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落花枝に帰らず

[1] スレッドオーナー: ジプシー Y :2025/12/22 (月) 00:00 ID:uUBZOVe2 No.2028
コチラに流れてきました。ゆっくりと自分のペースで更新していきたいと思います。どうかよろしくお願い致します。
あらためて物語の概要です。

まず、登場する人物の紹介です。

■ 主人公:私 = 矢部 正則(やべ まさのり)

57歳。医療機器メーカー「ジェボ」営業係長。年収約600万円。
出世コースからは外れ、現在はマイペースに仕事を続けている。
性格は穏やかで真面目。典型的O型。

映画鑑賞、ウォーキング、スポーツ観戦が趣味。
学生時代は旅行研究会に所属していた。
身長165cm、中肉中背。
妻と軽自動車(ダイハツ・タント)を共有している。
ごく一般的な中高年男性。
家庭では強い愛情を持つ愛妻家。
夫婦関係はとても円満だが、セックスレスや最近では
EDに悩み 戸惑いと落ち込みを抱えている。

■ 矢部 由紀(やべ ゆき/旧姓:沢野)
54歳。隣町のスーパーでレジ業務のパート社員。B型。
明るく器量の良い女性だが、やや人見知り。
真面目で負けず嫌い、芯が強い性格をしている。
身長155cm。体型は若い頃からほとんど変わらず、
年齢より若く見られることを密かな自負としている。
華美な装いは好まず、実用的で無難な服装を好む。
黒髪ボブ、薄化粧、チノパン、スニーカー、エプロン、
自転車 のイメージ。
趣味はガーデニング。学生時代は園芸部。
綺麗系というより、笑顔が印象的な「可愛らしい」タイプ。
結婚前に地元のスナックで働いていた経験がある。

■ 夫婦の関係
お互い、「カアサン」「トウサン」と呼び合う。
長年連れ添った夫婦らしく、穏やかでのんびりとした生活を
送っている。
子どもは二人。いずれも成人し、現在は県外で勤務中。
長男:弘幸(27歳)長女:麻里奈(25歳)
郊外ニュータウンの一軒家、住宅ローンの残りはあと3年。
リフォームや外壁塗装も視野に入れており、経済的な余裕は
決して大きくない。

■ 平尾 明正(ひらお あきまさ)
57歳。「ジェボ」の関連子会社「ジェボインターナショナル」
代表取締役副社長。 推定年収約1000万円。 A型。
私と同期入社で、入社以来の唯一無二の親友。
直近4年間はスイスの関連子会社でCFOを務め、
半月前に帰国、現職に至る。
5年前、最愛の妻(直美さん)を心疾患で突然亡くしており、
現在も独り身。
ベイエリアの高級タワーマンション上層階で一人暮らしを
している。
性格は明るくユーモアに富み、天真爛漫。
人情味があり、部下からの信頼も厚い仕事のできる男。
身長172cm、やや小太り。学生時代はアメフト部。
趣味は山歩き、史跡巡り、グルメ。
現在は立場上、身だしなみにも気を配っている。
愛車はアウディのクーペ。

■私と平尾の関係
仕事上では大きな職位差があるが、私生活では何でも
言い合える親友同士。
かつては3か月に一度のペースで、飲みや日帰り温泉に
出かける仲。
私はこれまで家庭内で平尾の話題を頻繁に出しており、
由紀も平尾の人柄や過去についてはよく知っている。
また、平尾の妻 直美さんの葬儀にも由紀は参列した。
私と平尾の友情は、今後も揺らぐことはないと思っている。

【物語の説明】

私の会社の同期であり、大親友でもある平尾明正は、五年前に最愛の妻を亡くしました。
それ以来、彼はずっと、どこか空洞を抱えたまま生きているように見えていました。

海外赴任中は、異国の環境と激務に救われていたのだと思います。
しかし帰国し、慣れ親しんだ日本の日常に戻った途端、かえって孤独は色濃くなりました。
酒を飲めば笑い、冗談も言います。
それでも夜が更けるにつれ、彼はぽつりぽつりと本音を漏らすようになっていきました。

