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遍歴

[1] スレッドオーナー: 土屋 :2026/05/23 (土) 22:39 ID:vJIfgbDU No.32760
父が長期の海外出張に出た週末、我が家のリビングはいつものように母の親友たちの喧騒に包まれていた。
母・土屋千春、45歳。大手出版社でバリバリ働いている。若くしてオレを産んだから、中学の頃は友達から人気があった。要は「綺麗なオバサン」。目尻の上がった大きな目、通った鼻筋に厚めの唇。今も美貌と均整の取れたスタイルを維持している。本人も意識しているのか、見た目に手を抜くことがない。耳にかけたミディアムの髪、ゆったりとしたオフホワイトのサマーニット、Vネックにのぞく鎖骨とダイヤ。彼女には常に華やかな女の匂いが漂っていた。
そして、その母の周りには似たような女たちが集まる。IT企業で働く自由奔放で派手な美人の典子さんと、経営者の妻でおっとりとした良妻賢母タイプの薫さん。3人は学生時代からの親友で、事あるごとに我が家に集まってはワインを空けている。
オレ、裕一は20歳の冴えない大学生だ。いつものように自室に籠もっていたが、猛烈に喉が渇き、足音を忍ばせてキッチンへ向かった。
リビングとキッチンを隔てる曇りガラスのドア越しに、女たちの笑い声が響いてくる。冷蔵庫を開けようとしたオレの手は、典子さんの甲高い声にピタリと止まった。

「だからね、あれは冗談抜きで私の人生で一番のバケモノだったのよ!」
だいぶ酔っているのがわかる。オレは息を殺し、ドアの隙間からリビングを覗き込んだ。
「もう、先っぽパンパンで、血管がボコボコ浮いててさ、なんだろ、生き物っていうか凶器?それが奥までズドンって入った瞬間、脳みそがショートしたみたいになっちゃって。」
ワケのわからない話かと思ったが、言葉を咀嚼すると、まさかという気がした。その時、母と薫さんが「ちょっと典子!」「声が大きすぎるってば!」と笑いながら手を叩いている。
「でもさ、ぶっちゃけ大きさって正義じゃない?」と典子さんは身を乗り出した。
「愛だのテクニックだの言うけどさ、絶対的な質量で子宮の入り口をガンガン突かれる快感って、理屈じゃないのよ。メスとしての本能を直接殴られてるみたいでさ」
やはり、オレの勘は当たったと確信する。
と同時に、急に3人の会話に興味を引きつけられた。
「まあ……否定はしないけど」と言ったのは母だ。頬を紅潮させながらワインを煽る。
「確かに、すっごいのが入ってきた時の、あの息が詰まるような圧倒される感じは、忘れられないわよね」
「でしょ!? ねえ、薫はどうなのよ。あんた昔から清純派ぶってるけど、絶対すごいのに当たったことあるでしょ。吐きなさいよ!」
「ええっ、私!?」と矛先を向けられた薫さんは顔を真っ赤にして両手で頬を覆った。普段はおとなしく、二人の息子を育てる母親である薫さんが、身をよじって恥じらっている。
「も、もう……しょうがないなぁ。私は、夫のかな。それだって、そんなに巨大とか、そういうことじゃないんだけど」
「なによ、それ。いい子過ぎて面白くない」と典子さんが冷ややかに言う。
「そんなこと言ったって、経験がないんだから仕方ないでしょ?」
「そうそう、典子、酔い過ぎだよ」。
母が薫さんをフォローした。
「なによ、千春!それなら代わりにアンタが答えなさい。歴代ナンバーワンの男、誰?」
典子さんが容赦なく母に迫る。

