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遍歴

[1] スレッドオーナー: 土屋 :2026/05/23 (土) 22:39 ID:vJIfgbDU No.32760
父が長期の海外出張に出た週末、我が家のリビングはいつものように母の親友たちの喧騒に包まれていた。
母・土屋千春、45歳。大手出版社でバリバリ働いている。若くしてオレを産んだから、中学の頃は友達から人気があった。要は「綺麗なオバサン」。目尻の上がった大きな目、通った鼻筋に厚めの唇。今も美貌と均整の取れたスタイルを維持している。本人も意識しているのか、見た目に手を抜くことがない。耳にかけたミディアムの髪、ゆったりとしたオフホワイトのサマーニット、Vネックにのぞく鎖骨とダイヤ。彼女には常に華やかな女の匂いが漂っていた。
そして、その母の周りには似たような女たちが集まる。IT企業で働く自由奔放で派手な美人の典子さんと、経営者の妻でおっとりとした良妻賢母タイプの薫さん。3人は学生時代からの親友で、事あるごとに我が家に集まってはワインを空けている。
オレ、裕一は20歳の冴えない大学生だ。いつものように自室に籠もっていたが、猛烈に喉が渇き、足音を忍ばせてキッチンへ向かった。
リビングとキッチンを隔てる曇りガラスのドア越しに、女たちの笑い声が響いてくる。冷蔵庫を開けようとしたオレの手は、典子さんの甲高い声にピタリと止まった。

「だからね、あれは冗談抜きで私の人生で一番のバケモノだったのよ!」
だいぶ酔っているのがわかる。オレは息を殺し、ドアの隙間からリビングを覗き込んだ。
「もう、先っぽパンパンで、血管がボコボコ浮いててさ、なんだろ、生き物っていうか凶器?それが奥までズドンって入った瞬間、脳みそがショートしたみたいになっちゃって。」
ワケのわからない話かと思ったが、言葉を咀嚼すると、まさかという気がした。その時、母と薫さんが「ちょっと典子!」「声が大きすぎるってば!」と笑いながら手を叩いている。
「でもさ、ぶっちゃけ大きさって正義じゃない?」と典子さんは身を乗り出した。
「愛だのテクニックだの言うけどさ、絶対的な質量で子宮の入り口をガンガン突かれる快感って、理屈じゃないのよ。メスとしての本能を直接殴られてるみたいでさ」
やはり、オレの勘は当たったと確信する。
と同時に、急に3人の会話に興味を引きつけられた。
「まあ……否定はしないけど」と言ったのは母だ。頬を紅潮させながらワインを煽る。
「確かに、すっごいのが入ってきた時の、あの息が詰まるような圧倒される感じは、忘れられないわよね」
「でしょ!? ねえ、薫はどうなのよ。あんた昔から清純派ぶってるけど、絶対すごいのに当たったことあるでしょ。吐きなさいよ!」
「ええっ、私!?」と矛先を向けられた薫さんは顔を真っ赤にして両手で頬を覆った。普段はおとなしく、二人の息子を育てる母親である薫さんが、身をよじって恥じらっている。
「も、もう……しょうがないなぁ。私は、夫のかな。それだって、そんなに巨大とか、そういうことじゃないんだけど」
「なによ、それ。いい子過ぎて面白くない」と典子さんが冷ややかに言う。
「そんなこと言ったって、経験がないんだから仕方ないでしょ?」
「そうそう、典子、酔い過ぎだよ」。
母が薫さんをフォローした。
「なによ、千春!それなら代わりにアンタが答えなさい。歴代ナンバーワンの男、誰?」
典子さんが容赦なく母に迫る。

