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信之の憂鬱

[1] スレッドオーナー: 修二 :2019/05/14 (火) 23:31 ID:nCbZKG2E No.27101
別の場所に少しだけ公開して削除した作品ですが、「中の人」から『最後まで読みたいから、頑張って書いて』と言われてまして、続けてみます。
エロ要素は少ないです。


[2] Re: 信之の憂鬱  修二 :2019/05/14 (火) 23:32 ID:nCbZKG2E No.27102
1 夏の始まり

「今年は勇君も連れて行くかもって!」
妻の由美が振り返って言う。俺と、電話の向こうの相手と、両方に聞こえるように。
「え・・・。それって、・・・大丈夫なのか?」
「ん〜・・・、今年の綾乃ちゃんは、『それ』込みってことじゃない? いきなりパパになるの、自信無い?」
「ある訳無いだろ」

今年も、夏が来る。
俺達の関係が変わった『あの夏』から、一年。
(また、あの場所に行くのか・・・)

「ノブ、達也が何か言いたいらしいけど」
「ちょっと待って」
俺は洗い物の手を止めて、タオルで手を拭いた。
楽しそうに友人(元カレ)と電話で喋っている由美を眺めながら、俺は昨年の、・・・一度きりだったはずの、忘れられない『あの夏』のことを思い出していた・・・

    *   *  *   *  *   *  *   ・・・一年前    *  *  *  *  *  *  *

夏休みには、ここ何年かは海外旅行に行っている。由美は専業主婦だから、俺の休みさえ決まれば、予定は立つ。今年は盆休み中に出勤して休みをずらし、少し遠いところに行こうとか言っていたが、由美の家出騒動なんかもあったりして、計画を立てられないまま、いつしかもう夏が目前に迫っていた。
表面的には元通りだったが、何がきっかけで由美が怒りだすかわからなくなって俺がびびっていたのもあり、旅行のことは言い出せないでいた。だが、由美の方も気にはしていたのだろう。

その日、家に帰りドアを開けると、普段には無いハーブの香りが襲ってきた。和食が多い由美だったが、初めて作る外国風料理でも失敗したことはたぶん無いと俺は思う。
「お帰りなさい」
いつもの通り、玄関まで迎えに来た由美。すごく怒っている時は迎えに来ないことだけはわかっている。今日は機嫌が良いらしい。
「なんか、ものすごく良い匂いだな」
珍しく、照れたように笑う由美。
「今日はワインが飲みたくて。適当に煮込み的なもの作った。お口に合わなかったら、ごめんね」
俺のカバンを持ってさっさとリビングへと歩いてゆく由美。
・・・この微妙な加減は夫婦じゃないとわからないんだろう。
俺は頭の中ですごいスピードで、今日は何かの記念日じゃ無かったかと考えていた。大事な日だったら忘れていたりすればえらいことになるし、プレゼントが無い時点で俺の運命は風前の灯だが・・・。
(いや、この時期に記念日は無いはずだ・・・今日は何でも無い日のはずだ。だとしたら・・・)
俺は、由美から何らかの『おねだり』があることを予想した。

「ワインあけるの、お願いね〜」
着替えてダイニングに戻った俺に、由美がポンパドールのバタールを薄めに切りながら声をかける。
(どこが『適当』なんだよ・・・)
トリッパの煮込み。トマト風味。
材料入手、内臓肉ならではの前処理・・・。
思い付きで作れる料理じゃ無いことを、偶然にも俺は知っていた。由美に話したことは無いけど、学生時代にワンルームで独り暮らしだった俺は、一度だけこいつに挑戦したことがある。当時付き合っていた彼女と、詳しい経緯は忘れたが『初挑戦料理対決』みたいなことをしていて、彼女に負け続けていた俺が知り合いのトラットリアの料理人に教えてもらって作ったのが、これだった。
・・・後にして思えば、彼女は俺の胃袋を掴もうとしていたのだろう。唯一の勝利の味がトリッパ(牛の胃袋)だったのは皮肉だが、それは苦い思い出とともに封印され、その後俺は二度と手の込んだ煮込み料理に手を出すことは無かった・・・。

記念日では無いらしいし、由美の様子も特別に変わりは無いように見える。まあ、機嫌は良さそうだけど。
俺の気の回し過ぎで、良くあるただの気まぐれかと思っていたら、食事中に俺に何杯目かのワインを注ぎながら由美が言ってきた。
「ノブってさ、・・・温泉は嫌い?」
温泉が嫌いな日本人はいないんじゃないか。確かに、言われてみると二人で行ったことは無かった。・・・が、由美が何で突然そんな事を言い出したのか、わからなかった。
「別に、嫌いじゃないよ。あんまり行ったことは無いけど」
「達也の会社の保養所が伊豆にあるんだけど、夏にみんなで行かないかって。安く泊まれるみたいだよ」
「みんな?」
「達也のとこと、秀美のとこ、佑子のとこ、隆弘・・・は知らなかったっけ? あたしが行ってる美容室のさおりんの『婚約者』でもあるけど」
由美が一気に情報をぶち込んでくる。由美の気まぐれはいつものことだから、俺はこの程度で驚いたりしない。由美がこう言う時は、もう決定事項だ。詳細が決まっていないこともあるが、名前が出た時点で『伊豆に五組のカップルで行く』ことは既定事項のはずだった。だいたい、この時期に計画をスタートさせて宿が確保できるはずが無い。かなり前に決まっていた話なのだと俺にはわかっていたが、そこには触れないでおこうと思った。
「いいよ。行こう、みんなで」
「いいの? ・・・ほんとに、いいの?」
由美が本当に嬉しそうな顔をした。
例年と違う夏休みを切り出すのに、由美にしては珍しく躊躇いがあったのだろう。・・・俺に拒否権を与えるつもりなんて無いくせに。

いつからかと言えば、二か月ほど前の、あの家出の頃からだろう。由美は何だか優しくなった。
もちろん前から優しくない訳では無かったが、怒ることも減ったような気がするし、何と言えばいいのか・・・、そう、俺に絡んでくることが増えた気がする。
あれは、同僚に連れて行かれたメイド喫茶の話をした時だ。マンガは好きだが、オタク的な萌えには抵抗があったから、俺にとってはメイド喫茶は居心地が悪過ぎて、由美に
『あんなとこ、二度と行かねぇ』
と言ったら、その後しばらく帰宅の挨拶が
『おかえりなさい、あなた』
になった。
(由美が、『あなた』って・・・)
メイドではなく新妻のコスプレをしているらしく、美しい長い黒髪を束ね、エプロンと片手にレードル(西洋のお玉)装備、そして、お約束のように付け足すのだった。
『お食事にしますか。お風呂を先にしますか。それとも・・・?』
『もちろん、お前だよ』
そのまま壁に押し付けてキスまでは許してくれたが、それ以上のことはお預けだった。
何となくだが、俺をからかって楽しむことが増えた気がする。
俺の方も、由美にいじられるのは嫌じゃない。子供は作らないと決めた夫婦だ。二人だけで楽しく暮らせなかったら、夫婦でいる意味が無いじゃないか。

妻が優しいのは、もちろん悪くない。
(でも、由美だぞ。浮気妻が夫に優しくなるっていうパターンじゃないのか?)
考えが飛躍し過ぎだとは思うが、そんな心配もした。その可能性は否定できない。人数は聞いてないが、由美は高校の時の同級生の達也を含めて何人か付き合った相手がいる。性格的には、浮気ぐらいしていてもおかしくはないと思う。二股だけは絶対に無かったらしいが。
(・・・まあ、それを元カレの達也に保証されてもなぁ、って話だよ。)
結婚してからはもちろん無いが、俺もいろいろとやってきた過去はある。その辺はお互い様だ。
料理上手という特典も付いている美しい妻に俺は何の不満も無かった。でも、
「温泉って、混浴?」


[3] Re: 信之の憂鬱  けんけん :2019/05/15 (水) 07:34 ID:u5y/qQrg No.27103
戻ってきてくださって嬉しいです。続きをお待ちしておりましたが、途中で消滅されてて意気消沈してました。応援しておりますので、頑張ってください。

[4] Re: 信之の憂鬱  修二 :2019/05/21 (火) 22:32 ID:xquGGl9c No.27118
2 組み合わせ抽選会

夕方に山中家に集合した。ここに車を置いて、二台のワンボックス車に五家族が分乗することになっている。
とはいえ、集まっているのは八人。この山中家の主である修司さんは、単身赴任先から戻る途中で熱海で途中下車して合流だ。隆弘の婚約者の紗織も姿が見えない。
俺は今日まで通常勤務だった。でも、俺以上に、客商売の達也とカズの方が休みを合わせるのは大変だったはずだ。最大公約数的に今日からの日程が決まったが、それまでに何度もこの山中家で会議(という名の飲み会)が開かれたらしい。

「ノブ君久しぶり〜」
カズの妻の佑子が、近寄って来て俺の胸に、『つ〜〜っ』と人差し指を這わせる。
「ん、相変わらず良い筋肉ね」
「何を確かめてるんでしょうか?」
「同じ元水泳部でも、うちのエロ大王とは違うな〜って」
「そりゃ、鍛えてますから。佑子様も相変わらずの素晴らしい・・・」
そう言いながら、俺は遠慮なく佑子の胸に眼をやる。佑子は夫の和人よりも10センチ程も背が高いが、俺は更に高い。谷間は良い角度から眺められる。
「なあに。触りたいの?」
「もちろん!」
俺がおっぱい好きなのは周知の事実だし、佑子やカズにも冗談で何度も『揉ませて』と言ったことがある。させてもらったことは無いが。
今日もそのつもりだったので、佑子の言葉に俺はとっさに冗談で返せなかった。
「お好きにどうぞ」
「え!」
佑子が俺の顎を人差し指で触る。
「どうするの?」
今日は特別サービスなのか、佑子のブラウスの第二ボタンまで外されていた。
(それに、この服・・・。コスプレ?)
白のブラウスに黒のタイトスカート、眼鏡装備。女教師か社長秘書に見えなくもないが、佑子の纏っている雰囲気はどちらかというと淫靡な方向だった。
少なくとも、バカンスに向かう格好ではない。そもそも、佑子はコンビニでパート勤務だし、裸眼で1.5以上あるのも知ってる。
やや戸惑いながら由美を見ると、何やらニヤッと笑う。
「良いってさ。遠慮しないで触らせて貰えば?」
俺は本当に触らせてもらえるなんて思っていなかった。
(何だか変な感じだけど、触らせてくれるのなら、遠慮無く。気が変わらないうちに。)
「じゃ、お言葉に甘えて」
佑子の背中側から腕を胸に回す。
「はぁ・・・」
(おい、そんな声出すなよ・・・。)
由美はにやにや、カズは何故か目を輝かせている。
「ああ、夢にまで見た佑子様のおっぱい・・・」
「言い過ぎ、だって・・・」
触り心地は、もちろん由美が最高だけど、佑子だって負けていない。「弾力の由美、重量感の佑子」といったところか・・・。
ブラジャー越しだが、いつまででも触っていたいぐらいだ。佑子が嫌がる感じは全く無いので、軽く触らせてもらうだけのつもりだったけど、俺は手の動きを愛撫寄りに変えてみた。
「あん、ノブ君、ちょっと・・・」
「触らせてくれるんだろ?」
「だって、何か・・・」
自分の夫と、相手の妻に見られて、照れているのか? すると、
「佑子さん、ちょっと興奮した? 」
この男が隆弘なのだろう。会ったことはあるように思えるが、俺は憶えていない。そして、佑子の顎に手を触れたかと思ったら、いきなり唇を奪った。
「ん〜・・・」
(何なんだよ、これは・・・?)
佑子に男が二人絡んでいる格好だ。佑子の手は軽く隆弘の胸に当てられているが、まるっきり嫌がっている感じじゃない。カズを見ると、ニコニコしながら、前後から襲われている佑子をいろんな角度からスマホで撮っている。
(自分の妻が胸を揉まれたりキスされたりしてるってのに、何だ、こいつ。)
「お〜い。お楽しみは後にしろよ〜」
達也の声で全員が我にかえったようだ。
「もういいよ〜」
カズが声をかける。
「はい、解散」
「なに、なに。今のって・・・?」
俺は事態が理解できずにいた。
「カズのお楽しみ、よ。ふふ、続きはまた今度ね。後ろから抱き締められてるだけで、キュンってなっちゃった」
「・・・え?」
「僕のキスじゃないの?」
「さあね〜。ひーこの時ほど心がこもって無かったんじゃないの」

(佑子って、こんな悪ふざけをするタイプだったっけ・・・? )
俺達は普通にエロ話をできる間柄だけど、常識人の佑子はみんなのお姉さん的な立場で、俺達の暴走を止める役回りが普通だった。
(そう言えば、今朝俺が家を出る時に由美が何だか言ってたな。)
『達也が、今度の旅行じゃあ、弾けようってさ。何だか、いろんな企画考えてるみたいだよ。非日常を楽しもうぜ、だって。ノブも、白けさせないでね』
カズのために、佑子のエッチな写真を撮れる状況を作ったのか?
去年のバーベキューの時に、性癖のことを話した気がする。修司さんが『寝取られ』だってことは聞いたが、カズはそんなことは言っていなかったはずだ。それに、他の男がいる飲み会に佑子を参加させないくらいに嫉妬深い奴だったはずだけど・・・。胸を触らせるだけじゃなく、キスまで許して、それを喜んで撮影したりなんて・・・。

(弾けようって、非日常って、こういうこと・・・? いやまぁ、佑子のおっぱいは良いんだけど・・・)
戸惑っている俺に、佑子にキスをした男が挨拶しに来た。
「初めまして、という訳じゃないんだけど、憶えてないよね。小池隆弘です」
同じ部活の仲間なら、カズ達か、達也達か、俺達の結婚の時に会ったはずだが、男の顔なんて覚えていない。
「今は僕一人だけど、彼女と言うか、愛人と言うか・・・」
「婚約者でしょうが!」
何故か由美が怒っていたが、隆弘は冷静に続けた。
「うん、その人も今回参加するんだけど、勤め先の慰安旅行でちょうど伊豆に行っててね。修司さんと一緒に途中で拾っていくことになってる」
由美と隆弘から婚約者の紗織のことを聞かされた。それ以前に『美容師のさおりん』のことは由美から何度か聞いていたけど。それが、同級生の婚約者ってのは、偶然というか、狭い世界というか・・・。別に、隆弘に紗織を引き合わせたのは由美では無いらしい。さらに偶然だが、紗織は、達也の妻の綾乃と同じ学校の後輩らしい。つまり、『お嬢様』だ。

