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ウェディングドレスの妻

[1] スレッドオーナー: 佐山 :2025/10/25 (土) 02:07 ID:fm1CrgoQ No.32402
『なんでも体験告白』から移りました リライト版です。

◇登場人物

・私、佐山康則(58歳)電機メーカー勤務
 身長165p 明るい性格 腰痛、肩こり、下戸 のイメージ  
 趣味は映画・スポーツ鑑賞、ハイキング

・妻、佐山幸代(旧姓伊藤)(55歳)スーパーでレジや品出しのパート社員
 身長158cm、普通体系 黒髪、肩にかかるボブ、ナチュラルメイク、
 スニーカー、靴下、自転車、ブランドよりもトップバリューのイメージ
 趣味は庭いじり 綺麗よりも笑顔が愛らしい可愛い系

・私たち夫婦は、結婚30年、シニアらしい平凡でのんびりとした普通の暮らし

・子供(長男:大樹(28歳)、長女:里奈(26歳))ともに成人未婚、県外勤務


◇本文 〜特に同年代の男性の方に自分に置き換えて読んでいただきたい〜

5月終わりの頃……

爽やかな風が、薄く開け放った掃き出し窓から部屋に入り込み、レースのカーテンをふわりと膨らませた。

庭の片隅にある小さな花壇では、妻 幸代(55)が手をかけて育てているミニバラの枝先に、ひとつだけ小さな花が静かにほころんでいた。
朝、彼女は軍手をはめた手で枝ぶりを整え、しゃがみ込んで黙々と土に向かっていた。
デニムとスニーカー、ゴムで束ねた髪。Tシャツの背中が陽の光を透かし、まるでひとつの風景画のようだった。

幸代は年齢的には50歳代の半ば、身長は157-158cmと比較的小柄ではあるが、体形も姿勢も全くと言っていいほど崩れることなく 若々しい外見で、特に外見に貫禄?の出始めた私からすれば、同年代として素直に羨ましく思えてくる。
いや それどころか、なぜか彼女だけは歳を取らないようで、悔しくもあり負けた気にすらなってしまう。

今日、日曜日の昼食は、冷やしうどんと昨晩の煮物の残りだった。
飾り気のない地味な献立だけど、それが彼女らしい。
温もりがあって ほのぼの感があって、体の奥が「思い出してくる」ような味。

軽い昼食を終えた 私 佐山康則(58)は新聞を広げたまま、うたた寝をしていたらしい。
目を覚ましたとき、いつのまにか陽射しは傾き、室内の影が深くなっていた。

幸代はローテーブルに片腕を乗せて、もう一方の手でひざを軽く抱えるようにリラックスして座っていた。
黒髪をざっくりとひとつに束ね、グレーのコットンシャツとくたびれたベージュのパンツ、足元は白い靴下。
それだけの装いなのに、どこか整って見える。 むしろ、年を重ねた女性だけが纏える、落ち着いた清潔感と“奥行き”のようなものが そこにあった。

ふと、私の視線に気づいたのか、幸代がこちらを見た。

「あっ……トオサン? そういえばね……」

「ん?」

まだ夢の名残をまとったような、鼻にかかった声が自分でも可笑しかった。

「再来週の日曜日だけど…… 午後って、なにか予定ある?」

「再来週? いや ないよ。 知ってるだろ? 日曜はいつもヒマしてるって」 私は即答した。

「ならよかった……」

「なんで? 何かある?」

「うん なんかねー、冗談みたいな、でもけっこう真面目な話で……」

彼女の声が、わずかに調子を変えた。
いつもより、ほんの少しだけかしこまった口調。
でもその奥には、どこか照れを含んだ笑みが滲んでいて、その“間”だけで私は胸の奥がざわついた。

「何? 真面目な話? カアサンの? 相談事か? それともトラブル?」

「ううん、そんな大げさなことじゃないけど……」

ぽつりぽつりと、幸代が話し始めた。

彼女がパートに行っている中堅スーパーが、最近 ブライダル関係の企業と業務提携を結んだという。
いわゆる異業種提携というやつだ。
その一環として “シニア世代のためのブライダル・プロモーション” なる企画を始めたらしい。

「“熟婚式”とか“再誓式”“新寿式”、あと“年輪婚”“円熟婚”“オトナ婚”とか呼ぶみたいで…… 人生の後半に、もう一度 幸せの節目をつくるんだって…… なんか最近 いろいろあるよね」