母は「えー」と濁そうとしたが、両脇から二人がわかりきったような顔をしている。
母は観念したらしい。
「もぉ、何度も話したでしょ?……澤田!」
その苗字が出た瞬間、典子さんも薫さんも「だよねーー!!」と、声を揃えて爆笑した。
「ごめんごめん、千春のこの話は定番だから、やっぱり言わせちゃった」
助けられたはずの薫さんも笑っている。
「ホント、毎回言わせるの、やめて」。
どうやら3人の間で、母はこの話をさせられるのはいつものことらしい。
すると典子さんが突っ込んだ。
「でも千春、口でした時はどうだったの?それはあんまり聞いてないわよ!」
典子さんの追及に、母はワイングラスの縁を指でなぞりながら、困ったような笑みを浮かべた。
「もう20年以上前だからなぁ。えー、うーん。顎が外れるかと思うぐらい口を開けたのと、がんばって根元までくわえようとしたら喉の奥に当たって、えずいたのは覚えてる」。
「うわー、いやらしい! で、味は? どんな味したのよ?」
典子さんが悪ノリする。
「バカじゃないの!味なんて覚えてないって!」母が吹き出しながら答えた。
「で? で? 入れた時はどうだったのよ!」
典子さんは止まる気配がない。
「もう、前にも話したじゃない!」
母は照れ隠しのように笑いながらも、その顔は完全に昔の記憶をたどっていた。
母が、昔の男との行為を、その男たるモノを思い起こしている。
「……だいたい、典子の言ったのと同じ感じかな。熱くて硬い肉の塊に、中の狭いところを強引にこじ開けられて、内臓を全部押し上げられるみたいな圧迫感で。奥の奥の、一番敏感なところをゴリゴリされて、足の指が勝手に丸まって……。ガクガク、痙攣、しちゃったの……」
母の口から紡がれる、あまりにも生々しい牝としての記憶。
オレは暗闇の中で、自分の股間がちぎれるほど勃起しているのを感じていた。あの、綺麗で、優しくオレを育ててくれた完璧な母が、得体の知れない『澤田』という男の巨大な肉棒に犯され、快感のあまり身体を痙攣させていた。その事実が、オレの脳髄を麻痺させるほどの嫉妬と、狂おしいほどの興奮を呼び起こしていた。

やがてお開きになり、
「もう典子ったら、調子に乗り過ぎよ」と薫さんが嗜めながら帰っていく声が聞こえた。
オレはベッドに横たわっても、まったく眠れなかった。
母の過去。オレの知らない、女としての『千春』。
もっと知りたい。澤田とは何者なのか。母はどんな顔で男に抱かれていたのか。
ふと、典子さんの顔が浮かんだ。
物心ついた頃から『親戚の陽気なおばさん』のごとく接してくれた彼女なら、オレのこの歪んだ欲望を笑い飛ばして、真実を教えてくれるのではないか。母の全てを知るであろう典子さんに、縋ってみようと思った。


[13] Re: 遍歴  愛読者 :2026/06/18 (木) 12:20 ID:CM7vWTFg No.32851
土屋祐一くんは、これからどうなって行くんでしょうか?典子さん、薫さんの何方かに童貞を奪われ食べられてしまうのでしょうか?

[14] Re: 遍歴  土屋 :2026/06/18 (木) 23:43 ID:8E587L5I No.32853
健様 ありがとうございます。ご理解頂きうれしいです。続けてみます。
愛読者様 ありがとうございます。引き続き、お付き合い頂ければうれしいです。一応、裕一は経験済みです。


『だれ?』オレは思わず身を乗り出した。
「落ち着け」典子さんに咄嗟に制される。
ゆったりと微笑んで薫さんが話す。
「私の主人の会社の取引先というか、仕事で付き合いのある女性よ。いまは独立して仕事をしているんだけど、偶然ね、千春の会社の元同期だってことがわかったの。私は会ったことないんだけど、秀島芽衣さんといって、主人が世間話をしているうちに共通の知り合いとして千春が浮かんだらしいの。もちろん、主人は千春のことに詳しくはないから、今の千春の活躍とか、秀島さんと千春が揃っていたなんて優秀な同期だぐらいなことを言ったらしいんだけど、その中でね、秀島さんが『新人の時の千春は本当に苦労もあって、よく立ち直った』って言っていたらしいの。後で主人から、千春が苦労していたらしいねって聞かれて、私、何て答えたらいいのかわからなかった。秀島さんと千春はもう何年も付き合いがないらしいけれど、当時のことを知っている人がいるとすれば、彼女ではないかしら」
オレは震える声で頼み込んだ。
「その人を、紹介してくれませんか」
薫さんは少し考えて、手元のスマホで夫に連絡を取った。
数分後、スマホが震える。
「……主人が、いいって。今度、まずは主人のオフィスを訪ねてみて。秀島さんに繋いでくれるらしいから」