寂しい。辛い。何を楽しみに生きているのか分からない、と。

それは、親友だからこそ見せる弱さでした。
時には、私の前で涙をこぼすこともありました。

そんなある日、私たち二人で食事をしていた席で、私は半ば冗談のつもりで口にしました。
「たまには誰かと映画でも観て、ドライブでもしてこいよ」
「気晴らしは大事だ。特に今のお前にはな」

そして、勢いに任せて、さらに言ってしまったのです。
「じゃあさ……相手を、うちのカミさんにしてみたら?」

平尾は最初、完全に冗談だと思って笑って断りました。
ですが私は、「気楽に」「半日だけ」「昼食後から夕食前まで」という条件を繰り返しました。
休日の午後を、ただ昼寝で終わらせる現状を変えたい――
そんな思いが、平尾の心を少しずつ揺らしていったのです。

「……由紀さんがいいなら、その話、乗ってもいいか?」

半信半疑のまま、彼はそう口にしました。

こうして日曜日の午後、わずか5時間ほどの“デートごっこ”が始まることになりました。
それは、私が公認し、私が段取りし、私が仕掛けた時間でした。

もちろん、妻の由紀も最初は乗り気ではありませんでした。
しかし、夫の親友を気遣う気持ちと、私の頼みを受け入れ、最終的には了承してくれました。

私たちは、表向きには、何の不満もない仲の良い夫婦でした。
ただ一つ、私の中には、誰にも言えない歪みがありました。

自分でも認めたくない無力感。
それを押し殺すどころか、あえて直視し、刺激に変えようとする矛盾した欲望。
私は、その危うい期待を、最も信頼できる親友に託してしまったのです。

軽いショッピング。
映画鑑賞。
ドライブ。

本来なら、それだけで終わるはずの、取るに足らない休日でした。
しかしその選択は、三人それぞれの思惑を孕みながら、静かに日常を揺らし始めていきます。


【物語の流れ】
4年ぶりに再会した親友・平尾明正は、以前と変わらぬ明るさを
装いながら、その奥に深い影を抱えていました。
5年前に最愛の妻を亡くし、仕事では成功を収めながらも、
心の空白だけは埋まらないままだったのです。

平尾と酒を酌み交わすうち、彼は少しずつ本音をこぼしました。
寂しさ、虚しさ、生きがいのなさ・・・
そんな親友に私は何かしなければならない、と思ってしまった
のです。

そこで私は、冗談とも本気ともつかない提案をしたのです。
「うちのカミさんと、半日だけデートしてみたら?」

その言葉は、思いのほか現実味を帯びていきました。
私自身、妻との長年のセックスレスと、最近はEDにも悩んで
いたことから、その計画は次第に私の中で別の意味を持ち
はじめていたのです。

当然、妻 由紀は強く拒みました。
だが、私の苦悩と、私の親友の孤独を前に、葛藤の末に
条件付きで了承したのです。
こうして三人それぞれの思惑が、かろうじて均衡を保ったまま、
“デートごっこ”は動き出したのです。

由紀と平尾の初めてのデートは、驚くほど日常的なものでした。
駅で見送る私の胸に去来したのは、安堵と同時に 言葉には
できない喪失感でした。
何も起きていないはずなのに、心はざわついていたのです。

二人からのデートの報告は穏やかで、むしろ自然でした。
その「自然さ」が、私の中に小さな棘を残したのです。
報告の中で、私は、由紀の過去、私との結婚前の姿や、
私の知らなかった一面に触れ、遅れてきた嫉妬を覚えました。

二度目のデートでは、ほんのわずかな変化が、私の心を大きく
揺らしました。
装いの違い(ストッキングやキャミソール)、何気ない仕草、
語られなかった会話。
報告される内容は平穏でしたが、語られない部分が想像を
膨らませていったのです。

平尾から聞かされた話の中には、亡き妻との過去や 彼の趣味
であるBDSMの話をした、と告白がありました。
それを由紀が静かに聞いていたと知ったとき、私は強い動揺を
覚えました。
しかし由紀の報告からは、その話題は出てこなかったのです。