母は「えー」と濁そうとしたが、両脇から二人がわかりきったような顔をしている。
母は観念したらしい。
「もぉ、何度も話したでしょ?……澤田!」
その苗字が出た瞬間、典子さんも薫さんも「だよねーー!!」と、声を揃えて爆笑した。
「ごめんごめん、千春のこの話は定番だから、やっぱり言わせちゃった」
助けられたはずの薫さんも笑っている。
「ホント、毎回言わせるの、やめて」。
どうやら3人の間で、母はこの話をさせられるのはいつものことらしい。
すると典子さんが突っ込んだ。
「でも千春、口でした時はどうだったの?それはあんまり聞いてないわよ!」
典子さんの追及に、母はワイングラスの縁を指でなぞりながら、困ったような笑みを浮かべた。
「もう20年以上前だからなぁ。えー、うーん。顎が外れるかと思うぐらい口を開けたのと、がんばって根元までくわえようとしたら喉の奥に当たって、えずいたのは覚えてる」。
「うわー、いやらしい! で、味は? どんな味したのよ?」
典子さんが悪ノリする。
「バカじゃないの!味なんて覚えてないって!」母が吹き出しながら答えた。
「で? で? 入れた時はどうだったのよ!」
典子さんは止まる気配がない。
「もう、前にも話したじゃない!」
母は照れ隠しのように笑いながらも、その顔は完全に昔の記憶をたどっていた。
母が、昔の男との行為を、その男たるモノを思い起こしている。
「……だいたい、典子の言ったのと同じ感じかな。熱くて硬い肉の塊に、中の狭いところを強引にこじ開けられて、内臓を全部押し上げられるみたいな圧迫感で。奥の奥の、一番敏感なところをゴリゴリされて、足の指が勝手に丸まって……。ガクガク、痙攣、しちゃったの……」
母の口から紡がれる、あまりにも生々しい牝としての記憶。
オレは暗闇の中で、自分の股間がちぎれるほど勃起しているのを感じていた。あの、綺麗で、優しくオレを育ててくれた完璧な母が、得体の知れない『澤田』という男の巨大な肉棒に犯され、快感のあまり身体を痙攣させていた。その事実が、オレの脳髄を麻痺させるほどの嫉妬と、狂おしいほどの興奮を呼び起こしていた。

やがてお開きになり、
「もう典子ったら、調子に乗り過ぎよ」と薫さんが嗜めながら帰っていく声が聞こえた。
オレはベッドに横たわっても、まったく眠れなかった。
母の過去。オレの知らない、女としての『千春』。
もっと知りたい。澤田とは何者なのか。母はどんな顔で男に抱かれていたのか。
ふと、典子さんの顔が浮かんだ。
物心ついた頃から『親戚の陽気なおばさん』のごとく接してくれた彼女なら、オレのこの歪んだ欲望を笑い飛ばして、真実を教えてくれるのではないか。母の全てを知るであろう典子さんに、縋ってみようと思った。


[76] Re: 遍歴  カッツ :2026/09/26 (土) 22:43 ID:b02YLnDk No.33318
待望のビデオ見つかるといいな、三橋沙和も何か知ってそうな予感。
続編待ってます。


[77] Re: 遍歴  土屋 :2026/09/27 (日) 22:50 ID:XIqCQTlg No.33323
カッツ様
いつもありがとうございます。続けます。


オレの狂気じみた家捜しは、容易でなかった。実際に手を動かしてみると、捜した後の完璧な原状回復の作業は、想像以上に手間がかかった。
母親が仕事に出ている日中、数日かけて、クローゼットにシェルフ、デスクの引き出し、キッチンやドレッサーの棚まで、家中の収納をのぞいた。だが、
期待したようなビデオテープの収穫はどこにもなかった。
唯一の発見といえば、母親の普段使いの下着がしまってあるチェストとは全く別の、クローゼットの奥の収納ボックスから、光沢のある生地の派手な下着が数組、大切そうに収められているのを見つけたことくらいだった。
男が見れば、勝負下着と呼ぶことが明らかなデザインのものばかりだ。果たして、父に見せるためにあるものなのだろうか。
だが、ビデオテープが見つからない焦燥が、下着への妄想じみた関心など霧散させてしまう。
間瀬の言う通り、そんな羞恥の塊のようなビデオなど、二十年余りにわたる歳月のどこかで処分されているのが当たり前なのだ。

自室のベッドに大の字になり、天井を見つめる。母親の、若き日の決定的な痴態を見たいという異常な思いに支配されていたオレは、冷たい水で顔を洗ったかのように、急に現実へと引き戻された。

間瀬と会ってから1週間ほどが経った頃、スマートフォンの画面に典子さんからのメッセージが届いた。
「秀島さんに会ってどうだった?薫と二人で気にしてるから、お茶でもしようよ」
行き詰まりから、なんとなく手を差し伸べられたような、そんな気持ちになった。