薫さんが日程を整えてくれた次の水曜日。オレは緊張で胃を焼かれるような思いで、薫の夫・間瀬隆介のオフィスを訪ねた。
都心の高層ビルにあるオフィスは、洗練された静寂に包まれていた。
CEOの知人という扱いで、こぎれいな女性に案内されて会社のフロアを歩く。数十人が整理されたように並び、PCに向かっている。この光景が間瀬さんの成功の大きさだと思う。
個室の前で立ち止まった女性が、意外なほど気軽な様子で、「社長、お連れしました」と中に声をかけ、ドアを開けた。
オレは女性に御礼を言って中に入った。
目の前の大きなデスクから立ち上がって、今どきのスーツを着こなし日焼けした中年男性が笑顔で距離を詰めてきた。
「裕一くん、デカくなったな。前会ったのは、たぶん小学生の時だから、当たり前か」
間瀬さんは、経営者らしい落ち着きと包容力を漂わせてオレを歓迎してくれた。
「千春さんと同期だった秀島さんには大体のことは話してある。彼女、少し癖のある人だけど、千春さんの当時のことはよく覚えていると言っていたよ。まぁ、どこまで話してくれるかはわからないけどな」
隆介さんはソファに深く腰掛け、優しさをまとわせた、けれど鋭い眼差しで、オレを見つめた。
「……それで、裕一くん。その、君が母親の過去を熱心に調べているという『趣味』についてなんだが」
オレは心臓が止まるかと思った。用件は薫さんが伝えているとして、オレの下心まで見透かされているのがわかったからだ。
「……一つだけ確認させてくれ。これから先、どんな話が出てきても……例えば、君が抱いている母親のイメージが木っ端微塵に砕け散るような、下劣で醜悪な話が出てきたとしても、君はそれを受け止める覚悟があるのかな?」
『……あります。どんなことでも、母の真実が知りたいんです』
「その場合、知ったでは終われない。知った上で、これまで通りの眼差しを千春さんに向けられるか、ということだよ」。
『それは、むしろ自分自身が変えたくないところです。今までどおりの親子でいたいと思います』
「つまり、母親を欺きながら、平静を装う息子として生きていくということだな?」
そうだ、これは悪魔の契約だ。何が出てくるかはわからないが、知ってしまったら、永遠に知らないフリをしなければならなくなるかもしれなかった。
だが、もう止まれない。
『はい』と、オレは悪魔の契約書に署名した。
「そうか」と言い、間瀬さんが電話をかける。
ビジネスライクな挨拶をし、相手のきょうの予定を確認している。
「千春さんの息子」といった言い回しも聞こえた。
その後、談笑が続き、「では、よろしくお願いします」といって、電話を切った。
間瀬さんがメモを1枚持ってきた。
「秀島さんの連絡先だ。アポを取って、会いに行くといい」。
「秀島芽衣」という氏名と、メールアドレスが書いてある。
受け取る手が震える。
止まれない。進みたい。戻れなくなっても。
社会人になりたてだった母の空白の1-2年を掘り起こすのだ。


[15] Re: 遍歴  スナフキン :2026/06/29 (月) 21:02 ID:KZEWKHP2 No.32890
素晴らしく惹きつけられる文章と、拝読しております。
続きが楽しみでなりません。


[16] Re: 遍歴  土屋 :2026/06/30 (火) 21:43 ID:riwbExkc No.32897
スナフキン様 メッセージをありがとうございます。続けます。