理解しようとする理性と、抑えきれない感情の間で、私は
揺れ続けました。

そんな折、娘の麻里奈が帰省し、家族で訪れたカフェで、
思いがけず二人(由紀と平尾)の痕跡に出会ったのです。
偶然の再確認は、私の中の疑念と現実を結びつけました。

三度目のデートは、電車で向かう紅葉狩りでした。
事前に二人の直接のやり取りがあったことを知り、私は怒りと
不安、そして奇妙な高揚を同時に抱えました。

デート当日、由紀は相変わらず控えめな装いで現れました。
駅前を並んで歩く二人の後ろ姿は、あまりにも自然で、
胸が締めつけられたのです。

その日、平尾は私に「デートは年内で終わらせたい」と告げて
きました。
その理由を深く聞くこともできないまま、帰路につきました。

帰宅後に届いた、デート最中の短い映像と数枚の写真。
そこに映る由紀のささやかな変化は、私の心をかき乱しました。

夕刻、由紀は予定通り帰宅し、私にデートの報告をしました。
圧巻の紅葉の景色、途中で「夫婦と間違われた」出来事。
その瞬間、平尾は亡き妻を思い出し、感情を抑えきれずに
泣き崩れたとのことでした。

その時、由紀は彼を支えながら、まだ彼の心の傷は癒えて
いないと感じ、デートのもう少し時間が必要かもしれない、と
私に言いました。
由紀の言葉に、安堵とも期待ともつかない感情を抱いたのです。

物語は続きます。


[52] Re: 落花枝に帰らず  考察 :2026/02/11 (水) 17:19 ID:/zVIUT4c No.2116
更新ご苦労様です。

前にも同じようなことを書きましたが、ここの主は作者なのですから、堂々と書きたいことを書きたいように書けばいいのです。それを楽しんでいる人もいるわけですし。

 エロい描写に盛ったほうがこちらのサイトでは「受け」が良いみたいですよね・・・
とか
 遅筆で進展が遅く申し訳御座いません。
などと言い訳がましく書くのは、かえってアンチや荒らしを餌付けするようなものだと思いますよ。


[53] Re: 落花枝に帰らず  健一 :2026/02/11 (水) 21:51 ID:SppG2Sz2 No.2117
矢部さん、由紀さん、平尾さん。
三人の心の動き、変化の描写があり、その行間に私の想像、妄想を入れ込むことに興奮しております。

平尾さんのBDSMは体より心を縛るとありますので、性器の結合よりも精神的な拘束に向かっていくのかな、とも勝手な想像をしております。

いずれにしても今後の展開は私たちの想像、妄想、期待、などに関わらず矢部さん自由な発想での執筆を希望いたします。

料亭に行けばそこの板長の味を楽しむように矢部さんの「味」を楽しみたいと思います。


[54] Re: 落花枝に帰らず  ジプシー Y :2026/02/15 (日) 00:00 ID:HdSzxSrI No.2121
健一様 いつもコメントをくださりありがとうございます。
>息を呑んだ理由をあれこれ想像してしまいます。
>勝手な想像してすみません。
・拙い文章をもとに、想像を膨らませ楽しんでいただいているのは、作者冥利に尽きます。ありがとうございます!
>矢部さんの「味」を楽しみたい
・この一言に、勇気をいただいています。

小太郎様 いつも深いコメントをくださりありがとうございます。
>由紀さんは、どういう気持ちでパーティーに臨むのでしょうか?
・正直、彼女の気持ちの中まではわからないのです、女は本当にわからないです・・・(汗)
どんな気持ちだったのか、想像しながらお読みいただければ嬉しいです。

倍胡坐様 いつも奥深いコメントをくださりありがとうございます。
>すべてを理解したうえでペースに合わせてきたのではないでしょうか。
・平尾の本当の気持ちはわからないのですが、ただ職位の事以外、本当に気の許せる友人ですし、もしかしたら彼は無理をして私に合わせてくれていたのかもしれませんね・・・

たかし様 いつもコメントをくださりありがとうございます。
>さて奥様はどのような装いで現れたのでしょうか?
>修正出来ず連投です
・ご期待された装いだと良かったのですが、いかがだったでしょうか?
・連投も大歓迎です。いつもコメントに勇気づけられております。
>過程が良いのです。
・この一言に、救われております。

ボルボ男爵様 コメントをくださりありがとうございます。
>考察は無限に出てきます、キリがありません。
・駄作、愚作に対して深い考察までいただけて、本当に嬉しいです。これからも宜しくお願い致します。

