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遍歴

[1] スレッドオーナー: 土屋 :2026/05/23 (土) 22:39 ID:vJIfgbDU No.32760
父が長期の海外出張に出た週末、我が家のリビングはいつものように母の親友たちの喧騒に包まれていた。
母・土屋千春、45歳。大手出版社でバリバリ働いている。若くしてオレを産んだから、中学の頃は友達から人気があった。要は「綺麗なオバサン」。目尻の上がった大きな目、通った鼻筋に厚めの唇。今も美貌と均整の取れたスタイルを維持している。本人も意識しているのか、見た目に手を抜くことがない。耳にかけたミディアムの髪、ゆったりとしたオフホワイトのサマーニット、Vネックにのぞく鎖骨とダイヤ。彼女には常に華やかな女の匂いが漂っていた。
そして、その母の周りには似たような女たちが集まる。IT企業で働く自由奔放で派手な美人の典子さんと、経営者の妻でおっとりとした良妻賢母タイプの薫さん。3人は学生時代からの親友で、事あるごとに我が家に集まってはワインを空けている。
オレ、裕一は20歳の冴えない大学生だ。いつものように自室に籠もっていたが、猛烈に喉が渇き、足音を忍ばせてキッチンへ向かった。
リビングとキッチンを隔てる曇りガラスのドア越しに、女たちの笑い声が響いてくる。冷蔵庫を開けようとしたオレの手は、典子さんの甲高い声にピタリと止まった。

「だからね、あれは冗談抜きで私の人生で一番のバケモノだったのよ!」
だいぶ酔っているのがわかる。オレは息を殺し、ドアの隙間からリビングを覗き込んだ。
「もう、先っぽパンパンで、血管がボコボコ浮いててさ、なんだろ、生き物っていうか凶器?それが奥までズドンって入った瞬間、脳みそがショートしたみたいになっちゃって。」
ワケのわからない話かと思ったが、言葉を咀嚼すると、まさかという気がした。その時、母と薫さんが「ちょっと典子!」「声が大きすぎるってば!」と笑いながら手を叩いている。
「でもさ、ぶっちゃけ大きさって正義じゃない?」と典子さんは身を乗り出した。
「愛だのテクニックだの言うけどさ、絶対的な質量で子宮の入り口をガンガン突かれる快感って、理屈じゃないのよ。メスとしての本能を直接殴られてるみたいでさ」
やはり、オレの勘は当たったと確信する。
と同時に、急に3人の会話に興味を引きつけられた。
「まあ……否定はしないけど」と言ったのは母だ。頬を紅潮させながらワインを煽る。
「確かに、すっごいのが入ってきた時の、あの息が詰まるような圧倒される感じは、忘れられないわよね」
「でしょ!? ねえ、薫はどうなのよ。あんた昔から清純派ぶってるけど、絶対すごいのに当たったことあるでしょ。吐きなさいよ!」
「ええっ、私!?」と矛先を向けられた薫さんは顔を真っ赤にして両手で頬を覆った。普段はおとなしく、二人の息子を育てる母親である薫さんが、身をよじって恥じらっている。
「も、もう……しょうがないなぁ。私は、夫のかな。それだって、そんなに巨大とか、そういうことじゃないんだけど」
「なによ、それ。いい子過ぎて面白くない」と典子さんが冷ややかに言う。
「そんなこと言ったって、経験がないんだから仕方ないでしょ?」
「そうそう、典子、酔い過ぎだよ」。
母が薫さんをフォローした。
「なによ、千春!それなら代わりにアンタが答えなさい。歴代ナンバーワンの男、誰?」
典子さんが容赦なく母に迫る。