人生100年と呼ばれ始めた、今からの時代ならでは の企画だ。
そんないわゆる「シニア婚」のパンフレットや動画に使う素材として、社内でモデルを公募していたらしく、なんと幸代が“花嫁モデル”に選ばれたのだという。

「何回も、ホントに何回も断ったんだけど……」
「だって、わたしなんかよりも…… ね」と回想する幸代。

更には パート仲間の強い推薦と、スーパーの課長から本社への熱い後押しもあったとのこと。

「シニアの生活感が出ている“ごく普通の一般の人”が求められていたんだって……」
「ちゃんとしたモデルさんじゃなくて、素人。 できれば“地元住みの女性”っていうのが、コンセプト?みたいなのに合うみたいで……」
「あと、年齢的には50代の半ばの人 って えっ? それ、わたし? って…… なんだかんだでドンピシャだったから……」

まるで誰かに言い訳でもするような口調で、立て続けに そして一方的に、私に捲し立てた流れで、

「ねぇ、どうしたら良いと思う?」と今度は真面目な顔で訊いてきた幸代。

「え? どうしたらって…… そんなのオレに聞かれても……」

突然、そんなことを振られて、私も どう答えて良いのか、わからない。

すると幸代が、ふっと軽く息を吐きだして、

「というか、もうほとんど 話は決まってて…… 断れない雰囲気なんだよね……」

そう言って、少しだけ視線をそらした彼女の口元に、かすかに恥じらいが浮かんでいた。

「は? マジで? 冗談だろ?」

少しトーンの上がった私に合わせるように幸代の音量もアップした。

「わたしだって冗談って思いたいよー!」

「え? じゃぁ、申し込んだの?」大げさに目を丸くした私。

「もぉ! そうじゃなくて…… 申し込まされたの!!」と頬を膨らませた幸代。

「あはは、罰ゲームだな、それ」

素直に笑いが喉の奥からこぼれた。
普通に滑稽で笑わずにはいられなかった、というのが私の最初のリアクションだった。

「あー 罰ゲーム…… たしかにね。 でもそれより酷いかも」

けれど、彼女の顔は笑っていなかった。
いや、笑ってはいたけど、それは“困惑の中にある照れ”のようで。
冗談で済まされるような話では、なさそうだった。

イベント自体も中堅どころの映画制作会社のしっかりとした撮影部隊が入るらしく、それなりのスケールで実施されるらしい。

「というか、ドレス着るの? それとも白無垢だっけ? 和服とか?」

私は別にどちらでも良いものの、なんとなくの興味本位と彼女との話し合わせのために聞いてみた。

「んー、それが…… ドレス、純白のウェディングドレスなんだよね…… せめて和装だったら、私もここまで悩まないのだけど、ね」

「へぇー、ヒラヒラでフリフリの白いドレスか…… じゃぁ、オレはシニアの花婿か?」
「今さら加齢臭で腹が出たオヤジがタキシード着て、蝶ネクタイして…… 鼻毛も切らないとな…… あははっ」

おチャラケ気味に私が言うと、意外にも真剣な表情で幸代が返してきた。

「じゃぁトオサンは…… 花婿さんの役を頼まれたら、本当にやりたいと思ってる? やってくれる?」

私は間髪入れずに返した。

「絶対に嫌だな、ムリ 無理、恥ずかしすぎるし、世間の笑いものになりたくないよ」

「そうよね…… やっぱり無理な話よね…… 笑いものか……」

幸代は口元に笑みを浮かべ そう答えたものの、ほんの一瞬だけ 冷めたような目線を左下に向け、そして軽く口先を締めた。
長年 生活を共にした私だけが知る、彼女が 機嫌を損ねた時や気分を害した時などに見せる ほんの微かな “ネガティブなジェスチャー” だった。

(あれ? ヤバいな……  これはマジで怒らせてしまったかな?)