西門様 いつも奥の深いコメントをくださりありがとうございます。
>何らかの予兆を感知されることになるのかなと次の書き込み待ち遠しく待っています。
・せっかく待っていただいて、期待に沿うような展開になれば良いのですが・・・

笑様 コメントをくださりありがとうございます。
>どーせ作りばなしよ だれでも三年前のことは忘れてますから!それなのにぜんぜん進まないよね
・正直に申しますと、ところどころで創作しているのは間違いありません。
手厳しく 的を得たコメントです、叱咤激励と理解しますが少々気持ちも凹んでおります。

考察様 コメントをくださりありがとうございます。
>かえってアンチや荒らしを餌付けするようなもの
・確かにそうなのかもしれないのですが、私自身が元が小心者ですので、気になってしまうのです。



*****


(前スレ-ラスト)
彼女は帰宅後、直に自室に入って そのまま一人 静かに
準備と着替えを済ませていたのでした。


どこか照れくさそうな由紀が纏っていたのは・・・
柔らかなオフホワイトをベースに、控えめな光沢の微細な
金や銀の細い糸が混じった、重厚感のあるツィードスーツ
でした。

襟のないノーカラーのジャケットに、膝を隠す丈のタイト
スカートのセットという、どう見ても良妻賢母を体現した
ような、正統派の装い・・・。

良く言えばそうですが いかにも背伸びしたローカルな
母親感のある、無難な・・・ つまり パーティ向けとは、
ちょっと違うような感じの第一印象ではありました。

開いたスーツジャケットの内には、とろみのある柔らかな
シルク調の光沢のある白いブラウス。
ツイードスーツの開きに合わせ、前立てに大きめの波打つ
ラッフルフリルが、さりげない華やかさと彼女の生真面目
な貞淑さを象徴しているようでした。

脚は薄いベージュのストッキングで覆われており艶やかな
光沢を放っていました。

布地の厚いツィードと華やかで柔らかいブラウス、その下
にある薄い膜のようなナイロン。
その質感の対比が私の目を釘付けにして、視線のやり場に
困った私は、彼女のストッキングに包まれたつま先を
見つめていると、由紀もそれを察した(?)のか、すぐに
キッチンへと駆け込みました。

そんな彼女のメイクも、いつものパート通いとは違って、
落ち着いたローズ系の口紅に薄くグロスが重ねられた唇は
艶やかで光沢があり、また薄く引かれたアイラインが、
彼女の瞳をいつもより鮮明に縁取っていました。

そして爪は あのベージュピンクのマニキュアで彩られ、
両耳元には小粒のパールのイヤリングが付いていました。

正直、久しぶりに見る彼女の「正装」したスーツ姿と
それに合わせてメイクされた顔に、年甲斐もなく照れて
しまった私だったのです。
しかもこんな時に、気の利いた言葉や素直な誉め言葉が
出ないのは、小心者あるあるですよね・・・

「なんや? 入学式か三者懇談に行く親 みたいやな〜」

私が精一杯の苦し紛れの照れ隠しの言葉で、なんとか
私自身の動揺を隠すために、あえて彼女から笑いを
取ろうと試みたのですが・・・

「あー マリちゃんの大学の入学式の時に買ったのね、
 コサージュを付けて着てたやつだけど・・・」

由紀は意外にも真面目な返事をしてきたのでした。

「ふぅーん」と声が上ずっている私。

「やっぱり 変かな・・・ どうしよぅ・・・」

彼女が言うには、やはり今回のパーティに行く格好には
かなり悩んでいたらしく、持っている冬物のスーツで一番
新しいのが、この一着だったと。
とはいえ、娘 麻里奈の大学の入学式用に購入して以来、
7-8年が経過(直近でも袖を通したのは3年前?だった
らしい)したこともあり、恐る恐る試着してみると
意外にもフィットしたので、クリーニングに出していた
のだと。
実家にも帰って探そうかと思ったが、時代的にも、
そして何よりもサイズが、などと悩んでいたことも、
(早口で;;(笑))明かしてくれました。

なるほど、普段は自転車なのに車で買い物に行った意味が
わかりました。
(クリーニング屋さんに寄って、取って帰ったのです)
が それ以上に 私は、彼女の体型が変わっていないことが
驚きでもあり羨ましかったのです。