朝のリビング。すでに仕事へと出かける準備を整えた母・千春が、玄関へ向かう足を少しだけ止めて俺を振り返った。
「裕一、きょうパパ帰ってくるからね」
その声はいつもより心なしか弾んでいて、どこか嬉しそうだった。
10日ほどの海外出張から、父が戻ってくるらしい。
「男遍歴」を密かに探り、強烈に関心を引かれているせいか、母が妙に艶めかしく見える。
ブラウンを基調にした、45歳の年相応に落ち着いたオフィスカジュアル。シルエットは今っぽくゆったりしているが、床に置いた大きめのレザートートバッグを持とうと母が腰を屈めた瞬間、丸みを帯びた尻のラインが強調された。45歳という年齢がもたらす程よい肉付きが、かえって熟れた果実のような生々しい色気を放っている。
実の母親をそんな目で見るなんて、息子として、男として、完全にアウトだ。そう自覚しながらも、俺の視線は吸い寄せられるようにその肉体に釘付けになり、喉の奥がカラカラに渇いていくのを止められなかった。
「……いってらっしゃい」
引きつった声を絞り出すようにして声をかけると、母は『はい、いってきます!』と満面の笑みを残してドアの向こうに消えた。
一人残された俺が何気なく冷蔵庫を開けると、そこには驚くほどたくさんの料理が綺麗にタッパーに仕込まれていた。仕事で忙しいはずの母が、合間を縫って夕食のために仕込んだのだろう。手のかかる料理の数々を見つめながら、俺は確信していた。母は、父が帰ってくるのがたまらなく嬉しいのだ。

夕方、スマホが震えた。母からのメッセージだった。
『ごめんね、帰りが少し遅くなっちゃう!』
俺は腹を空かせながらリビングのソファで帰りを待つ。
夜7時半を過ぎた頃、ようやく玄関の鍵が開く音がして、母と父が揃って帰ってきた。
「おかえり」
「ただいま、裕一」
10日ぶりの我が家だというのに、55歳になる父・一郎は、笑顔こそ浮かべているものの、全く抑揚のないいつもの声で答えた。父は、家族から見てもどこかナゾめいた、おそろしくカタブツな男だ。
母は『すぐ準備するね!』と足早に自分の部屋へ戻ると、あっという間に着替えてキッチンに立った。
白いTシャツに髪をざっくりとアップにしたラフな姿。だが、背中を向けてコンロに向かう母のTシャツの下には、キャミソールのラインがはっきりと透けて見えていた。
薄い生地越しに見える、きゅっと引き締まった細いウエストと、そこから滑らかに広がる豊かなヒップの黄金比。腕を動かすたびに、ブラジャーのホックあたりが細かく揺れ、大人の女性特有のうっすら肉の付いた背中がやけに官能的に映る。キッチンに立つ母親の後ろ姿を見つめながら、俺は罪悪感と、この身体が捧げられてきた男たちとの時間に妄想を広げていた。
母は手際よく食事を支度し、30分もしないうちに食卓には豪華な手料理がずらりと並んだ。
久しぶりに家族3人で囲む夕食。
『ねえ、向こうのカンファレンスはどうだった? 』『美味しいもの食べた?』『体調は崩さなかった?』
母は、堰を切ったように父に出張のことをあれやこれやと問いかける。
対する父は、
「ああ、問題なかった」「いや、特には」「大丈夫だ」
と、全ての問いに対して極端に短い言葉で淡々と答えていく。
普通なら会話が途切れそうなものだが、母は嫌な顔一つせず、父の短い答えからさらに質問を紡ぎ出し、彼の言わんとしていることをしっかりと理解しようと耳を傾けていた。
これが、我が家でずっと繰り返されてきた両親のコミュニケーションだ。父はどうあっても、自分からサービス精神を出して面白おかしく話すような真似はしない。母より10歳年上の、優しくはあるが、とにかく堅い男。
若い頃からモテまくり、彼氏どころかセフレの影すらあった奔放な母が、なぜ、こんな面白みのない男を結婚相手に選んだのか。男遍歴を探る俺のルポルタージュも、もうすぐその核心的な答えにたどり着くのかもしれない。そんな予感がしていた。