そう思った私は、新聞を折り畳みながら、わざとらしくため息をついてみせた。
いちおうは、幸代の気持ちに寄り添うようにしないといけない、と思ったのだ。


[24] Re: ウェディングドレスの妻  アントラー :2025/11/19 (水) 09:12 ID:gU8knUwU No.32450
佐山さんからしたら、単なるb社内イベントでの出来事だと思っていたのが
とんでもない方向に奥様が行くのでないかという不安を呼び起こす
変貌ぶりだったのでしょうか?これからのこの催しの顛末と
奥様のその後が気になります。


[25] Re: ウェディングドレスの妻  ボルボ男爵 :2025/11/19 (水) 18:31 ID:k7Bt5QKw No.32451
佐山様

あまりコメントを入れると急かすようで申し訳ないなと思ってはいるのですが
やはり次が気になって仕方ありません。
奥様は奥様であってしかし別人のような妖艶な美を纏っているのかな、
などと自分の妻に置き換えるのですが現実の妻はそれとは程遠く、ソファに寝そべってスマホ三昧。


[26] Re: ウェディングドレスの妻  佐山 :2025/11/19 (水) 21:35 ID:E7njNJj2 No.32452
初級さま、けんけんさま、きーくん様,アントラー様、ボルボ男爵さま  コメントをありがとうございました!



それは、ただの化粧ではなかった。
日常の延長にある“おしゃれ”ではなく “演じるための顔”。
皮膚の上に別人の人格を重ねた、もう一つの仮面のようだった。

ブライダルメイク……

ファンデーションは肌のトーンを一段階明るくしながらも、厚塗り感はなく、艶やかな質感が光を静かに跳ね返していた。 まるで陶器のように滑らかで、もとの肌の温かさがわずかに透けていた。

頬には、淡くローズを帯びたチークが、内側からにじんだ熱のようで、メイクであることを忘れさせた。

細く鋭いアイラインが、目尻にかけてわずかに跳ね上がり、彼女のまなざしにほんの少し“攻め”の意志を宿していた。
アイシャドウはブラウンからベージュのグラデーション。
光の加減によってはゴールドすら浮かぶような、絶妙な濃淡の層がまぶたを深く見せていた。
まつげは長く、一本一本が丁寧にセパレートされていて、瞬きのたびに、それが羽ばたくように見えた。

何よりも印象に残ったのは、唇だった。
深紅というよりも、毒を秘めた果実のような艶やかで光沢のある危険な赤。
ワインのように熟した、決して軽くはない、甘さと重さと濃さを併せ持った赤。
それは、口元の微笑を曖昧にし、感情を奥に隠すような色だった。
厚すぎず、尖りすぎず、でもただならぬ緊張を帯びた口元は、まるで“迷いを塗りつぶす”ための紅で、それは官能的でもあり さらに怖さすら感じるくらいの圧があった。

(こんな色、幸代が選ぶだろうか?) 

ふと、そんな疑問が私の胸をよぎった。
彼女の顔は、たしかに美しかった。 
だが “私の知る、30年連れ添った妻の顔”ではなかった。
ガーデニングを好み 控えめで地味でありながら、どこか ほのぼのとして笑顔の似合う可愛い妻、幸代。
そんな彼女が、今はあまりにも完璧で、あまりにも作りこまれた“他人の顔”になっていたのだから。
見てはいけないものを見てしまったような、本能的な拒絶反応すら、私の中に芽生えていた。

幸代は鏡に映る “花嫁” に向かって、ほんのわずかに眉をひそめ、首をかすかに傾げた。
完成された“他人の顔”を前にして、どこか居心地の悪さを感じているような表情を浮かべていた。

そして幸代の真っ赤な唇が静かに動いた。

「……なんか 違う……」

声には なっていなかった。 けれど、はっきりとその言葉が唇から読めた。
彼女自身、自分の変貌をまだ受け入れきれていないように見えた。

私はその背中を、ただ静かに まるで時間ごと凍ったように見つめ続けた。

幸代はそっとブーケが並ぶ棚の前に移動した。
色とりどりの花の中から、何かを選ぼうとして、でも決めきれない様子。
彼女の指先は、どこかためらっていた……
一輪を手に取っては 戻し、また別の花に目を向ける。
その仕草は、もっと遠くの別の何かへ 問いかけをしているかのようだった。

「これは本当に私の花?」「本当に……?」

そんな彼女の心の声が、指の動きの裏から聞こえてくるようだった。

部屋には、スタッフの気配も物音もなく、今この瞬間、控室にいるのは私と幸代、二人きり。
静まり返った空間の中、かすかな衣擦れの音や、ドレスが床をかすめる微かな音さえも、やけに大きく鮮明に響いた。

私は思わず幸代に声をかけようとしたが、言葉が出なかった。

なぜならそこにいたのは、「美しすぎる他人」だったから。
今、幸代は完全に私の届かない場所にいた。

私は立ち尽くすしかなかった。
息を潜め、まるで時間の外にいるかのように。

(見てはいけないものを見てしまった、見ない方が良かったかもしれない……)

そんな気持ちになった私は、まだ幸代に気づかれていないのを幸いに、ゆっくり後ずさりしながら扉に 後ろ向きのまま手を掛けた。

コンッ カタッ…… 何かが接触した音。

(しまった!) 