「いや どう見ても PTAの役員です って感じや(笑)」

まだ私が からかい続けると、

「そうよね・・・ どうしよう・・・」

由紀はそう言って、残念そうに眉を下げたのでした。
私としては、この格好自体は満足していましたので、

「まぁ、仲間内の気楽なパーティやから、エエよ!」

と フォローをしたり、そんな会話を繰り返していると、
いつのまにか12時になっていました。

私のスマホに自宅前にタクシーが到着したとの通知が
入り、リビングの窓からも迎車が確認できました。

「よし、行こか・・・」

「うん・・・」

由紀はカシミヤ混のキャメル色のロングコートを羽織り、
片手ずつ 滑り込ませるようにして、黒い革の手袋を
嵌めました。柔らかなラム革が彼女の手に吸い付き、
引き締まった輪郭を描き出すその様子は、その一瞬
どこかエロティックなシーンに見えてしまいました。

そしてあの濃いブラウンのパンプスを履いてコツコツと
ヒールで小気味良い音を立てながら、一緒にタクシーの
後部席に乗り込んだのでした。

タクシーの中でも、お互いの口からパーティの話題は
出ることはなく、一般的な話題(天気や正月の事など)
に終始しました。

そんな中でも、小声で由紀が、

「もう! トウサンがそんなこと言うから、なんだか
 恥ずかしくなっちゃった。やっぱり変かな?」

「気にすんな、別に・・・ 大丈夫やって!」

ただ 私は返事をしながらも、横に並んで座る由紀の 若干
せり上がったスカートの裾から、艶やかなストッキングに
包まれた膝が覗き、タクシーの振動に合わせて、微かに
ナイロンが擦れる音が聞こえるような気がして、
私は生唾を飲み込みながらチラチラと視線を送っていた
のです。

途中 牧里駅前の“定番の渋滞”以外は 比較的スムーズに
走行できたこともあって、開始時間40分前にタクシーは
日曜日の しかもお昼時で賑わっている、海沿いのカフェ
『ラ・メール・ブランシュ』に到着しました。

私たちは受付で到着を知らせるとすぐに徳永が来ました。

「いらっしゃいませ、今日はよろしくお願いします!」

「こちらこそお願いします。楽しみましょう」

笑顔の徳永に、私も調子良く応じました。隣に立つ由紀も
ニッコリと笑顔で頭を下げていました。

ふと徳永が小さく顎で合図を送ると、待機していた若くて
清潔感のある男子店員が、私たちの傍らに歩み寄って、

「コートをお預かりいたします」

と流れるような動作で私のコートが受け取られ、
続いて由紀の背後で、彼女がキャメル色のコートから
腕を抜くのを完璧なタイミングで介助していました。
オーナーである徳永の手を煩わせることなく、すべてが
阿吽の呼吸で進んでいく。
その徹底されたもてなしに、私は自分がこの店の
「最優先客」であることが確信できて、どこか誇らしい
気持ちになっていたのでした。

身軽になった私たちは、改めて徳永の先導により、
早速、店内を通り抜け、その先のエレベーターに乗って、
VIPルームへと案内されることになりました。

その際、徳永は由紀に「混んでなかったですか?」と
笑顔で声を掛け、ツイードのスーツ姿の由紀も
「大丈夫でした」と丁寧に笑顔で返しながら、
そのまま2人が 親し気に、私の耳にも届くような声で
とりとめのない会話をしながら、少し私の前を歩いて
いました。
そんな二人の姿を後ろから追いながら、なんとなく
夫としての“懐の大きさ”がアピールできているかの
ような気持ちにもなり、歩を進めるたびにフロアに響く
ヒールからのカツカツとした音も とても心地良く耳に
入ってきていたのでした。
たかが こんなことでも 夫として、妻のことが誇らしく
思えてもいたのです。
(全部、自己満足ですよね・・・(汗);;)

VIPルームの扉が開けられた瞬間、真っ先に私たちの目に
飛び込んできたのは、まるで巨大な額縁に収められた
名画のような冬の海の絶景でした。

それと同時に、控えめな音量で流れる弦楽器の柔らかな
クリスマスソングが、心地よく私を出迎えてくれました。
華やかであり品格を感じさせるその旋律は、耳通りも
良く、ほっこりとした暖かみを与えてくれました。