夕食後、まず父が風呂に入った。
戻ってきたかと思うと、旅の疲れもあるのだろう、大した会話もないままさっさと寝室に引っ込んでいった。
入れ替わるようにして、次は母が風呂に向かった。
リビングに一人残された俺の頭の中に、ふと、ある疑問が湧き上がってきた。
そういえば、なんで帰りが遅くなったんだ?
買い物をしてきたのだろうか。だが、帰ってきた時に見た荷物に、そんな様子は一切なかった。それに、出張帰りの父を買い物に付き合わせるというのは、母の性格からしてないだろう。では、どこかに寄り道したのだろうか。
……もしかして。駅かどこかで合流して、そのままどこかで、父とお茶、いやデート、いや、セックスでもしていたんじゃないだろうか。
一度浮かんだ妄想は、恐ろしいスピードで膨れ上がっていく。45歳の母親と55歳の父親の情事なんて考えたくもないはずなのに、男たちの間を渡り歩いてきた母の過去を知っているせいで、妙なリアリティを持って脳内を支配していく。
母のあの身体が、さっきまで父の腕の中で貪られていたのかもしれない。そう考えると、嫌悪感と同時に、どうしようもないドス黒い好奇心が頭をもたげた。
悶々とした気持ちに耐えきれなくなった俺は、気がつくと、母がシャワーを使っている隙を狙って脱衣所へと忍び込んでいた。
ターゲットは、洗濯物カゴだ。
胸の高鳴りを抑えながら、今日着ていた服の山をあさる。その時、俺の指先が、形のしっかりした何かに当たった。
「……これ、は」
引っ張り出したのは、円筒形の形をした洗濯ネット。ファスナーを開ける。母の、ブラジャーが現れた。
そのデザインに目を奪われる。色はベージュだが、光沢のある艶やかなサテン。表面に蜘蛛の糸のような繊細なレースがあしらわれている。どう見ても普段使いではない、色っぽい代物だった。
膨らむ妄想のままに、対となるもう1枚を探す。紛れているはずのサテンのベージュのショーツ、きっとそれはクロッチに汚れが……。
だが、ない。もう一度、洗濯物を改める。が、ない。ショーツだけが見つからなかった。
なぜ、ショーツだけがないのか。
母が風呂に持ち込んでいる、洗うために。洗うのは、汚れているからに決まっている。
オレの脳が、ベージュのサテンのショーツを履いた母と、その股間ににじむシミを描き始めた時、シャワーの音が止まった。母が出てくる。オレは慌てて洗濯物をかごに戻し、ひっそりとリビングに戻った。
母は父とセックスを楽しんで帰ってきた、オレはそう結論付けた。なぜか苛立つ。どうしようもない届かなさや疎外感。それがドス黒い意志を膨らませるのはあっという間だった。
徹底的に暴いてやる。

深夜、母の空白の時間を証言してくれるであろう、秀島芽衣からメールが届いた。
オレが話を聞きに行く日程の調整を、確定させるものだった。


[17] Re: 遍歴  :2026/07/01 (水) 19:40 ID:vi8xPx5E No.32902
これから何があきらかになってくるのだろうと思うと興奮を禁じえません。

[18] Re: 遍歴  土屋 :2026/07/03 (金) 21:40 ID:pn9TJq4U No.32906
健様 メッセージありがとうございます。励みにします。


その日が来た。
空白の2年間に母の最も近くにいたであろう、元同期の秀島芽衣に会いに行く。
語られるのは、母が親友にさえ明かすことのできなかった秘め事か、仕事に忙殺された当時のキャリアウーマン像か、あるいは、秀島も特別なことを知らない可能性もある。

いまは独立して事業を行っているという秀島の会社は、代官山にあった。
細長いビルの5階。扉を開けると、そこはオフィスというより、趣味のいいリビングのような空間だった。壁一面の本棚、使い込まれた革のソファ、そしてアロマの香りが漂う中に、雑味のようにほのかなタバコの残り香があった。
こんにちは、と声をかける。
「はい。土屋くんね?そこ、座って。今、一段落させるから」
デスクでキーボードを叩いていた女性が、こちらも見ずに言った。
お忙しいところすみません、と謝って、ソファに腰を下ろす。
画面に向かっている女性を眺める。秀島芽衣。黒髪のボブに金縁のスクエアなメガネが丸みのある顔に似合う。画面を見る目は細く、どこか世の中の裏表を見尽くしたようなスレた印象を与える。
すると、彼女は立ち上がり、コーヒーを淹れ始めた。ふくよかな体型だが、ベージュのパンツスーツを着たその身のこなしには無駄がない。
「アシスタントがやめちゃって、ごめんなさいね。ちょっとだけ待って」
お忙しいところすみません、ともう一度謝る。