待ち合わせ場所は、前回と同じ表参道のカフェだった。
駅から店へと向かう道すがら、ふと思う。ここは四半世紀前、母がまだ「水野千春」だった頃、最低の男・藤野と出会い堕落していく、その一歩目を踏んだ街なのだ。今、オレが歩いているこのアスファルトを、若き日の母は絶望の足取りで歩いたのだろうか。

店に入り、視線を奥へと巡らせると、テラスに近い席で薫さんが小さく手を振った。その横には、典子さんも座っている。社長夫人とIT企業のマネージャー。二人は店内で一際目を引くほど華やかだった。
オレは席に着くと同時に、まずは間瀬さんを介して秀島を紹介してもらったことへの礼を丁寧に述べた。
薫さんが、探るような、どこか心配そうな目をオレに向ける。
「秀島さんと話せて、よかった?嫌な話を聞くことにならなかったかしら?」
『はい。本当に、貴重な話をたくさん聞くことができました』
オレはそう答え、秀島から仕入れた情報の何から話せばいいだろうかと、二人に報告をしようと口を開きかけた。
だが、それを典子さんが片手を挙げて遮った。
「あ、ストップ。報告ならいいわよ。私たちはね、千春の過去については、千春本人からしか聞くつもりないから」
典子さんは、ストローを弄びながらサバサバとした口調で言う。
「あんたに声をかけたのは、報告会をさせるためじゃないの。あんた自身が、秀島さんに会って『よかった』と思えているなら、それでいいって確認したかっただけ」
薫さんもそれに優しく微笑んで頷く。オレは胸が温かくなるのを感じながら、改めて礼を述べた。

すると、薫さんが首を少し傾げて言った。
「それで、千春の過去への関心は満たされたの?」
『はい。ただ、知れば知るほど、母の過去への関心が湧いてくるんです』
オレの本音を察したのか、典子さんがニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべて茶化してきた。
「なによ、それ。まだまだ下心が膨らむわけだ。ほんと、エロガキねー」
「ちょっと、典子!」
典子さんがゲラゲラと笑い、薫さんが慌てて突っ込みを入れる。が、呆れたようにしている薫さんも表情は笑っていた。

オレは二人の笑顔を見つめながら、ふと、この二人がテープのありかのヒントを持っている可能性はないだろうかと思った。
だが、直接的には聞けない。別の糸口を見つけなくては。関係ないようで、水面下で繋がるような話。他人の話で、目的の人物にも重なる話は…。

『あの、一つ聞いてもいいですか。母が社会人になってほどなくして別れた、当時の彼氏のことって知っていますか?』
「え?」
『秀島さんが、母にそういう相手がいたと言っていて』
典子さんも薫さんも、突然の質問に小さく目を丸くし、記憶をたどるように視線を泳がせた。

やがて、薫さんが「あ!」と小さく手を叩いた。

「それ、光くんだわ」
『ヒカル…?』
初めて聞く名前に、オレの耳がピクリと動く。
「そうだ、千春のゼミの同級生。チハルとヒカルで、名前の韻が似てる二人ねって、からかってたわね。ほら、ものすごいイケメンだったじゃない?」
典子さんの言葉に、薫さんも大きく頷く。
「そうそう、背が高くて爽やか系のイケメン。ずっと千春のことが好きでね、就活が終わった後にようやく付き合い始めたのよ。でも、光くんが就職したのが大手の保険会社で、最初は地方勤務になっちゃって。結局、社会人になってすぐに遠距離で別れちゃったのよね」
美男美女でお似合いだったのに、と惜しそうに語る薫さんの言葉を聞きながら、オレは、イケメンでエリートというヒカルの人物像に強く引っかかりを覚えた。「沙和ちゃんは自分に見合う人を選べる」と、エリートらしき男を連れた後輩に敗北宣言したという母の言葉が舞い戻る。
だが母にも、藤野のような生ゴミとは違う、自分に相応しい男と付き合っていた時期があったのだ。その頃は幸せを疑わなかったのではないだろうか。

『その、ヒカルさんとの写真とか、母が持っているとしたら、どこにしまっていると思いますか?』
オレの問いを典子が茶化す。
「そんなの、ママの昔の男を知りたいから写真見せてって甘えてみれば?」
『いや、それはちょっと。そういう昔の記録、母は処分したりしていないでしょうか?』

