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妻の転職

[1] スレッドオーナー: 八尾 :2026/08/11 (火) 20:41 ID:OnlBOyrY No.33067
1.

私、八尾和徳、五十七歳。
どこにでもいるようなサラリーマンであり、自分で言うのも変だが、典型的なオッサンだと思う。とは言っても“オッサン体型”というほどではく、他人からも年齢よりも少し若く見られているくらいだ。
中肉中背で、健康診断でも血圧に黄色信号が灯りかけている程度、このまま本格的に赤信号へ突入するのはさすがに嫌なので、最近は意識的に帰宅後にウォーキングを始めた。
と言っても、履き潰したスニーカーの底を減らしながら近所を二十〜三十分ほど歩くだけの、ほんの気休め程度の運動だが。

勤務先は中堅の電子機器メーカーの国内営業部で、一応は東日本地区の法人開拓チーム長という肩書がある。とはいえ、年収六百五十万ほどの平穏なポジションだ。
同期や後輩が順調に出世していくのを横目に、すでにレースからは外れた身として、マイペースに日々をこなしている。

我が家の一人息子 泰介 二十六歳 も すでに独立して県外勤務の一人暮らしをしており、今は三つ下の妻 由希子と二人きりだ。

泰介が家を出てから、二人きりの食卓にもすっかり慣れた。
由希子は私の好きなツマミを覚えていて少なくなってくると忘れずに買ってきてくれる、逆に私が帰り道で彼女の好きな洋菓子を見つければ、つい買って帰る。

「え? トウサン、また買ってきたのー?」

そう言いながら嬉しそうに笑う由希子を見ると、私はそれだけで満足だった。

大げさな愛情表現など、もう何年もしていないが、こういう小さなやり取りこそ夫婦というものなのだと思っている。

そういうわけで、自分でも少々照れ臭いが、私はかなりの愛妻家だと自認しているのだが……

ただ、その「愛しさ」と「男としての自信」は、ここ最近うまく噛み合っていない。

いつからか寝室も別となり 気がつけばセックスレスになって約十年ほどが過ぎていたが、最近になって急に EDの兆候が現れ始めたのだ。
愛する妻をイメージしながらも、情けなく萎えていく己の肉体…… 不甲斐なさと焦燥感が、ふとした瞬間に胸の奥を重く押し潰す。

そんな私は、夕食を終え、風呂も済ませ、パジャマ姿でリビングのソファに腰を下ろしてテレビ画面に釘付けになっていた。

六月に入り、プロ野球はセ・パ交流戦の時期を迎えていたのだ。

この時期になると、普段は対戦することのないセ・リーグとパ・リーグのチームが顔を合わせるので、私はレギュラーシーズン以上にテレビ中継が気になってしまう。

今夜もそうだった。

別に熱狂的なファンというほどではないのだが、昔から応援している贔屓チームがある。勝てばもちろん嬉しいし、負ければ翌朝まで少し気分が悪い。

贔屓チームは交流戦で、目下三連勝中。
そして今夜の相手はパ・リーグの強豪だった。
否が応でも私は期待をするしかなかった。

ところが贔屓チームの今夜の試合は、一点差のビハインド。
何度か巡ってきた得点チャンスを、ことごとく逃しているのだ。七回裏もそうだった。

「あぁ〜、なんだよ! またダメかぁ〜。今日も負けだな」

缶ビール(発泡酒だが;)片手に、ため息とともに思わず声が出た。
口の中に残る苦味が、敗色濃厚な試合展開と重なってどこか惨めだ。 選手に文句を言っているわけではない。 五十七歳にもなって、テレビの前で野球に腹を立てても仕方がないことくらい、私だってわかっている。
それでも、長年応援しているチームの試合となると、つい感情が入ってしまう。

そして、まるで私のガッカリした気持ちをあざ笑うかのように、画面は陽気なタレントが叫ぶ清涼飲料水のCMに切り替わった。

私は ふっと背後を振り返った。
視線の先には 夕食後の食器を洗い終えた妻の由希子が、ダイニングの椅子に座っていた。

私たちは結婚して二十七年になる。
由希子は昔から家事をきちんとこなす女だった。特別几帳面というわけではないが、やるべきことはきちんとやる。 仕事(パート勤務)もそうだし、家のこともそうだ。