ひとしきり顔合わせと挨拶が済むと、達也が仕切り始めた。
「そろそろ、くじ引きするぞ〜」
手には何本かの割り箸を持っていた。
「さあ、引け」
「何なのよ。ちょっと、達也。説明無しなの?」
佑子がちらっと俺を見ながら言う。
「あ〜、・・・ここに五組の割り箸がある。俺が握っている部分に数字が書かれている。全員でいっせいに引いて、同じ数字を引いた二人がカップルだ」
「え・・・?」
「この旅行の間だけ、組み合わせをシャッフルするんだよ」
「あ、面白そ〜う」
すかさず由美が反応した。
(いや、まあ由美がそういう奴だってことは良くわかっているけど・・・。)
特に誰も異議申し立てしない。詳しい説明は無いのか?
「同じ数字の二人が夫婦だからな。いや、夫婦じゃ無くてもいいけど、本当の夫婦が同じ数字引いちまったら、もう一度な。全員ばらけるまでやるぞ。男は俺の右手、女は左手から引けよ〜」
達也の声に、全員が一斉に手を伸ばす。
(いやいやいや、いきなりこの展開は何?)
事情がわからない俺だったが、由美が乗り気なんだから良いか、と気にしないことにした。
「なんか、緊張するね」
「さぁ、だ〜れと当たるかなっ」
(誰でも良いよ・・・)
そう、本当に誰でも良い。男の側からしたら、このくじ引きに『ハズレ』は無い、・・・っていうか、『当たり』しかない。
俺は前から思っていた。由美の友人達はタイプは違えど・・・。
カズの妻の佑子は、姉御肌の性格と長身が魅力的な美人だった。まあ、俺にとっては居酒屋の壁に貼ってあるビールのキャンギャルが目の前にいる感覚だ。
達也の妻、綾乃は清楚な奥様の雰囲気を持った和風の美人だ。言葉遣いと落ち着いた所作が、育ちの良さを自然に物語っている。事あるごとに達也は『綾乃はお嬢様なんかじゃねぇよ』と否定するが、お嬢様なのは間違いないとみんな思っていた。
胸が寂しくても、秀美も美人には違いない。それに・・・
「あ、気付いた? この娘、ミニ丈なんて一着も持ってないって言うから、あげたの」
今年買ったばかりの由美のお気に入りのミニスカ。そう言えば、確かに秀美が脚を出しているのは見た記憶が無い。何度か我が家のホームパーティーにも来たことがあるし、昨秋のバーベキューの時もゆったりとしたデニムのパンツだったから、秀美の脚線美には俺は気付いていなかった。
紗織も由美からさんざん可愛いとは聞いているんだけど、俺は会ったことは無い。ただ、通っている美容室の担当というだけでは無さそうなぐらい、紗織の話題は良く聞かされていた。由美は他人に対しての好き嫌いはかなりはっきりしている。美容室に行くのに、何度か手作りの焼き菓子を持って行ったらしいし、由美にとっては、『可愛い妹』なんだろう。
「言うまでも無いけど、余った一本が修司さんと紗織だからな。じゃあ、引け!」
「せーの!」
「う!」
「わ!」
一組だけ、夫婦が同じ数字を引いていた。津雲夫妻だ。両手が塞がっている達也は口で引いたのだった。
「はいはい、仲がよろしいことで」
「ノブ君、何番だった?」
佑子が訊く。
「あ〜、2番」
「そっか〜、残念。また今度ね〜」
佑子と夫婦になりかけた俺はちょっと残念だったが、仕方ない。
もう一度くじを引く。今度は見事にばらけたが、何だか微妙な組み合わせになった。
由美は隆弘と夫婦になっていた。くじを引く時に由美が指輪を外していたことに俺は気付いていた。どんな気持ちなんだろうか。
佑子は達也とだ。この二人は達也の日頃の言動のこともあり、佑子の方が苦手にしている感じだった。
秀美はカズとだ。エロ大王と、真面目でおとなしそうな秀美の組み合わせ・・・、大丈夫か?
綾乃は修司さんと。この組み合わせは無理が無さそうに思えるが、この場には修司さんがいない。
そして、俺と同じ数字の箸は・・・
「嶋田君、しばらくは独身ね」
わざと俺を名字で呼ぶ由美。俺の相手は紗織になった。
「まあ、現地まで楽しみにしておくよ」
「あ、ノブ」
「ん?」
「合流するまでは、綾乃と仮のペアになってくれ」
「あ・・・、ああ。わかった」
「『カップルのルール』はおいおい決めてくれよ。運転は交代で。休憩は二時間くらいで取るようにするからな。修司さんと紗織が待ってるから、合流するまではちょっと急ぐぞ」


[5] Re: 信之の憂鬱  けんけん :2019/05/24 (金) 07:17 ID:T2Z1jSYg No.27123
更新ありがとうございます。題名にふさわしい展開ですね。続き楽しみにお待ちしております。

[6] Re: 信之の憂鬱  :2019/05/28 (火) 23:37 ID:HVbeNaHg No.27130
3 予感

達也の車に、達也と佑子、俺と綾乃が乗ることになった。隆弘の車にはカズと秀美、隆弘と由美だ。
夫婦の組み換えという企画は悪くないと思う。ほぼ同年代の五組のカップルだ。というか、五組のどちらかは同級生で同じ部活の仲間だ。仲も良かったし、シャッフルしても不自然なところは無い。ただ、相性は別問題だ。達也はいつも通りの俺様キャラだったが、佑子は抵抗があるんじゃないか。いや、見た目には自然に振舞っているようにしか見えないから、由美から色々聞いている俺の感じ過ぎなのかもしれない。でも、綾乃は達也が人妻と過ごすのは抵抗が無いのだろうか。ワンボックス車のゆったりとした後部座席で寛ぎながら綾乃に聞いてみたが、
「北村さん(達也の旧姓)は人妻さんが大好きみたいですよ」
と他人事みたいに言うのだった。運転する達也に聞こえていたのかはわからない。でも、綾乃は今回の企画に乗る覚悟はできているようだった。
他の二組は隆弘の車だったので、様子はわからないが、綾乃がこうなんだから、他も同じなんだろう。
くじ引きの時に佑子が俺を見たことで、俺以外には根回しが済んでいるらしいことを何となく察していた。

SAの休憩でトイレに行った後、綾乃が戻って来るまで俺は外のベンチで一人でぼーっとしていた。良くルールがわかっていないが、今更訊くのも野暮なのだろう。
グループ旅行なのに、休憩は自然に別行動だった。即席カップルがお互いの距離感を見極める時間が必要だからだろう。
達也が言った『夫婦のルール』は、夜のことも含んでいるのだろうか。綾乃や秀美までこの企画に乗ったのは意外だった・・・。
俺は未婚の紗織と同じ布団に寝るのだろうか。それとも、夜はさすがに元通りのカップルに戻るのか。説明はいつだ?

そろそろ戻ろうかと思った俺は、立ち上がって軽くストレッチを始めた。次の運転は俺の番だ。腰を伸ばした俺は、視界に遊歩道を歩く人影を捉えていた。
・・・カズと秀美だった。
すっかり日も暮れた遊歩道に何の用が有るんだ。そーっと後をつけてみたい気もするが・・・。
(あ、夫婦のルールを話し合うのかな。)
他のカップルも同じ車だったら、外じゃないと話しにくいのかもしれない。・・・いや、カズと由美が一緒だったら、むしろ下ネタ全開で盛り上がりそうな気もする。
(え・・・?)
・・・二人が、手を繋いでいた。
(嘘だろ・・・?)
今回のメンバーで一番お堅そうな、この企画を楽しみそうには思えない秀美だが・・・。
カズがスケベなのは間違い無いが、実は自分から女の子に声をかけたりできる性格じゃないことを俺は知っている。カズが強気に出られる女は佑子だけだが、付き合い始めたのだって、告ったのは佑子の方だったらしい。スケベだけど生身の女が苦手で、でも『王子様』的な美少年だったカズには『女勇者』が必要だったことは、二人を知る全員の共通認識だ。重森家のリビングに飾ってある結婚式の日の写真では、純白のドレスの佑子がカズを王子様抱っこ(?)している。

 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

達也と運転を交代して、助手席には綾乃が座った。
「無理して起きてなくても良いですから。寝れる時に寝ておいて下さい」
特に何かリアクションを期待していなかった俺は、綾乃の言葉に少しばかり驚いた。
「あー、もう、伸之さん、その言葉遣いはどうかと思いますけど。私の方が年下なんですよ」
「あ・・・」
「全然カップルの雰囲気が無いです。せっかくの企画なんですから、楽しみましょうよ」
実は俺は、お嬢様が苦手だ。どう扱っていいかが読めない。そんな俺の心を知ってか知らずか、
「伸之さん、変に意識し過ぎですよ。私、お嬢様なんかじゃないんですからね」
由美や達也が何か言ったのかもしれない。いや、たぶん言ったんだろう。いくら達也が『綾乃はお嬢様なんかじゃねぇよ』と言っても、俺はあのお嬢様学校出身(幼稚園から短大までだ!)の綾乃のことを『お嬢様』としか思えなかった。
「ノブ、あとの二人と合流するまでは仮のカップルなんだから、恋人でも夫婦でも好きにしろよ。相手をチェンジできるの、お前だけなんだぜ」
達也が後ろから声をかける。
(チェンジって、その表現どうよ・・・)
「ああ、わかった。で、達也のとこはどんな夫婦?」
綾乃がいるところで達也がどう答えるか興味があったが、返ってきたのは、少し意外な答えだった。
「夫婦じゃないよ。人妻佑子と不倫旅行」
「なんだよ、それ」
「あえて夫婦じゃない設定にした」
「もう、勝手に・・・。いつそんな設定決めたのよ」
佑子がちょっと文句を言う。
「その方が喜ぶ奴がいるかもしれんしな」
「・・・知らないわよ」
「お前もその方が燃えるだろ?」
「・・・バカ」

「そうか、それもありだな」
「伸之さんも、そういうの興味あるんですか?」
「俺は・・・」
何も言えなかった。綾乃もそれ以上追及しなかったので、俺は話題を自分から逸らそうとした。
「えーと・・・、組み合わせシャッフルって、だれも夫婦組み換えだとか思っていない訳?」
「いや、あっちの車の連中はわからん。普通に夫婦なんじゃないか」
「向こうがどんなふうになってるか、由美さんにメッセージ送っておきますね」
ふと、視線を感じてミラーを見ると、達也と目が合った。
(・・・?)
意味あり気な眼をしている。
いつの間にか、達也と佑子が密着していた。
(へえ・・・)
佑子の肩に回した達也の左手が胸にかかっているようだった。ブラウスのボタンはかなり下の方まで外されていて、白のブラは見えてしまっている。ミラーでは横を向いている佑子の表情までは見えなかった。振り返るのもNGだろうし。
「・・・ちょっ・・・! ・・・ン・・・あ・・・」
声を出せない佑子が抵抗している雰囲気だけが伝わってくる。
横では綾乃も緊張しているように見える。自然にしているが、全身のセンサーが後部座席に向いているのかもしれない。
そりゃ、自分の夫が人妻と仲良くしていたら、良家の奥様は心穏やかでいられないに違いない。しばらくすると、肘かけに乗せた俺の左腕に綾乃がそっと右手を伸ばしてきた。後部席の達也からは丸見えだ。後部席の淫靡な雰囲気に困ってるのかな、と一瞬だけ綾乃を見やると、
「飲み物、いります? ガムとか?」
(ああ、そっち・・・?)
後ろの二人を全く気にしていない感じで聞いてきた。
「うん、飲み物かな」
「えーっとねえ、炭酸系とコーヒー、100%ジュース、どれが良いですか?」
「○ランジーナ、ある?」
「ありますよ。さすが『元妻』、押さえてますね」
(そっか、由美は俺の元妻って設定なんだな・・・)
綾乃と、その後で紗織とカップルになる予定の俺は何だかいきなりバツイチにされた。別に由美とはただの友人という設定で良さそうなのに。
「はい、どうぞ」
綾乃はクーラーボックスからボトルを出して、キャップを捻る。
集合前に由美と綾乃と秀美で飲み物や食べ物を買ってきたらしい。適当に数本ずつ飲み物をかごに入れていた由美が最後に一本だけ入れたのがそれだったのだという。俺は由美に〇ランジーナが好きなことは言ったことは無いはずだったが・・・。
「気が利くね」
「え、何ですか?」
「元妻はそのまま渡すからさ。片手じゃ、開けられないだろ?」
「悪く言っちゃだめですよ」
なんだか妙な空気になってしまった俺達は、その後はほとんど意味のある会話はしなかった。
俺が運転中だし、綾乃はこれ以上俺と親密になる気は無いのかもしれない。後ろの二人のようには・・・。

次の休憩で、俺は遊歩道が気になっていた。カズと秀美が再び現れるんじゃないか。あるいは、他のペアが来るかも。
どこかの木の陰で由美が隆弘にキスされていたりしたら・・・
「伸之さん、こんなところにいたんだ」
綾乃が俺を探していたらしい。駆け寄って来るということでは無いが、『ただの知り合い』ではありえない距離まで近寄ってくる。
「ああ、もう出発?」
「まだですよ」
綾乃がじっと俺を見上げる。端正な顔立ちの正統派美人に見詰められて、俺は少し動揺した。
綾乃はちょっと目を逸らして迷っている風だったが、しばらくして言い始めた。
「由美さんは伸之さんと別れて半年後に隆弘さんと結婚したっていう設定みたいですけど」
「へえ、・・・」
(本当に『元妻』設定かよ・・・。あ、それって、離婚の原因が不倫なパターンじゃ・・・)
「妬けますか?」
「いや、別に・・・あ!」
「どうかしました?」
カズと秀美が遊歩道を歩いていた。
「えー、伸之さん、ひょっとして見張ってたんですか?」
「そうじゃないけど、そういうタイプじゃ無いじゃないか、秀美ちゃんって」
「もう、野暮ですよ。それとも・・・」
綾乃が挑発的な眼で見上げる。
「秀美さん、狙ってました?」
「うーん、どっちかって言うと、佑子さんの方がタイプかな」
少しがっかりした顔で、綾乃が訊く。
「うー、やっぱり胸ですか?」
嫌な顔はしていないから、綾乃も俺のおっぱい好きは知っているらしい。
「そりゃあ、あそこには男のロマンが詰まっているから」
「私だって、授乳していた頃は・・・」
「・・・ひょっとして、防御線張った?」
「あ! 違う。ごめんなさい。・・・母親の気配は絶対に出すなって言われてたんですけど・・・」
達也にいろいろと含められてきたのだろう。今日の綾乃は、俺が知っている綾乃とはずいぶん雰囲気が違って見えていた。息子の勇太を置いて来たのも、考えがあってのことに違いない。何故だか、家族の夏よりも友人達と過ごす夏休みを優先したのだ。
「合流するまでは、伸之さんが私の恋人ですよ」
「え、そうなの?」
「内緒の職場恋愛です」
聞いてみたい気もしたが、やめた。事情を知らされていないのは、やはり俺だけなんだろう。
何で俺だけなのかは良くわからないが、この旅行が友人達の関係に変化をもたらすものになりそうな予感だけははっきりと感じていた。