「残してるよ」
当然とばかりに即答したのは典子さんだった。
薫さんが驚いたように身を乗り出す。
「ちょっと典子、なんでそんなこと言い切れるのよ。千春から聞いたの?」
「聞いたのよ」
典子さんは得意げに胸を張った。
「私が旦那と結婚する時、昔の男の写真とか思い出の品をどうしようか迷って、千春に相談したの。そしたら千春がね、『私は処分できなくて、全部取ってあるよ』って言ったのよ。どこに、どうやって隠してあるかも教えてもらって、私は今でもその千春のやり方を真似してそのままにしてるんだから。だから、千春だって今も同じ場所に置いてるんじゃないかな」
心臓が、ドクンと激しく脈打った。
オレは自分の必死な家捜しを思い返した。クローゼットも、シェルフも、デスクも全部捜した。写真なんて、どこにもなかったはずだ。
オレは乾いた喉を鳴らし、典子さんを食い入るように見つめた。
『それ…どこですか?』


[78] Re: 遍歴  カッツ :2026/09/28 (月) 23:13 ID:JxO6EqA2 No.33331
おっとお、隠し場所分かるのか? 分かっても無理だったり・・・
テープ見つかる事を祈ってます。   期待してます。


[79] Re: 遍歴  古田の磐井 :2026/09/29 (火) 15:00 ID:nvTCiLfA No.33334
テープの在処が、、、。楽しみです。

[80] Re: 遍歴  土屋 :2026/09/29 (火) 20:25 ID:YgvDcZKw No.33335
カッツ様 古田の磐井様
お言葉を頂き励みになります。ありがとうございます。続けます。


典子さんはニヤリと口元を歪めてから説明を始めた。
「あんたん家の脱衣所、洗濯機の上の戸棚があるでしょ?」
「…あります」
「その戸棚の、一番上の段。そこ、普段使わない予備のバスタオルとかが詰まってるはず。でね、そのタオルをどかした奥、そこを二重構造にしてあるの」
典子さんが悪戯っぽくオレに目線を送る。
「ウチも同じ作りなんだけど、一番上の段の奥なんて、下から普通に見上げても見えない位置なのよ。家の中で自分しか絶対に触らない、旦那や子供じゃ目に入りもしない場所。そこに、奥の壁と同じ大きさ、同じ色の箱を仕込んであるってわけ」
そう言って、得意げに笑った。
薫さんが、紅茶のカップをソーサーに戻しながら、呆れたような顔でため息をつく。
「ちょっと典子、本当にお喋りが過ぎるわよ。千春の秘密をそんな風に勝手に……」
「いいじゃない、減るもんじゃなし」
典子さんはあっけらかんと言い返す。
「それにさ、千春が今でも私に教えた通りの隠し場所を使ってるか、ちょっと確かめてみたいじゃない? 裕一さ、もし光くんとか、昔の男の写真を見つけたら、こっそり私に教えなさいよね」

母が考えた隠し場所。それは、一度は諦めかけた「母のビデオテープ」が、今も処分されずに残されている可能性に直結していた。
早く家に帰って確かめたい。その猛烈な焦燥感が、オレの心を狂おしく急き立てた。
「ねぇ」
不意に、典子さんがつまらなさそうな声を上げて、オレの顔を覗き込んできた。
「あんた、生真面目な顔しちゃってさ、私がそこに何を隠しているのかは、気にならないわけ?」
薫さんがすかさず横から口を挟む。
「何って、さっき自分で言ってたじゃない。元彼の写真でしょ?」
「元彼の写真て言ったって色々あるでしょ?どんな写真か気にならないの?」
「色々?色々なんてあるかしら?」
薫さんがおっとりと首を傾げる。
「だからさー、薫も裕一も、私がどんな写真を隠してるか聞きなさいよ。訊ねるのがマナーでしょ?」
「聞かなくたって、どうせ自分から言うじゃない」
薫さんのツッコミに、典子さんが不満げに頬を膨らませる。オレは早く話を切り上げて帰りたかったのもあり、たまらず話を合わせるように言葉を差し挟んだ。
「……で、典子さんは、どんな写真を隠しているんですか?」
「ふふ、仕方ないな。知りたがりのエロ少年に教えてあげる」
二十歳のオレを子供扱いして、典子さんが満足そうに笑みを浮かべる。
そして急に声を潜めた。
「昔の男と撮った、ちょっとエッチな写真」
「ちょっ、典子!」
薫さんが顔を赤らめて制するが、典子さんはどこ吹く風で続ける。
「いいじゃない、相手の男のことなんて今さらどうでもいいのよ。でもね、若くてハリのあった頃のキレイな身体だけは、どうしても処分できなかったの。お別れしたくなくてさ」
「ほら、やっぱり自分から言いたかっただけじゃないの」
「何よ、私だって昔は本当にスタイルが良かったんだから! 証拠として残しておきたいの!」
スタイルなら今も十分にいいと思ったが、四十代の女たちの賑やかな応酬を前に、オレは黙っていた。
ただ、「エッチな写真」という単語が、オレの脳髄に邪悪な刺激を与えた。