「うわぁー! 綺麗〜 すごいねー!」

由紀は感嘆の声を漏らし、窓際へと吸い寄せられるように
歩み寄りました。
若干、丸みを持って海側に突き出ているような造りをした
窓辺に、私たち3人は、しばらく言葉を無くして景色を
眺めていたのです。

天井から床まで一枚ガラスの向こうに広がっていたのは、
かつてこのお店1階の席から見た海とは、そのスケールが
まるで違っていました。

まず目に飛び込んできたのは、右手側に連続する複雑に
入り組んだリアス式海岸の見事な造形でした。
鋭い岸壁が幾重にも重なり、その足元では冬の荒波が
真っ白な飛沫を上げて、銀色の火花のように激しく砕けて
いました。

入り江を抜けた先から視線を左にずらすと、一転して、
どこまでも穏やかな紺碧の大海原が広がっていました。
遮るもののない水平線が、天と地を分かつ一筋の鋭い線の
ようにどこまでも伸びています。

近景の荒々しい「動」を、遠景の壮大な「静」がすべて
包み込んでしまうような、圧倒的な奥行きが丸ごと視界に
収まっていたのです。

徳永から、「あそこは○○岬ですよ とか、あの先には」
など、丁寧でユーモアを混ぜた小気味よい説明もあって、
私たちはいつの間にか“観光客”になっていました。

「では、準備に戻りますね・・・」と徳永が外れると、
ふと思いついたように、私は、スマホを自撮りモードに
して、由紀に声を掛けました。

「カアサン、どう?」

二人並んだ画面の中、私たちの背後には、遠く切り立った
岸壁で砕ける真っ白な波しぶきが、銀色に輝いて写り
込んでいました。
何年振りかのツーショットなので、ぎこちなさや 正直
恥ずかしさもあったのですが、荒々しくも美しい自然の
躍動感にそんな気持ちも全て拭い去られてしまうくらい、
それくらいに圧巻だったのです。

由紀は一人でも、「すごいねー すごい」と言いながら、
はしゃいで、自分のスマホで写真を撮っていました。

そんな絶景に寄り添うように四人掛けテーブルが大きな
窓に接して設置され、背もたれの高い椅子も、柔らかな
革が身体を優しく固定し、まるで外界から遮断してくれる
ような高級感がありました。

「なかなかの特等席やな〜 ま、とりあえず 座ろか」

由紀の右手に 私の左手に、海が見えるように、窓辺に
向かい合って座りました。

そこへ徳永がトレイを持って現れて、

「時間まで こちらで、喉を潤してくださいねー」

と おしぼりと共にテーブルの上に置かれたのは、
繊細な泡が立ち上る琥珀色のグラスと、宝石のように
小さなひとくちサイズのアミューズでした。
軽く炙った帆立に、冬の果実が添えられたその一皿は、
これから始まるパーティを予感させる贅沢な彩りを
添えていました。(早速、由紀は写メしていました;;)

そのほかに徳永は、季節ごと 時間帯ごと 天気ごとに
違って見える、この窓から望める海の景色のことを、
私たちを退屈させることのないテンポで説明をして
くれました。
私は、オーナー自らのおもてなしにも感動しました。

「すみませんねー、ありがとうございます」

私が満足げに応じると、彼は

「ヒラも、もう少ししたら、着くらしいですよ」

「ギリギリアウトやったら、罰ゲームやね!」と私。

「そやね! サンタさんになってもらおう!」と徳永。

何気ない会話でしたが、この短い時間の間に、
私は徳永とも打ち解けた気がしました。

彼が部屋を後にしたので、

「とりあえず カアサン・・・ 乾杯やな」

「うん・・・ じゃぁ 乾杯」

クリスタルが触れ合う澄んだ音が室内に響きます。

「トウサン、本当に景色 すごいよね!」

一口飲んだ由紀がそう言って、少し上気した顔で私を
見ました。
耳を澄ませば、ピアノが奏でるクリスマス・キャロルが、
シャンパングラスの中で弾ける繊細な気泡の音と溶け合う
ように流れていました。

