的倒錯、これね?」
「いずみも観られて興奮する性癖の持ち主だろ?タクマさんはそこまで気付いていなかったよう
だね」
「危ないかな?会う回数が多くなるとそれとなく分かってくるかもしれないから、気を付けるわね」
「普通のセフレを全うして欲しいね。普通だよ、普通だからね?」
「もう!私の暗部を見せなさいって言ってるのと同じでしょ?アレ?恥部の方が良かった?うふっ」
「はははっ、暗部でも恥部でもいいが、深入りはさせないように、いいね?」
「うん・・・そういう経緯かな?気になる事とかない?」
「いずみだろ?気にしてるのは。まぁ、僕もだが・・・話せよ」
「行為中の私の状態でしょ?」
「それしかないだろ?打合せしたのは分かるけど、その理由を知りたいね」
「元ネタは木下さんなの。あのね、次の4Pは睡眠導入剤を使いたいって、休憩の時にお話しが。
るみさんは経験があるみたいで、すんなりOKするんだもの、ほんと困ったのよ。
M.Tの調教が蘇ってくるの、あり得ないプレイだもの。絶対に受け入れられないと思ったのに、
直ぐに断れなくて、あやふやなお返事でやり過ごしたの。
でも、木下さんだけなら断り易いでしょ?お隣のお部屋に入って直ぐに抱き付いてキスしたのね。
これって効果は大きいのよ、積極的に性的な行為を仕掛けられると、ついOKしてしまうものなの。
木下さんって気遣いが半端じゃないから、”るみさんだけにしようか?”って。
私も捨てたものじゃないでしょ?」
「悪いオンナだね、いずみは。まぁ、正解だよ、悪夢が蘇ってこないとは言えないからね」
「うふふっ、それでね、私は経験がないって話していたから、”練習しようか?面白そうだろ?”
なの。木下さんに断わりを入れたことは話さなかったのね。言えないでしょ?抜け駆けみたいで。
一ヶ月後には分かることだからいいかなって。タクマさんはそんなの知らないんだもの。
私が前向きになれるように後押ししてくれたんじゃないかな?。”面白そうだろ?”は本心じゃ
ないと思うの、私を気遣ってのことだと。そう思いたいのかも?」
「仲良しだね?それはいいとして、寝たフリの感想は?」
「思っていたより楽チンだったわよ。全て受け身でしょ?フェラもテコキも何もしなくていいんだ
もの。タクマさんはほんと大変だったと思うわ。並の体力では成し得ないお仕事って感じだもの」
「誰にでもできる行為じゃない、僕には到底できない相談だよ」
「あなたに相談したかったのに?うふふっ・・・大事なあなただもの、無理は言えないわ」
「タクマさんに相談してくれないか?何なら僕からお願いしようか?はははっ」
「しないくせに!あなたってほんと能天気なんだもの。そこがいいところかな?」
「はははっ、庇ってくれるとは、持つべきものは妻だね」
「それを言うのなら、”妻”じゃなく“友”でしょ?・・・そうか?!友であり妻である、
そういうことね?」
「まぁ、いつまでもそうあって欲しいね」
「頑張ろうね?愛してるわ、うふっ」


[99] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/28 (日) 15:18 ID:oCUlTrYE No.191498