小さな音だった。
けれど、あまりにも静まり返った室内には、はっきりと響いてしまった。


[27] Re: ウェディングドレスの妻  ボルボ男爵 :2025/11/26 (水) 08:53 ID:S4/fN1Fw No.32463
ご主人に気がついた奥様はいつものままの奥様だったのでしょうか
「あら、トオサン」って微笑みかけてくれるのでしょうか。
続きを楽しみにしております。


[28] Re: ウェディングドレスの妻  還暦 :2025/11/27 (木) 16:49 ID:368hIvFk No.32465
ブライダル関係の企業は近年、結婚式、婚礼や披露宴、挙式などの
イベント「ウェディング」が簡素化により、近年、大変な時代です。

その一環として “シニア世代のためのブライダル・プロモーション”
なる企画をされたんですか。奥さんの幸代さんが“花嫁モデル”に選ばれたのですか
奇麗な方なんでしょうね。

週刊誌などに、自分の体の老化を感じ始めた30代〜40代前半の女性は今の姿を
残しておきたいとアート性の高いヌード撮影を求める傾向が増へていて
偽フォトスタジオもあるようです。


[29] Re: ウェディングドレスの妻  佐山 :2025/11/27 (木) 19:47 ID:ziTb7cCw No.32466
ボルボ男爵さま、 還暦さま  コメントをありがとうございました!




コンッ カタッ…… 室内には、はっきりと響いてしまった。

幸代が振り返る。

彼女の眼差しは、音がした方向 つまり私の姿を捕らえた。

目が合った瞬間、私は動けなくなった。

「……えっ? トオサン、来てくれたんだ…… 気がつかなかったよ、ごめんね」

その声は嬉しそうで、ほんの少し照れたような色を帯びていた。
けれど、彼女の瞳は、どこか揺らいでいた。
弱々しく、必死に平静を装おうとしているのが透けて見えた。

「どうかな…… 似合ってる?」

軽くおどけるように言いながら、私のために幸代はゆっくりと純白のウェディングドレスを纏った身体を回した。
重厚なトレーンが波打ち、床を滑り 弧を描くように揺れ靡き、光を掬って煌めいた。

彼女の仕草には、喜びと同時に 慣れない場所に立つ不安が染み込んでいた。

「こんなにメイクが濃いと、いろいろ誤魔化せるんだよ」
「でも、さすがに 化けすぎだよね……」
「目元も鼻筋も、あとフェイスラインも。 なんか すごいでしょ?…… ほらっ」

照れ隠しもあるのか饒舌になりながら グローブ越しに自分の頬を指でなぞるしぐさは、どこかぎこちなく、わざとらしさすら感じられた。
まるで「自分の顔に慣れない」と訴えているようだった。

「わたしじゃなくなった、みたい…… かな?」

笑いきれていない彼女のその様子は、まるで自分の顔に“他人”のような距離感を感じているかのようだった。

その言葉に、私の中で何かがふっとほどけた。

(幸代は、いや 幸代“も”不安なんだ……)

私は彼女のそんな心情を理解したつもりで、にっこりと笑顔を作り、精一杯のジョークを並べ立てた。

「うん、カアサンじゃないみたいだなぁ…… 50代のオバサンには見えないよ、ホントに50代か?」
「ってか、本当にカアサンか? ずいぶん 若返らせてもらえて 良かったな あはは……」

少し間をおいて、幸代が小さく笑った。

「もぉ! トオサン! また、そんなことを言って……」
「トオサンって、まったく素直じゃないんだから〜」

それは “いつもの幸代” の声だった。
嬉しそうだった。
まるで私と再会したことで、一気にいつもの自分に戻れたことに安心しているかのように いつもの幸代の口調に戻っていた。

(カアサンって呼んでくれた、トオサンって呼べた……)