「うん・・・ すごいな・・・」と私。

由紀がもう一度 右を向き 海を見ながら言いました。

「水平線も はっきり見えてるねー」

「今日は天気エエからな・・・」

そう言って、微炭酸の刺激を喉に感じながら、
私はあらためて、目の前に座る妻を眺めました。

窓辺の明るさが程よい光加減になって、由紀のローズ系の
唇に潤いを与えていました。
PTAとか入学式スタイルだと茶化しはしたものの、
この贅沢な空間に置かれた彼女は、どこに出しても
恥ずかしくない、“自慢の妻”そのものでした。
スーツ姿って、綺麗に見えるのでしょうかね・・・(汗)

思い立ったように私は再びスマホを取り出して、

「カアサン ちょっとそのまま。 うん、ええ感じや」

と、由紀にレンズを向けると、

「えっ、やめてよぉー 恥ずかしいし・・・」

「えーやん、えーやん、コップ持って・・・」

「トウサン、もう酔ってる??」と笑顔の由紀。

そう言いながらも、彼女はグラスを片手に持ち、少しだけ
首を傾けて微笑んでくれました。
実は、彼女も満更でもなかったのかもしれないですね。

全面窓の明るさが逆光気味になって縁取られたレンズ越しの
由紀のシルエットは、いつものキッチンに立つ「カアサン」
ではなく、どこか遠い世界の貴婦人のようにも見えたのを
覚えています。

この美しい「作品」を独占している優越感に浸りながら、
私は夢中で何度もシャッターを切ったのでした。

「トウサンも撮るからね〜」 

言うや否や、私も向かい側から由紀のスマホに撮られて
いました。

「ヒロくん(息子)とマリちゃん(娘)に・・・」

と、忙し気にLINEの操作をしている由紀に、

「あ!見てみー あんな遠くに見える船、客船やろか?」

「え? あ・・・ホント ゆっくり動いてるねー」

グラス片手に私たちは、とりとめもない会話を楽しみました。

窓の外に流れる穏やかな時間。美味しい酒。
そして なによりも、珍しく美しく着飾った妻が、
私の正面で、私に目を向けて微笑んでいるのです。

久しぶりに味わう幸福感・・・

私は、すでに酔っていたのかもしれません;;(汗)

私は、今日この場をセッティングしてくれた平尾に、
そしてこの完璧な舞台を用意してくれた徳永に、
心の底から感謝していたのです。
親友の「癒やし」のためと言いつつ、
結局は私に、これほど誇らしい悦びを与えてくれた
彼らに向け、内心では深々と頭を下げたいような、
気恥ずかしくも温かい万能感に包まれていました。

コンコン♪

軽やかなノックの音が、あまりに唐突に響きました。

「お! 主役の登場か?」と私。

すっかり上機嫌の私の声に応えるかのように、
重厚な扉が開くと同時に、平尾の快活な声が部屋の空気を
一変させました。

「すまんすまん! 道が えらい混んでてな・・・」

一緒に入ってきた徳永にコートを預けながら、平尾が颯爽
とVIPルームに入ってきたのです。
(二人に続いて、正装した数名のスタッフも)

「でも、まだ開始まで1分あるやろ? セーフセーフ 
 トクちゃんの計算通りやで〜」と平尾。

「そんなん えーから、早よ せい! あと35秒や!」

徳永も笑いながら平尾をエスコートして、テーブルへと
向かってきました。

まるで漫才コンビを思わせるような二人の即興に、

「おお!お疲れさん! ぴったりや〜 あと18秒や!」

合わせるように私もまた、歓迎の気持ちと二人のノリに
加わりたいとの思いを込め、満面の笑みでドリンクを持つ
右手を挙げて彼らを迎えました。

と、その時・・・

(え? 待てよ? マジか・・・)


[55] Re: 落花枝に帰らず  小太郎 :2026/02/15 (日) 05:28 ID:qfuqGyuI No.2122
由紀さんの装い、素敵ですね。清楚さを出しつつ、色気も感じる
大人の装いですね。
平尾さんの色に染めて欲しいという由紀さんの気持ちを現した、
平尾さんに魅せたかった装いなのでしょうか?

VIPルームから見える、近影の荒々しい「動」を
遠景の壮大な「静」がすべて包み込んでしまうような
圧倒的な奥行きが丸ごと視界に収まっていた景色は
これからの矢部さんと由紀さんの二人の行く末を予見する
かのような景色ですね。この景色を満喫しているお二人の姿に
仲の良さが伝わって来ます。
この景色を前に二人で笑顔で写真を撮り合っている幸せなひとときが
矢部さんと由紀さんの心が繋がっていた、最後の時間となって
しまったのでしょうか? そしてここから終わりが始まってしまう
のでしょうか?