秀島がカップを2つ持ってやってきて、オレの前にコーヒーを置いた。
彼女はオレの正面に座ると、メガネの奥からじっと見つめてきた。
「……ふーん。千春ちゃんに似てるわね。目なんてそっくり。で、君もモテるわけ?」
値踏みするような視線。オレは言葉を返せない。
一重まぶたに鋭い目つき。どこか人を寄せ付けない雰囲気を醸しているが、不思議と嫌な印象は受けない。母や典子・薫のような、たいていの男が認めるわかりやすい美人とは違う、なんとも言えない色気を醸す女性だ。
オレが言葉を繋ぐ前に、秀島は自分で話し始めた。
「話はだいたい間瀬さんから聞いてるわ。自分の母親の、過去の男関係を嗅ぎ回るなんて……。君、ずいぶん悪趣味よね」
秀島は、面白がるように、けれど確かな軽蔑を含んだ薄笑いを浮かべた。
オレは鼓動を抑えきれず、観念したように深く頭を下げた。
『……否定できません。自分でも最悪だと思っています。でも、どうしても知りたい、聞かせて欲しいんです。母が新人の頃、何を経験したのか』
「もちろん、構わないわよ。間瀬さんの奥様、君のお母さんと親友なんでしょ?私はね、そういうのではないの。千春ちゃんとは同期入社だったけど、仲よくしていたわけではなかったし、わかり合ったこともないわ。だから遠慮しない。知っていること、垂れ流してあげる……きっと、君のその最悪の趣味にピッタリの話になるはずよ」

本命だ。この人こそ、オレが求める話を掴んでいる本物の証人だ。

「……その代わり、一つだけ忠告させて。これは、君にとって、聞かなければよかったと思えるような、最低で、救いようのない話になるわ。それでいい?千春ちゃんが恥をかくのは構わないとしても、前途ある若者が母親不信になるのは忍びないでしょ」
大丈夫だと、言ったか言えなかったか、とにかくオレは、深く頷いた。
秀島が満足そうに笑う。
「……千春ちゃん。あの頃の彼女は、みんなが言うような完璧な女じゃなかった。……致命的に、男を見る目がなかったのよ。……いいえ、違うわね。男次第でどこまでも流されてしまう、芯のない空っぽの女だったの」
秀島は、吐き捨てるように言った。
今まで誰からも聞いたことのない、母への辛辣な評価。語られるのは母の秘め事だと確信する。オレは、鼓動が胸を打つのを感じていた。


[19] Re: 遍歴  土屋 :2026/07/10 (金) 21:33 ID:/s2UYcao No.32932
あれは私たちが社会人1年目の、とにかく仕事に追われて、忙しくて自分を見失いそうだった頃の話。と、秀島は語り始めた。

千春ちゃんはね、最初から際立つ存在だった。美人でおしゃれで、気が利いて。すぐに花形部署に配属されて、みんなに可愛がられていた。私も、男たちから彼女を紹介するように何度言われたことか。紹介できるほど仲よくないって返していたけど。私は最初広告担当でね、彼女のことが羨ましかったんだわ。
秋を過ぎて、年末が近づいたころ、私と千春ちゃんはあるプロジェクトで一緒になった。彼女は原作、私は広告担当で。私たちは研修以来、久しぶりに近くで接することになった。実は少し意外だったわ。私の知っている千春ちゃんのキラキラした感じがなかったから。その時は、彼女も仕事に揉まれて大変なんだとしか思わなかったけれど、ある晩、声をかけられたの。『芽衣ちゃん、たまには飲みに行かない?』って。私はOKした。断る理由もなかったし、あの水野千春が自分から誘ってくるなんて、悪い気がしなかったから。

水野は母の旧姓だ。語られているのは、オレの存在しない時間の母の姿なのだと実感する。

千春ちゃんに連れて行かれたのはね、と秀島が続ける。

赤坂にある暗く静かな個室の居酒屋だった。花形部署との差を見せつけられた思いがしたわ。千春ちゃんは普段からこういうところで飲んでいるんだって。私が取引先と行く店はもっとずっと雑多で気安かったから。とりあえずビールで乾杯して、「久しぶりね。声かけてくれてありがとう、うれしい」って、最大限感じよく、親しい同期の女子を装った。だって、対等でいなくちゃ情けないじゃない。
『こっちこそ、ありがとう。パーっと飲みたくって』
その千春ちゃんの言葉に、私は違和感を覚えた。ただ楽しくしたいなら、こんな店を選ぶはずない。パーっとしたくなる、何かを抱えているんだと思った。
「千春ちゃんにもそんな時があるんだね。パーっと飲も飲も。溜まってること、吐き出しちゃお」
私は親友に立候補するような態度で、千春ちゃんの内側をのぞくことに決めたの。