特に気になる程でもないのですが、推測通りか確認したくなります。

「気にするほどの事でもないんだが、僕が店を出るまでは声を掛けないと決めていたのかい?」
「どうだろ?私は振り返れないでしょ?あなたの様子はタクマさんがウオッチしていたから、
タイミングを計っていたんじゃないかな?」
「今だから言えるんだが、まさかだろ?いずみの設定通り二人の様子が観れたんだから、それで
終了なのに、追加の鑑賞会があるとは驚きを通り過ぎて唖然としたね」
「あなたってオトナだわ、表情が全く変わらないんだもの。タクマさんは”鈍感?”って思った
かもね」
「幾多の困難を乗り越えてきた実績が、顔に出てるんじゃないか?はははっ」
「自慢?・・・うふふっ、あなたらしいわ。ドーンって構られるんだもの、頼もしいの一言ね」
「褒めてるのか?あれだよ、全く繊細じゃない、鈍感極まりないの一言だよ」
「どちらでもいいの。あなたはあなた、それがあなたなの・・・チュッ!」
「これか!男を惑わす悪女いずみは?はははっ」
「木下さんには悪いオンナ、あなたには・・・何て言えばいい?うふっ」
「定義付けは要らない、可愛いオンナであればそれでいいよ」
「うん・・・いつまでもあなたのいずみだから、ご安心あれ!・・・言い過ぎね?」
「忘れないように、はははっ」
「戒めね?」
「だね。タクマさんが店内で声を掛けなかったのは、オーナーには知られたくなかった、そう思う
かい?」
「それしかないでしょ?性癖って親しい人でも知られたくないもの」
「いずみはだろ?」
「同じよ。あなただって知られたくない性事情ってあるでしょ?」
「なるほど、いずみか・・・まぁ、誰にでも付いて回る事情はあるだろうね」
「でしょ?だからお店の外で、店の中から見えないところで、あなたに声を掛けたのよ。
見え過ぎてると思わない?」
「分かり易い性格?」
「そうかな?そうだといいのに。何か隠しているでしょ?それって、見え過ぎじゃないわね」
「いずみは公明正大だろ?」
「あなたには、いつもフルオープン・・・あれ?オープン過ぎ?見え過ぎかな?」
「全て見せないところが奥ゆかしいんだろ?はははっ」
「今まではそういうこともあったかな?」
「今まで?」
「あっ?”立ちんぼ”は深く反省しています。ごめんね?」
「今夜の生々しい事象の経緯と全貌が明らかになったから、そろそろ寝ようか?」
「このままでもいい?お隣はタクマさんとお話ししたベッドだもの」
「いいのか?思い出しながら・・・はははっ、それはないか?」
「ありません!今夜は先に寝ないから、いいでしょ?」
「徹夜じゃないものね。それでも疲れただろ?」
「4Pの時とは違うでしょ?でも、少し疲れたかも?だって、激しかったんだもの、うふっ」
「主人に言う?はははっ」
「うふふっ、愛してるの・・・あなたとなら未来の夢が見れそうよ」

タクマさんと話した夢を思い描いたのか、それとも、その夢とは比べることもできない現実に
即した夢なのか、どちらにしても私との夢は、夢の夢でないことを祈りたいものです。


[100] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/28 (日) 22:28 ID:oCUlTrYE No.191501



翌日は土曜日です。
午前中の遅い時間のフライトなのですが、いずみ、ひろ子と同じ飛行機ではなく、意識的に
避けます。
いずみは家族三人揃ってと思っていたのですが、ひろ子にはいつもと変わらない景色を見せる
ために、午後の便を予約したのです。
このことについては、いずみと打ち合わせ済みですが、毎週末よりは少し早いフライトにします。
大阪空港での私の待ち時間を短くするためなのですが、それでも、2時間は長いと感じたのですが、
昼食を含めれば、それ程でもありません。


予定通り、7時前にいずみと一緒に客室を出ます。

「お食事って一人じゃ寂しいでしょ?」

私はホテルのレストランに、いずみはひろ子が待つPPTに帰るのです。

「ん?・・・石黒さんか?」
「譲ってもらったでしょ?お返しは必要だもの」
「それが僕との食事?」
「時間があればお部屋で。ランチはひろ子ちゃんと3人の予定だから、12時には帰して欲しいの」
「朝から?食事はいいが、その気になれないね」
「お腹一杯だから?」
「ん?・・・はははっ、それもあるかな?昨夜は特別なメニューだったからね、未だに満腹だよ」
「食べれない?朝食、それともサワちゃん?・・・うふふっ、愚問ね?」
「正直なところ、満腹もそうだが、少々疲れ気味だよ。できれば散歩でもしたいね」
「いいわね。午前中なら日本庭園もいいんじゃない?」
「石黒さんが了承してくれればだが。余計な入れ知恵をするなよ」


ホテルの玄関までいずみを送って、レストランに向かいます。
相変わらず10数人が列を成しています。
石黒さんが来る迄そう時間もかからないでしょうから、待つのは苦痛になりません。
案内されたテーブルは、料理をピックアップするには、少し離れているのですが、その反面、
客の往来を気にしなくて済みます。