たとえば、洗濯物を取り込む時間が少し遅れただけでも、由希子は「今日は湿っぽくなっちゃった」と気にする。

私からすれば、その程度のことはどうでもいい。

「少々は大丈夫だろ…… 気になるんだったら、明日もう一回干せば?」 そう言うと、

「そうなんだけどね」と笑う。

そんな小さなところまで気にするのが、由希子という女だった。

その由希子が、今夜は いや今夜「も」、少し変だった。

ダイニングテーブルの上に置いたスマホを両手で持ち、画面をじっと見つめている。

いつものようにテレビを眺めながら、私と適当に会話をしている様子ではない。
それどころか、眉間にほんの少し皺を寄せ、真剣な表情で指先を小さく滑らせながら画面を追っていた。

私はCMが終わるのを待って、再びテレビに向き直った。

やがて野球中継が再開される。

私は再び試合に集中しようとした。

しかし…… どういうわけか、目の端に映る由希子の姿が気になった。

(そういえば……)

ここ一週間くらいだろうか。 いや、十日ほど前からだったか。
いや、もしかすると、もっと前からかもしれない。

由希子がスマホを見る時間が、妙に増えている気がする。
もっとも、私が見えている範囲だが。

朝、出勤前に私が身支度を整えている時。
休日の昼間、家事が一段落したとき。
夕方、私が会社から帰ってきたあと。
そして今のような、夕食後の団欒の時間にも。

もちろん、スマホを見ること自体は珍しいことではない。

私だってニュースを見たり、天気予報を確認したりする。
YOUTUBEだって、贔屓チームの応援サイトだって覗くこともある。

だから、それまでは特に気にも留めていなかった。

ただ……

最近の由希子は、何かを楽しんでいるというより、何かを探しているようにも見える。

(何かあるのかな?)

そう思ったときには、もう私は口にしていた。
試合はそっちのけで。

「なぁ、最近スマホばっかり見てない? 何か面白いサイトでも見つけた?」

由希子の指が ぴたりと止まった。 だが 彼女はすぐには顔を上げなかった。

「うーん…… 別に、というか ぜんぜん面白くないよー」

「じゃあ、どうして そんな真剣に?」私は笑いながら訊いた。

問い詰めるつもりはなかった。 本当に、ただの何気ない会話のつもりだった。

由希子はすぐには答えなかった。

スマホをテーブルの上に伏せると、今度は私のほうを見る。

「……ちょっとね…… 調べものしてて」

「調べもの?」

「うん」 彼女はそう言って、ふたたびスマホを手に取って画面に目をやる。

「何を?」

「だから…… ちょっと……」

その答え方が、妙に引っ掛かった。

由希子は昔から、必要以上に物事を説明しないタイプだった。
だから嫌なことがあっても、あまり人に話す女ではなかった。

泰介がまだ小学生だった頃、学校から電話がかかってきた時も、私には詳しいことを言わず、一人で学校へ行って話をつけてきたことがある。

「別に 大したことじゃないから……」 そう言って笑うのが、由希子のいつものやり方だった。

以前、近所の奥さんとちょっとした行き違いがあった時も、私が「何か言われたのか?」と訊くと、

「別に 大したことじゃないよ……」と、やはり笑って それ以上は何も話さなかった。

私は、そんな彼女を強い女なのだと思っていた。

いや……
今でも、そう思っている。

だからこそ、こういう時の由希子の「別に」は、私には少し厄介だった。

何もないなら、「何もない」と言えばいい。 ところが由希子は、何かある時ほど、妙に言葉を濁す。

「まあ、いいけど……」(問い詰めるほどのことでもないし……)

私はそう言ってテレビへ視線を戻すと、同時に「ふっ……」と 彼女が吐息のような溜息をひとつ吐き出したのが聞こえた。


[30] Re: 妻の転職  セカンドベースマン :2026/09/20 (日) 00:11 ID:8FO3eSNY No.33268
更新お待ちしてました。
続きをよろしくお願いします。


[31] Re: 妻の転職  八尾 :2026/09/20 (日) 23:25 ID:plD6./9. No.33273
duneさん、小太郎さん、セカンドベースマンさん ご感想有難うございます。


10.