最初は仕事の話をした。私はそれしか関心がなかったから。水野千春が実は仕事に悩んでいるなら、面白いじゃない。でも、どうも違う。出てくる話は順調そのものだった。
なんだ、悩みは男かと、残念に思ったのを覚えている。その類の話は私には関係がない。だから、ただ彼女の不幸を嗅ぎ取りたいためだけに、「彼氏とはどうなの?」と聞いた。
『彼氏なんていないよ。入社してからすれ違っちゃって、配属されてすぐ別れた』
「そっか、忙しいもんね。千春ちゃんなら、また素敵な人が現れるわ」
私は適当に返した。
少し間が空いた。
「ねぇ、千春ちゃん、パーっと飲みたくなるような何か、吐き出せてる?」
『え?楽しいよ』
「私、まだ何か、聞けていないんじゃないかと思って」
『やっぱり鋭いな、芽衣ちゃんは。さすが、同期一の才媛ね』
こういう一言が本当に嫌な女よ。私がうれしくなってしまったから。
彼女は続けた。
『吐き出したいのに話すのが怖くて迷っていたんだけど。私ね、家に帰りたくないの。…嫌な男がいて』
私は一瞬、混乱した。でも、すぐに、家に彼氏とは呼べない男がいて、好ましい関係ではないのだと理解した。それで思ったの。これは、水野千春の内側をのぞく入り口が開いたんだって。そこからは寄り添う親友のフリよ。優しく、丁寧に話を聞いて、千春ちゃんのみっともなくて惨めなエピソード1つでも取れれば成功と思ったわ。

「男って、彼氏ではないのね?」
『うん、そうなの。彼氏ではなくて。家に居ついちゃって』
「つまり、男女の関係ってことよね?」
『そう、…そうなっちゃったの。認めたくないけど』
「何が嫌なの?」
『すべて、すべて嫌なの』
「難しいのかもしれないけど、その人から離れられないのかしら?」
『離れたいよ、今すぐ離れたい。だけど、出て行ってほしいって言っても、いつもはぐらかされて終われなくって。もうどうしたらいいんだか』

初めて見る、千春ちゃんの追い詰められた顔。だけど、それがきれいだったのよ。女の私から見ても艶かしくて。そのまま視線を下ろして、彼女の身体を見たわ。白いブラウスに押し込まれて窮屈そうにしている胸、一点を目指すようにラインが収束するウエスト、タイトなスカートが明らかにしている丸く張ったお尻。組んだ脚の筋肉と足首はヒールと一体化した造形のようだった。この身体が、本人の望まない男に好きにされている。明らかにおかしな話よ。
それで思ったの。この話を解き明かすことは、水野千春を踏みつけるチャンスなんじゃないかって。

オレに語る秀島が歪に笑う。その淫靡な表情に、母を辱めて欲しいという期待が暴走しようとしていた。


[20] Re: 遍歴  スナフキン :2026/07/11 (土) 11:53 ID:4foysDFM No.32933
予想外の展開です。楽しみでなりません。

[21] Re: 遍歴  一寸法師 :2026/07/11 (土) 11:56 ID:F7BxavFg No.32934
いい感じですね。千春さんがどのような人生を送ってきたのか。楽しみです。

[22] Re: 遍歴  土屋 :2026/07/11 (土) 21:33 ID:XUA9kpmE No.32937
スナフキン様 楽しみにして頂けて幸いです。続きです。
一寸法師様 ありがとうございます。お言葉を励みに進めます。


男の名前は、藤野といった。千春ちゃんとは就職活動のイベントで知り合っただけの、ただの同学年。もちろん別の大学。当時は情報交換ていう名目で、就活で知り合った学生同士がよく連絡先を交換していたの。だけど、その後も連絡を取るなんていうことは希で、千春ちゃん自身、藤野のことは忘れていたって言ってたわ。

