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[41772] 壊れかけの絆(34)  投稿日:2009/04/22 (水) 03:21
探偵社の調査員との待ち合わせ場所に選んだのは市立図書館の駐車場でした。

私はタクシーから降り、予めメールにて聞いていた調査員の車を探しました。

白いワゴン車‥ 白いワゴン車‥

その白いワゴン車は駐車場の奥まった目立たぬ場所にひっそりと停められていました。

運転席に座るサングラスを掛けた男性が私の姿を見て軽く会釈をしました。

私は痛みが残る体を庇うように、ゆっくりとした歩調で白いワゴン車に近付き、身振り手振りで助手席を指差し、探偵社の調査員も手招きをしながら助手席を指差し、私を車内へと誘いました。

【カチャッ‥バタン‥ッ‥】

助手席のドアを開け白いワゴン車の車内に乗り込んだ私は

『はじめまして〇〇です‥お電話では何度かお話をしているのですが‥
何やら‥変な気持ちですよね‥
今回はお世話になります。』と挨拶しました。

調査員の男性も私の畏まった態度に恐縮の体で

『こちらこそ宜しくお願いします。
しかし事故とは大変でしたね。
もうお加減は大丈夫なのですか?』と言葉を返し、後部座席に置かれた銀色に鈍く輝くブリーフケースからファイルされた書類を取り出して

『怪我の痛みが吹き飛ぶぐらいに御期待に添える内容だと良いのですが‥』
と私に手渡しました。

私はその内容に期待に胸を膨らませながらファイルされた【澤田統括部長のアキレス腱】を一枚、一枚と確認し始めました。
その内容は正に息を飲む如くの物でありました。
私は憑かれたようにファイルを一気に読み進めました。

生年月日から始まり、澤田統括部長の素行、家族構成、住居、身内での立場に金銭状況‥、それらに付随した事細かな写真の数々‥

よくも短期間にこれだけの物を‥と、感嘆する程のその密度の濃い見事な調査内容に、私は全身に鳥肌が立つ思いでした。

[Res: 41772] Re: 壊れかけの絆(34)  投稿日:2009/04/22 (水) 03:24
『しかし‥どんな事をすればこれだけの事が分かるのですか?‥
まるでその家庭の中に居なくてはとても分からないような事までも‥』

調査員は口元を緩めながら笑顔で

『餅は餅屋ですよ‥取り敢えず今日の段階でお渡し出来るのはここまでです。
まだ結論が出ていない案件もありますので継続調査も致しますのでご安心下さい。

そのファイルに記載されている事で不明な事がありましたらいつでもご連絡下さい‥

では、万事上手く行きますように私達も願っております‥』

『ありがとうございます‥』

私は御礼の言葉を述べながら調査員の差し出した右手を私は力強く握り返し、調査員のワゴン車を後にしました。

走り去る探偵社の調査員が乗ったワゴン車を見送りながら私は、込み上げて来る喜びを抑え切れないでいました。

これであの澤田統括部長を潰せる‥
妻悠莉子を陥めたあの憎き澤田統括部長を。

私は調査員から手渡されたファイルを片手にしばしその場に立ち尽くし、ほくそ笑んでいたのです。

この後、私は保険会社の担当者と追突事故のお相手にお詫びに出向き、あらためてお詫びし諸々の手続きを終えました。

幸いな事に、私が追突したお相手には怪我も無く、車両修理と休業保証的な事で話し合いが成立しました。

その後、保険会社の担当者に自宅マンションまで送って貰った私は、締め切られていたカーテンと窓を開けて外気を取り込み、リビングのソファーに倒れ込むように身を沈めました。

ここまで緊張感を持って行動していたからのなのでしょうか?

