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[7073] 二人の隠れ家 2 saemidori 投稿日:2009/08/15 (土) 19:38 ガチャ。
何度となく来ているお店だが、フロアに入る為のもうひとつの扉を開ける瞬間はいつも何故かドキドキする。 しかし、この日はドキドキしていたことも忘れるくらいの客の多さに圧倒される。 普段、客が多い週末であっても座る椅子くらいは何とかなるものだが、 この日は満員電車のような混み具合であった。 至るところでグラスを片手に持ち、立ったまま談笑している。 立食パーティなんて生易しいものではなく、ちょっと動けば誰かにぶつかってしまう状態。 「足の踏み場もない」とは、まさにこのことである。 なんとか人混みを掻き分け、カウンターに荷物を預けに行く。 とりあえず飲み物を貰い一旦落ち着く。 と言っても座る場所もなく、結局端の方で場の雰囲気を探る。 普段は淫靡な雰囲気が漂う店内なのだが、この日はまるで真逆な雰囲気だ。 どちらかというと学生ノリというか、同窓会のノリに近い。 確かに常連同士だとしても久し振りに会う人も多いのだろう。 パーティだから来たという人もいるのかもしれない。 久し振りに会って話が盛り上がっている。 そんな雰囲気では、淫靡のかけらもあるはずがない。 その中にも、日常では有り得ない露出度の高い衣装を纏った女性の姿が目に付く。 普通であれば、そんなエロティックな女性がいれば淫靡な雰囲気になってもおかしくない。 逆にここは、それが当たり前のようなお店である。 しかし、特にこの日はそれ以上に淫靡よりも談笑で盛り上がっている。 お店はパーティだから、来客に思い思いの衣装を着て貰うよう煽っていたが、 奇抜なコスプレをしているのは極僅かしかいない。 ノリの良いお客が何人かコスプレを楽しんでいる。 男性陣に至っては二、三人がマスクをつけている程度。 以外はみんな普段着である。 それに比べ女性陣はドレスやキャミや下着姿と一応“変身”している。 一体、この部屋に何人くらいの人がいるのだろう。 ざっと見て50〜60人はいるのではないか。 しかも、それで終わりではなく途切れることなくインターホンが鳴り続き、客が続々と入店してくる。 ここまで雑多な感じになると、誰がカップルで誰が単独なのか解らない。 あまりの人の多さに私達も言葉を失って目の前の騒ぎを眺めていた。 一種幻覚の様な症状を感じていたのだが、その錯覚を覚ますよう妻が声をかけてきた。 「お腹空いたから食べよう?」 普段はお酒だけで食事は出来ないのだが、この日はパーティということで軽食が用意されていた。 小さなカウンターにピザやおにぎり、唐揚げなどが大皿に盛られてある。 「そうだね。カウンターの方に行こうか」 手に持った酒を溢さぬよう幾分か慎重に人を掻き分けてカウンターに向う。 食べ物を口に運びながら妻と会話をするのだが、視線は人混みに向いている。 カップル同士で話す人。 何人かで固まり大笑いを揚げてるグループ。 スタッフと話す人。 黙々と料理を口に運んでる人。 落ち着きなく行ったり来たり移動する人。 そんな執りとめもない風景に心を奪われる。 楽しそうな笑顔の人もいれば、つまらなさそうな顔の人もいる。 つまらないのだったら帰ればいいのにと思うが、この後に起きる展開を期待していて帰る気にはなれないのだろう。 しかしまだ、22時を過ぎたばかり。 こんな早い時間からエロムードになる訳がない。パーティなんだから。 エッチなことだけを期待して来た単独男性にとっては、イライラする時間である。 それでも、知り合いがいて一緒に談笑が出来る常連男性は別である。 逆にこの時間を利用して、知り合いのカップルや単独女性に挨拶して周り、自分がいることのアピールをする。 知らせておけば、後で盛り上がったときに声かけてくれるかもしれない。 もしくは、そのままその場でハプニングが起こせるかもしれない。 概ねハプニングになる切欠は話上手な男性が握っている。 しかし、その話しが上手な男性のなかで単独男性は少ない。 大半は他人が起こしたその切欠を利用してどさくさ紛れを狙っている男性ばかりである。 下手すれば女性から声かけてもらえると思っている「イケメン」と呼ばれる勘違い君もいる。 この場においては、話が出来ない男はどんな美男子であっても主人公にはなれない。 話で相手を楽しませ、乗せ方が上手く、自分の欲望を出し過ぎない、そんな男性がここでは上手に遊べている。 |