母は「えー」と濁そうとしたが、両脇から二人がわかりきったような顔をしている。
母は観念したらしい。
「もぉ、何度も話したでしょ?……澤田!」
その苗字が出た瞬間、典子さんも薫さんも「だよねーー!!」と、声を揃えて爆笑した。
「ごめんごめん、千春のこの話は定番だから、やっぱり言わせちゃった」
助けられたはずの薫さんも笑っている。
「ホント、毎回言わせるの、やめて」。
どうやら3人の間で、母はこの話をさせられるのはいつものことらしい。
すると典子さんが突っ込んだ。
「でも千春、口でした時はどうだったの?それはあんまり聞いてないわよ!」
典子さんの追及に、母はワイングラスの縁を指でなぞりながら、困ったような笑みを浮かべた。
「もう20年以上前だからなぁ。えー、うーん。顎が外れるかと思うぐらい口を開けたのと、がんばって根元までくわえようとしたら喉の奥に当たって、えずいたのは覚えてる」。
「うわー、いやらしい! で、味は? どんな味したのよ?」
典子さんが悪ノリする。
「バカじゃないの!味なんて覚えてないって!」母が吹き出しながら答えた。
「で? で? 入れた時はどうだったのよ!」
典子さんは止まる気配がない。
「もう、前にも話したじゃない!」
母は照れ隠しのように笑いながらも、その顔は完全に昔の記憶をたどっていた。
母が、昔の男との行為を、その男たるモノを思い起こしている。
「……だいたい、典子の言ったのと同じ感じかな。熱くて硬い肉の塊に、中の狭いところを強引にこじ開けられて、内臓を全部押し上げられるみたいな圧迫感で。奥の奥の、一番敏感なところをゴリゴリされて、足の指が勝手に丸まって……。ガクガク、痙攣、しちゃったの……」
母の口から紡がれる、あまりにも生々しい牝としての記憶。
オレは暗闇の中で、自分の股間がちぎれるほど勃起しているのを感じていた。あの、綺麗で、優しくオレを育ててくれた完璧な母が、得体の知れない『澤田』という男の巨大な肉棒に犯され、快感のあまり身体を痙攣させていた。その事実が、オレの脳髄を麻痺させるほどの嫉妬と、狂おしいほどの興奮を呼び起こしていた。

やがてお開きになり、
「もう典子ったら、調子に乗り過ぎよ」と薫さんが嗜めながら帰っていく声が聞こえた。
オレはベッドに横たわっても、まったく眠れなかった。
母の過去。オレの知らない、女としての『千春』。
もっと知りたい。澤田とは何者なのか。母はどんな顔で男に抱かれていたのか。
ふと、典子さんの顔が浮かんだ。
物心ついた頃から『親戚の陽気なおばさん』のごとく接してくれた彼女なら、オレのこの歪んだ欲望を笑い飛ばして、真実を教えてくれるのではないか。母の全てを知るであろう典子さんに、縋ってみようと思った。


[69] Re: 遍歴  土屋 :2026/09/23 (水) 00:59 ID:2zltB0RY No.33296
古田の磐井様 カッツ様
間瀬についてシェアして頂きありがとうございます。待ち遠しいとのお言葉うれしいです。

ここで前回までの主な登場人物を整理します。

◆土屋裕一(20)オレ。大学生。偶然聞いた話から母・千春の男性遍歴に関心を持ち、その過去を調べている。証言から母の淫らな過去を知るほど興奮し、調査にのめり込んでいく。
◆土屋千春(45)裕一の母親。出版社勤務。男を虜にする天性の魅力を持つ美女で、仕事では「天才」と称されるエリート。社会人1・2年目に友人関係が断絶した空白の時間がある。
◆秀島芽衣(45)千春の会社の元同期。現在は独立。裕一に「空白の時間」の千春について証言。ヒモを飼い、その男の要求で売春したこと、買い手が間瀬の知人であることを明かす。
◆間瀬隆介(48)千春の親友・薫の夫。企業経営者として成功している。裕一に秀島を紹介する。しかし秀島から、千春が売春していた際の客を知る人物として名指しされる。
◆間瀬薫(45)大学からの千春の親友。夫の隆介の仕事相手である秀島が千春の元同期であることを裕一に告げる。良妻賢母タイプで裕一の調査を疑問視するが、止めようとはしない。
◆石川典子(44)大学からの千春の親友で、薫と3人で交流を続けている。IT企業勤務でモデルのような美女。ノリのいい性格で、裕一が千春の過去を探るのを面白がる。
◆藤野(不明)秀島の証言によると、「空白の時間」に千春とともに暮らしていたヒモ。
◆三橋沙和(43)千春の会社の1つ後輩。秀島の証言で、千春と藤野を目撃したとされる。
◆土屋一郎(55)裕一の父で千春の夫。息子にカタブツと思われているエリート。裕一は華やかな千春がなぜ結婚したのか疑問に感じている。