ところが、入社後の新人研修が終わって、配属されてしばらくしたころ、連絡があったって千春ちゃんは言った。

『蒸し暑くなってきた頃だったの、突然メールが来て。「就活イベントで一緒だった藤野です。友達から、水野さんが出版社で活躍しているって聞いて、色々教えて欲しくて連絡しました」って』

私は、そのメールで男のことを思い出したのか聞いた。

『思い出せなかった。そのイベントは覚えていたけど、藤野くんのことは忘れていたの』
「それで、何て返事したの?」
『私は電話で話すぐらいのつもりで返したんだけど、会うことになって。会えないかって言うから』

私は驚いた。忘れてしまう程度の相手と、わざわざ会わないでしょう。どうして会うことにしたのか、聞いたわ。
千春ちゃん、少し考えてから、『今思うと』って付け加えて言った。

『助ける側になりたかったんだと思う。彼氏と別れて1か月ぐらいで、仕事はいっぱいいっぱいで。話を聞かせてって求められるのは、悪い気がしなかった』
「肯定される気がした?」
『…うん、そう…』

私には、既に彼女が惨めに見えていたわ。自分の価値の承認を、そんなワケのわからない男に求めるなんて。だから、もっと貶めてやろうと思った。

「千春ちゃん、聞かせて。何があって、いま、どうしているのか。私、ただ聞くよ」

ありがとうって言って、彼女は話し始めた。醜悪極まりない転落を、物語であるかのように。

『藤野くんとは、表参道のイタリアンで待ち合わせたの。仕事の後で行ったら、もう座っていて。金髪で、根元が黒くなってて、ヨレたTシャツに破れたジーンズだった。顔は、見ても思い出せなかった。あっさり顔だからかな。色白で、まぶたの重そうな目をしているの。無精髭で、お店では浮いていたかな』

もう形容の全てが、冴えない男を描いていたわ。

『藤野くん、私のことをスゴイスゴイって言って、自分は就活うまくいかなくてバイトなんだって。だから私、言ったの。就活は縁もあるから、またチャレンジするんでしょって。そうしたら、一気にしゃべりだした。マスコミ志望で、就職留年も多い業界だからきっと大丈夫。今回は面接官が話の通じない人間で、くじ運が悪かったって言うの。私すぐに、あぁ、この人の感覚は私たちとは違うんだって思ったよ。だけど、そうも言えないから、今はどんなことをがんばっているの?ってきいた。そうしたら、こうやって成功した人に会ってアドバイスもらってるって。だけど、藤野くん、一度も私に質問しなかった。結局、自分は能力があるのに認められないだけ、わからない相手が悪い、世の中が腐っている、そんなことを並べ立てるだけだった』
「その男、本当に最悪ね」
『私もそう思って、ほどほどにして早めに帰ろうと決めた。明日も早いからそろそろって。だけど、もう少し聞いて欲しい、アドバイスが欲しいって、繰り返しで。気がつけば閉店時間。追われるように店を出て、地下鉄に乗った。藤野くん、同じ路線だって言うから。それで一緒に数駅乗って私が先に降りて、地上に出て歩き始めた時だった。水野さんて、呼び止められたの。藤野くんだった。私が驚くと、すぐに謝ってきて、どうしてももう少し話したくて降りてしまったって。明日早いから無理って断った。そうしたら、あと少し話せたら何か見つかる気がする、だから見捨てないで欲しいって。だけど、もう近くに開いているお店なくて』

千春ちゃんはそこで黙った。
私は待った。

『…藤野くんが、水野さんの家に寄っちゃダメかなって。少し話せたら、すぐ帰るからって。…それで私、30分だけならって言ったの』

それを聞いて卒倒しそうになったわ。そんな底辺の男を自分の家に招くなんて。
千春ちゃんにあったのは、見捨てたと思われたくないっていう見栄と、自分に邪気が向けられることなどあるはずがないっていう自惚れだけ。この時、多分本当に、そんな最低の男と自分が肉体関係を持つことになるなんて、思っていなかったのよ。



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