探偵社の調査員に会って澤田ファイルを受け取り、保険会社の担当者と事故処理をしていた時には大して体の痛みなどは感じていなかった私でしたが、自宅に戻り安堵したせいなのでしょう、背中から首筋にかけて張りが出て、体全体が鉛のように重たく感じられていました。

そして何よりも妻悠莉子の居ないこの空間と、どんな形であれこちら側にも大きな痛みが伴うであろう今後の澤田統括部長に対する復讐劇が、より体を重たく感じさせていたのかも知れません。

『フゥ‥ぅ‥ぅ‥ 』

誰も居ないリビングで大きく溜め息をつきながら私は調査員から渡された澤田統括部長に関するファイルをあらためて目を通していました。

【何処を攻めればより効果的なのだろう?‥】

ファイルを読み進める中で、私はあるページに釘づけになりました。

[Res: 41772] Re: 壊れかけの絆(34)  投稿日:2009/04/22 (水) 03:26
【何処を攻めれば、より効果的なのだろう?‥】

ファイルを読み進める中で、私はあるページに釘づけになりました。

そのページには澤田統括部長の妻に関する事細かな記述がありました。

先代社長の三女であり、先代社長からは今だに他の兄姉よりも溺愛されている三女。

澤田統括部長より年齢は4歳年上で、付属された写真を見るにお世辞にも美しいとは言えない容姿。
厚く塗った派手な化粧、腫れぼったい瞼に団子鼻に薄い唇‥そして小肥りな体型。

当時、ビジネスセンスにおいて将来を有望視されていた澤田統括部長が、行き遅れていたこの先代社長の三女の相手として白羽の矢が当たり、結婚したとファイルには記載されていました。

子供は女の子が二人。

この子供達がまた先代社長である祖父から目に入れても痛くない程に溺愛されているとの記載も。
そして家庭内での澤田統括部長の立場は先代社長夫婦とは別に居を構えて暮らしているとはいえ【明らかなマスオさん状態】であり、ありとあらゆる権限は妻に握られているとの記述がありました。
この先代社長の三女の凄まじい嫉妬深さについての記述までも‥。

他のページにも非常に興味深い内容が記述されていました。

それは澤田統括部長が取引業者に様々な便宜を図る見返りとして、個人的にリベートを受け取っている可能性についてでした。

この二つの項目があればあの澤田統括部長を十分におとしめる事が出来る‥

そう確信した私でしたが、私の中で何かまだ足りぬと言った感があり、この程度で済まして良い物なのか?と自問自答しておりました。

パラパラとファイルをめくる中、またしても気になる記述を発見しました。
【継続調査中】との中に、澤田統括部長が非合法的な組織の人間との深い交遊関係と薬に纏わる噂についての記述がありました。

プライベートにおける接点が不可解であるそれら非合法組織の人間との交遊と薬物に関する噂。

そう‥火の無い所に煙りは立たないのです。

[Res: 41772] Re: 壊れかけの絆(34)  投稿日:2009/04/22 (水) 03:28
【継続調査中】と記載された項目に、澤田統括部長が非合法的な組織の人間との深い交遊関係と薬に纏わる噂についての記述がありました。

プライベートにおける接点が不可解であるそれら非合法組織の人間との交遊と薬物に関する噂。

そう‥火の無い所に煙りは立たないのです。

本社の営業部門のトップとして君臨する統括部長にそのような疑いがあり、疑いを裏付けるような証拠が存在していたならば‥

間違い無くただでは済まない筈です。


私はあのDVDに記録されていた妻悠莉子との性行為の時の異常なまでのハイテンションの澤田統括部長を‥そして関西弁を話すあのイボマラの竿師、そして一種独特の威圧感と威厳を持ち合わせていた初老の男性の事を思い出していました。

もしこのファイルに記載されている澤田統括部長の薬物に関する疑惑と、非合法組織の人間との関わりが立証出来れば、間違いなく澤田統括部長は表舞台から消え去らなくてはならないでしょう。
それでなくとも澤田統括部長が、私の妻である悠莉子に行った数々の常識を逸した行為だけでも、明らかに事件として立件出来る要素があるのですから‥。