少し待つのですが、一向に石黒さんは現れません。
先にと立ち上がった時に、携帯に着信です。


『ごめんね?待ってるんでしょ?』
『予定変更かい?』
『そうなの。サワちゃんね、今回は遠慮したいって。本人から話させるわね?・・・』
『そうか・・・それなら・・・』
『・・・代わりました、サワです。昨夜はいずみさんに譲ったでしょ?だから、次まで待つことに
します。お声を掛けてもらってほんとに嬉しいの。でも、お食事の後の事を考えたら、次回まで
待つ方がいいかなって。そう思ったので』
『ん?・・・散歩はダメなの?』
『えっ?・・・あれ?いずみさんはお部屋でって。違うんですか?』
『本気だったの?ジョークかと思ったわ。それじゃ・・・サワちゃん、どうする?』
『誰かさんと違って、僕はいつでも真実しか話さないからね』
『そうなの?うふっ・・・それなら大丈夫でしょ?』
『そうですけど・・・今回は・・・予定していたのに、こんなことって・・・ですから、次まで
待ちます』
『お食事の後に散歩なのよ、それならいいでしょ?』
『昨夜は、譲りたくなかったの。いずみさんだからじゃなくて、そうなんですけど、私の事情が
・・・だから・・・』
『ハッキリしないんだね?』
『昔の私に似ていない?言えないのよ、恥ずかしくて・・・そうでしょ?』
『話せない事じゃないの。でも、お食事の時に、タイミングが悪すぎるでしょ?』
『僕の事は気にしなくていいんだよ。石黒さんの気持ちが大事だからね』
『ごめんなさい・・・今回は・・・すみません』
『いいよ、二週間後迄取っておこうか?散歩は気分転換にいいからね?』
『はい、その時まで気持ちを転換させておきます。おかしい表現ですか?』
『はははっ、石黒さんらしいと言っておこうか?じゃ、その時に・・・いずみ、纏まったから
ここまでだね』
『そうね・・・サワちゃんマターだもの。お食事を楽しんでね?』
『あいよ。フライトに遅れるなよ』
『うふふっ、あなたも・・・じゃぁね?』


大阪空港に着いてすぐに食事を済ませます。
その足で、以前るみさんと入ったカフェで時間潰しです。
また会えば三回目になりますから、それはあり得ないと思いながらも、つい辺りを見渡して
しまいます。
結局、いずみとひろ子を出迎えるまでは、るみさんどころか誰にも会わないのですから、
るみさんと二回も会ったのは、奇跡に近いのかもしれません。
それにしても、いずみの実情を報告してくれるるみさんですから、非常に有難い存在だと思える
のです。


その夜は、いずみのマンションに泊まるのですが、タクマさんの事は、何に一つ口にしません。
帰ってくれば全く関係ないと言わんばかりですから、敢えて、私からも触れることもありません。


[101] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/29 (月) 11:56 ID:D5JiWbII No.191507



9月三週目の月曜日、タクマさんとの約束の日になります。

その日は、馴染みの製作会社と打ち合わせの予定が、既に決まっていたのです。
それを利用して、タクマさんと約束したのですが、その後、石黒さんとも会う予定ですから、
私なりにはかなりハードな時間を過ごすことになりそうです。

ホテルには午後6時過ぎに着きます。
制作会社の社長がホテルまで送ってくれたのです。

「会長がいずみさんを見かけたと言ってるんですけど、こちらに来ているのですか?」
「いつのことかな?」
「一ヶ月くらい前でしたか、濃紺のスーツ姿だったので、人違いかと思ったそうです。
小田さんが泊るホテルのロビーで、何でも男性と女性、いずみさんと三人で立ち話してるよう
だったとか」

その男性と女性は、楊社長と石黒さんだろうと推測できるのですが、確かなことは分かりません。

「内緒なんだが、まぁ、何時か分かるだろうから話そうか?」
「えぇ、是非。キャリアウーマンそのものだと言ってましたよ」
「羽田の会社から派遣されてね、あるIT関係の会社のプロジェクトに参加してるんだよ。
今年末までの予定でね」
「そうですか、大変ですね?」
「はははっ、いずみ?僕?どっちだい?」
「あっ?いずみさんだと。小田さんも大変ですね?」
「付け足しかい?あれだよ、週末は帰って来るからね。行きっぱなしじゃないよ」
「そうですか、それにしても大変じゃないですか?」
「はははっ、もう少しの辛抱だね。まぁ、辛抱強いのはいずみだろうね?」
「慣れない環境なら尚更ですね?」
「姿を見かけたら声を掛けてもいいからね?」
「えぇ、その時は躊躇せずに。小田さんのお墨付きをもらったから勇気百倍ですね」