綾乃にリードされるまま、二人で手を繋いでSAのお土産を見ていると、由美が声をかけてきた。
「嶋田君、楽しんでる? 仲良さそうね」
由美が俺と綾乃を見ながら、からかう。俺は咄嗟に手を離そうとしたが、綾乃は握った手を離さなかった。
「俺達はそういうんじゃないから」
「まあ、(仮)だからねぇ」
俺と綾乃は、合流時に別れる運命だ。
「そっちは、何だか変な組み合わせだって?」
「ああ、俺達は内緒の職場恋愛で、達也は人妻佑子と不倫旅行だとさ。で、由美はどうなんだよ」
「あら、聞きたいの?」
由美は予想していたくせに、意外そうに訊く。
「これ、貰っちゃった」
由美が自分の首を指差す。出発時には無かった白のチョーカーが首筋を飾っていた。
「あ、かわいい」
「ありがと」
「ということは、今日は白だったんですね?」
俺には何の事だかわからなかったが、由美は何故だか妙に照れていた。
「えーと、隆弘は、・・・嫌がるようなことはしてないか?」
佑子にいきなりキスをするような奴だ。真面目で賢そうな顔の下に何か隠してそうな気がする。
「ん、別に嫌じゃないし、あれはあれで・・・」
「な、何かされたのか」
「何を興奮してるんでしょうかねぇ・・・」
綾乃は何か事情を知っているのか、微笑んでいる。
「・・・怒らないなら、教えてあげてもいいけど」
(ということは、何かされているんだな・・・)
嫌な予感しかしなかったが、ここは聞いておかないといけない場面だと俺は思った。由美の表情はそれを物語っている。あくまでも上から目線の由美に俺がしぶしぶうなずくと、由美は少し照れたような表情で言った。
「んーとね、・・・高速乗ってから、すぐに下着脱がされた」
「おい!」
「嶋田君、『元妻』にいつまでも執着してんじゃないの。じゃ、お幸せにー」
由美はひらひらと手を振って、隆弘に駆け寄って行く。ごく自然に手を繋いで、自販機コーナーの方へと歩いて行きながら、由美が振り返って舌を出した。どういう意味だろう。
(脱がされたって、・・・運転は隆弘だったんだから、自分で脱いだんじゃないか・・・。隆弘が羞恥プレイを仕掛けて、由美も嫌がらずに従ったのか?)
「伸之さん、想像しちゃいました?」
綾乃がいたずらっぽい表情で笑っている。
「おう。隆弘の奴、由美に・・・」
「いろいろ、するんでしょうね。由美さんも嫌じゃないみたいですし」
(あいつが、おとなしくイジメられることを喜ぶようには思えないんだけどなぁ・・・)
綾乃は意味ありげに笑っていたが、それ以上由美のことは言わなかった。


[7] Re: 信之の憂鬱  けんけん :2019/05/29 (水) 19:38 ID:zhtr/P82 No.27134
更新ありがとうございます。信之さん視点の展開良いですね。私はやはり祐子さんと達也さんの行動がやはり気になりますね。続き楽しみにお待ちしております。

[8] Re: 信之の憂鬱  :2019/06/04 (火) 21:22 ID:syKA8v0I No.27139
4 紗織

渋滞も思ったほどでは無く、無事に熱海の駅前で修司さんと紗織が合流した。
「秀美お姉様ぁー」
会うなり、いきなり紗織は秀美に抱き付いた。
「さおちゃん、相手間違ってる」
「紗織はお姉様とが良いんです」
そう言って、紗織が秀美にぴったりとくっついた。
「ごめんねぇ。さおちゃんとは、一緒になれないから」
「うぅ・・・、お姉様冷たい・・・」
とか言いながら、背中に抱き付いた紗織は両手を秀美の胸に回してモミモミしている。
「ちょ・・・! さおちゃん、何して・・・」
「お姉様成分補充ぅ」
「もう・・・」
「えへへ・・・」

実際、紗織は由美から聞いて想像していた以上に可愛い娘だった。・・・外見的には。
隆弘という婚約者がいるのに、『百合』なのか。何だか変わった娘だ。
それに、紗織を妹のように可愛がっているのは由美のはずだったが、紗織は秀美に懐いているようだった。
もちろんネタなんだろうけど、紗織はまだ秀美とがいいと駄々をこねている。
「紗織と秀美お姉様がカップルになってぇ、達也さんと和人さんがカップルになったら良いんですよぉ」
「何でその二人?」
「オレサマな達也さんと、王子様な和人さん。お似合いだと思いませんかぁ?」
紗織は目をキラキラさせている。
「ほら、和人さんって・・・受けだと思いません?」
「受けって、なに?」
「あ、あはは・・・」
紗織が言葉を濁す。秀美には説明しない方が良いと思ったのだろう。
(『腐』で『百合』で『萌えキャラ』、自分のことを名前で呼ぶ女の子・・・どストライクで苦手なタイプじゃないか。よりによって、何でこんな娘と当たっちまったんだ。)
「裸の付き合いなんだから、カズとノブもありじゃない?」
「もっこりパンツ仲間だもんね」
「誰が『もっこりパンツからこんにちわ』だって?」
「こんにちわ、は言ってない」
「ねえねえ、やっぱり、『こんにちわ』しちゃうことって、あるの?」
俺と和人は笑いをこらえながら顔を見合わせた。
「なに、なに?」
「いやね、こいつ大会の時、女子ばっかり見てたから、『こんにちわ』しそうになって予選に遅れそうになったんだよ」
「ノブもだけどな!」
綾乃と秀美の眼差しが生温かいものに変わった。学校が違う俺と和人が友人となるきっかけのエピソードだが、
(・・・まぁ、真面目な女子は引くよな)
「男って・・・」
「そう言うけどさぁ、思春期の健全な男子に、あれはダメだって」
「競水の尻は、ある意味凶器だよな」
「競水の胸も凶器だ」
「競水のフトモモも・・・」
「修司さん、それ、水着関係無いです」

***********************************

「さおりんの旦那様は『これ』だからね」
ひとしきり女子のお戯れが終わってから、由美が俺を指差す。
「わぁ・・・」
紗織が俺を見上げて言葉を失っている。そして、声のトーンを低くして言った。
「その日、人類は思い出した」
「巨人じゃねぇし」
「想像はしてたけど、実際に見るとまた・・・」
佑子が俺達を見て笑っている。紗織と初対面だったのは、このメンバーでは俺だけだった。
一番小さな女と、一番大きい男の組み合わせだ。身長差は軽く30センチ以上もある。巨人とか言われるほどに大きい訳では無いのだが、紗織と並ぶと俺はずいぶん大きくなった気がする。
「初めまして、ご主人様」
「ああ、さおりん。『これ』は萌え系が苦手だから」
「これって言うな!」
「じゃあ嶋田君、さおりんと仲良くね」
「あ、あぁ・・・」
「ちょっと、なによ、その、気の無いリアクション」
由美は、紗織が俺の苦手なタイプだってことを理解していてからかっている。

「普通に伸之さん、てお呼びしましょうか」
紗織が俺を見上げながら声をかける。俺はここまで身長差がある相手と付き合ったことは無かった。
「うん、それで良い。普通で」
「それで、私達は、夫婦ですか?」
「夫婦って感じじゃあ、無いかなぁ・・・」
(なんだ、普通の喋り方もできるんじゃないか。ま、就職してるんだから、そりゃそうか。)
俺は紗織に苦手意識しか持てなかった。可愛いのは認める。合コンでこの娘が来たら、大当たりだろう。でも、萌えキャラはダメなんだよ・・・。
「それでは・・・。付き合い始めるかどうかという段階の会社の先輩と後輩、ということで。もちろんみんなには内緒。実は、私には一応公認の相手はいるんですけど、最近ちょっと醒めて来てて。先輩に相談してるうちにお互いに気になる存在になっちゃって。でも、お互いに素直になれない理由があって・・・」
「さおちゃんって・・・。一瞬でそこまで考えたの?」
「無駄に設定を複雑にするなよ。公認の相手は隆弘か?」
「隆弘君は由美さんの旦那さんですから、他にいるということで。ついでにみなさんの設定も考えておきますね」
「あ、あんまり細かいのは、いいからね」
「さおちゃん、妄想が炸裂すると凄過ぎるから、一般人は付いていけないよ」
「私は特殊な人じゃ無いです」
「ちょっとファンタジーな世界の人なだけだよね」
「もう! 佑子さん、ちょっとじっとしていて下さい!」
紗織はバッグからゴムやら櫛やらを取りだすと、すごいスピードで佑子の髪をツインテールにしてしまった。
由美はそれを見て腹を抱えて笑っている。クールな女教師スタイルとツインテールのギャップが凄まじい。
「・・・由美さん、後で指導室にいらっしゃい」


[9] Re: 信之の憂鬱  けんけん :2019/06/06 (木) 07:50 ID:KlN4Z3w. No.27141
更新ありがとうございます。苦手なタイプの方がパートナーになりましたね。私も苦手な気持ちわかります。人それぞれ好みがあるから仕方ないです。そうなると、周りの夫婦が気になりますよね。実況中継よろしく御願いします。

[10] Re: 信之の憂鬱  :2019/06/11 (火) 21:09 ID:P.h26YL2 No.27152
5 海で遊ぼう

結局保養所に着いたのは日付が変わる直前だった。それでも通常なら入れない時間だが、そこは津雲家(綾乃の実家。そして叔父がここを所有している会社の重役だ)の威光。途中で連絡していたこともあり、管理人は起きて待っていてくれた。
部屋はツインが四つと大部屋が一つ。大部屋はツインのベッドルームと畳敷きの広間がある。夕食後に集まるのは当然この部屋になるはずだ。

(え、部屋割りも・・・?)
くじ引きで決まったペアで別れるという。可能性はあったが、さすがにそこまでは・・・と俺は思っていた。だって、いくら何でも・・・。
それでは、まるで・・・
(スワップじゃないか・・・。いい年した大人だぞ。やっちゃうだろ。最後の一線を越えない分別もあるけど、その場のノリで越えてしまう程度の軽さも持ち合わせているんだぞ。相手の反応をみて、行けそうだったら、行くだろ? 同じ部屋ってことは、そういうことなんだよな・・・?)
達也は強引に押し切ったが、奥様方も『えー』『ホントに?』とか言いながらも、強く反対はしなかった。綾乃や秀美まで・・・。それに、由美だ。あいつは簡単に一線を越えてしまいそうな気しかしない。ド変態(俺は完全に隆弘がそういう奴だと断定していた)の隆弘に、どんなことをされるんだか・・・

「朝食は6時からだからな。1時間やる。7時までに食堂に来ねえと襲撃するからな!」
さすがに天然温泉の大浴場も終わっていたので、部屋のユニットバスでシャワーだけで済ませた。運転で疲れてるし、朝にちゃんと起きられるのか、少しばかり不安はあった。
俺がシャワーを終えると、先にシャワーを済ませていた紗織はとっくに寝息を立てていた。
メイクを落としてすっぴんになった紗織も、可愛いのは間違いない。何だか変な娘だけど。
何でこんなことになってるんだかわからないけど、合意はできているようだ。今晩はもう寝てしまったが、次の夜には紗織と・・・。本当に良いのか?
(何でこんなに無防備なんだよ・・・。初対面の男と二人きりで同じ部屋に寝るって・・・)
「ほんとに襲っちゃうぞー」
声をかけてみたが、紗織は完全に熟睡していた。学生時代だったら、俺はこの娘に手を出しているのかもしれない。キスぐらいなら許されるよなーとか思いながらしばらく寝顔を見ていると、突然紗織が
「お豆腐・・・」
(! ヘンな寝言・・・)
その寝言で俺の気持ちは吹っ飛んだ。
(寝よ・・・)
ベッドに入った俺も、おそらくものの数分で眠りに落ちたのだろう。翌朝、本当に襲撃されるまで俺は一度も目を覚まさなかった。
ちなみに、口紅を塗られショーツを頭に被って爆睡している俺の写真は達也のスマホに保存されている。フェイスブックに共有されている画像は今はグループ以外は非公開になっているが、何かやらかしたら公開する、と脅された・・・。

高校時代の部活の部長は佑子だったが、今回の旅行の部長は達也だ。奴は何故か朝食の場に全員が集まっていないと不満だったらしい。
「今日は天気も良く風も穏やかな、絶好の海水浴日和だ。だから、海」
「えー、焼けちゃうじゃん」
「うるせえ。夏は海だ。っていうか、海に行かねぇで、伊豆まで何しに来たんだよ!」
(そりゃ、そうだ)
「あー、バーベキューコンロと炭は用意してあるんで、修司さんお願いできますか?」
「任せて。綾乃さん、空気入れがあったら、借りたいんだけど」
「管理人さんに聞いてみますね。じゃあ、北村号は直接海に行って、場所の確保とタープの設営をお願いします。小池号は買い物ということで。買い物は、私達と、・・・」
「はーい。小池夫妻、行きま〜す」
「お願いします」
達也が行こうとしている海岸を知っているのは綾乃だけだからこの役割分担は当然だが、綾乃はもっと控え目なタイプだと思っていたので、昨晩からの姿は俺にはちょっと意外だった。

解散の号令をかけた達也が付け足す。
「聞けよー。行く予定の海岸は砂浜じゃなくて岩場だから、踵の高いサンダルとかやめとけよ。あ、あと、帰りの運転者をくじ引きで決めるぞ。つまり、当たりを引いたら、絶対に飲むなよ」
今回二回目の割り箸くじだ。
「一番の二人がドライバーな」
当たりは和人と綾乃だった。
「私が運転するから、和ちゃんは飲んでていいよ」
「サンキュ」
和人が秀美の肩に触れる。他の全員の視線を受けた修司さんはやや挙動不審。・・・わかりやすい。