枕元のスマホから流れる電子音のアラームで、私は目を覚ました。

画面の表示は午前七時三十分。
歳のせいか、最近はいつも五時台、早い時には三時や四時台に目が冴えてしまうことも珍しくない。 これほど泥のように深く眠り、アラームに起こされたのは いつ以来だろうか。

頭の中は驚くほどスッキリとしており、全身を軽い爽快感が包んでいた。
だが、その快適な目覚めも束の間、意識が完全に覚醒すると同時に、昨夜の暗闇の中で繰り広げた毒々しい妄想と自らの愚行が、怒濤のように脳裏へと蘇ってきた。

(…… ゆうべ、オレは一体 何を考えていたんだ……)

湧き上がってきたのは、あまりにも強い自己嫌悪だった。
長年連れ添ってきた愛妻を、脳内で毒々しいメイクや妖艶なランジェリーで装わせ、他の男に差し出すような妄想をして一人で興奮していたのだ。しかも、最後は情けなく萎えてフィニッシュすらできずに終わったのだから、救いようがない。

私はたまらずベッドから起き上がり、深いため息をつきながら窓のカーテンを大きく開けた。
梅雨の合間の薄日が部屋いっぱいに差し込み、庭の樹木から聞こえる雀のさえずりが耳に届く。窓を開けると、湿気を含んだ朝の生温かい風が肌を撫でた。
その現実的な光景と音に触れると、昨夜の暗闇の中で蠢いていた歪んだ欲望や恐ろしい妄想は、まるで悪夢が霧散するように一気にくだらない戯言へと変わっていった。

(そうだ…… あんなのは深夜のテンションの狂気だ。 山口さんの話に翻弄されて頭がおかしくなって、寝つきまで悪くなっていただけなんだ……)

自分の中でそう無理やり整理をつけると、胸のつかえが少しだけ軽くなった。

自室のドアを少し開けると、階下のキッチンから、出汁の香ばしい匂いと味噌汁の湯気の気配がかすかに漂ってきた。そこにあるのは、間違いなく私が守るべき平和で温かな日常だった。

洗面所に移動し、鏡に向かってワイシャツの襟を整える。
鏡に映る自分の疲れた中年男の顔を見つめながら、私は心の中で固く決意を固めていた。

昨夜、唐突に「パートナー役」などという妙な話を持ち出して、由希子を余計に混乱させてしまった。
朝食の席で、きちんと彼女に“撤回”を伝えよう。

「昨日の話だけどさ、やっぱり どこか非常識だし、よく考えたら 断るのが当たり前だから、カアサンは気にしないで忘れてくれ」

そうハッキリと言えば、彼女も胸を撫で下ろすはずだ。
むしろ、夫としてそうするのが当然の筋というものだろう。

(よし…… ちゃんと伝えて、山口さんにはキッパリ断ろう)

腹を括り、洗面所のドアを開けようとした、その時だった。

「トウサン? おはよう……」

背後から、エプロン姿の由希子の声がした。

振り返った瞬間、昨夜の暗闇の中で悶々と思い描いた淫らな残像――深紅の口紅を引き、黒レースのランジェリー姿で 他の男の手にかかり、屈辱に濡れた瞳で喘ぐ由希子の姿が、鮮烈なフラッシュバックとなって脳裏を交錯した。

(っ……!)

強烈な恥ずかしさと底知れない罪悪感がこみ上げ、私は思わず彼女の顔を直視できず、視線を泳がせるように落としてしまった。
目の前にいるのは、いつもの素朴で愛くるしい妻だというのに、自分の頭の中が毒されているせいで、まともに目を合わせることすらできない。

「おっ…… カアサン、おはよう…… どうした?」

声を少し裏返らせながら、私は努めて平静を装って問いかけた。
彼女は流しのシンクに置いた手をタオルで拭きながら、どこか言いにくそうに視線を彷徨わせている。

「あっ、あの…… 昨日の話なんだけど……」

言いかけて、由希子は言葉を探すように小さな口を半開きにしたまま一瞬黙り込んだ。
私の方から「あの話はナシにしよう」と言い出そうとした矢先だったが、私は動揺を悟られまいと、まだ まともに彼女の目を見られないまま生唾を飲み込んだ。