今までも何度か、会長が見掛けたと言う情報を曖昧に否定していたのですが、現状なら何も隠す
ことはありません。
正面切って対処できるのですから、有難いものです。


予想に反して、フロントでの待ち時間も殆どありません。
チェックインを済ませ、部屋で少し時間を潰してから、約束の10分前にロビーに着く様に部屋を
出ます。
広いロビーですし、多くの宿泊客等が行き交うのですから、目を凝らしていないとタクマさんを
見逃すかもしれないと思いながら、エレベーターに乗ります。
10分前を茶化しながら、いずみが”セオリーね?”と笑顔で駆け寄って来る姿が目に浮かびます。

いずみは出張と理解していますから、タクマさんと会うことは話していません。
彼が内緒だと言っていたのですから、それに合わすことにしたのです。
いずみに話せば、不確かな疑問で悩ますことにもなり兼ねません。
何も見えない事象程、心を揺さぶられるものはないと思うのですが、当然いずみも心穏やかとは
言えないでしょうから、妥当な判断だと思えるのです。

彼とは2時間もあれば十分だろうと判断して、石黒さんには9時過ぎに連絡するつもりです。
石黒さんと会うことは、いずみも知っていますし、遅い時間になる事も承知しています。


エレベーターホールに出たところで、タクマさんが待っています。

「驚いたよ。ロビーで待ち合わせだろ?」
「玄関を入って行く戸田さんを見かけたものですから」
「かなり早く来ていたのかい?」
「あっ?それが・・・ここのレストランですね?」

口籠る理由は、食事しながら話すのだと理解します。


[102] Re: 絆のあとさき 4  小田 :2024/04/29 (月) 16:52 ID:D5JiWbII No.191510



レストランはロビーを通過せず、エレベ―ターホールから玄関前を経由して数分のところです。
夕食の時間帯ですから、客が列を成しています。
待ち時間があるのはいつもの事ですから、最後尾に並ぶのは致し方ありません。

「戸田さん、テーブルは用意していますから」
「ん?・・・それなら有難いが、ホテルに知り合いでも?」
「いえ、そうではないのですが・・・」

スッキリはしないのですが、不安定な気持ちのまま彼の後について行きます。
何度も利用していますから、このレストランが、ビュッフェスタイルなのも理解しています。

最前列の入口で待機しているウエイターに話し掛けます。

「先程お願いしたタクマです。お客さんをお連れしましたので、いいですね?」
「お伺いしています。では、ミールクーポンかお部屋番号をお聞かせいただけますか?」

振り返って、

「どちらか・・・」

飛行機とホテルを同時に予約できる航空会社系列の旅行社で予約していますが、ミールクーポンは
朝食のみを選択しています。
ですから、部屋番号を伝えて、チェックアウト時に精算することにします。

タクマさんに案内されたテーブルは、料理をピックアップするには少し不便なところですが、
話をするには最適とまでは言えないとしても、それなりに静かなエリアです。

テーブルには飲みさしのコーヒーカップが、一客置かれています。
片づけられないように依頼して、私を迎えに来たのだろうと推測できます。

レストランの入口で、”タクマ”と名乗ったことに違和感を感じるのです。
タクマさんもいずみと同じように、下の名前だと信じて疑わなかったのですが、もしかして苗字
なのか、いずみはそれを知っているのか、二つの疑問が浮かび上がってきます。

「どうぞ・・・お座りになって下さい」

レストランの入口側を背に、テーブルを挟んで向き合って座ります。

「ところで・・・」
「名前でしょ?」
「はははっ、分かるかい?」
「えぇ、戸田さんの表情に不信感が浮かび上がっていましたから」
「分かり易い?それなら注意しないといけないね」
「他の人でも同じでしょうね」
「で、話さないのかい?」
「いずみさんは下の名前です。と言っても、苗字は聞いていません。そういう交際から何を想像
しますか?」
「質問?・・・性行為を見せて興奮する性癖だとしら、そのためだけに会っている?そうかい?」
「えぇ、始まりはそうでした。今は少し踏み込んだ関係だと思っています・・・」



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 【例】「交際BBS(東・西)で募集している〇〇です」、または「募集板(東・西)の No.****** で募集している〇〇です」など。
・上記のような一文を入れていただきますと、管理人が間違ってスレッドを削除してしまうことが無くなります。
・万一、上記内容に違反するような投稿をされた場合は、妻と勃起した男達の各コーナーのご利用を制限させて頂きますでご注意ください。
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