伊豆の東海岸でも、砂浜じゃ無いところは小さい子供連れのファミリーが少ない。その意味では穴場的な海岸だった。湾の一部が小さな漁港だが、売店もほとんど無いせいで客は少なかった。沖合数十メートルのところに上陸できる適当な岩があり、海岸に温泉が湧き出していたり、達也がここに連れてきたがった理由がわかる。大人が遊びやすい海岸だ。地味な修司さんが、タープ設営やボートの空気入れ等に淡々と活躍していたのが意外だった。
「修司さん、やっぱりアウトドア派? ちょっと見直したかも」
「お兄ちゃんはそういうのしか役に立たないんですよねー」
今朝になってから、秀美は修司さんとは従兄妹の関係という設定になった。夫婦なのに、夫婦じゃない関係・・・。倦怠期を迎えている夫婦はいないはずだったが、こんなイベントもたまには良いのかもしれないと思っていた。他の夫婦はどうだかわからないが、少なくとも俺は由美と隆弘の『夫婦』に嫉妬していた。俺は由美にベタ惚れだったから、というのもある。この旅行の間だけは由美は俺の妻では無い。ド変態の隆弘に何かをされている由美を助けることもできない。一方で、由美も隆弘との『夫婦関係』を俺に隠す気は無いらしい。
俺はせめて『元妻』と絡もうかと思って近寄った。日焼けを気にしていたくせに、パーカーを脱いだ由美は当然のように原色のビキニ。見られることを楽しんでいる。デザインは全く普通、というかむしろおとなし目なんだけど、由美が着るともうそれだけでエロ水着だ。
そして、今日も水着と同系色のチョーカーをしている。・・・ということは、昨晩の下着の色は白だったのか。綾乃はその辺の事情を知っていたらしい。

由美は俺の視線を挑戦的に受け止めて、言った。
「夏の海岸で、水着姿じゃないあたしを見たいって?」
「・・・はい、見たくないです。っていうか、触らせて」
由美の胸に向かって伸ばした俺の手を隆弘が叩く。
「これだけ他人の目がある中で人の妻に手を出す?」
「隆弘くん、二回ほど殺してもいいかな?」
俺も隆弘もキャラクターがまだ固まっていないのでセリフが芝居臭い。
朝食の席で紗織の妄想が炸裂し、五組全ての設定が紗織によって固められた。夫婦は由美と隆弘、秀美と和人の二組だけ。あとの三組はワケありカップルだ。部屋割は無視だ。それを考えると『ヒミツの二人』の設定は成り立たないし。
紗織が隆弘と由美にアブナイ夫の設定をこと細かく説明するのを俺も横で聞いていた。よくもまあ、次から次へと考え付くものだ。由美も隆弘の横できゃあきゃあ言いながらまんざらでもなさそうだ。
俺の浮気で別れたが、俺はまだ由美に未練たっぷり。どSの隆弘は知っててわざと由美を俺に近付けたり、写真を見せたり、いろんなやり方で挑発するが、絶対に触れさせない。
参加者は全員達也と同じ会社の社員。佑子の夫と達也の妻は来ていない。
俺と紗織は同じ部の先輩後輩で、仲良くても不自然じゃない間柄だ。実は今日は来ていない紗織の公式恋人よりもお似合いだと全員が思っていて、俺には内緒で今回の旅行でくっ付けてしまおうと画策されている。
修司さんと綾乃は訳有りの純愛カップル。何か障害があって、付き合っていることも秘密だし、結婚も望めそうもない関係だという。障害があるからこそ燃え上がるものもあって・・・と紗織の妄想が暴走を始めたので、二人の設定はその辺で打ち切りとなったが。
カズと秀美は逆にラブラブの新婚になった。秀美が『和ちゃん』と呼ぶ度に従兄の修司さんが反応するのが面白い。
何だかんだで、結局全員がそれなりに組み換えを楽しんでいるようだった。

長袖と手袋で完全防備、日傘をさして水には絶対に入らない・・・。俺が勝手にそんなイメージを抱いていた綾乃も、意外なことにビキニだった。この中で唯一の子持ちとは思えないスタイルの良さ。
佑子は何ていうのかは知らないが上下セパレート、他の二人(秀美と紗織)はワンピース。全員美人なのに、水着になったとたん格差(俺基準だけど)ができてしまうのが、何だか・・・。
「ノブ君、もっこりパンツじゃ無いんだー」
「本気で泳がねーし。あ、でも誰か溺れたら本気で助けるから、安心して」
「頼もしいねぇ、元もっこり部」
「そんな部は無い!」

「昼の準備の前に、海入ろうか?」
修司さんが綾乃に声をかけている。
「シュノーケル、使える?」
「はい、得意ですよ」
「由美さ・・・」
「あーあー、行っといで。あたしは荷物番してるから」
「ナンパされんなよ」
「さて、何人に声かけられるかなー」
「知らない人に付いて行っちゃ駄目だよ」
「コドモか!」
「僕も残ろうか?」
「隆弘が残ったら、誰も声かけられないじゃん」
「おい!」
結局、由美一人を荷物番に、全員で海に入った。人数分のマスクとシュノーケル、フィンが用意されていた。自然な流れで、修司さんと俺がインストラクター的な役割になった。俺の担当は初心者クラスだ。紗織と隆弘、秀美、そして、
「お前は水泳部だろうが!」
「しょっぱい水は苦手なんだよ」
カズにまでシュノーケリングを教えることになった。まぁ、本当は秀美と一緒にいたいだけなのかもしれない。知らない人が見たら、本当のラブラブ夫婦に見えるだろう。
泳ぐというよりも、ボートにつかまって漂流しながら海の中を観察していただけだったが、初めてシュノーケリングを楽しんだ紗織や秀美は感激していた。
「もっと南の海に行かないとこんなにたくさんお魚見れないと思ってた。きれいだねー」
「熱帯の魚はもっとカラフルだけどね。来て良かった?」
「うん!」
性格と趣味に問題があっても、とりあえず紗織はかわいい。感情表現が素直というか、過剰というか・・・、でも、反応が返ってくるのは良いと思った。無理してキャラを作っているのかもしれないけど、この娘と数日間だけの恋人も悪くないなと思っていた。
(・・・いや、そうじゃない、わかってる。)
傲慢というか、贅沢というか・・・、由美や佑子に慣れているから感覚が麻痺していることを俺は自覚していた。世間一般的には、紗織は『すごく可愛い』という部類に入るはずだ。モデルや女優と比べても見劣りしない。妻の知り合いで無ければ、俺がこんな娘とお近付きになるチャンスなんて無いと思う。
紗織も恋人未満、友達以上の関係らしく俺にまとわりついてくる。隆弘は完全に他人のふりで、紗織のことを『藤本さん』とか言っていた。
殆ど泳げない秀美を心配したカズが一番手前の岩に上陸して休むと言い出したので、俺達も休むことにした。達也と佑子、綾乃と修司さんの姿は無い。もっと先まで行っているらしいが、沖を見渡したが、目印が無くてわからなかった。


[11] Re: 信之の憂鬱  :2019/06/18 (火) 21:42 ID:RELOuq2Q No.27157
6 違和感 

それからしばらくシュノーケリングを楽しんで海岸に戻ると、ちょうど二人連れの男が帰るところだった。
「ほんとに声かけられてたのか!」
「何人来たと思う?」
「知らねーよ!」
「何でノブがイラついてんだよ」
カズと隆弘がにやついている。
「あれ、このサザエは?」
「あぁ、日焼け止め塗ってもらった上に、おみやげまでくれた。良い子達だったよ」
「だ、誰だよ!」
「さぁ? 地元の子達でしょ」
「どれくらいの」
「ノブ、興奮すんなよー」
(本当にむかつく奴等だ・・・)
「ませた感じだったけど、せいぜい中学生かな」
「わあ、年上のひととの、忘れられないひと夏の想いで、ですね。いいなー」
また紗織の妄想が始まった。
「きゅんきゅん、しませんか?」
「中学生に『これ』は刺激が強過ぎるだろ。きゅんきゅんじゃ済まないぞ」
「あら、今時の子は違うわよ。塗らなくていいところまで・・・」
「ぬ、塗らなくていいところって、どk・・・」
「大人がきゅんきゅんしちゃったみたいですねぇ」
(やばい。興奮し過ぎた。)
「ノブはいじられて面白くなるキャラなんだな」
「・・・そんなキャラ、作ってねぇ・・・」

達也と佑子が帰って来たのはそれから10分もしてからだっただろうか。
「まさか足がつって溺れかけるとはなー。俺ももう若くねぇな」
「二十代がそれを言うか?」
佑子は妙におとなしかった。海に入るまではいつも通り達也と言い合いをしていたのに、何も喋らない。タオルを手にタープの下のレジャーシートに座ってぼーっと沖を見ている。
(達也が何かしたのかな・・・?)
「佑子ー、おい、佑子」
「え、なに?」
「ありがとな」
気付いたらしい達也が佑子に声をかける。
「助かったよ。佑子がいなかったらヤバかったかも。ノブに助けてもらう前に沈んでたかもな」
「あ、うん・・・」
「そんなに危ない状況だったのか」
「ああ。今晩のニュースに実名で出演するところだったぜ」
「それは残念」
「ノブ君、北村君は大袈裟に言ってるだけだから。ちゃんと立ち泳ぎしてたから、すぐには死なないってわかってた」
「お前、まさか沈むまで助けないつもりだったのか?」
「あー・・・、それを考えたのも嘘じゃない。でも、後味悪いしねぇ」
「ほんと助かったよ。マッサージもしてもらったしな。でも、なんだ・・・。女の手で触ってもらうのって、やっぱり興奮すんな」
「・・・バカ」
「お返しに、あとでマッサージしてやるよ。結構上手いんだぜ」
「・・・いい。絶対関係無いところ触るでしょ」

佑子の様子がおかしいと思ったのは俺の考えすぎだったのだろうか。でも、こんな岩だらけの海岸で、マッサージなんてどこでやったんだ? 
どこかの岩陰で、あるいは水の中で・・・
それって本当にマッサージだったのか? 
達也は本気で不倫旅行を楽しむつもりか。カズも黙認というか、むしろ秀美との関係を楽しんでいるように見える。佑子との新婚時代にも無かったくらいにベタにイチャイチャしていて、俺は心の中で何度『いい加減にしろ』と怒鳴ったことか・・・
そして、修司さんは綾乃と忍ぶ恋。大っぴらにイチャイチャできない二人は、表向き同じ部署の先輩と後輩という、俺達と同じ設定だったが、恋愛関係にある二人に見えないようにふるまっていた。「山中さん」「津雲さん」と呼び合う二人は恋人には見えない。でも、いつも隣にいる・・・
五組の夫婦(と婚約者)の旅行だったら、その間隣にいるのは配偶者か婚約者だろう。それが普通だ。
でも、今回の旅行では俺の横には由美がいない。紗織の横には隆弘がいない。
そして、妻公認で、すごく可愛い娘とイチャイチャできる。セックス抜きだったら、こんなのもたまには良いかも。
でも、本当に『・・・抜き』なのか?
(『それもアリ』なんじゃないのか・・・?)

「あれ、修司さんとあやちゃん、まだ戻ってなかったの?」
しばらくして、佑子が周囲を見渡して言った。
「一緒だったんじゃ・・・?」
「岩に上陸する時にあやちゃんが膝に怪我して、修司さんが先に連れ帰ったはずなんだけど」
「それ、貸して」
俺は何故か由美が持っていた双眼鏡で付近を見渡した。少し流されたらしく、二人は漁港近くの海岸に上陸していた。すぐには歩けないのか、そのまま綾乃は座り込んでいた。
「綾乃さんと修司さん、・・・様子が変だ」
「変?」
「ちょっと迎えに行ってくる」

俺が迎えに行く途中で、二人が戻って来るのと行き合った。海岸の大きめの玉砂利のような石の上を綾乃を背負った修司さんが歩いてくる。
「怪我ですか?」
「うん。綾乃さんが」
膝をすりむいていた。深い傷では無さそうだ。外傷よりも、むしろ打撲なのかもしれないと俺は思った。
「ノブ君、装備だけ持ってくれる?」
「はい。綾乃さん、痛みは?」
「・・・平気」
綾乃にギュッとしがみつかれている修司さんが少しだけうらやましい。ずいぶんと信頼されているように見える。
二人を迎えに行く前に達也を見たんだけど、他人事みたいな態度だった。この旅行の間は、綾乃は自分の妻では無いという姿勢を貫くつもりらしい。

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

修司さんが戻ると、すぐに昼の準備が始まった。というか、他に誰も炭火をおこす自信が無かった。慣れた手際で炭を着火させた後で、修司さんはいつもの通り炎の番人になった。
「ソーセージ、いい感じに育ったよー」
と修司さんが言うと、数秒で無くなる。昨年のバーベキューの時に、『育ったソーセージ』に少し衝撃を受けた俺達だった。どこのスーパーでも売っている普通のソーセージをただ炭火でじっくりと焼いただけだったが、『料理と言えないものに負けたー』、と滅多に負けを認めない由美までが言っていたのを俺は思い出す。でも、達也はここでも気に入らないことがあるらしい。
「お前ら、肉食えよ」
「えー、修司さんのソーセージの方がいいー」
「昼間から下ネタかよ。・・・うわ!」
佑子が達也の頭にビールをかける。
「いきなり、何すんだy・・・」
「北村、お前のも、焼いてあげようか?」
紗織に煽られてキャラ迷走中の佑子は、今は女王様らしい。
「佑子様、眼が怖いです」

綾乃の怪我もあり、昼食が終わると『もう一度漂流組』と『撤収準備組』で行動が別れた。
俺は紗織に付き合って再び海に入った。ボートに掴まりながら、紗織は飽きることなく海の中をのぞき込んでいた。
他の奴らを見てると、俺も恋人未満の男として振る舞わなければいけないのだろうが、そんな演技が自然にできるはずも無かった。ただ、シュノーケリング初体験の可愛い女の子を楽しませてやりたいという気持ちはあった。萌え系は苦手だけど、紗織が素直に喜ぶところは良いと思う。由美が紗織を気に入っているのもわかる気がする。
「そろそろ帰るか?」
十分海で遊んだし、夜には宴会もある。それなりに体力を温存しておかなくちゃ。
「そうですね」
紗織はマスクとシュノーケル、フィンも外してボートに乗せた。
あれ、もう泳がないのか?
「・・・ああ、疲れたか。帰りは運んでやるから、ボートに・・・」
「あの、・・・二人きりの時は『信之さん』って呼んでいいですか?」
「え・・・?」
昨晩、紗織と初顔合わせの時にも同じことを言われたはずだ。でも、実はあれから一度も俺は『信之さん』とは呼ばれていない。何度も『先輩』とは呼ばれたが、名前呼びは無かった。
紗織が俺を見ている。・・・っていうか、あざとさ満点の上目遣い。
俺が返事をしないでいると、上目遣いのまま顔を左右に振りだした。表情は、少しにやけている。
(くぅ、わざとか!)
「・・・いいよ」
「やったー!」
紗織が抱き付いてくる。
「おい・・・!」
「水の中なら海岸からは見えませんよ」
確かにそうなんだけど・・・
ふと海岸を見ると、由美が双眼鏡で見ていた。俺が見ていることに気付いて、手を振る。
(ずっと観察されてたのかな・・・?)