続けます。


秀島のオフィスを出たオレは、夕暮れに向かう坂道を下りながら、スマホの画面に指を走らせていた。
宛先は間瀬さん。母の客を知るという男。

指先の微かな震えを抑えながら、秀島を紹介してもらったことへの御礼を打ち、そして、「間瀬さんのお知り合いで、昔、母がお世話になった裕福な方がいらっしゃると伺いました。改めてお話を聞かせていただけないでしょうか」と加えた。
緊張を自覚して、送信ボタンを押した。

返信は驚くほど早かった。
端末がポケットの中で震えたのは、最寄り駅の改札を抜ける前だった。画面を開く。実務的で簡潔な文面と、いくつかの候補日程が整然と並んでいた。
オレは迷うことなく、一番早い日程を指定して即座に返した。

暗くなる前に家に着く。
玄関の鍵を開けると、まだ人の気配はなく静まり返っていた。母が帰宅するまで、あと1時間はあるだろう。
自室に駆け込み、ドアを閉めると同時に、オレは狂ったようにズボンと下着を下ろした。黒いボクサーブリーフの内側には、秀島のオフィスで溢れた粘液が乾き惨めな跡を作っていた。
ベッドに横たわる。頭の中で、秀島がその薄い唇から垂れ流した生々しい場面の数々を、一つ一つスライドショーのように思い描いた。
底辺の男に紫のブラを奪われ、無理やり結合された母。男の道具になることに快感を見出してしまった母。金と引き換えに競泳水着を仕込んで差し出された母。
想像すればすぐに身体はギンギンに変わるのに、どういうわけか集中できない。極上の情報が多過ぎる。最後の盛り上がりに、うまく辿り着けない。
オレは起き上がり、ズボンを半端に下げたまま、持て余した高揚感を引きずりながら自室を出た。何かに突き動かされるようにして、母のクローゼットの扉を開け、その暗がりに忍び込んでいた。

ひんやりとしたクローゼットの奥。いきなり目に飛び込んできたのは、見たことのない品のいいシルバーのカクテルドレスだった。
近いうちに着る予定でもあるのだろうか。それだけが特別な専用のハンガーに掛けられている。光沢のある上質なシルバーの生地で仕立てられた、美しいAラインのワンピース。ビスチェ風のデザインになっていて、鎖骨の周りから二の腕にかけては、繊細なレースで覆われ透ける作りになっていた。
そのすぐ脇の棚には、収納からわざわざ取り分けられたように、上下のアンダーウェアが静かに置かれていた。
装飾の一切ない、ストイックなグレーのブラジャーとショーツ。ブラはカップこそしっかりとした厚みがあるものの、肩紐が付いていない。間違いなく、目の前に掛けられているビスチェドレスの下に仕込むためのものだ。
オレの脳内で、そのドレスを身に纏った母の姿が、鮮烈なカラーで立ち上がる。
ビスチェのドレスに収まった、年齢を感じさせない完璧な肢体。
グレーのカップに押し上げられ、ドレスの胸元から丸く膨らむ柔らかな胸の谷間。
コルセットのようにシルエットを美しく描く、細いくびれ。
優雅に広がるAラインの裾から覗く、ストッキングに包まれた締まった脚。
知的な輝きをたたえる眼と、自信に満ちた薄紅色の唇。
艶やかにアップに結い上げられた髪が晒すうなじ。
完璧な、気高い母。

その母が、こちらを向いて微笑んでいる。
唇が動いた。
「藤野くん」
母は、あの忌まわしい男の名を呼んだ。
「もっと汚して」
ドレスの裾を持ち上げ、実用的なグレーのショーツを脱ぐと、横になった藤野の上にまたがった。
ヤツのモノを自分の割れ目に埋め込んでいく。

下から藤野が突き上げるリズムに合わせて、豊かな二つの乳房が揺れる。
藤野の骨ばった手が掴み、揉む。
「はっあぁっ、藤野くん。最低で最高。このまま、出して。私の中に、出してっ」
母の体内に藤野の遺伝子が放出される。
「ああ、私の一番大事なところに、藤野くんが、きたぁ」
それと同時に、オレも最低の欲望を吐き出した。