「昨日の話? どうかした?」

「うん…… まだ、ちゃんとは答えられないんだけど」

そう言って、由希子は小さく息をついた。 その表情には、どこか固さと不安の色が色濃く影を落としている。

「ただ…… もし本当に、トウサンの仕事の役に立つんだったら…… その…… 前向きに考えてみてもいいのかなって」

「……え?」 

私は自分の耳を疑い、間抜けな声までが漏れた。

「いや、マジで……? カアサン、ホントに?」

「うん……でも、わたしなんかで本当にいいのかなって……」

うつむき加減に呟く由希子の顔を、私は凝視した。
由希子はタオルを握り締め直すと、申し訳なさそうに眉をひそめた。

「だって、そんな大事なお客様を迎える正式な場所でしょう? わたし、ちゃんとしたマナーなんてわからないし、うまく振舞える気がしないから……」

「あ、いや…… そこは…… まぁ、普通にお茶を飲んで、適当に笑顔で相槌でも打っておけばいいとは思うけど……」

「そうはいかないでしょう! わたしなんかが行ったら、かえってトウサンや相手の方に迷惑をかけたり、恥をかかせちゃったりするんじゃないかって…… 昨日の夜、ずっと考えてて……」

そう言った由希子の目元には、普段の柔らかい微笑みではなく、本気の戸惑いと、どこか痛々しいほどの緊張感が滲んでいた。

私は絶句した……

それは軽はずみな好奇心でも、単なる謙遜でもなかった。
彼女は昨夜、私が自室で愚かな妄想に耽っていた間も、本気で「夫の仕事や立場」のために自分に何ができるのかを悩み、胃を痛めるような思いで考えてくれていたのだ。

パート先での人間関係に疲れ果て、「どこかへ逃げ出したい」と漏らしていた彼女の姿が脳裏をよぎる。 職場では誰からも正当に評価されず、ただ揉め事に巻き込まれてすり減っていた由希子。
そんな彼女の心の奥底に、自分の存在が「誰かに必要とされている」「夫の役に立てる」という微かな自尊心の揺らぎがあったのかもしれない。

「カアサン…… 無理してまでやってほしいとか、オレは全然思ってないから」

私は努めて穏やかなトーンを装い、自分に言い聞かせるように言葉を重ねた。

「だから、全然 断ってくれてもいい話だし…… というか…… 実はオレも、今日山口さんに『やっぱり無理でした』って 断ろうと思ってたところで……」

由希子は黙ったまま視線を落とし、力なく口元に苦笑いを浮かべた。
だが、その笑みの奥には、ぬぐい去れない深い迷いと不安が、ゆらゆらと揺れているのが見えた。

「とにかく、急かさないし、絶対に無理だけはしないでくれよな。 オレのカオとか、仕事の都合とか、一切 気にしなくていいから…… でも、そこまで真剣に考えてくれたのは、本当にありがたいよ、というか 悪かったな……」

「うん…… わかった。 ありがとう、トウサン」

「いや、こちらこそ…… でもホント、ゆっくりでいいから、ゆっくりで……」

ダイニングに戻り、テーブルについたものの、味噌汁の味はあまりしなかった。
妻が自分のためにそこまで思い詰めてくれていたことへの申し訳なさと愛おしさが、胸に重くのしかかっていた。

同時に、こんな時はちょっとしたお返しとばかり、彼女のために何かできることを、と考えていた。

「で、カアサンは今日も例の『女特有の世界』に飛び込むの?」と私。

由希子は苦笑いを浮かべながら、

「うん まぁ…… あっ、でも今日はね、道の駅に入る日だから……」

「そっか、それならよかったな」

「あー、でもね…… この前テレビで紹介されてから、すごくお客さんが増えて忙しくなったんだよ」

「へぇ〜 そりゃ、大変だな……」とおおげさに驚く私。

「うん、でもなんだかんだ言っても、わたしは お店に出ているほうが 気が楽かな」

私的には、正直 半分以上は気に留める話でもなかったが、彼女が私の難題に対して 昨夜ずっと悩み考えてくれたことへのお返し とばかり、彼女の苦労話を聞く(フリだけでもする)ことによって、彼女の精神的な負荷の軽減を図っていたのだ。