[12] Re: 信之の憂鬱  やま :2019/06/24 (月) 15:00 ID:46DPWfjA No.27161
面白いです。
登場人物が、まだ頭に入りませんが…(笑)

[13] Re: 信之の憂鬱  :2019/06/27 (木) 21:49 ID:9zPkqvfw No.27165
あー、登場人物10人くらいは何とかなると思ってまして、あえて人物紹介をしないスタイルで行こうかと・・・
信之と修司、綾乃と紗織以外の6人は高校時代の同級生。
年齢は修司が二つ上、綾乃が二つ下、紗織が三つ下(綾乃と紗織は学年は二つ違いです)。
この話は、昔ここに公開した物語の後日談になるのですが、独立した話として成立するように書いてますので、古い話を探さなくても大丈夫です。
  
  * * * * * * * * *

7 饗宴

達也と隆弘達は海から帰ってすぐに大浴場に行っていた。俺達は膝に怪我をした綾乃が心配だったこともあるが、食事が始まるまでずっとこの部屋で喋っていた。相変わらず秀美はカズとラブラブだったが、綾乃達も大人の良い雰囲気だった。カズ達のようにイチャイチャできない二人は、テーブルの角を挟んで座っていた。お互いにしか聞こえない言葉だが、表情を見る限り会話は弾んでいるようだった。修司さんと秀美が互いに見せつけ合うように・・・というのは俺の感じ過ぎだっただろうか。
一方で紗織も俺の気を引こうと頑張っていた。最近行ったカレー屋の話、映画の話、電車で見た高校生カップルの話、・・・。話題に一貫性は無く、何とか会話の接点を見つけようとしているみたいだ。『設定』では普通に仲の良い先輩と後輩のはずだったが、今の状態は『素っ気無い先輩を落とそうと頑張っている可愛い後輩』に変化しているように感じる。

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

旅館ではなく会社の保養所なので夕食は基本的には食堂でセルフでいただく決まりだったが、ここでも津雲家の威光が利いていた。特別注文の地元の新鮮な海の幸が山ほど、大部屋に届けられた。
「わぁー、すごーい! 豪華ですねぇ」
「これって・・・」
「・・・そうだよねぇ」
未婚と既婚の反応が違う。すかさず達也が言う。
「あー、何も言うなよ。一泊四千円の中に含まれてるからな」
「んな訳ないでしょうに」
「何か言ったら、ノブの恥ずかしい写真が世界中を駆け巡るからな」
「おい!俺がパンツ被ってる写真と何の関係g・・・」
全員の、可哀想な人を見る目が痛い。
一泊どころか、この海の幸だけで一人分何千円することか。達也が今回の旅行に何故か入れ込んでいることだけはわかった。
隆弘達以外とはこれまでも年に数回は会っていたが、去年、おそらく山中家でのバーベキュー以降、この友人達が顔を合わせる頻度が上がっている気がする。由美は俺抜きで佑子や達也と良く飲みに行っていたし、主人が単身赴任で不在の秀美の家にも何度か泊まっていた。今回の旅行の企画も、そんな俺のいない飲み会の席で決まっていったことなのかもしれない。

「お前らも、適当なとこで抜けて順番に風呂行って来いよ。一応源泉かけ流しだぜ」
乾杯のあいさつを修司さんがした後は、だらだらと終わり無く続く宴会ということになっていた。残念ながら混浴では無い大浴場に半ば興味を無くしていた俺だったが、紗織はそうでは無いらしい。
「行くー! 嶋田先輩も行きましょ」
「混浴じゃ無いからな」
「えー、そんなこと、期待してませんよぉ」
「さおちゃん、筋肉も好きかも、とか言ってたじゃない」
「もーう、先輩が警戒するから、それは秘密だって言ったじゃないですかー」
何だか知らないが、今日の俺はずいぶんイジラれている気がする。
秀美や綾乃も下ネタに嫌な顔をすることも無い。既婚だから、と言ってしまえばそうかもしれないが・・・。

大浴場に着いて、暖簾をくぐりかけたところで紗織がきいてきた。
「信之さんはお風呂、長い方ですか?」
「のんびり浸かってるのも嫌いじゃないけど、まだ宴会の途中だからな。早く出るよ」
「じゃあ、私もなるべく早く済ませるので、待ってて下さい。一緒に戻りましょう」
「ん、わかった」

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

俺達は大浴場から部屋に帰る途中だった。案内看板で、男女別の大浴場とは別に露天のジャグジーがあることに気付いて、ちょっと通路から覗いてみようと紗織が言い出した。
廊下に誰かいる。入口から外を覗いているのは・・・
「あれ、カズ・・・」
人差し指を立てて、ジャグジーを指差した。先客がいた。顔まではわからなかったが、10m程先にジャグジーの中で立って抱き合っている二人が見える。当然のようにキスもしていた。
「誰なの?」
「佑子ちゃんと、達也」
「え・・・?」
「達也はともかく、佑子ちゃんが不倫なんて、意外だよなぁ・・・」
(俺は、お前の方が意外だよ。本当に・・・容認してるのか?)
達也同様、カズも佑子は自分の妻ではないという態度らしい。
「もっと近くから覗けないかなぁ・・・」
「女湯の隣に外に出られる扉がありましたけど」
「それだ! せっかくだから、三人で行こうぜ」
「おい、いいのか?」
「こんないいもの、見逃す訳にはいかんでしょう」
(いや、そういうことじゃなくて、だな・・・)
何でこの三人で『不倫カップル』の露天風呂での痴態を覗きに行かなきゃならないんだ?
仕方なく、というフリをしながら俺は二人に付いて女湯の脇の『関係者以外立ち入り禁止』の扉を開けた。音を出す訳にはいかないので、スリッパは脱いで手に持って裸足で外に出た。コンクリート舗装されていたので、足音の心配は無さそうだった。
「えーと、どっちかな?」
カズと違って、俺は職業柄、建物の平面図はすぐに頭に描ける。
「あっちだよ」
ちょっと崖のようになった場所にジャグジーはあるはずだ。
「ん・・・あ・・・」
しばらく歩くと、佑子の妖しい声がすぐ頭の上から聞こえる。
「お、始まってるな」
カズが興奮しながら囁く。
(キスだけ、じゃないよな・・・)
相手が達也なんだから、俺達が想像した通りのことをしているんじゃないか。カズはそれでも見たいのか?
崖を登れるところは簡単に見つかった。崖の斜面が階段状にならされていて、花が植えられているのだった。ジャグジーはウッドデッキに埋め込まれるような高さに設置されていた。ウッドデッキは展望デッキにもなっていて、腰壁が設けられている。ただ、そこから覗くことは危険過ぎた。距離も近いし、遮蔽物が何も無い。ぐるっと半周回ると、植栽がある。そこからなら、隠れて覗くことができそうだった。
音を立てないように慎重に動いて、ようやく植栽側にたどり着いた。思った通り、ジャグジー側には照明があるが俺達の側は暗いので、佑子と達也からは見えないはずだ。距離は5mほどあるし、ジャグジーは勢い良く泡立っているし、なにより夢中になっている二人に俺達の囁きは聞こえないと思う。
三人揃って植栽の間から顔を出す。予想はしていたが、やはり衝撃的な光景が展開していた。
裸の佑子を達也が立ったまま後ろから抱きながらキスをしていた。左手は佑子の豊かな胸に、そして右手は下の方に。この体勢でキスができるということは、佑子の方が首を後ろに曲げて、さらに右手を後ろに回して達也の顔をホールドしているのだった。一方的に達也にされているのではない。
初めて見る佑子の裸体。普段から想像していた通りの、百点満点のおっぱいと豊かなお尻、長い脚。ジャグジーにいながら相変わらず眼鏡装備のままなのも、そそられる。
カズは俺と紗織がいても気にならないようで、興奮した眼で二人を見ていた。
「やっぱ、達也はすげえな・・・」
「カズ、大丈夫か?」
「何が?」
「ほら、・・・その・・・」
(佑子は今はカズの妻では無いんだったな・・・。どう言ったら良いんだ?)
俺の戸惑いは杞憂だったらしい。
「佑子ちゃんが達也に落ちるなんてな・・・」
カズは『人妻佑子が達也に落とされてしまう不倫プレイ』を覗き見て興奮している。嫉妬深い男だったはずのカズはもう過去のものだったようだ。
(もう、どうでもいいや。でも、後で種明かしはしてもらいたいもんだけどな・・・)
達也が胸と股間への責めを加速したらしい。佑子は声を出さないようにか、自分の左腕を口に押し当てていた。
「こんなところに他の客が来ちまったら、ヤバいんじゃないか?」
俺も佑子の痴態を見てめちゃめちゃ興奮していたが、それを隠すように冷静なフリをして言ってみた。
「ちゃんと『貸し切り』の札がドアに掛けてありましたから、大丈夫ですよ」
冷静なのは紗織だった。俺はそんなことには気付いていなかったのに・・・
(でも、入口の扉からは見えるんだぞ。誰かはわからないかもしれないけど・・・)
しばらくそのまま佑子を責め続けていた達也は、突然それを止めた。佑子はジャグジーの縁に手を突いて荒い息をしているようだ。
達也は佑子の腕を取り、自分と向き合うようにした。そして、両手の指を絡ませるようにつなぎ、見つめ合った。達也が何かを言ったようだったが、声ははっきりとは聞こえなかった。次の瞬間、佑子が達也にぶつかって行くようにキスをした。
(へえ・・・、達也が無理にしている訳では無いのか・・・)
二人が繋いでいた手を離したかと思うと、達也の両手は佑子の胸に、佑子の手は達也のものを握り、いきなりしごきだした。その間、二人の唇は離れていない。キスを続けながら、激しくお互いへの愛撫を始めた。俺の知っている二人からは想像できない、本当に不倫しているカップルみたいに見えた。
キスをしながら激しく達也のものをしごき始めていた佑子は、前触れ無く突然その場に跪いて、俺の予想通り、達也のものを口に含んだ。
この光景は少なからず俺にはショックだった。エロ大王のカズの妻なんだから性的なことに抵抗が無いことは理解できるが、佑子は俺達の中では一番良識がある人だったはずだ。『不倫カップル』はお芝居だとして、本当にセックスするなんて・・・
(あ、まさか・・・。俺が知らないだけで、こいつら、以前から・・・)
スワップしてたのか? そんな雰囲気を感じたことは一度も無い。俺は鋭い方では無いけど・・・
それに、佑子は達也のことが苦手だったはずだ。友人としてはともかく、この旅行の間だけの関係だとしても、性行為に及ぶような雰囲気は無かったはずだと俺は思っていた。佑子は達也や由美をたしなめる役回り、保護者みたいなものだ。

しばらく頭を撫でていた達也が何かを言って、佑子が立ち上がった。見つめ合いながら、また達也が何か言っている。
「ちくしょう。声が聞こえないじゃん」
カズもそこが残念らしい。
佑子が達也に背を向け、ジャグジーの縁に手をかけて脚を開いた。振り返った佑子の口が『おねがい』と動くのがはっきりと見えた。
無造作に達也が突っ込んだ。佑子が前のめりになりそうな勢いだった。体格の良い佑子だから多少の無茶はいけると思っているのか、早く終わらせようとしているのか、達也はいきなり猛烈に腰を振っていた。佑子はジャグジーの縁を支えられなくなり、重ねた両手に顔を乗せて声を抑えているようだ。
だが、そこはさすがに達也。嫌がる佑子の腕を手綱のように後ろに回す。今度ははっきりと聞こえた。
「北村君、やめて。声・・・出ちゃう・・・」
「出せばいいだろ、誰にも聞かれねぇよ」

『そういうプレイ』なんだろうけど、今回が初めてではないらしい二人。
「声・・・、やばくねぇ? 入口からは見えるし」
「ちゃんと達也さん、入口を見張ってますよ。佑子さんの身体の向きは変わるけど、達也さんはずっと同じ方を向いています」
「・・・え?」
他人のセックスを覗いているっていうのに、 紗織の冷静さは気味悪いほどだ。

達也はまるでAV男優のように激しく責める。しばらくの間、佑子からは喘ぎ声以外の言葉はほとんど聞き取れなかった。そして、男女の肉体がぶつかり合う、あの音。
「そろそろ、帰らないと、怪しまれ、るかもな」
さすがに達也も声が途切れる。『すぐに終わりそう』な動きがもう何分も続いていた。
「ああ・・・!」
「このまま、出すぜ」
「だ・・・駄目ぇ・・・」
「なら、やめるぜ」
「・・・やめ、ないで・・・飲んで、あげる、から」
「飲んであげるって、なんだよ。俺は、このまま、出したいんだよ」
「ご、ごめんなさい。でも・・・」
「めんどくせえ、から、いいだろ」
「お願い、お口に、出して! 飲ませて! 飲み、たいの、達也の、精子」

達也が右手を離した。すぐに佑子は口を押さえる。そのために手を開放してやったのかと思ったら、
『パシーン!』と達也が佑子のお尻を叩いた。
「お前、緩くなったか? なんか、いけそうにねぇよ」
「あう・・・ひどい・・・」
「それとも、俺より、太いチンポと、浮気、してんのか」
「・・・そんな、こと、しない・・・。あなた、だけなの・・・」
「どうだか・・・。股の、緩い女の、言うことは、信用、できねぇ」
「どうして、そんなこと、言うの」
しばらく後ろからただ突きまくるだけだった達也が、突然動きを止めた。
「疲れた」
達也は佑子から抜いてジャグジーの縁に腰かけた。佑子は反対側の縁に手をついてぐったりしていた。
「なに休んでんだよ。お前が緩いせいでいけなかったんだぞ。何とかしろよ」
「え・・・。ああ、はい・・・」
佑子がふらふらと達也に近寄って、前に立ったまましばらく迷っているようだった。
達也は何も言わない。
やがて佑子がゆっくりと膝立ちになって、達也の両足に手をかけて足の間に入った。
佑子が再び達也のものを口に含もうかという直前だった。
「旦那には、やらせてねぇんだろうな」
佑子の動きが止まる。
「あの人のことは、言わないで」
「どうなんだよ」
「あぁ、だって、疑ってるみたいだから・・・」
「やったのか」
「・・・ごめんなさい」
「俺もナメられたもんだな。浮気女のクセに」
「だって、ずっと拒否するなんて無理よ」
「無理じゃねえだろ。俺の女だったら断れよ」
「無理・・・」
達也が急に立ち上がった。勢いで佑子はジャグジーにそのまま後ろ向きに沈む。
すぐに達也は佑子の手を引き助け起こす。
「おいおい、酔ってるんだから、気を付けろよ」
「けほ・・・、あなたが・・・」
達也は佑子の言うことなんて聞く気は無いらしい。水を飲んで咳き込んで、濡れた顔を手で拭っている佑子を気遣う様子も無く、下半身を突き出す。
「しゃぶれ」
「ちょっと待っ・・・ぐぉ・・・」
佑子の頭を掴んだ達也はいきなり喉の奥まで突っ込んだ。さすがに苦しいのか、佑子は達也の足をぺしぺしと叩いている。達也が手を離すと、佑子は激しく咳き込んだ。
「ちょ・・・はぁ・・・ひどい・・・」
「時間無いんだから、休むなよ」
再び佑子の頭を掴んでくわえさせる。達也に後頭部を掴まれて激しく揺さぶられる佑子からは、苦しそうな湿った音だけがしばらく続いた。
佑子は達也の足に手を突いて引き離そうとしているが、達也がそれを許さなかった。
あまりの光景に、俺達も何も言葉は交わさず達也に凌辱される佑子を見ていた。