処理を終え、何食わぬ顔で自室に戻った。
しばらくすると、玄関の開く音がして母が帰ってきた。
いつものように、白いTシャツに着替えた母は、キッチンで手際よく夕食の支度を始める。さっきまでオレの脳内で藤野に汚されていた女とは思えない、清廉な日常がそこにあった。
オレはダイニングの椅子に腰掛け、平静を装って声をかけた。
「友達と夕飯食べに行く日程決めたいんだけど、ママ、いない日ある?」
母は手を止めずに、優しく振り返る。
『ママ、金曜日はちょっとしたレセプションでいないから、その日は夕飯済ませてくれると助かるわ』
「レセプション?」
母への興味がすぐに湧いた。
「うん。前に担当していた作家先生がプラットフォームとコラボするんだけど、始めてみたら作風が守られるかわからなくなって助けて欲しいっていうわけ」
レセプションに至った経緯らしい。
「ママは部外者なんだけど、ちょっと間に入ったら企業側にも感謝されちゃって、それでウチの会社まで事業に関わることになってね。その公開のレセプションだから行かないわけにいかないのよ」
その口調は半分ぐらい面倒そうだったが、普通の人には難しいことをやってのけたのだということが、今のオレにはわかった。

トントン、と小気味よい包丁の音が再開する。
あのクローゼットに隠されていた、シルバーのドレスの目的が明らかになった。
母からすれば、それは時折発生する、仕事上のイベントに過ぎない。
だが、オレは想像してしまう。
あのビスチェのドレスを着た母が、他人の男たちの目にさらされる。わずかな露出と、内に秘めたあのグレーの下着で、大勢の大人たちの欲望の視線の中を泳ぐ。その内の1人が、堪えられずに声をかける。
それだけで、ズボンの内側が再び猛烈に熱く硬くなっていくのがわかった。

もっと、どん底へ。母の娼婦だった過去という、黒く汚れ切った奥底へ、沈んでいきたい。


[70] Re: 遍歴  カッツ :2026/09/23 (水) 17:43 ID:9jAmV0B6 No.33298
ビスチェドレスってその金曜のレセプションで着るのかな?
露出度は大丈夫なのか、素敵なんだろうな。
さて、母不在の時に何か企みでもあるのでしょうか・・・
つづき楽しみに待っています。


[71] Re: 遍歴  古田の磐井 :2026/09/25 (金) 19:10 ID:bibR6jKE No.33310
がんばって続けてください。期待してます。

[72] Re: 遍歴  土屋 :2026/09/25 (金) 20:02 ID:DUtd5hdA No.33311
カッツ様 ありがとうございます。ドレスは鎖骨から二の腕がレースで覆われて露出は控えめでしたが、美しいと思います。
古田の磐井様 お言葉を励みに続けます。ありがとうございます。


「またここに来たってことは、秀島さんからほぼ全てを聞き出したってわけだな。裕一くんの行動力、いや執念か。大したものだ」
間瀬隆介は整った顔に、余裕を崩さない大人の微笑みを浮かべて言った。

再訪した間瀬のオフィスは、以前と変わらず無機質で、洗練された静寂に包まれていた。

オレは努めて冷静に、早々に切り出した。
『秀島さんに伺ったんですが、母が若い頃、大変お世話になった裕福な方がいたということで、間瀬さんのお知り合いなのでしょうか?』
ソファに腰掛けた間瀬は微塵も動じることなく、ただ楽しむように目を細めた。

「それは、西条さんのことだな」

確信に満ちていて、あっさりした返答。間瀬の態度からは、オレの脳内を見切っているかのような余裕があふれていた。

オレは一気に核心へと迫る。
『母と、その西条さんの関わりについても、知っているということですか』
「ああ」
そして間瀬は涼しい顔のまま、まるで「今日は晴れだ」とでも言うような平淡な口調で言った。

「西条さんは、若い頃の千春さんを抱いた男だ」

脳裏で、「売春よ」と言った秀島の言葉が鮮烈にフラッシュバックする。
オレはごくりと唾を飲み込み、ソファの上で姿勢を正した。そして、膝の上に置いた両手を握りしめ、深く頭を下げた。
『その方を、紹介していただけないでしょうか。直接、お話を聞きたいんです。お願いします』