純白の鎧を纏い、妖艶な仮面を被った幸代だが、その声と表情は 初めてこの部屋で温かみを得たような気がした。

一方の私も(カアサンと呼べた、トオサンと呼んでくれた、ことに)気を良くして、意識して声を張って返した。

「いや〜 やっぱりオレの奥さんだ、すごく綺麗だよ…… カアサンの晴れ姿、子どもたちにも見せてやりたいくらいだな……」
「大樹も里奈も、絶対に同じことを言うよ…… カアサン、綺麗! って」

冗談まじりに聞こえたかもしれない。
ただ、私はこの一言に すがるような気持ちを滲ませた。

(幸代をどこにも行かせたくない……)

4人家族として、30年連れ添った夫婦としての絆を、この一言で繋ぎ止めておきたかったから。
私は、とにかく 家族 夫婦 子どもたち、この言葉を口にせずには いられなかったのだ。

幸代は、ふわりと表情を緩め笑った。

「え〜 子どもたちにも? それは、恥ずかしいよ〜。 でも…… あの子たちも、きっとビックリするよね」

「うん、ビックリしすぎて、声が出ないかもな……」

ほんのひととき、あたたかい空気が夫婦二人の間に満ちた気がした。

ふと、幸代は私の足元を見て くすっと笑った。

「わたし、トオサンと背の高さが並んじゃったかもね……」

幸代はそう言って、スカートの裾を持ち 重厚なトレーンを従えて、ハニカミながらゆっくりと私のもとに近づいてきた。

ふわりと空気が揺れる。

ウェディングドレスから漂ってきたのは、上品で華やかでありながら どこか厳かで ほんのりと魅惑的な香りだった。
まるで香水のように、ふわりと私の感覚を擽った。
それは、いつもの柔軟剤の匂いとも、化粧ポーチから漂う彼女の香りとも違っていた。
明らかに“よそいき”の匂い、ドレスの香り、ドレスを纏った花嫁の香り……。

その香りと合わせて、幸代のデコルテから胸元の肌に薄く伸ばされたボディイルミネイターが、まるで星屑を撒いたようにキラキラと肌に煌めき、彼女の “晴れの顔” を妖艶に際立たせていた。

普段の幸代とは、まったく違う誰かが そこに立っているような、そんな錯覚すら抱かせた。

目の前に来た幸代は 高めのハイヒールのせいか、向き合う目線が同じ高さになっていた。
いや、わずかに上…… 私は、かすかに彼女に見下ろされているような気がしていた。
しかもシャープなアイメイクの効果なのか、その視線には鋭ささえ宿っていた。

幸代と真正面から見つめ合う、人生で初めてフラットに。
物理的に“同じ高さ”に並んだ二人。
 
けれど その近さの中にも、彼女の眼差しには どこか“遠さ”があった。

そして幸代自身も、視線の平坦さに戸惑っているように見えた。
いつもの 私を見上げる 慣れ親しんだ当たり前の角度を、失ってしまったような…… そんな表情だった。

「……ここまで綺麗にしてもらわなくてもよかったのに、ね」

深紅の口紅をまとった艶やかで潤い光沢のある唇から漏れた声は、ため息のように弱い。

そしてその表情には、変わりすぎて “戻れなくなる自分”をそっと見下ろす、もう一人の幸代の姿が、うっすらと重なって見えた。


[30] Re: ウェディングドレスの妻  きーくん :2025/12/03 (水) 07:58 ID:GY6n8fMk No.32471
佐川さん

普段見慣れた妻ではなく、研ぎ澄まされたようにさえ映る
妖艶な女性としてそこにいた姿を想像し、絞めつけられる
思いは佐川さんと同じように感じます。

また、近くに並んでも遠さを感じ、
むしろ上から見下ろ妻は、この後どう妖しさが増すのでしょう。


[31] Re: ウェディングドレスの妻  ボルボ男爵 :2025/12/05 (金) 13:31 ID:pbR1Aqec No.32472
よかった・・まだ奥様のままでしたね。

でも 奥様のたたずむ静謐かつ妖艶な空間と時間が今後の予想だにしない運命のどんでん返しへの
カウントダウン開始まえの前奏に思えます。

毎日楽しみにしております。


[32] Re: ウェディングドレスの妻  佐山 :2025/12/05 (金) 18:00 ID:6idkrYnY No.32474
きーくんさま、ボルボ男爵さま  コメントをありがとうございました!



