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[1] スレッドオーナー: :2026/08/04 (火) 08:46 ID:rzjUuPWU No.33044
ほぼAIに手伝って貰ってます。
AIが苦手な方はご遠慮下さい。


序章 違和感

その日は、久しぶりに定時で仕事が終わった金曜日だった。去年の八月に立ち上がったプロジェクトは、年が明けてもまだ中盤に差し掛かったところではあったが、ようやく大きな山を越え、多少の余裕が戻ってきていた。健一郎は電車の中で、妻の律子に「今日は早く帰れそうだ」とメッセージを送りながら、ふと数えてみた。――前に律子を抱いたのは、いつだったか。指を折るまでもなく、答えはすぐに出た。もう半年近くが経っていた。

そんなに間が空いてしまったのか、と健一郎は自分でも驚いた。忙しさにかまけて、気づけばそれだけの時間が流れていることに、申し訳なさが込み上げる。それでも、今夜は。そう思いながら帰宅した健一郎は、風呂上がりの律子を、寝室で背中から抱きしめた。

「なあ」

短くそれだけ言うと、律子は少し驚いたように振り返り、それから小さく頷いた。

いつものように愛撫を始める。二十一年連れ添った身体の、隅々まで知っているつもりだった。けれどその夜、健一郎はいくつかの違和感を覚えることになる。

まず気づいたのは、感じ方だった。律子はいつもより早く、深く息を乱した。愛撫だけで一度、いや、これまでにない反応で果てた後、律子は健一郎の耳元で「今日は大丈夫だから、そのままでいいの」と囁いた。安全日――そう言われて、健一郎は少し驚きながらも、その言葉に従った。避妊をしない行為は、もう十年以上ぶりのことだった。

熱を帯びた律子の中に身を沈めていったその時――律子が、これまで一度も見せたことのない反応を見せた。低く喘ぐような声を漏らしたかと思うと、身体を大きく震わせ、健一郎にしがみつくようにして果てたのだ。陰核への愛撫でしか絶頂したことのなかったはずの律子が、初めて、中だけで達した。

「もっと……深く」

律子の口から零れたその一言に、健一郎は一瞬、動きを止めた。自分の知っている律子の言葉ではなかった。だが律子自身、その言葉に驚いたように口をつぐみ、それきり何も言わなかった。

行為の後、律子は健一郎の腕の中で、何かを言いかけては「ううん、何でもない」と首を振った。その夜、健一郎はまだ、それを深く考えなかった。半年ぶりの行為、しかも避妊なしとなれば十年以上ぶりだ。身体の反応がいつもと違っても、不思議ではない――そう自分に言い聞かせて、健一郎はいつものように事後の会話を楽しみ、律子の中で果てた満足感に浸りながら眠りについた。

けれど、その夜を境に、健一郎の目は自然と律子の細部を捉えるようになっていった。

数日後、洗面台に立つ律子の唇の色が、いつもより少し赤みの強い、艶のある色になっていることに気づいた。今まで律子が選ぶ口紅は、もっと控えめなベージュ寄りのピンクだったはずだ。前髪の分け方も、心なしか変わった。顔周りに後れ毛を残す、少し柔らかい印象の髪型――以前の律子は、そういうものにあまり頓着しないタイプだった。

ランドリーボックスの中に、見慣れない下着があった。バックがレースになった、いつもの律子の趣味からすると華やかすぎるショーツ。乾燥機を開けた時にも、律子が取り出し忘れたらしい、胸を小さく見せるためではない、むしろ形を綺麗に見せるためのブラジャーが目に入った。健一郎は何も言わず、それをそっと元に戻した。

律子がスマホを手にする回数が、以前より明らかに増えていることにも気づいた。着信音が鳴るたびに、少し慌てたようにリビングから寝室へ移動する律子の後ろ姿。健一郎はまだ、それを疑いという形にはしていなかった。ただ、何かが変わった、という感覚だけが、静かに積み重なっていった。

そして、ある時ふと気づいたことがあった。四月頃、律子は何気ない会話の中で、たびたび「黒澤さん」という名前を口にしていた。「今日、黒澤さんがね」「黒澤さんって面白い人で」――特に気にも留めていなかったその名前を、ここのところ、まったく聞かなくなっていた。

健一郎は何の気なしに、律子の勤め先のディーラーのホームページを開いてみた。営業スタッフの紹介ページに、黒澤大輔という名前と顔写真、短いコメントがまだそこにあった。異動はしていない。同じ職場に、今もいる。

その事実に行き着いた瞬間、健一郎の中で、ひとつの直感が確信に変わった。――名前を聞かなくなったのは、彼がいなくなったからじゃない。俺に聞かれたくない関係になったから、話せなくなったんだ。

一ヶ月後、二度目にその夜が訪れた。今度は律子の方から誘ってきた。しかも、これまで一度もしたことのなかった体勢で、自ら健一郎の上に跨がってきた。慣れた、滑らかな動き。健一郎の知らない律子の身体の使い方だった。やがて律子は身体を震わせて果て、そのまま健一郎を受け止めながら、余韻に浸るように目を閉じていた。

「ねえ、もう一回――」

言いかけて、律子は自分の言葉に驚いたように、慌てて「ううん、なんでもない」と誤魔化した。健一郎は、何も言わずにその頭を撫でた。もう、疑う余地はほとんど残っていなかった。

さらに三ヶ月ほどが過ぎた、三度目の夜。いつものように愛撫を始めた健一郎は、すぐにその変化に気づいた。

「……剃ったのか……?」

思わず零れた健一郎の言葉に、律子は恥じらうように、けれど言い訳はせずにただ一言だけ返した。

「……んふっびっくりした?」

先月先々月同様、いや、その時よりさらに律子は敏感になってる。前戯で立て続けに二度律子は身を震わせ果てた。掠れた声で「今日は大丈夫だから」と囁く律子は、続けて「パパ、来て」と、健一郎を促した。切なそうに柔軟に身を撓らせ健一郎に応える律子は行為の終わりに大きく身を震わせて果てた。

事の後、健一郎の胸に頭を預けて息を整えていた律子が、やがて身を起こし、これまで一度もしたことのなかった行動を見せた。足元に移動すと不意に温かな感触に包まれ、やがて律子の求めに応えられるようになると、滑らかに健一郎を跨いで没頭し始めた。健一郎はその二度目の求めに、静かに身を任せながら考えていた。

――こうして俺を求めてくるということは、律子は必ず俺のところに帰ってくるつもりがあるということだ。妻の愛は、失われていない。二人の絆は、そんなに浅いものではないはずだ。

健一郎は自分にそう言い聞かせながら、やがてパパっパパっ愛してるっと切なく叫ぶ律子の中に果てた。

忙しさにかまけて、律子との時間を疎かにしてきたのは自分の方だ、という自責の念が、まず胸を占めた。子供を産み、育て上げるという、人間としてのひとつの義務を果たした律子が、その先に何か新しい自由を求めることは、果たして罪なのだろうか――そんな問いさえ、健一郎の中に浮かんでは消えた。

裏切られた、という感覚は、不思議なほど薄かった。それよりも強く胸の奥に居座っていたのは、律子には決して明かせない、自分自身の中の昏い昂りだった。健一郎はそれを誰にも――律子にさえも――打ち明けるつもりはなかった。ただ、今はその感覚を、静かに味わうことにした。
序章終
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