間瀬は少しの間、無言でオレの頭頂部を見つめていたが、「その前に」と静かに言葉を挟んだ。
「いくつか条件がある。まず、僕がこんな話をしていることは、妻には内緒にしてほしい」
『薫さんに…ですか?』
顔を上げたオレに、間瀬は淡々と続ける。
「僕自身、何もやましいことはないけれど、千春さんの過去を知っていることは薫に話していないんだ。必要なかったからね。だから、そのことで夫婦間がギクシャクするのは避けたい。それに、僕が話せることはあるけれど、君の期待には答えられない可能性が非常に高い。あまり期待しない方がいい」
条件、というよりは釘を刺すような冷徹な警告。だが、ここまで来て引き下がれるはずがなかった。
『わかりました。薫さんには絶対に言いません。お願いします、聞かせてください』
オレの悲壮なまでの懇願に、間瀬は満足したように小さく頷いた。

「まず西条さんだが、4年前に亡くなっている」

目の前が暗くなった。一瞬にして、オレの内面は激しい落胆に塗りつぶされる。母の深淵を知る男に直接会って、その口から生々しいディテールを聞き出すという道が、いきなり完全に閉ざされた。
だが、間瀬は話を続けた。

「千春さんを西条さんが知ったのは、今から20年以上前のある飲み会だ。当時、千春さんは本業とは別に、今でいう『ギャラ飲み』のような仕事を掛け持ちしていた。その辺の事情は、秀島さんからすでに聞いたんだろ?」
『はい。教えてもらいました』

間瀬は遠い過去を懐かしむように、視線を斜め上へと向けた。

「当時はまだ、世間がIT革命なんて言葉に沸き立っていた頃だ。僕はまだ何者でもない、ただの駆け出しの起業家だった。西条さんは、すでにいくつかの事業で成功を収めていてね。僕らのような若い起業家連中を集めては、面倒を見てくれるような父親とか兄貴分とか、そういう存在だった」

間瀬の端正な顔に、わずかだが、粗野な雰囲気が混ざったように感じる。

「そんな西条さんが主催したある飲み会に、コンパニオンとして呼ばれた女性の一人が、千春さんだった。あの場では、『アイ』と名乗っていたよ。僕は末席から見ていただけだったけれど、夜の女性にもずいぶん素敵な人がいるものだと驚いたさ。他も美人が集まっていたけれど、千春さんは輝き方が違った。隣の西条さんが楽しそうなんだ。一流の経営者を満足させられる知性があるのは明らかだった」

すると間瀬は、自嘲気味にふっと笑った。

「だから、僕がその場で千春さんと直接言葉を交わす機会なんてなかったし、千春さんも、あの席に僕がいたことは知らないはずだ。後になって薫と付き合って、彼女の親友として千春さんを紹介された時には、本当に心臓が止まるかと思ったよ。あの『アイ』だって、一目でわかったからね。当然、初対面のフリを通したんだが」

オレは、母と西条が関係を持った経緯を知っているのか尋ねた。
間瀬が優しい表情を浮かべたように見える。

「ウリだったんだろう?西条さんがそれなりの額払ったって言っていたよ。あの頃の出版社の給料で金に困っていたとしたら、何か事情があったのかもな。騙されたとか、あるいは家族のこととか…」

間瀬は、藤野のことまでは把握していないらしい。

『あの、その、西条さんご自身は、母とどんなことがあったか詳しく話されたんでしょうか?』

間瀬の目が怪しく光った気がする。

「きたな。そうだよな、それが裕一くんの一番知りたいところだもんな」


[73] Re: 遍歴  カッツ :2026/09/26 (土) 10:25 ID:b02YLnDk No.33314
売られた母千春ちゃんについて詳しく聴き取れそうですね。
面白くなってきましたね、ワクワクです。つづき待ってます。


[74] Re: 遍歴  スナフキン :2026/09/26 (土) 14:04 ID:3liM1Doc No.33316
期待でゾクゾクします。。。

[75] Re: 遍歴  土屋 :2026/09/26 (土) 20:15 ID:S3AvIaq2 No.33317
カッツ様 スナフキン様
ありがとうございます。続けます。