平尾さんの装いは、もしや白を基調としたスーツだったのでは?
由紀さんのオフホワイトのツィードスーツにぴったり合わせた
かのような、二人の距離感を現す装いだったのでしょうか?

続きを楽しみにしています。


[56] Re: 落花枝に帰らず  倍胡坐 :2026/02/15 (日) 23:41 ID:c7s3cBCs No.2123
向かい合って着座した矢部さんと由紀さん。
後から到着した平尾さんはどこに座ったのでしょう?

その場所によっては相当な違和感が生まれると思います。
ゆったりとした時間のはずが、一気に戦慄が走ってしまいますね。

続き、よろしくお願いします。


[57] Re: 落花枝に帰らず  西門 :2026/02/16 (月) 11:35 ID:airPUXOM No.2124
長年連れ添った夫が惚れ直すほどの由紀さんの変貌。
読者が全員由紀さんのファンになってしまうような丁寧な書込みが素晴らしい。

たった3度のデートごっこであったのに、良妻賢母の由紀さんが女に甦ったことを
矢部さんが気付いた日になったようですね。


[58] Re: 落花枝に帰らず  健一 :2026/02/16 (月) 16:26 ID:Xv.Cvq0o No.2125
三人での賑やかなランチパーティが実際はどうなってしまうのか?
平尾さんと由紀さんのパーティに矢部さんが参加するのか?
あるいは三人にプラス他に複数人数が参加するのか?

いずれにしても結論は矢部さんと由紀さんが「円満離婚」となるのでその過程が興味をそそります。

「円満」がどのように円満なのか?
矢部さんの寝取られ願望、平尾さんの趣味BDSMと由紀さんのBDSMへの目覚め・移行。これが合致すると円満離婚に繋がるのかな?

など勝手な妄想が湧いてきます。

楽しみにしております。


[59] Re: 落花枝に帰らず  たかし :2026/02/17 (火) 11:25 ID:5clnm8eI No.2126
更新ありがとうございます

由紀さんの装い、娘の入学式にピッタリで
クリスマスパーティではなさそうですが
お化粧もイヤリングもマニキュアも
素敵に仕上がった由紀さんの様子が想像できます
前日に悩んでおられたのはホワイト系の服でと
ドレスコードの希望の連絡があったのではないでしょうか?
前日に、何か連絡あった?との問いに
ううん、ないよ・・・は由紀さんのうそ?
小太郎さんがおっしゃるように
平尾さんはホワイト系のジャケットで現れたのでしょうか?
ホワイト系の衣装のお二人が矢部さんの前に
並んで着席される、まるで披露宴のように!
かなり嫉妬しますよね

由紀さんは悩みながらも平尾さんの指示に従った、
これも Dominance&Submission 支配と服従
かもしれませんね

それと
徳永氏のカフェにはこの特別室の他にも
BDSMのための特別室があるのかな?と期待しております
平尾氏と亡くなられた奥様は
崇高なBDSMを追求されていたということなので
ラブホにあるようなSMルームではなく
もっと違った場所でプレイされてたのでは?
そういう場所を徳永氏が提供されていたのでは?
と極端な想像をいています

長々とすみません


[60] Re: 落花枝に帰らず  :2026/02/17 (火) 17:51 ID:SluGNzro No.2127
作者サン、いいかげんにナゾカケはヤメてくれません?
平尾さんがSMの何かを持って来たら皆んな納得します!正解はロープを持って来た?
窓の景色なんかはどーでもいいですよ、退屈デス!


[61] Re: 落花枝に帰らず  健一 :2026/02/17 (火) 23:55 ID:FoYoS5Jc No.2128
由紀さんの深層に潜んでいたBDSMに対する興味がどのように矢部さんに伝えられるのか、
いつ道徳という地表の殻を割って吹き出てくるのか、
支配と従属などの業のようなものを人間が基本的に持っていることを前提に進んでいくのか、

私も時間をかけて矢部さんの文章の行間を想像で埋めております。
これからも矢部さんのペースで執筆をお続けください。楽しみにしております。



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