こうして、重くのしかかっていた「パートナー役」の件で、ややもすれば重苦しい空気のまま家を出ることになるかもしれないと危惧していたのだが、私のささやかな気遣いが功を奏したのか、食卓にはいつもの静かで温かな時間が戻っていた。

妻の苦労に(いちおう)耳を傾け、他愛もない会話を交わせたことで、重荷を背負わせてしまった罪悪感は わずかに薄らぎ、私の中で『夫としての責任は果たせた』という妙な安堵感が広がっていたのだ。

だが……

家を出て、駅へ向かう通勤電車の揺れに身を任せていると、思考の裏側から、じわりと別の感情が鎌首をもたげてきた。

(由希子が「前向きに考えている」ということは?)

昨夜、あれほど恐れ そして愚かにも興奮してしまった「他の男の隣に立つ愛妻」という禁断のシーンに、現実が確実に一歩近づいたということではないか。

(おいおい…… 待て待て。 何を考えてるんだ オレは!!)

頭の中で必死に打ち消そうとする。 しかし、理性の制止をあざ笑うかのように、私の身体は残酷なほど素直だった。
ワイシャツの胸元が息苦しくなり、背筋にぞくぞくとした怪しい痺れが走り抜ける。下腹部の奥底が、じわりと熱を帯び始めていた。
由希子の健気な優しさに毒気を抜かれたはずなのに、その優しさが巡り巡って、己の狂った欲望の引き足を引こうとしている。

(オイオイ! バカなことを考えるな……)

私は駅から会社までの道をいつもよりも早足で歩き、逃げ込むようにオフィスへと足を踏み入れた。

午前中は幸いにも、チームの進捗会議や来期の予算調整など、息をつく暇もないほど打ち合わせが詰まっていた。頭と身体を強制的にビジネスモードへと切り替えることで、どうにか頭の中の邪念を追い払うことができた。

午前十一時半を過ぎ、ようやく自席に戻ってメールチェックを終えた時のことだ。
デスクの隅に置いた社用スマートフォンが、ブッと短い振動と共に鳴り響いた。

ディスプレイに表示された名前を見て、私の心臓が跳ねた。

『ネオプレシス山口』

(……来たか)

私はゴクリと唾を呑み込み、少し喉を整えてから通話ボタンをスライドさせた。


[32] Re: 妻の転職  ヤマト隊長 :2026/09/21 (月) 02:01 ID:HYvzVZxY No.33274
連休中の連続の更新ありがとうございます
とうとうその日に向けて動き出してきましたね
やっぱり奥さんは真面目な方なんですね
気になるのは、旦那さんが思うようになぜ奥さんにその役をどうしてもさせたいのかですよね、
作中に奥さんの容姿について、愛嬌のある笑顔がとありましたが、
八尾さんの中で芸能人とか特定のイメージされている方はいらっしゃるのでしょうか?
もしイメージの方がいらっしゃるのでしたら、教えていただけたらありがたいです
更新本当に楽しみにしております。


[33] Re: 妻の転職  小太郎 :2026/09/21 (月) 04:54 ID:uz3QG9zI No.33275
八尾さん、更新どうもありがとうございます。

奥さん、やっぱり八尾さんの為に一肌脱ごうと考えていたのですね。
八尾さんを思い遣る奥さん、優しいですね。
奥さんの方から八尾さんに前向きに考えると言ったという事は
もう奥さんの中では覚悟が出来ているのではないでしょうか?
山口さんからのフォローの電話に八尾さんも前向きに答える
のでしょうか?

続きを楽しみにしています。


[34] Re: 妻の転職  dune :2026/09/21 (月) 07:46 ID:ZUTpgC.g No.33277
連日の投稿、ほんとに驚きました。ありがとうございます。
うるわしい夫婦のやりとりに心がほっこりしましたが、山口氏にはしっかりテコ入れしてくれ、と期待します。


[35] Re: 妻の転職  勝手に妄想 :2026/09/21 (月) 08:32 ID:4r.OMAD2 No.33278
どうせありへん世界を描くならぶっ飛んで、毒のある世界を描いて頂きたいものです。
奥さんが徐々に心を病んで変わってていく、性犯罪者に堕ちるような世界を願いたいです。


[36] Re: 妻の転職  八尾 :2026/09/23 (水) 14:24 ID:3j3yHfMQ No.33297
ヤマト隊長さん、小太郎さん、duneさん、勝手に妄想さん ご感想有難うございます。


11.

