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新スレ消えた妻と笑う町

[1] スレッドオーナー: 和也 :2026/09/30 (水) 08:43 ID:l4KhJUBo No.33340
引越し用の段ボールがようやくすべて片付いたのは、
都心から車で一時間ほどの場所にある山あいの
小さな町に暮らし始めて二週間が経った頃だった。

夫の和也(かずや)と妻の恵美(えみ)は共に30代半ば。
東京の狭いマンションでの生活に見切りをつけ、
土地代の安さに惹かれてこの町に中古の一戸建てを購入した。
近隣の住民たちは誰もが温かく、気さくに声をかけてくれた。
都会の冷たさに慣れていた二人は、この町の親切さに
すっかり毒気を抜かれていた。

「いい場所が見つかって本当によかったね」

リビングでコーヒーを飲みながら恵美が微笑む。
その笑顔に、和也も深く頷いていた。

秋が深まる頃、自治会が主催する村祭りの日がやってきた。
夜になり、公民館で「直会(なおらい)」が催された。
会場には手作りのごちそうと大量の酒が並べられている。
参加者のほとんどが夫婦同伴で、どこのテーブルでも
仲睦まじく杯を交わしていた。

その光景に警戒心をすっかり解いた二人は、
周囲から勧められるままにグラスを重ねていった。

「和也さん、恵美さん、ようこそ我が町へ!」

地元の住民たちが代わる代わる注ぎに来る酒は強く、
次第に会場全体の酔いが深まっていく。
やがて公民館の隅に置かれたカラオケセットに
電源が入れられ、どんちゃん騒ぎが始まった。

酒が回るにつれ、どこか淫靡で異様な熱気が会場を包み始めた。
デュエットが始まると、酔った男たちが他人の妻の腰や背中に
自然な手つきで触れ、女性たちもまた嬌声を上げて
それを受け入れている。周囲からは下世話な野次と歓声が飛び交い、
誰一人としてそれを咎める者はいない。

和也は酔った頭で「田舎特有の無礼講なのだろうか」と
違和感を覚えつつも、身体が重く動かなかった。

やがて、自治会の役員を務める中年男性が恵美の手を取り、
マイクを持たせた。

「さあ、恵美さんも一曲いこう!」

イントロが流れる中、役員の男は親しげに恵美の細い腰に手を回した。
恵美は困惑したように和也へ視線を送ったが、
酒のせいでうまく拒めない様子だった。
曲が進むにつれ、男の手は徐々に上へと這い上がり、
服の上から恵美の豊満な胸をしっかりと掴んだ。
恵美の顔が強張る。

「……おい!」

和也は怒りと焦燥感で立ち上がろうとした。
しかし、その肩を柔らかい手が強く押さえつけた。

「まあまあ、和也さん。次は私と一緒にデュエットしましょうよ」

隣に座っていた色っぽい雰囲気を纏う女性住民が、
艶めかしい笑みを浮かべて和也の腕に自らの胸を押し当ててきた。
彼女は和也の手に新しいグラスを握らせる。

「ほら、これ飲んでから。ね?」

妻を助けに行かなければという焦りとは裏腹に、
強い酒の匂いと女性の香水、そして脳を痺れさせるような疲労感が
和也の思考を奪っていく。
恵美の助けを求めるような視線が、混濁していく視界の向こうで
引きちぎられるように遠ざかっていった。

そのまま和也の意識は、深い闇の中へと落ちていった。


[2] Re: 消えた妻と笑う町  和也 :2026/10/02 (金) 00:17 ID:tITr6WQM No.33351
◇分岐1-1

肌寒さに目を覚ました。

冷えたフローリングの感覚。重い頭痛とともに目を開けると、
そこは見覚えのある自宅のリビングだった。
和也は自分が一枚の衣服も身につけておらず、
完全に裸で床に倒れていたことに気づく。

「な……んだ、これ……」

慌てて体を起こし、壁掛け時計を見る。
長針と短針はすでに午前6時を回っていた。

「恵美! 恵美!」

喉の渇きを覚えながら、裸のまま家の中を探し回る。
寝室、浴室、トイレ、どこにも妻の姿はなかった。
恵美の普段着や鞄は部屋に残されたままだ。
脱ぎ捨てられた自分の服を引っ張り出すように着込み、
恵美の携帯電話に発信した。

……プルルル、プルルル。

呼び出し音だけが虚しく響き、やがて留守番電話に切り替わる。
何度かけても反応はない。

血の気が引いていくのを感じたが、
この日はどうしても外せない極めて重要な商談が控えていた。
冷たいシャワーを浴びて強引に目を覚まし、
和也は後ろ髪を引かれるような思いで車を走らせた。

一度職場に寄り、資料を整えてから取引先へと向かう。
しかし、頭の中にあるのは昨夜の不気味な宴の光景と、
恵美の青ざめた顔だけだった。

「……伊藤さん、伊藤さん? 聞いていますか?」

商談中、相手企業の担当者に声をかけられ、
和也はハッと息を呑んだ。
説明は支離滅裂になり、手元は震え、
提示すべき数字を大幅に間違える。
重要商談は見るも無残な結果に終わった。

上司からの叱責も耳に入らないまま、
和也は逃げるように会社を飛び出し、車で自宅へと引き返した。

移動中も何度も恵美の携帯を鳴らしたが、
機械的な応答アナウンスが流れるばかりだった。



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