「その前に裕一くん、この間、母親を欺いて生きていくと言っていたが、あの覚悟に変わりはないんだよな?」

オレは『もちろんです』と答えた。
もう止まれないのだとも。

間瀬さんは許可するかのように頷いた。そして、語り始めた。


西条さんは、仕事の話は学ぶことばかりのカリスマ的な経営者だったんだが、夜の話となると途端に下劣になってね。男同士では、それがまた楽しかった。

アイとの飲み会からしばらく経ってからだ。西条さんと、僕を含めた男数人で飲む機会があった。
深夜になって酒もまわって、男だけの下卑た会話が始まったんだ。それで誰かが、西条さんに訊ねた。「最近抱いた中で、一番いい女は誰ですか」って。
西条さんは、下品極まりない笑みを浮かべて言ったよ。「なんといってもアイだ」と。
アイの名前はすでに仲間うちでも噂だったから、その場は獲物を見つけたかのように盛り上がった。

当然、ディテールを聞き出そうと、みんなから質問が噴き出した。

「どうやって口説いたんですか?」
「仲介の男がいてさ。そいつに抱かせろって言ったんだ。それなりに金を払うことになったけどな。結果的には安かった」

「アイはベッドでもよかったんですか?」
「見た目以上だったかもな、ふははは」

「やっぱり乳ですか?デカいですよね?」
「ああ、豊かで、それで綺麗だったよ。ピンク色の乳首を摘んでやるといい声で鳴くんだ」

「おおー、すごいですね。さすが西条さん」
「だが、一番よかったのはアソコだな」
「ええっ、そんなによく締まるんですか?すげぇヤッてるだろうから、ガバガバかと思ったのに。ハハハハ」
「締まりも最高だったよ」

勝ち誇ったような西条さんに、その場で最年長のメンバーが聞いた。

「アイとも、いつもみたいにしたんですか?」
「当たり前だろ」

いつものっていうのは、西条さんの際どいシュミのことだ。僕はその時に知ったんだが、西条さんと付き合いの長い人たちの間では周知のことだったらしい。それが、気に入った女とビデオ撮影しながらスルってことだった。

オレは殴られたような衝撃と共に、欲望のマグマが噴き出したのを感じていた。
母は身を売って西条に抱かれた。その上、その痴態を映像に撮られていた。これほどの陵辱があるだろうか。
見たい。その映像を見てみたい。

間瀬さんの話は、その欲望がオレだけのものではないことを明かしていく。

当然、男たちは色めき立って、お願いですから見せてください、と口々に懇願していたよ。だけど、西条さんの答えは意外なものだった。

「それが、テープはアイに返したんだ」

みんながっかりだった。どうしてそんなもったいないことをって、疑問をぶつけた。半分は不満だったな。西条さんはこう説明した。

「別れ際に、アイがテープを渡して欲しいって言ってきたんだ。余りに毅然とした態度で、大したもんだと思ってな。渡すことにしたんだ。もったいないことをしたよな。だけど、決裂するよりも、手懐ける方が旨味があるとも思ったんだよ」

つまり、あの時点で、西条さんは千春さんと関係を続けるつもりがあったってことだ。実際どうだったか、そこは僕は聞いていない。

だがそれよりも、その映像だ。今と違って、当時はデータじゃない。簡単にはコピーなんてできない現物のビデオテープだ。それが、西条さんから千春さんの所にいったってことさ。そして、その中には、千春さんが取り返さずにはいられないほどの行いが記録されていたんだろう。

間瀬さんが、オレの反応を促すような、酷く冷徹で、知的な目を向けてくる。
オレは喉を震わせ、張り付いた声をなんとか絞り出した。
『じゃあ、その、テープを…母が、今も持っている可能性があるということですか』

間瀬は肯定の言葉を口にする代わりに、ただ口元だけで、歪んだ笑みを浮かべた。

「普通に考えれば、とうに処分されているはずだ。彼女にとってみれば、忌まわしい記録だろう。だが、一方でね。下手な捨て方をして他人の手に渡るリスクを冒すより、自分の手元に、誰の目にも触れない場所に隠して確保し続ける方が、結果的に一番安全だという考え方もできる」