「はい、八尾ですが……」

私は社用スマートフォンの画面を確かめ、できるだけ普段と変わらない平静なトーンを心掛けて第一声を発した。

「あ、八尾さん?  ネオプレシス 山口です」

スピーカーから聞こえてきたのは、いつもの山口の定型のセリフ。
ただ、いつもなら少し間を置いてから落ち着いて話す男なのに、今日は妙に言葉が早い。
昨日応接室で見せた重々しく洗練された雰囲気とは異なり、どこか急いたような、隠しきれない焦りが声の端に滲んでいた。

「お世話になります、山口さん…… 例の件、ですよね?」

「ええ…… そちらの進捗は、いかがかなと思いまして」

そう言って探るように言葉を濁す山口に対し、私は即座に釘を刺すべく、冷ややかな先制パンチを放った。

「山口さん、申し訳ないのですが…… 例の件はあくまで『個人的なお願いごと』という認識でおります。 なので できれば、業務時間外か、お昼の休憩時間にお話しをさせていただけませんか?  こちらも今、午前の業務が立て込んでおりまして……」 とにかく冷静に、ゆっくりと落ち着いたトーンで。

「……っ」

受話器の向こうで山口が息を呑む気配がした。

「個人的なお願いごと」という言葉をわざと強調したのは、公私の境界線を明確にするためだけではない。 そんなに軽く首を縦に振る話ではない という意思を、山口にも分からせておきたかったのだ。
これは私なりのささやかな抵抗だった。 拒絶とまでは言えないまでも、少なくとも簡単には引き受けないという意思表示であり牽制でもあった。

「……おっしゃる通りです。失礼いたしました、八尾さん」

山口は素直に引いた。

私はそこでようやく小さく息を吐いた。

本当なら、もっと強い口調で「妻を巻き込む話を仕事中にされても困ります」と言いたかった。だが、十年来の付き合いがある相手だけに、そこまで突き放すこともできなかった。

彼もさすがに長年修羅場をくぐってきた営業マンだけに、引き際は心得ている。

「実は、例の件とは別の件で ですね、かねてよりご相談していた、例の北海道関連の新規事業における業務見積もりの件ですが……」

即座に仕事の会話へと切り替えた山口に応じ、私も思考をビジネスモードへと強制的にシフトさせた。

数字やスペックのやり取りを交わしながらも、私の神経は電話越しに伝わってくる山口の微かな息遣いや声のトーンを不自然なほど敏感に拾い集めていた。
本来なら営業マンとして集中すべき話なのに、数字がほとんど頭に入ってこない。
北海道の案件どころではない。 向こうもこちらも、頭の半分以上は「例の件」に支配されているのだ。

「……では、北海道サイドと擦り合わせをした修正案をのちほどメールでお送りします。 あと…… 例の件は、また後ほど」

「そうしていただけるとありがたいです。 よろしくお願いします」と私。

五・六分程度の取り繕った業務連絡が終わり、一旦電話は切れた。

昼休みになり、私は社員食堂で日替わり定食を胃に流し込んだが、相変わらず食べ物の味はほとんどしなかった。頭の中では「どうやって山口を納得させて断るか」という言い訳のシミュレーションが延々と渦巻いていた。

食堂を出て、自席へと戻った頃のことだ。
先ほどの電話から、およそ四十分が経過していた。

ポケットの中で、今度は社用ではない「個人所有のスマートフォン」が静かに振動した。
画面を見ると、『取引先 山口隆宏』の文字と山口の個人の携帯番号が表示されている。

仕事の話なら社用スマートフォンにかけるのが普通だ。まして今日は、午前中に一度話しているのだから。
それでも個人の番号にかけてきたということは、今度こそ「例の件」の話なのだろう。

(……フッ、社用じゃなく個人の方にかけてくるあたり、山口さんらしいな)