ヒカルという、母に相応しかった男との写真は見つかる可能性が感じられる。もしもそれが、二人のハメ撮りだったら。
挿入し、感じている母を見下ろして撮った写真や、男に跨り突き上げられて、胸を揉まれる母を見上げて撮った写真があるかもしれない。
それが見つかれば十分な気がしてくる。

いや、と考えを打ち消す。
本当に欲しいのは、幸せできれいな母の姿ではない。穢され堕落した母の動画だ。もう一度、目的を定め直す。その方が見つかるような気がしたから。

典子と薫のやり取りを最後まで聞き、オレは脱兎のごとく表参道を後にして、我が家へと帰宅した。
カチャリ、と静まり返った玄関の鍵を開ける。母はまだ仕事で帰らない。
オレは靴を脱ぎ捨てるなり、廊下を突き抜け、脱衣所にある洗濯機の前へと駆けつけた。
息が荒くなるのを抑えられない。
洗濯機の上に設置された、備え付けの白い木製の戸棚。化粧板に覆われた扉を左右に開け放つ。
一番上の段。典子さんの言葉通り、そこには普段使わない厚手のバスタオルやフェイスタオルが、隙間なくぎっしりと詰め込まれていた。

落ち着くよう、自分に強く言い聞かせる。ここで痕跡を残せば、あの鋭い母に一発で勘付かれる。
オレは急いで食卓から木製の椅子を運び込み、脱衣所の床に設置して踏み台にした。椅子に立ってポケットからスマートフォンを取り出すと、タオルの畳まれ方、重なり具合、戸棚全体の配置を、原状回復のために全て写真に収めた。
細心の注意を払いながらタオルを一枚ずつ丁寧に取り出し、床へと置いていく。
改めて下から見上げると、確かに、上段の棚の中はほぼ見えない。
靴下のまま椅子の上に立ち、戸棚の最上段の奥を、上から覗き込むようにして見つめた。
一見、何もないように見える。
だが、奥の壁の右端にわずかに隙間があって、指を差し込めそうだ。
手を伸ばし、指をかけて手前に引く。

壁自体が、手前に動いた。


[81] Re: 遍歴  古田の磐井 :2026/09/29 (火) 21:26 ID:aXiH0mTc No.33336
続きを御願いします。

[82] Re: 遍歴  カッツ :2026/09/30 (水) 10:32 ID:iZ43GPDM No.33342
おっ、見つかったよですね、きっとテープ入ってますね。
さあ内容が気になってしょうがないしょうがない。 つづきを・・・


[83] Re: 遍歴  土屋 :2026/09/30 (水) 20:05 ID:DxvaBmxM No.33343
古田の磐井様 カッツ様
お言葉ありがとうございます。続けます。