間瀬はデスクの上の時計に目をやり、話を締めくくった。

「いずれにしても、西条さんが亡くなっている以上、裕一くんが望んでいることの手がかりは、千春さんしか知らないということだ」

オレの頭の中は狂ったような期待に踊らされていた。母は今も、どこかにテープを隠している。その願望はすぐに妄信にすり替わった。

その時、付け足すように間瀬さんが言った。

「秀島さんの話で、他に気になったことはなかったか?」

オレは考えるよりも先に、ずっと引っかかっていた名前を挙げた。

『三橋沙和という女性が、気になっています』

母の会社の一つ後輩であることと、連絡先がわからないことを伝えると、「そうか、こっちでも調べてみよう」と言った。

間瀬さんのオフィスを辞した。
オレの脳は踊り続けていた。これから帰るあの家が、まるで宝物を隠す洞窟のように思えたからだ。あるいは、魔物が息を潜めているのだろうか。
だが、必ず見つける。
母の人生で最も屈辱だったはずの一夜を、この目でのぞいてやるのだ。


[76] Re: 遍歴  カッツ :2026/09/26 (土) 22:43 ID:b02YLnDk No.33318
待望のビデオ見つかるといいな、三橋沙和も何か知ってそうな予感。
続編待ってます。


[77] Re: 遍歴  土屋 :2026/09/27 (日) 22:50 ID:XIqCQTlg No.33323
カッツ様
いつもありがとうございます。続けます。


オレの狂気じみた家捜しは、容易でなかった。実際に手を動かしてみると、捜した後の完璧な原状回復の作業は、想像以上に手間がかかった。
母親が仕事に出ている日中、数日かけて、クローゼットにシェルフ、デスクの引き出し、キッチンやドレッサーの棚まで、家中の収納をのぞいた。だが、
期待したようなビデオテープの収穫はどこにもなかった。
唯一の発見といえば、母親の普段使いの下着がしまってあるチェストとは全く別の、クローゼットの奥の収納ボックスから、光沢のある生地の派手な下着が数組、大切そうに収められているのを見つけたことくらいだった。
男が見れば、勝負下着と呼ぶことが明らかなデザインのものばかりだ。果たして、父に見せるためにあるものなのだろうか。
だが、ビデオテープが見つからない焦燥が、下着への妄想じみた関心など霧散させてしまう。
間瀬の言う通り、そんな羞恥の塊のようなビデオなど、二十年余りにわたる歳月のどこかで処分されているのが当たり前なのだ。

自室のベッドに大の字になり、天井を見つめる。母親の、若き日の決定的な痴態を見たいという異常な思いに支配されていたオレは、冷たい水で顔を洗ったかのように、急に現実へと引き戻された。

間瀬と会ってから1週間ほどが経った頃、スマートフォンの画面に典子さんからのメッセージが届いた。
「秀島さんに会ってどうだった?薫と二人で気にしてるから、お茶でもしようよ」
行き詰まりから、なんとなく手を差し伸べられたような、そんな気持ちになった。

待ち合わせ場所は、前回と同じ表参道のカフェだった。
駅から店へと向かう道すがら、ふと思う。ここは四半世紀前、母がまだ「水野千春」だった頃、最低の男・藤野と出会い堕落していく、その一歩目を踏んだ街なのだ。今、オレが歩いているこのアスファルトを、若き日の母は絶望の足取りで歩いたのだろうか。

店に入り、視線を奥へと巡らせると、テラスに近い席で薫さんが小さく手を振った。その横には、典子さんも座っている。社長夫人とIT企業のマネージャー。二人は店内で一際目を引くほど華やかだった。
オレは席に着くと同時に、まずは間瀬さんを介して秀島を紹介してもらったことへの礼を丁寧に述べた。
薫さんが、探るような、どこか心配そうな目をオレに向ける。
「秀島さんと話せて、よかった?嫌な話を聞くことにならなかったかしら?」
『はい。本当に、貴重な話をたくさん聞くことができました』
オレはそう答え、秀島から仕入れた情報の何から話せばいいだろうかと、二人に報告をしようと口を開きかけた。
だが、それを典子さんが片手を挙げて遮った。
「あ、ストップ。報告ならいいわよ。私たちはね、千春の過去については、千春本人からしか聞くつもりないから」
典子さんは、ストローを弄びながらサバサバとした口調で言う。
「あんたに声をかけたのは、報告会をさせるためじゃないの。あんた自身が、秀島さんに会って『よかった』と思えているなら、それでいいって確認したかっただけ」
薫さんもそれに優しく微笑んで頷く。オレは胸が温かくなるのを感じながら、改めて礼を述べた。