達也にさんざん道具のように扱われてから開放されても、佑子はジャグジーに膝立ちのまま。
「そこに手を突いて足広げろ」
佑子はもう、まともな思考能力が無くなってしまったかのように呆けている。
「・・・しょうがねぇな」
達也が手を取って佑子をジャグジーの縁に立たせる。
「あんまり長居できねぇんだから、さっさとしろよ」
佑子が背中を向けると、達也が肩を軽く押す。ジャグジーの縁に手を突き、足を広げる佑子。
「ほれ、眼鏡」
達也はジャグジーの底から眼鏡を拾って佑子に手渡す。振り返って眼鏡をかけた佑子に何の愛撫もせず、尻を掴んだ達也はさっきと同じように無造作に突っ込む。
「はぁ・・・う・・・」
「今度はちゃんといかせてくれよ」
そう言って、達也はまた激しく腰を振る。
「ふぅ、良いぜ・・・、そのまま締めてろ」
「は・・・、あ・・・」
パシーン!
達也が佑子の尻を叩く。
「まったく、良い尻だぜ」
他に興味は無いとばかりに尻を掴んだり、叩いたり。
確かに、佑子の尻は絶妙なエロさ加減だった。友人の妻ということで普段の俺は自制していたが、佑子は全身・・・エロボディの化身だった。
俺の妻の由美も極上のエロボディの持ち主だったが、今日初めて見た佑子には負けるんじゃないか。・・・そんなことを由美に言ったら、俺はしばらくご飯抜きの刑なんだろうけど。

「おら、締めろ! 締めろ!」
激しく突きながら、佑子の尻を叩き続ける達也。佑子は右手で身体を支えて、左手で口を押さえていた。
「そろそろ、いくぜ」
「な、中は、・・・!」
「面倒くせぇ、よ」
「ダメ・・・お願い、します。飲ませて、・・・」
「わかった、よ。おらっ!」
達也は佑子から抜いて、すぐに振り返った口に突っ込んだ。
本当に射精ぎりぎりだったらしい。危ない男だな・・・。

「せっかく風呂入りに来たのに、汚れちまったな」
佑子は口に出されたものを吐き出すことはしなかった。
達也の精液を飲み込んで放心している佑子に再び達也が近付く。
「お前が汚したんだから、きれいにしろよ」
「それは・・・」
「なんか言ったか?」
「・・・」
佑子に口できれいに掃除をさせて、達也は佑子からいったん離れた。ウッドデッキに上がると、バスタオルをデッキに広げた。慣れた感じで、ぐったりしている佑子の身体を抱き上げて、そっとバスタオルの上に乗せた。もう一枚のバスタオルで佑子の身体を拭き始める。よほど疲れているのか、その間佑子はほとんど動かなかった。さっきあれほど乱暴に扱っていた佑子のことをお姫様のように丁寧に世話する達也。
一通り拭き終わって、達也がキスしようとしたが、佑子は顔を背ける。達也は無理矢理佑子の顔の向きを変えて唇を奪う。それに応えて佑子は今度は達也を抱え込むように両腕を回す。なんだか、終わる前後で達也の佑子に対する扱いがまるで違うように見えた。
しばらくキスを続けていた二人だったが、突然思い出したように浴衣を着始めた。
廊下に出るためには、ジャグジーと俺達の間を通ることになるので、三人とも少し下がって暗闇に紛れた。
肩を抱きながら並んで歩いていた達也が、俺たちの目の前で突然佑子をお姫様抱っこした。
「ちょっと、達也」
「疲れただろ? 遠慮すんなって。このまま部屋まで連れてってやるよ」
「やめて。ばれちゃうじゃない」
「芝居の続きだって思うだけだろ」
「ほんとにやめて。下ろして」
声のトーンが違うのは、佑子が本気なのだろう。
「じゃあ、キスしてくれよ」
一瞬も迷うこと無く、佑子が達也の首に腕を回してキスをしている。
「もう、俺以外にはやらせんなよ」
「私の他にも女がいるクセに・・・」
「今はお前だけだよ」
「・・・バカ」
達也が佑子を下ろすと、二人は再び軽くキスをしてから腕を組んで出ていった。


[14] Re: 信之の憂鬱  けんけん :2019/06/29 (土) 07:47 ID:q86UEDNs No.27169
更新ありがとうございます。信之さんの実況中継が臨場感満載ですね。私は、前作から秀美さんと祐子さんの行動がいつも気になります。続きお待ちしております。

[15] Re: 信之の憂鬱  やま :2019/07/02 (火) 15:25 ID:GSbr4UXQ No.27172
続きを楽しみに待ってます。
宜しくお願いします (^o^)

[16] Re: 信之の憂鬱  :2019/07/02 (火) 22:59 ID:.sagHw0Q No.27174
実際にあった出来事を基にしているので、エロ要素が少なくて申し訳ないです。
事実二割、妄想八割ぐらいでしょうか。
実用性には欠けますが、もうしばらくお付き合いください。

8 始まる

達也と佑子が立ち去ってから、俺達は元来た崖下の通路ではなくジャグジー側に出た。ずっと興奮しながら覗き続けていたカズだったが、心なしか元気が無いように見えた。
(佑子があんなになって、やっぱりカズはショックだったんじゃないか?)
「凄かったな・・・。ひーこが待ってるから、俺は先に戻るよ。邪魔はしないから、お前らは入っていけよ。んじゃ、お先に」
「あ・・・」
ショックを受けているのかいないのか、カズの反応はどっちだかわからなかった。
ジャグジーに二人きりで残された俺は、さっき見てしまった光景のせいでかなり気まずかった。
紗織はどんな気持ちなんだろう・・・。
俺が無言で頭を巡らすと、紗織は浴衣の帯を解いていた。
「え、ちょっと待って」
「ん?」
紗織はそのままするすると浴衣も下着も脱いで、裸になった。
「信之さんも一緒に入りましょう?」
ついさっき見たことは何も気にしていないという様子でそう言って、さっさと入ってしまった。
(この娘、何なの・・・?)
とんでもない光景を見たはずなのに、紗織は興奮した訳でも無く、平然と湯に浸かっている。だけど、さすがに紗織をここに残して、俺だけ先に戻る訳にはいかない。全て脱いで、正面に座るのもすぐ横に座るのも何となく躊躇われて、少しだけ離れた場所に俺は座った。紗織は俺を見つめ続けていた。
「伸之さんはそういうタイプじゃないって聞いてるんですけど」
「由美から?」
「真面目ないい人を演じている気がしますよ。それに、私のこと、避けてません?」
「別に避けてるわけじゃ・・・」
「昨夜も何も無かったし・・・」
「あのね、思いっきり爆睡してたよね」
「あれだけのイタズラされて眼を覚まさなかった人に言われたくないです」
「うう・・・」
「触ってもいいですか? いいですよね」
そう言いながら、返事を待たずに紗織は俺の胸に触ってきた。
「ふふ、筋肉すごーい。鍛えてるんですね」
「もう現役じゃないから必要無いんだけどな」
「素敵ですよ、鍛えてる男の人って。由美さんも・・・」
「なに?」
「何でもないです。私も鍛えたいんですけど、ぜんぜん育たないんですよねぇ・・・」
そう言いながら紗織は自分の胸を両手で揉んでいる。俺は紗織はBと見ていた。秀美もBかな。綾乃はCだ。あとの二人はDかEか・・・
俺が胸を見ていたことに気付いているはずの紗織が、俺の方は見ずにポツリと呟いた。
「裸で二人っきりなのに、なんで何もしないんですかね・・・」
(そんな言われ方をされちゃうと、余計に何もできないじゃないか・・・)
達也と佑子を見た後だ。何かをしても許されるのだろうという気はしていた。すごくわかりやすく、紗織はサインを出している。手を出しても大丈夫なのだろう。由美と隆弘も了解済みの気はする。
(でも、知り合いに手を出すっていうのもなぁ・・・)
「あのさ・・・」
俺はこの旅行で採用されているカップル入れ替えシステムのことを聞いてみようかと思っていた。くじ引きの時の暗黙の了解なんかじゃない。俺以外の参加者は事前に知らされていたに違いない。何より、修司さんと紗織は途中参加だし。
俺が疑問を口にしようとした時、突然すぐ近くから声をかけられた。泡立つジャグジーの音で足音は聞こえず、入り口に背を向けていた俺は全く気付いていなかった。

「あれ、先客がいたね」
「お邪魔だったかしら」
修司さんと綾乃だった。カズが『貸し切り』の札を外したんだろう。
(俺達をけしかけておきながら、何て危ないことをするんだよ!)
「きゃあー、綾乃お姉様ぁー。お邪魔じゃない、お邪魔じゃないですぅ」
紗織は立ち上がって手をバタバタさせている。前を隠そうという気が無いのか、この娘の羞恥心のハードルはもの凄く低いのだろう。
「さおりん、せめて手で隠そうよ」
修司さんと綾乃も温泉のついでにちょっとジャグジーを覗いてみたようだ。
「あ、水着じゃないのね」
「そうなんです。裸なのに、嶋田先輩ってば何もしないんですよぉ。何が足りないんですかねぇ・・・」
『足りない』と聞いた二人が同じことを思ったのは間違いないが、もちろん紗織には言えない。それに、理由は『胸が小さいから』じゃないし。
二人も裸になって、ジャグジーに入って来た。これまでに見た限りでは、綾乃は他人に裸を見せて平気でいられるような性格には見えなかった。
「あまり見ないでね」
タオルも無しっていうのが恥ずかしいようだ。でも、嫌がらずに入って来た。秀美もそうだが、去年会った時とは様子がずいぶん変わった気がする。それとも、みんなこの旅行では別人を演じているのだろうか。

「ところでさ、ノブ君とさおちゃんって、付き合ってんの?」
「い・・・、いきなり、直球で来ますね」
(修司さんと綾乃も付き合っているのは秘密だろうに、何で二人で来たんだ?)
「全力で、攻略中であります!」
紗織は何故か敬礼をする。敬礼を返す修司さんにだけは通じているみたいだ。
「へえ、紗織ちゃんの方が積極的なんだ」
「そうなんです。でも、嶋田先輩、女の子に興味無いみたいで・・・」
「伸之さん、やっぱりカズさんと・・・」
「だから、違うって」
「じゃあ、どうして?」
俺は少し困った。今朝の公式設定では二人をくっつけることは俺には内緒のはずだったのだが。それに・・・。
「さおりんには、彼がいるし」
修司さんと綾乃が顔を見合わせた。
「ノブ君、悩みがあるの?」
「え、あぁ・・・」
俺は、今回の旅行のカップル入れ替えという企画に戸惑っていた。
(全員、夫婦じゃない組み合わせで同じ部屋に寝るんだぞ。俺だけなのか? 修司さん達に悩みは無いのか? ・・・する、のか?)
この二人は真面目だから、最後の一線は越えないのかもしれない。でも、達也と佑子はもう・・・。由美は隆弘に、変態的なプレイをされるのか?
俺が考え込んでいると、修司さんが軽く言った。
「悩み事は、自分で解決しなきゃ、な」
「な、じゃあ無いですよ! 今の流れなら、『悩みなら聞くぜ』、でしょう?」
「あのね、伸之さん。他人に相談するのは、まだ早いと思うの。もう少し悩んでみましょうか。それに、聞き役は私達じゃないですよね」
修司さんはともかく、綾乃も変な反応だと思った。綾乃は俺の悩みに見当がついているのか? 確かにこれは紗織と話し合うべきことかもしれないが、この娘がちゃんと話を聞いてくれるのか、不安があった。

   *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

部屋に戻ると、当然のことながら、まだ宴会は続いていた。さっきまでの飲んで騒いでの雰囲気とは変わって、静かに語らっているようだ。浴衣姿の奥様方が妙に色っぽく感じる。ていうか、顔が赤いせいか?
座椅子に背をあずけるように由美は座っていた。羽織を肩にかけているが、浴衣に乱れは無かった。すぐ横に隆弘がぴったりと寄り添っていたが、俺がいなかった時には、浴衣の合わせ目から手を入れるぐらいはしていたのかもしれない。何度も言うが、俺は隆弘がド変態だと・・・
「遅かったな」
「散歩でもしてきたの? ・・・はぁん・・・」
達也は座布団にうつ伏せになった佑子に『真面目な』マッサージをしていた。指圧であげた声が、あの時の声に聞こえてしまうのは俺の考え過ぎなんだろうけど、ついさっきまであんなに激しい行為をしていたようには見えない、今は穏やかな二人だった。
「温泉の後で露天のジャグジーがあることに気付いてさ、星空を見ながら語りあってた」
「へぇ、ジャグジーは露天だったのか。気付かなかったよ」
(いやいや、達也、お前も佑子と二人で・・・。)
突っ込もうかと思ったが、カズも紗織も黙っていたので、俺も聞き流すことにした。
「ノブ君もやってもらう? 冗談だと思ってたんだけど、達也のマッサージほんとに上手よ」
「嫌だね。男の体になんか触りたくねぇ」
「あ、ほら、やっぱり私に触りたいだけなんじゃない!」
「佑子も気持ちいい、俺も気持ちいい。何も問題無ぇだろ」
そう言いながら達也は腰の辺りを触っていた手を尻に。
「こらぁ!」
佑子は怒っている感じが全然しない。達也がたぶんわざとぎりぎりまで浴衣を捲り上げて足を揉み始めても、言葉と態度は全く別で、嫌がる素振りは見せずに身体を委ねている。
「ちょっと和ちゃん、どこ見てるの?」
エッチなことをされている佑子を見て興奮しているカズに、秀美が新妻らしいやきもちを焼く。・・・でも、佑子のマッサージ動画を撮影しているのはカズではなく秀美だった。
達也はしばらくきわどい辺りを触っていたが、これ以上エスカレートさせる気は無いらしく、佑子の浴衣を元に戻して今度は手のひらの指圧を始めた。
「ああ、それ・・・。なんかすごく気持ちいい」