これらの事柄を社内の事情を詳しく知る塔子の情報と照らし合わせ、研ぎ澄まされた刃の如く必殺の材料にしなくてはなりません。

明確で逃げ道の無い場面での問答無用の告発。

どんなに澤田統括部長が弁舌豊かに否定しようとも、ボイスレコーダーに録音した内容にDVDの映像‥。

これら全てが動かぬ証拠となる筈なのです。

しかし‥ しかしなのです。

これらを完膚なきまでに仕上げるには‥ 妻である悠莉子を‥妻悠莉子の行為を‥その録画された痴態までをも同時に晒さなくてはならないのです。
例えそれが、妻悠莉子にとっても澤田統括部長を潰せるのなら望むところであったとしても、その事によって降り懸かる返り血は悍ましい記憶とあいまって、妻悠莉子の体を染めたまま永い年月消え去る事は無いでしょう。

その理不尽さに割り切れぬ思いのまま、自問自答を繰り返す私が居ました。

リビングのソファーに体を預けるようにしながらどれぐらい時間が経ったでしょう。

気が付けば、私は悠莉子の寝室で佇んでいました。

[Res: 41772] Re: 壊れかけの絆(34)  投稿日:2009/04/22 (水) 03:31
私は、妻悠莉子のベッドに腰を降ろしながら、室内を見回し、ある種の驚きと感慨に耽っていました。

あの雑然とした仕事の資料などで埋め尽くされていた筈の机の上は、綺麗に片付けられ、寝室全体が見事なまでに整理整頓されていました。

それはまるで決意の身辺整理でもした如くに。

私は妻の覚悟を‥妻悠莉子の無言のメッセージを感じ取った思いでした。
【私の‥私の無念を晴らしてと‥】


妻悠莉子の不貞行為は決して許される物では無いです‥

しかし‥ しかし、妻悠莉子の心中を思うと‥

私がDVDの内容に衝撃を受け事故を起こして入院し、その間、妻悠莉子は私の寝室のノートパソコンの中のDVDを見つけてしまい、全てが私に露見してしまった事を知り、どの様な気持ちで一人自分の寝室を片付けていたのかを思うと、私は胸に熱い物が込み上げて来ていました。

澤田統括部長に凌辱され続け、その行為を断ち切る事が出来ぬ自分に深い自責と後悔の念を抱き続け、精神的な疾患まで負いながらも、何とか私には露見しない形で澤田統括部長との事を片をつけるべく動いていた妻悠莉子。

しかしそれらも全て私の知る所となってしまって‥。

こわれかけた夫婦の絆‥
何を甘い事をと笑う方もいらっしゃるでしょう。
でも‥それでも私は妻悠莉子を救ってあげたい。
そしてこの先にどんな苦難があろうとも【壊れかけの絆を元の状態に‥お互いを尊重し慈しみ合える姿に戻したい‥】

私自身も、妻悠莉子の事で割り切れぬ物が‥消し去る事の出来ない複雑な思いが残る事は分かってはいるのです。

何百、何千と自問自答を繰り返しても結局は答えは同じなのです。

悠莉子を助けなくては‥と。

[Res: 41772] Re: 壊れかけの絆(34) さとき 投稿日:2009/04/22 (水) 04:43
待っていました。
ドキドキしながら読まさせていただきました。
次回作も楽しみにしています。

[Res: 41772] Re: 壊れかけの絆(34) イク 投稿日:2009/04/22 (水) 05:44
叶さん、おはようございます。深夜早朝の投稿たいへんですね。

なるほど・・・って展開ですね。。「奥」が深いです。。心情の表現がいいですね^^

[Res: 41772] Re: 壊れかけの絆(34) けいじ 投稿日:2009/04/22 (水) 07:01
叶さん、お待ちしてました。

奥さんとの関係の復活期待してます。

[Res: 41772] Re: 壊れかけの絆(34) キリギリス 投稿日:2009/04/22 (水) 08:07
安心しました………妻を救うべきと決心された叶さんは男です!

[Res: 41772] Re: 壊れかけの絆(34) pianist 投稿日:2009/04/22 (水) 09:57
応援しております!