すると、薫さんが首を少し傾げて言った。
「それで、千春の過去への関心は満たされたの?」
『はい。ただ、知れば知るほど、母の過去への関心が湧いてくるんです』
オレの本音を察したのか、典子さんがニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべて茶化してきた。
「なによ、それ。まだまだ下心が膨らむわけだ。ほんと、エロガキねー」
「ちょっと、典子!」
典子さんがゲラゲラと笑い、薫さんが慌てて突っ込みを入れる。が、呆れたようにしている薫さんも表情は笑っていた。

オレは二人の笑顔を見つめながら、ふと、この二人がテープのありかのヒントを持っている可能性はないだろうかと思った。
だが、直接的には聞けない。別の糸口を見つけなくては。関係ないようで、水面下で繋がるような話。他人の話で、目的の人物にも重なる話は…。

『あの、一つ聞いてもいいですか。母が社会人になってほどなくして別れた、当時の彼氏のことって知っていますか?』
「え?」
『秀島さんが、母にそういう相手がいたと言っていて』
典子さんも薫さんも、突然の質問に小さく目を丸くし、記憶をたどるように視線を泳がせた。

やがて、薫さんが「あ!」と小さく手を叩いた。

「それ、光くんだわ」
『ヒカル…?』
初めて聞く名前に、オレの耳がピクリと動く。
「そうだ、千春のゼミの同級生。チハルとヒカルで、名前の韻が似てる二人ねって、からかってたわね。ほら、ものすごいイケメンだったじゃない?」
典子さんの言葉に、薫さんも大きく頷く。
「そうそう、背が高くて爽やか系のイケメン。ずっと千春のことが好きでね、就活が終わった後にようやく付き合い始めたのよ。でも、光くんが就職したのが大手の保険会社で、最初は地方勤務になっちゃって。結局、社会人になってすぐに遠距離で別れちゃったのよね」
美男美女でお似合いだったのに、と惜しそうに語る薫さんの言葉を聞きながら、オレは、イケメンでエリートというヒカルの人物像に強く引っかかりを覚えた。「沙和ちゃんは自分に見合う人を選べる」と、エリートらしき男を連れた後輩に敗北宣言したという母の言葉が舞い戻る。
だが母にも、藤野のような生ゴミとは違う、自分に相応しい男と付き合っていた時期があったのだ。その頃は幸せを疑わなかったのではないだろうか。

『その、ヒカルさんとの写真とか、母が持っているとしたら、どこにしまっていると思いますか?』
オレの問いを典子が茶化す。
「そんなの、ママの昔の男を知りたいから写真見せてって甘えてみれば?」
『いや、それはちょっと。そういう昔の記録、母は処分したりしていないでしょうか?』

「残してるよ」
当然とばかりに即答したのは典子さんだった。
薫さんが驚いたように身を乗り出す。
「ちょっと典子、なんでそんなこと言い切れるのよ。千春から聞いたの?」
「聞いたのよ」
典子さんは得意げに胸を張った。
「私が旦那と結婚する時、昔の男の写真とか思い出の品をどうしようか迷って、千春に相談したの。そしたら千春がね、『私は処分できなくて、全部取ってあるよ』って言ったのよ。どこに、どうやって隠してあるかも教えてもらって、私は今でもその千春のやり方を真似してそのままにしてるんだから。だから、千春だって今も同じ場所に置いてるんじゃないかな」
心臓が、ドクンと激しく脈打った。
オレは自分の必死な家捜しを思い返した。クローゼットも、シェルフも、デスクも全部捜した。写真なんて、どこにもなかったはずだ。
オレは乾いた喉を鳴らし、典子さんを食い入るように見つめた。
『それ…どこですか?』


[78] Re: 遍歴  カッツ :2026/09/28 (月) 23:13 ID:JxO6EqA2 No.33331
おっとお、隠し場所分かるのか? 分かっても無理だったり・・・
テープ見つかる事を祈ってます。   期待してます。



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