さっきあんなものを見なかったら、二人はただ仲が良いだけの『職場の同僚』にも見える。それに触発されたのか、紗織が俺の方に向き直って正座しながら言った。
「嶋田先輩。私にもマッサージしてください」
「いや、それはさすがに・・・」
これだけ友人たちの目があるところで未婚の娘に触るのもなぁ・・・
「じゃあ、私がしてあげます」
「それもヤメテ」
「えーん、振られたぁ・・・」
「振ってないし。あ、そういうことじゃなくて・・・」
俺達のやり取りを見ていた佑子が、
「ノブ君、なんだか、さおちゃんと良い感じじゃない」
「え、そうかな?」
「お風呂の後ってことは、裸だよねぇ。二人っきりで裸でジャグジーで・・・『何か』してたのかなー」
軽く爆弾を投げる。
(何かしてたのは、あなたでしょうに・・・!)
「え、なに、あそこって水着着用じゃないの?」
秀美は風呂に行った後、カズが先に帰ったものと思って真っ直ぐ部屋に戻ったらしい。
「風呂入りに行ったついでなんだし」
それに、・・・と言いかけて、俺はやめた。途中から修司さん達が来たことは、ヒミツの二人を邪魔することになるから。
「あやしいなぁ」
「何もしてないって!」
内心のうろたえを隠して由美をちらっと見る。あれ・・・?
「・・・由美、具合悪いのか?」
ここぞとばかりにイジリにくるはずの由美が、おとなしくしている。変だ。
「ん、・・・少し、酔ったかな」
「外で風に当たってきたら?」
「一緒に行こうか?」
隆弘が軽く肩に触れた時、かすかに震えたように見えた。
「・・・いい。ここにいる」
風呂に行くまでは、わざと隆弘にしなだれかかったりして俺を挑発していた由美が、何かに怯えている。こんなキャラじゃないはずだ。隆弘が何をしたんだ。
隆弘が寄せたグラスに由美はおとなしく口を付ける。
由美はこんなに従順な女じゃないんだけどな。そういうキャラを被ったにしても・・・何か違和感がある。

思えば、今回の旅行は不自然なことだらけだった。
どう考えても、俺だけが知らされていないことがあるのは間違い無い。
しかも、俺が薄々そこに気が付いていることがわかっていそうなものなのに、それはまだ明かされる気配は無い。
俺がさっき見た光景は何だったのだろう。達也と佑子の不倫? 
普通に考えれば、あれは今回の旅行の『夫婦組み換え』の設定に従った、ただの下手な芝居のはずだ。まさか、芝居で本当にセックスするとは思っていなかったけど。
いずれにしても、少なくとも夫婦じゃない一組の男女二人がセックスしたのは事実だ。俺を含めて残り四組はどうなんだ?
俺が知らなかっただけで、他のみんなはもう『そういう関係』なんだろうか・・・
常識人だったはずの佑子の痴態を見て、さすがに乳児がいる綾乃やおとなしい秀美はそんなことしないだろう・・・という考えが揺らぎ始めていた。
別人を演じているのなら、普段だったら絶対にしないことだって・・・

そう言えば、あれから由美は常にチョーカーを着けていた。隆弘がSだとすると、あれは首輪の代わりのようなものなのかもしれない。だが、今はそのチョーカーが無かった。風呂から帰って来た時点でしていなかったが、入浴時に外してそのまま忘れているんだろう、位に思っていた。でも、隆弘がそれを許さないんじゃないかという気はしていた。
(チョーカーが下着と同じ色、ということは、まさか・・・着けていないのか? 下着を・・・。そういうサインなのか? 他にも何かされているのか? そうで無ければ、あの由美がこんなにおとなしくしている訳が無い。)
しばらくして、俺はようやく由美の違和感の正体に気付いた。飲むにしろ食べるにしろ、由美はさっきから全く手を使っていなかった。隆弘が運ぶままを口にしている。
腕を拘束されているんじゃないのか。由美だけが羽織をかけている理由もそれなら納得できる。S男ならやりかねないが、・・・俺の目の前でよくやる。
隆弘が俺を見て微かに笑った。セリフを考えるとすると、『楽しませてもらっているよ』、といったところか。

実は、隆弘にエッチなプレイを仕掛けられている由美に俺は激しく嫉妬していた。
俺にはできないが、どSな由美がS男に責められているのを見てみたい気もする。昨年のバーベキューの時の修司さんの寝取られ性癖告白に、気持ちがわからないと思っていた俺だが、今ならわかる。自分に少しでもこんな気持ちがあったなんて、意外だった。でも、実際に隆弘にエッチなことを仕掛けられて、おとなしくなってしまった由美の姿に新鮮な魅力を感じていた。いつも強気のこの女に、弱々しく『許して』とか言われてみたい。
一方で、由美をこんなにしてしまった隆弘には、底知れぬ畏怖を感じていた。実は、こいつはサディストには全く見えない。真面目で頭が良さそうで優しそうな男だ。達也やカズに比べれば会話も上品だし、物腰も柔らかい。そんな奴に由美はあっさりと落ちて、言いなりになっている。くじ引きで決まったからと言えばそうだけど、相手がカズや修司さんだったなら、たぶんこうはなっていない。由美は、後で何があったのか教えてくれるのだろうか。

俺も紗織に何かをしなきゃ、割りに合わない。そう思っていたら、隆弘に合図をされたわけでもないのだろうが、
「嶋田先輩、私もちょっと酔っちゃったみたい」
そう言って紗織が倒れ込んで来た。そのまま膝枕の態勢に持ち込む。
「かたーい。筋肉の枕だ」
「悪かったな」
「ううん、低反発でとっても寝やすい」
「ここで寝るなよ」
「駄目ですかぁ?」
「ここで寝たらみんなにいたずらされるぜ」
「どんなこと、されちゃうの?」
「もちろん裸にされて、身体には落書きだな」
「え、『肉便器』とか書かれちゃうんですか? いやーん」
「おま・・・! 」
俺は素早く周囲に目を走らせた。幸い、誰にも紗織の爆弾発言は聞こえていなかったらしい。さすがに変態隆弘の婚約者だ・・・
「何言ってんだよ・・・!」
「え、何のことですか?」
絶対にわかっているはずなのに、紗織は無邪気な笑顔。
「お前なぁ・・・。ほら、眠いんなら、部屋に行けよ」
「連れてって・・・」
紗織が俺を見上げながら浴衣の袂をつんつんと引っ張る。
・・・この娘には逆らえないと思った。
仕草とか表情とか・・・、自分が可愛いことを十分にわかっていて、それを武器に攻撃してくる。
(そういえば、由美にはこんな風に甘えられたこと無いかもなぁ)
「嶋田君、お姫様抱っこで連れてってあげたら?」
由美が首だけを横に向けて言った。
(もう、縛られているのは確定だな、こりゃ・・・)
「帰って来なくていいからな」

俺はもう一度この部屋に戻るつもりだったが、達也は帰って来るなと言う。
そんな気配は感じたことが無かったが、以前から俺抜きでこんなイベントをやっていたのだろうか。
考えたくはない。でも、俺以外の全員の振る舞いが少なくとも俺には『自然』に見えていた。
「じゃ、行くか」
俺はひょいと紗織を抱っこした。
「うーん・・・」
「なんだよ」
カズが首をかしげる。
「お姫様というより・・・普通に人命救助?」
「あのなあ・・・!」
紗織は俺を潤んだ眼で見ていたが、他の奴らには紗織の表情までは見えていなかったんだろう。


[17] Re: 信之の憂鬱  やま :2019/07/03 (水) 15:10 ID:k6Rk4eqU No.27175
更新、ありがとうございます。
少しづつ、楽しくなってきましたねー。

[18] Re: 信之の憂鬱  :2019/07/09 (火) 23:18 ID:7NgN/.W. No.27180
9 壁

お姫様抱っこで部屋まで連れて行き、ベッドに降ろしても紗織は首にかけていた腕を離さなかった。
「どうした?」
「終わるまで、質問は厳禁です」
「終わる、って・・・?」
「質問は、ナシ」
(これは、小悪魔の笑み・・・)
可愛い娘が俺に向かって笑いかけてくれているのに、俺はその笑顔の向こうに何か別の感情を感じていた。
強い口調ではないのに、紗織に勝てる気が全くしない。
納得はできなかったが、紗織が手を離してくれないのでとりあえず頷くしかなかった。ジャグジーで話題になった『悩み相談』をしたかったんだけど。
俺が納得してようやく紗織が腕を離してくれたので、俺は大部屋に飲み物を取りに行こうと思った。
「あん、行っちゃダメですよぉ」
「アルコール無しの飲み物、取って来るよ」
「ダメです。伸之さん、そのまま帰って来ないつもりでしょう」
「すぐ戻るって」
「ダーメ。それに、・・・ようやく二人っきりになれたのに・・・」
「あ・・・」
そうだ。昨晩は疲れてそのまま何もなく寝てしまった二人にとって、初めての二人だけの夜なんだ。
「二人でゆっくり飲みたいとか・・・、思いませんか?」
ベッドに横たわっていた紗織が身を起こしながら言う。俺は誰かに背中を叩かれた気分だった。紗織と二人でいる時も芝居を続けなきゃいけないのに。
(俺はこの娘と付き合うかどうか、という段階って設定なんだよな・・・)
「スパークリングワイン用意してあるんですけど、・・・一緒に飲みたいなー」
「ああ・・・」
「ちょっと待っていて下さいね」
紗織が洗面所から戻って来ると、手には氷水が入ったワインクーラーがあった。
「あっちに行きましょうか?」
窓辺のテーブルにクーラーを乗せて、向かい合わせに座る。冷蔵庫からは生ハムと白桃、チーズの盛り合わせが出てきた。
俺は確かにワインは好きだが、ビールも焼酎も好きだ。つまみはこんなオシャレなものじゃ無くても、するめでも冷奴でもイワシの缶詰でもピーナッツでも何でも良かったんだけど。
スパークリングワインのコルクを紗織はほとんど音を立てずに抜いて、俺のグラスに泡立つ液体を注ぐ。
(へえ、ずいぶん慣れた手つきだな・・・)
「かんぱーい!」

それからしばらくは他愛も無い話をしていた。設定としては、俺はこの娘と積極的に仲良くなろうとしなければいけない。というか、一線を越えなければいけないのだろう。でも、さすがにそれは・・・。出張先の飲み屋で出会った、名前も知らない相手ならともかく・・・。
ボトルが半分ぐらい空になった時、紗織が聞いてきた。
「信之さんは、私のこと嫌いですか?」
「嫌いだったら、こうしていないよ」
「そうかなぁ・・・」
紗織は不満げな表情だった。
ああ、そうだ。可愛い娘がこんな状態で待っていたら、普通なら一秒も考える必要は無い。でも、この娘は行きずりの相手じゃ無い。俺は結婚しているし、妻もこの娘の婚約者もすぐ近くにいる。しかも、二人とも俺達がこんな状態になっていることを知っている。内緒には出来ないんだ。分別のある大人なら、迂闊なことはするべきじゃない。特に、俺は紗織が未婚であることを気にしていた。相手が人妻でも、やってはいけないことに変わりはないが、結婚前の娘と寝てしまうのは、さすがにまずいと思う。迷っている間にも、ボトルはどんどん減って行く。
「ある意味、安心したというか、がっかりしたというか・・・」
(なるほどねぇ・・・)
「正直なところ、伸之さんがこんなに堅いとは思いませんでした」
「そりゃ、どうも」
「佑子さんじゃないと駄目だったんですかねぇ」
「さおりん、それは違うよ。まあ、佑子様だったら好きなだけ胸は触らせてもらうとは思うけど、その先は・・・」
「由美さんのことはどうなんです? 小池さんは、本当の変態さんですよ」
「それは感じた」
「ヒントも出してましたけどね。小池さんは、由美さんに・・・」
そうだ。奴は由美に・・・何かをするはずだ。そういえば、由美が外に行こうとしなかったのは、ひょっとして何か『電池で動く系』のヤツを仕込まれていたのか?
俺が紗織に何もしなくても、隆弘は由美と、ただのセックスじゃない、変態的なプレイをするとしたら・・・。
それでも、俺は紗織に何もしないのか?

「由美さんなら、縄も良く似合うでしょうねえ」
「な、縄かぁ」
「みなさんのいるところで始めてしまうかも・・・」
「まさか、・・・そこまでは無いだろ」
「気付いてたんですよね?」
「・・・腕は縛られてたんだろ。あと、下着も・・・」
「はい、おそらく・・・。でも、嫌がらずに従っています。伸之さんが気付いたっていうことは、他の皆さんも何人かは気付いているはずです。由美さんってMですか?」
「絶対に違うよ。あいつの性格はどSだ」
「・・・相手によって、MとかSは変わるんですよ。私だって、普段はどMです。前に付き合っていた人と、いろんなところで、いろんな人と、いろんなことを・・・」
「え・・・」
「あ、今のは忘れて下さい。言っちゃいけないところまで言っちゃいました」
隆弘の性癖は秘密ということなのだろうか。あ、隆弘は元彼じゃ無いんだっけ。
「これ以上の謎解きは明日の晩までお預けです。そして、夜のことは絶対に秘密です。お墓まで持って行って下さいね。何かがあったのか、何も無かったのか・・・」
「・・・わかった」
あそこまでしておいて、変態隆弘が由美とセックスをしないという可能性も残されていたが、俺は紗織とする。紗織が望んでいるのだから。何故かはわからないが。婚約者もいる可愛い娘が、既婚者の俺とセックスをしたがる理由がさっぱり理解できない。それに、他のカップルもそうだ。俺達は人並みにエロ話もできる間柄だけど、スワップなんてするようには思えない。
いや、俺だけが知らないだけで、やっぱり他の奴等は以前から・・・?
(くじ引きの結果では、佑子や綾乃、秀美が俺の相手だった可能性もあった。綾乃や秀美だったら、どうだったのか。佑子は・・・。)

ふと気付くと、紗織が俺の顔をじっと見ていた。考え事をしていて紗織のことを忘れていたらしい。
「あの、ごめんなさい。ずいぶん悩ませてしまいましたね。伸之さんがこんなに真剣に悩まれてしまうなんて、予想外でした」
「俺ってどんな風に思われてんの?」
「もう、質問はナシって言ったじゃないですか」
「まだダメなのか」
「だって、伸之さん、どMですもの。簡単には教えてあげません」
「Mじゃないよ」
とは言ってみたものの、紗織は相手にしていない表情だ。
紗織は俺のグラスが空になると、すかさずお代りを注いでくれる。
可愛い女の子と二人きり。その娘を俺は口説き落とさなければいけないのだが、その段階は既に過ぎている。俺が口説いていないのに、紗織はもう俺に落ちている。
「一本、空けちゃいましたねぇ」
紗織が手にしたボトルからは、逆さにしても何も落ちて来ない。
「足りないですか? やっぱり、凄くお酒強いんですね」
「もう、充分。さおりんだって、強いじゃない」
「そんなことないです。頭の中、ぐーるぐるですよ」
立ち上がった紗織が俺の側に回って来た。と思ったら、足がもつれて倒れそうになった。俺はとっさに手を差し伸べた、・・・つもりだったが、紗織を掴み損ねたばかりでなく、わざとでは無いが紗織を突き飛ばす形になってしまった。
「さおりん!」
慌てて抱き起こそうと立ち上がった俺も、酔っ払っていて足がもつれて倒れた。俺の目の前には怯えた紗織がいる。このままの勢いで倒れたら紗織を押しつぶしてしまう。・・・かろうじて手を出す程度の反射神経は残っていた。
「ごめん。大丈夫か?」
「やっと押し倒してくれた。はーとま―く」
「それは声に出さない。あ、そうじゃなくて、これは事故・・・]
「ん・・・」