私は苦笑いを浮かべながら、まるで周囲の目を盗むように、昼休憩中で無人となっている応接ブースへと足早に移動し、通話ボタンをスライドさせた。

「……八尾です」

「八尾さん、度々すみません。昼休みに失礼します……」

山口の声は、先ほど以上に周囲をはばかるように低く、押し殺されていた。

「実はあれから、森本も『八尾さんのところはどうなった?』と何度も聞いてきましてね……。こちらも、正直なところ かなり時間が迫っておりまして」

「はぁ……」

「……あれからも あらゆるツテを血眼になって当たってみたんですが、やっぱり他に頼れるアテがないんです。 というか 完全に全滅でして…… なんとか 奥様に……」

「そうですねぇ…… もっと他に いないのですか?」

受話器の向こうの山口の声には、業界でも有数の優秀な商社マンらしい余裕や矜持は微塵もなかった。

「……八尾さん。 どうか…… お願いできませんか……」

その一言を聞いた瞬間、胸の奥がずしりと重くなった。

そこにあったのは、切迫した焦燥と、格下の取引相手である私に対する、恥を捨てたかすかな“哀願”だった。

(山口さんほどの人間に、ここまで言わせるか……)

普段なら決して見せない男の弱さを見せられて、胸が苦しくなった。
だが、私の本音を言えば、「どこかで誰でもいいから女性を見つけておいてほしかった」というのが偽らざる気持ちだった。

「誰でもいい」…… そう思った瞬間、私は自分でも妙な引っ掛かりを覚えた。

(とにかく 誰でもいいから、由希子だけは この話から外してほしい……)

それだけのことだ。

ネオプレシス社の切実な事情も、山口が社内で追い詰められている立場も痛いほど理解できる。 しかし、これはあまりにも社会通念や夫婦の常識を逸脱した不条理な依頼なのだ。
そう自分に言い聞かせるように、私は小さく息を吐き、ブースに備わる何も映っていない真っ黒のモニター画面を見つめた。

会社というビジネスの場に身を置いていると、どうしても物事を「損得」や「義理」の観点で計算してしまう己の狡猾さに嫌気がさす。
ネオプレシス社とは長年の深い取引関係があり、何より先月、山口は自社の役員会議で無理を通して 我が社の厳しい契約条件を呑んでくれたばかりなのだ。

あの時、電話口で山口が「八尾さん、今回は私の方で何とかしますよ」と言ってくれた声を、私は今でも覚えている。
その絶大な恩義がある以上、だからこそ、今ここで あっさりと無下に「嫌です、無理です」と突っぱねるのは、あまりにも薄情な気がして、社会人として、また一人の営業マンとして、さらに彼との個人的な付き合いを含めても、極めて困難だった。
断るにしても、相手がぐうの音も出ないような「誰しもが納得する致命的な理由」が必要になってしまう。

私はスマホを強く握り直し、慎重に言葉を選びながら口を開いた。

「山口さん……。一応 この件は、昨日の夜、家内には話をしてみたんです」

「えっ! 本当ですか!?」

山口の声が一気に跳ね上がった。

「ええ…… 家内は…… 一応、少しだけ考えてみるとは言ってくれました。……ですが、正直なところ、やっぱり難しいと思いますよ。 可能性としては…… 僕が話を聞いた感触では、ゼロに近いです」

『ゼロに近い』……

その言葉には、由希子の不安や迷いだけでなく、私自身の「これ以上、愛する妻をこんな狂った企みに巻き込みたくない」という切実な拒絶と防衛本能が込められていた。

しかし、崖っぷちに立たされた山口の受け止め方は、私の予想とは大きく違っていた。
私は「ほぼ断り」のつもりで言ったのに、山口にとっては「まだ可能性がある」という意味にしか聞こえなかったのだ。

「ゼロに近い……! いや、それでも『考えてみる』と言っていただけただけで、本当にありがたいです! ゼロじゃないなら、まだ望みはある! すぐに森本にもそう報告します。 八尾さん、本当にありがとうございます! 引き続きお願いいたします」