これだ。

短く息を呑み、オレは確信した。

心臓が、破裂しそうなほどに暴れ始める。全身の毛穴が開き、脳内の血流が加速した気がする。
母が封印した、本当の聖域。
棚の手前まで引き出して両手で掴むと、横に長く奥行きは浅いが、それが確かに箱であることがわかる。
オレは椅子から降り、箱を脱衣所の床に置いた。
そのままオレも胡座をかき、震える手で慎重に蓋を開ける。
中には、中身を優しく労わるように、真っ白な新しいタオルが詰められていた。そのタオルの清潔な状態から、これが決して封印されたものではなく、最近も母が触れたものであることが伝わってきた。
元に戻せるように撮影してから、そっと、上のタオルをめくる。
現れた中身は、濃いグレーのポーチと、黒い箱が3つだった。
ここでも画像で記録を取り、オレはテープが入っているであろう順に、まず、細長い黒い箱を開けた。
中から出てきたのは、繊細な銀色のチェーンがついたアクセサリー。そして、それとは別に、銀色の輪っかのような小物が5つ、綺麗に並んでいた。ピアスのようにも、あるいは医療用器具のようにも見える。だが、少なくとも、今オレが求めているものではない。その物体は慎重に元に戻した。
続いて、残された2つの小さな黒い箱の片方を開けた。

あった。

手のひらに収まるサイズの、透明なプラスチックのケースが2つ。
中に収められているのは、驚くほど小さいが、間違いなくテープだった。プラスチックのボディにのぞき窓が付いていて、巻かれた磁気テープが見える。
心臓が激しく高鳴る。地鳴りのような動悸のあまり、喉の奥から吐き気すら込み上げてくる。
この2本のテープの中には、若き日の母が金で買われ、恥辱に震えながら喘ぐ姿が記録されているに違いない。ついに、オレは母の秘密の真ん中に辿り着いたのだ。

オレは歓喜の余りおかしくなりそうな自分を必死に理性で押さえ込んだ。
まず、ケースに入ったテープの表面にあるロゴや型番を、正確にスマートフォンで写真に撮る。
そして、触れた指紋を拭き取るようにしながら、箱もポーチも、全てを寸分の違いもなく元の白いボックスへと収めた。タオルを敷き詰め、蓋を閉め、椅子の上から、戸棚の最上段の左奥へと戻す。床のタオルも写真の通りに畳んで詰め直し、化粧板の扉を閉めた。椅子を食卓へと戻す。
原状回復は終わった。

だが、目的への道のりはこれからだった。
我が家には、こんな旧式の小さなテープを再生できる機器などどこにもない。
オレは自室に駆け込み、猛烈な勢いでスマートフォンを操り、AIも使ってネット情報を検索した。
古い規格のテープを再生できる中古のビデオカメラと、パソコンに映像を取り込むための機材を調べ、必要なもの一式をコンビニ受け取りで注文した。母に見つかるリスクを避けるためだ。

2日後。
コンビニのレジで重みのある段ボールを受け取り、機材が全て揃った。
自室のノートパソコンの設定も、すでに済ませてある。
だが夜になり、両親がいる中で動くことはできなかった。こんなに長く、苦しい夜は、人生で二度とないだろうと思った。

そして、次の日。
オレは大学の講義をすべてサボった。
午前8時過ぎ。母が仕事へ出かけ、家が留守になったのを確認する。
静寂に包まれた家の中で、オレは再び脱衣所の戸棚から、あの白いボックスを降ろした。
中から、2本のビデオテープを取り出し、自室へと持ち帰る。
机の上には、手に入れたばかりの、旧時代のビデオカメラ。
オレは震える手でケーブルを繋ぎ、カメラをPCのUSBポートへと接続した。画面に異常はない。動作の推移を、祈りながら見守った。
パカッと、ビデオカメラのテープホルダーが開く。
オレはプラスチックケースから、1本の黒いテープを取り出した。二十数年の歳月を眠り続けた、母の秘密。
それを、カメラのメカニズムの中へと、ゆっくりと挿入する。
ガチャ、と重々しい機械音がして、テープが内部へと吸い込まれていった。
画面の前に座り、マウスを握る。カーソルを「PLAY」のボタンへと合わせた。
心臓が、喉から飛び出しそうだった。

一度だけ、深く、深く呼吸をした。
そしてオレは、再生ボタンをクリックした。


[84] Re: 遍歴  カッツ :2026/09/30 (水) 21:29 ID:iZ43GPDM No.33344
ありましたね、期待と興奮が膨らみます。
つづき待ち遠しいです。


[85] Re: 遍歴  古田の磐井 :2026/10/01 (木) 12:32 ID:uu9iJiH6 No.33347
続きを楽しみにしてます。


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