紗織が頬に両手で触れ、そっとキスをしてきた。
拒むことはできなかった。
『キスまでならセーフ』って思ったのも事実だけど。

(ああ、この娘、キスも抜群に上手だ・・・)
特に激しいキスではない。優しく、蕩けるような・・・そんな感じだ。でも、紗織にキスをされて、俺は幸せだった。気持ち良いというか、嬉しいというか、・・・表現しづらいが、いつまででも紗織にキスしていて欲しいと思った。キスでこんな気持ちになるのは、初めてかもしれない。興奮するとかではなく、キスしていることが気持ち良かった。
長いキスから唇を離し、まだ頬を触りながら紗織が言った。俺はぼーっとしていて、紗織が見つめていたのにも気付かなかった。
「もっと早くキスまで持ち込めたら、伸之さんも悩まなくても済んだかもしれないのに、ごめんなさい」
「す、凄い自信だね」
俺はとても間の抜けた声を出してしまった。
「あら、その表情。元妻に見せてあげたいですね」
「うん、悔しいけど、・・・参った。キスだけなら、今までの人生で最高」
「うれしい。もっといじめてあげますね」
「だから、Mじゃ・・・」
再び唇を塞がれながら、俺の浴衣が肩脱ぎにされる。紗織の手を掴んでキスをやめてもらってから、俺は言った。
「あっち、行こうか」
「はい・・・」

ベッドの上では、俺が押し倒される番だった。紗織が俺の浴衣の襟元から中に手を入れる。そーっと鎖骨の辺りを触る。
「あ・・・」
自分の手なら平気なのに、俺は女の指で鎖骨の辺りを軽く触られるのが何故か弱い。その弱点を知っているのは由美だけのはずだ。
(こんなことまで話しているのか。)
「うふ、かわいい。女の子みたい」
巨人とか言っていたくせに。
俺は腕を頭の上で押さえつけられた。
「動かないでくださいね」
そして、紗織は俺の胸の上に馬乗りになり、俺の浴衣の帯を抜いた。
手首を帯で拘束されている間、俺は抵抗をしなかった。普段はどMだという紗織がSになって責めるというプレイに興味を抑えられなかった。どんなことをされるのか・・・
「こーんなに逞しい巨人が、どMなんて」
紗織は何だかすごく楽しそうだった。
俺は頭上で手首を帯で拘束され、はだけた浴衣を身体の下に敷いて仰向けに寝ていた。あとはトランクスだけだ。
「何て無防備なんでしょう。もう、責め放題ですねぇ」
俺は脱がされていたが、裸に抵抗が無さそうな紗織は、まだきっちりと浴衣姿のままだった。

ふと思いついたように紗織は俺の胸から降りると、スマホを向けた。
「ちょ、おい!」
「動いたらだめです。切り札は達也さんが握ってるんですよね」
「それ、ずるいよ・・・」
「エロマンガとか小説で良くあるじゃないですか。レイプされて写真で脅されて、って。ご気分は如何ですか?」
「良いわけ無いよ」
「私の言うことを聞いてくれるなら、絶対に誰にも見せませんから」
「・・・どうすれば良い?」
「別に、逆らわなければ、ひどいことはしません。痛いのは私も苦手なので」
紗織が俺の横に寝て、自分達にカメラを向ける。
「はい、良い顔して下さい」
みごとな『記念写真』だ。手を拘束され引きつった笑顔の被害者と、着衣のまま笑顔の加害者。その性別さえ逆なら、良くあるシチュエーションにも思える。
「もう、何て顔してるんですか。心配しなくても、ちゃんと気持ち良くしてあげますって」
「さおりんも・・・」
「私は、いいです。今日は伸之さんをいじられれば満足です」
「何か、やだなぁ」
突然、再び唇を塞がれた。紗織は俺の言葉なんて聞く気は無いんだろう。
(ああ・・・気が遠くなる・・・)
乳首を爪でかりかりと弄っている。俺はそこは特に感じる場所ではない。俺が無反応なのに、紗織はいつまでもキスをしながら乳首を弄っていた。
それよりも、俺は紗織に反撃したくてうずうずしていた。だが、腕は拘束されてしまっている。
もどかしい。触りたい。舐めたい。かじりたい。かき回したい・・・。
「何だか、もじもじしてますけど、どうしたんですか?」
(エロマンガなら、『感じてない』とか『いじわる・・・』とか言う場面だろうな)
それに、乳首なんか感じる場所じゃ無いのに、変な気分になりかけていた。
「俺もさおりんに、したいよ」
「必要ありません。伸之さんは、黙って私のいいなりになってくだされば良いんです」
どМのサディスト。優しく、俺をいじめる紗織。
キス以外のことはされていない。まだトランクスは脱がされていないし、そこに触れてもいない。これから、どれ程の時間をかけて責められるのだろう。俺は、セックスで味わったことの無い、初めての恐怖を感じ始めていた。一方的に感じさせられる恐怖。そして、いつまでもいかされないで生殺しにされる恐怖・・・。
紗織は気付いたらしい。いや、初めからそのつもりで・・・?
「うーん・・・これから気持ちよくなる人の表情じゃないみたい」
何も言えない。無邪気な笑顔が、逆に怖い。
嵌められた。紗織は自分が良くなることは要らないと言う。俺はこの娘に一方的に嬲られる運命なのか。


[19] Re: 信之の憂鬱  やま :2019/07/11 (木) 10:55 ID:cDooWLkg No.27182
更新、ありがとうございます。
遂に、一線を越えてしまうのでしょうか?

[20] Re: 信之の憂鬱  やま :2019/07/27 (土) 11:08 ID:nMN2ZLwk No.27197
あげます。
更新、待ってます!

[21] Re: 信之の憂鬱  :2019/08/07 (水) 21:30 ID:RcdB1yq6 No.27206
10 崩壊

「さおりん、こんなの・・・」
「伸之さん音を上げるの早過ぎますよ。まだ始まってもいないのに」
どれくらいの時間キスをしていただろうか。・・・まさか、キスだけでいかされたり?
「せめて、触ってくれない?」
俺は、トランクスじゃなければ『こんにちわ』しているはずの、下半身を見ながら言った。半分以上は、拒否される予感に絶望しながら・・・。
「あら、まだわかっていませんでした?」
(ああ、やっぱり・・・)
「質問の他に、要求も禁止です」
「えぇー」
そんなことだろうとは思っていたけど。
「キスはしてあげますよ」
今となっては、蕩けるようなキスも、辛いだけだ。
「キス、は」
紗織の唇が、俺の頬に場所を移した。いや、違う。
「して、あげ、ます、よ」
首筋、鎖骨、胸の筋肉・・・。場所を移してキス。
全身にキスの雨を降らせながら、忘れた頃にまた唇に戻って来る。
紗織が唇に戻って来ると、俺はほっとした。そして、幸せを感じた。また、キスしてもらえる・・・。
「さお・・・、いつも、こんな・・・?」
質問には一切答えない。嬉しそうに笑いながら、キスの雨は続く。なんだか本当に楽しそうだ。
過去に付き合った相手で、こんなに長い時間キスばかりしていた娘はいない。キスが好きな娘はいたが、気持ちが盛り上がってしまったら、結局は始まってしまうのが普通じゃないか。
感じる場所じゃないはずの乳首を紗織は舌と唇で弄ってから、胸の真ん中辺りから音を立ててキスを・・・
「あ、おい!」
密かに怖れていたことになった。紗織がキスマークを付け始めたのだ。これで明日も海だったら、・・・
(でも、こんなことになってるのは、バレてんだよな・・・)
今回は何故かイジラれキャラにされてるんだ。いまさら、恥ずかしいも何も無い。と思ったが、さすがに数が多すぎる。しかも、
「ひどいよ・・・」
「逞しい男の人の逆レイプネタっていったら、こういうのでしょう?」
「違うと思うぞ」
胸のキスマークが巨大なハート型を描いている。ただのキスマークよりも恥ずかしい。
「でも、嫌じゃないって顔してますよ」
「嫌だよ」
「泣かないで」
笑いながら、紗織がまたキスをする。
不思議な気分だ。恥ずかしくて、嫌で、もどかしくて、せつなくて。でも、この娘にキスをされると、癒される。好みのタイプとはまるっきりかけ離れているのに・・・。
まだ紗織のことは好きになれそうも無かったが、紗織のキスにはすっかり参っていた。
由美とはこんなに長い時間キスをしていたことは、たぶん無い。
俺達のセックスは子供を作るためのものでは無い。飽きないように、とはいつも思っていたが、完全に由美が主導権を握っている俺達だったから、新しい事を受け入れてくれるかどうかは危ない賭けだった。由美の機嫌を損ねたら、そりゃあ辛い日々が続く・・・。
でも、由美もあんな性格だから、喧嘩したとしてもあまり尾を引くことは無かった。大抵は俺が謝って、それで終わり。何事も無かったように元に戻るんだ。
自分に悪いところがあっても、それを認めたくはない。だから、俺が謝ったらそれで終わりにするつもりでいつも待っているんじゃないか。

「あの・・・、嫌なこと、思い出してしまいました?」
キスをやめた紗織が俺の顔を覗き込んでいた。
「ん・・・、何か幸せでさ・・・。さおりんのキスだけで、いろんなこと考えた。元妻とのこととか・・・」
「前の奥さんのこと・・・、考えていたんですか?」
「ああ、大好きだったからね・・・」
「今は、私のことだけ考えて」
「・・・ごめん」
「いいの。心に忘れられない女性がいる男の人を夢中にさせるのも、女冥利ですもの」
「さおりんはどうして・・・」
「こーら。どさくさ紛れに質問しようとしても、ダメですよ」
「ばれたか・・・」
紗織はあくまでもプレイとして、俺のことを好きになってくれているのだろう。
嫌じゃないんだろうか。隆弘の命令に従っているだけなのか。・・・質問を許されていないのがもどかしい。

『作品』はハートマークだけらしく、それからはキスマークが付くようなキスを紗織はしなかった。
全身にキスの雨を降らせながら、紗織のキスはとうとうヘソの辺りまで来ていた。もう、すぐそこだ。でも、やっぱりなかなか近付いてこない。
(じらされるの、ツライよ・・・)
紗織が再び口に戻って来てくれた。だが、軽くキスをして紗織は離れてしまった。俺は放置された気分でぼーっと天井を見ていた。
ふと見ると、紗織が見つめていた。何だか真面目な表情だった。
「伸之さん。・・・部屋、暗くしても良いですか?」
(え・・・。この娘、裸を見られるの、平気じゃなかった?)
「あ、良いけど・・・」
どうして、と思っても、もちろん質問には答えてもらえないので、俺は紗織の言う通りにするしかなかった。
後から思えば、紗織が聞いてきたということは、俺が拒否したら部屋は暗くしなかったのかもしれない。でも、その時の俺は紗織の言うがままだった。
カーテンをきっちりと閉め、照明を一つずつ消して行く。ついでにBGMの音量も少し大きくした。真っ暗になった部屋に、するすると衣擦れの音が聞こえる。

「念のため、目隠しもしますね」
「そんなことしなくても、全然見えないけど」
「慣れたら、見えるでしょ」
たぶん浴衣の帯だろう、紗織に目隠しをされた。平気そうなのに、何故見られたくないんだろう。でも、もちろん俺は質問はしなかった。答えてもらえるはずが無いから。
『チュ』と軽くキスをしてから、紗織は初めてトランクスに手を当てた。
「うふ、お待たせー」
最後までお預けかと半分は思っていたが、ちゃんとおさまりはつけてくれるらしいことがわかって、俺はほっとしていた。
「あらあら。ちょっと濡れてますねぇ」
くすくす笑いながら、撫で回す。
「我慢させ過ぎだよ」
「えー、何がぁ?」
「ほんとにイジワルだなぁ」
「いっぱい我慢したご褒美に、ちゃんと気持ち良くさせてあげますから」
「え・・・?」
「暴れちゃダメですよ」
「・・・ん、わかった」
トランクスを撫でていた手が握る手に変わった。
「かたーい。ここも筋肉なんですか?」
「違うし」
言葉も無く、トランクスが脱がされた。
「ちょっとぬるぬるしてるぅー。いっぱい我慢して、いい子ねー」
そう言うと、紗織はいきなり口に含んだ、・・・らしい。視覚を遮断された俺には触覚と聴覚だけが頼りだ。
わざとなのか、紗織はAVみたいな派手な音をたてている。由美も普通にフェラはしてくれるが、いつもはあまり音はさせなかった。
あれだけ長い時間のキスでじらしていたのに、こっちへの攻めはチロチロ舐めたりはしないのが不思議だ。
「さ、さおりん、激し過ぎ・・・」
「ん・・・まだ終わっちゃダメですよ」
「いや、ほんとにヤバい。すぐにいきそう」
「じゃあ、・・・最初はすぐに終わっても許してあげます」
ということで、紗織は手加減はしてくれなかった。とにかく俺をいかせることしか考えていないのか・・・?
あ、口だけで終わりにするつもりなのかも・・・。
達也と佑子はホントにセックスしてしまったが、紗織はそのつもりは無いのかもしれない。結婚前の身だし。
そろそろ、ほんとにヤバいと思っていた俺に配慮している筈は無いのだが、紗織は口での行為を止めた。
ベッドの上を動く気配がした。俺の上に跨ったことがはっきりとわかる。
(え、まさか、ホントにするのか?)
俺はこの期に及んでもまだ、紗織は挿入まではしない、手か、せいぜい口で済ませるものだと思っていた。ド変態の隆弘の婚約者が処女だとは思っていなかったが、するのは・・・。


[22] Re: 信之の憂鬱  やま :2019/08/08 (木) 14:32 ID:ZxxLQAgQ No.27207
いいところで、終わりますねー。
早く、続きをお願いします。
他の人も楽しみにしてる筈です!

[23] Re: 信之の憂鬱  やま :2019/09/11 (水) 12:40 ID:/O1MtWqQ No.27246
上げます!!
続きを楽しみにしてます。

[24] Re: 信之の憂鬱  けんけん :2020/05/08 (金) 01:58 ID:ddE4dVnE No.27492
いつも更新を待っております。頑張ってください!


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