「あ、いや……山口さん! 期待はしないでください、ほぼ無理だという話で」

「わかっています!  ですが、本当に助かります。 では、また連絡します!」

「あ、ちょっと……」

私の制止を振り切るように、一方的に弾んだ声で感謝を述べると、山口は嵐のように電話を切ってしまった。

ツーツーという空しい電子音が耳元に響く。
私はハッと息をつき、ゆっくりとスマホを耳から離した。

(違う…… そうじゃないんだ、山口さん……)

断るための強烈な予防線として張ったつもりの言葉が、溺れる者にとっては縋りつくべき一本の蜘蛛の糸に見えてしまったのだ。
「断られた」のではなく「可能性が残った」と解釈されてしまった恐怖。

私は重い足取りでデスクに戻り、パソコンのモニターに映る風光明媚な景色の壁紙をぼんやりと眺めた。

(まだ、何も決まったわけではない……)

自分にそう言い聞かせる。
由希子が正式に「受ける」と承諾したわけでもないし、私が山口に『妻を出します』と返答したわけでもない。

そう何度も脳内で反芻しながらも、私の手元はどこかおぼつかず、マウスを握る指先が、かすかに震えているのを自覚していた。

午後三時過ぎ、パソコンのメールソフトが新着通知を知らせる電子音を鳴らした。
差出人は山口からだった。

件名は『【ご確認】北海道新規プロジェクトの件』

昼前に電話でやり取りした業務内容について、箇条書きで分かりやすくまとめられたメモが添付されていた。至って正常な、ビジネスのメールだ。

しかし、本文の最後に添えられた結びの文章を目にした瞬間、私の全身の血が引いていく感覚がした。

『本件業務につきまして、何卒ご検討のほど 宜しくお願い申し上げます。
 また、先ほどお電話にてお話しいたしました“例の件”につきましても、弊社および私個人といたしまして、重ねて切にお願いを申し上げます。
 どうか何卒、何卒よろしくお願いいたします』

本来の業務メールでは考えられない あからさまに大げさで、異常なほど平身低頭な懇願の言葉……

さらに 私の視線は、送信先のヘッダー部分(cc欄)に固定されてしまった。

ta.morimoto@.......


[37] Re: 妻の転職  小太郎 :2026/09/23 (水) 21:30 ID:hkmxjHho No.33301
山口さんとしては、こんな提案は二つ返事で断られると
覚悟していたので、八尾さんが奥さんにすでに説明して
奥さんが少しは考えてみると言ってくれた事が、とても
前向きな回答に思えたのではないでしょうか?

新規商談メールのccに副社長が入っているという事は
今回の例の件への八尾さんの回答次第ではこの商談の
行く末に関わって来るという事を山口さんは伝えて
いるのでしょうね。
果たして帰宅後に八尾さんは奥さんにどのように話す
のでしょうか?

続きを楽しみにしています。


[38] Re: 妻の転職  古田の磐井 :2026/09/23 (水) 22:43 ID:E4TyOIMc No.33302
ccで副社長まではキツイですね。

[39] Re: 妻の転職  セカンドベースマン :2026/09/24 (木) 18:51 ID:vACnqrK2 No.33307
更新ありがとうございます。
ドキドキしながら読ませていただいています。
奥様の気持ちが固まり、引き受けるのか?
また、八尾さんも観念して?承諾してしまうのか?
興味は尽きません。



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・氏名、住所、電話番号、勤務先等プライバシーが侵害されるような内容を含む記事等の投稿は厳禁です。(即時削除)
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・ただし、レスの流れの中でメールのやり取りをするのは全く問題ありません。
・ご夫婦、カップルの方に限り、交際BBSと組み合わせてご利用いただく場合は、全く問題ありませんのでドンドンご利用ください。
・なお、交際専用BBSにスレッドを作成できるのはご夫婦、カップルの方のみですのでご注意ください。
・お手数ですが、交際専用BBSと画像掲示板とを組み合わせてご利用いただく場合は、必ずその旨を明記してください。
 【例】「交際BBS(東・西)で募集している〇〇です」、または「募集板(東・西)の No.****** で募集している〇〇です」など。
・上記のような一文を入れていただきますと、管理人が間違ってスレッドを削除してしまうことが無くなります。
・万一、上記内容に違反するような投稿をされた場合は、妻と勃起した男達の各コーナーのご利用を制限させて頂きますでご注意ください。
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