と…… 控室の扉が、静かに まるで空気を切るように開いた。

「新婦さま、お時間になりましたので スタジオにご案内いたします」

イベント企画会社のチーフマネージャー 村川さんが、ひとつ会釈をして入ってきた。

彼女の声は柔らかくも無機質で、まるで静かな刃のように響いた。
私はそれまで部屋を包んでいた “2人きりで夫婦の存在を確認できる濃密なひととき”が、音もなく裂かれていくのを感じた。

村川さんと一緒に入ってきた もうひとりの女性スタッフが「新婦さまのは こちらになります」と丁寧に両手で包むようにして、小さな白いジュエリーケースを幸代に手渡した。

「あ…… はい…… ありがとうございます……」

どこか寂しそうな表情に変わった幸代は 静かにそう返して、ウェディンググローブに包まれた両手で大事そうに、そのケースを受け取った。

そして幸代がゆっくりと私に振り向くと、光沢のある純白のグローブをした左手を私に翳し 申し訳なさそうな表情をして口を開いた。

「トオサン、ごめん…… あのね…… ……んー」言い出しにくそうに口籠る幸代。

「ん? なに? どうした?」私は努めて明るく彼女に応えた。

「ごめんなさい…… 今ね…… わたし…… 指輪をね…… ……」

「指輪? 指輪がどうかしたの?」 私は反射的に聞き返す。

「うん、ずっと嵌めていた わたしたちの結婚指輪…… 今、外しちゃってるの…… 」
「ここでは 式用のリングを使うように、って言われてて…… だから外さないといけなくて…… ごめんなさい」

そう言って幸代は、スタッフから渡されたジュエリーケースをそっと開いた。
中には、外枠がゴールドの光沢のある厚めのプラチナリング。 
眩しすぎるほどの “演出用” の新品が、無言でその順番を待っていた。

「へぇ〜 そっか。 すごいな、けっこう本格的な式なんだな〜」
「でも、こっちの方が綺麗だし、新品だし…… いいじゃん…… 高そうだし、あはは」

私は、できるだけ軽く言葉を返した、返すしかなかった。
それは、明らかな強がりだった。
心のどこかで、小さな“置き去り”を感じながらも、それを笑顔で塗り潰すしかなかった。

幸代はふっと短く息をつき、その指輪に視線を落としたまま、ぽつりとつぶやいた。

「……わたし こんなの使いたくない…… 返したいよ、ダメかな?」

それは、ほとんど音にもならない声だった。

そして幸代の艶やかな深紅の唇が、わずかに震えながら もう一度動いた。

「トオサン…… やっぱり わたし、行きたくないよ…… ……帰りたい……」

ウェディングドレスを着て、妖艶なメイクをした幸代が、今度は私を見て言ったのだ。

私は息を飲んだ。 喉の奥に、何か熱いものがせり上がってくる。

(うん、行かなくていい) すぐにそう言いたかった。 

いや、言わないといけない……

……でも、言えなかった……

これまで幸代に対して、たかがイベントだからと、余裕ある顔を見せたい という見栄なのか、
スタッフがいる中で、惨めな男とか弱いとか情けないと言われたくない、と世間体を気にしていたのか、
理解のある夫、心の広い夫だ、と 幸代にもスタッフにも思われたかったのか、
とにかくちっぽけなプライドのために私は素直になれなかったのだ。

素直になれない性格とわかっているのに、それがこの場で改善できない私自身が嫌になるくらいだった。


[33] Re: ウェディングドレスの妻  きーくん :2025/12/10 (水) 10:39 ID:OufAq85k No.32475
佐山さん

今まで普通にそばにいた妻なのに、
自分が贈った結婚指輪を外し、別の結婚指輪をするようになってしまう・・・。
儀式と分かっていても、離れていってしまう気になりそうですが、
女々しく思われたくない、ちっぽけな自分と重ねてしまっています。

続きを期待します。


[34] Re: ウェディングドレスの妻  ボルボ男爵 :2025/12/11 (木) 17:42 ID:7zs7Le7M No.32476
佐山様

「行かなくていい」、その一言を飲み込んでしまったことを、後に大いに後悔することになってしまうのでしょうか。

大きな口を開けてご夫婦を飲み込もうとしている陥穽が待ち受けているのですね。

スタジオでいよいよ事は大きく動くのでしょうか?奥様は打ち合わせの段階で何かを言い含められていたのですかね。

一歩踏みだせないのはそのためなのか・・・・いろいろ想像してしまいます。



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