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過去ログ[54]

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[41361] 壊れかけの絆(33)  投稿日:2009/04/11 (土) 01:58
【カチャッ‥‥ 】

不意に病室の扉が開かれ、そこには明らかに顔色の悪い妻悠莉子の姿が‥

そうです‥私の悪い予感は的中していたのです。

青ざめた表情のままで、ぎこちなく病室に入って来た妻悠莉子。

悠莉子は俯き気味に顔を伏せ、決して私とは目を合わせようとはしないでいました。

私が横たわるベッドとは微妙な距離を保ったままで立ち尽くす妻悠莉子。
私は私で何を言うべきなのか咄嗟に言葉が出てこずに、ただ視線だけが悠莉子を凝視しているばかりでした。

傍目から見ても明らかに違和感を感じるであろう二人‥ 。

そしてこの無機質な病室を包む暗澹とした空気‥。

沈黙は実際の所は1.2分であったのかも知れません。

しかしその時間は私と悠莉子には重苦しく長い長い物に感じられました。
張り詰め、何か手順を一つでも間違えれば何もかも粉々になってしまうのでは?と思える程の空気。

それは私と妻悠莉子が、互いに洗面器に深く顔を浸けたままで我慢比べをしているようでした。

その状況に我慢出来ずに最初に顔を上げたのは私でした。

顔を伏せたままで立ち尽くす妻悠莉子に

『なぁ‥こっちへ来いよ‥ 』と声をかけ、左手で手招きしました。

私の言葉に、ビクッ‥と体をすくめるようにして反応する妻悠莉子。

私はその姿を見て、無意識に眉間に縦皺を寄せ、首筋に走る鈍痛を耐えるように大きく息を吸い込み

『いいから‥ いいから来いよ‥ 』と再び手招きをしました。

両手に私の入院に必要な着替え等の荷物を持ち、俯いたまま擦り足で近寄って来る妻悠莉子。

私は四人部屋の病室の他の入院患者さんに迷惑が掛かっては‥と、悠莉子に手配せしてカーテンを閉めさせました。

私が横になるベッドの左隅で、私から距離を置いて青ざめた表情のまま立ち尽くす妻悠莉子。

その左脚は悠莉子の意思とは関係なく、膝から下がカタカタと小刻みに震えていました。

何を言えば良いのだろうか?

何を口にすれば‥。


私には適当な言葉が見つかりませんでした。

[Res: 41361] Re: 壊れかけの絆(33)  投稿日:2009/04/11 (土) 01:59
私が横になるベッドの左隅で、私から距離を置いて青ざめた表情のまま立ち尽くす妻悠莉子。

何を言えば良いのだろうか?

何を口にすれば‥。


私には言葉が見つかりませんでした。


『‥ あ‥あなた‥ ‥
私‥ 私 ‥ ‥うっ‥ぅ‥ぅ‥ぅ‥ぅ‥っ‥ 』
この重苦しい雰囲気に耐え切れぬように口火を切ったのは妻悠莉子でした。
言葉にならない言葉を漏らし、体を奮わせながら鳴咽を漏らす妻悠莉子‥。

私はその姿を見て、哀れみでも怒りでも無い不思議な気持ちが込み上げていました。

そう‥それは安堵に近い感情だったのです。

遅かれ早かれ白黒を付けなくてはならかったのです。

確かに妻悠莉子の行為はいかなる理由があろうとも全てが納得など出来る物ではありません。
しかし‥今ここで‥この病室で、悠莉子を罵倒し罵った所で何になると言うのでしょう。

何よりも責めなくてならない相手は、あの非道極まりない澤田統括部長とその一派なのです。

勿論、妻である悠莉子にもペナルティーは有ってしかるべきです。

でも私には、今この場所で‥この場面で、妻悠莉子を弾劾する気持ちにはなれなかったのです。


『見つかってしまったんだな?‥』

私の問い掛けに鳴咽も漏らしながらコクリと頷く妻悠莉子の姿‥。

『うっ‥う‥えぐっ‥っ‥えぐっ‥っ‥ 』

ポタポタと零れ落ちる涙を拭おうともせずに、声にならない声を漏らし続ける悠莉子。

『分かった‥ 分かったから‥ この場所で今は何を聞いても何を出来る訳でもない‥

塔子に連絡したんだろ?』

泣きじゃくりながら頷く妻悠莉子。

『じゃあ‥ 塔子から色々聞いたんだろ?‥ 』
『ヒック‥ッ‥ヒック‥ゥ‥き‥聞いたわ‥ ‥ あ‥あなた‥ご‥ごめんなさい‥ごめんなさい‥』

『‥ ‥ 聞きたい事や‥確かめたい事は山ほどある‥ 退院したら、じっくり聞かせて貰う‥
悠莉子‥逃げるなよ!』

私は小声ではありましたが語気の強い言葉をぶつけました。

悠莉子は私の言葉に、ビクッ‥と体を竦めるようにして、コクンと頷きました。

その時、不意に聞き覚えのある声がして、カーテンか開かれました。

『お兄ちゃん‥ ‥ 』

そこに居たのは塔子でした。

[Res: 41361] Re: 壊れかけの絆(33)  投稿日:2009/04/11 (土) 02:00
その時、不意に聞き覚えのある声がして、カーテンか開かれました。

『お兄ちゃん‥ ‥ 』

そこに居たのは塔子でした。

目で何やら合図する塔子の姿を見て、私は瞬時に理解しました。

私の寝室へ入院の為に必要な着替えを取りに戻った妻悠莉子が、ノートパソコンのDVDに気付き、尋常で無いパニックの中で塔子に連絡をつけたのでしょう。

昨日の今日の出来事で流石に塔子も慌てはしたのでしょうが、私の意を汲んでいた塔子が、これまでの事を筋道立てて話しをしてくれたのであろうと。

そして気まずさから一人では私に顔向けが出来なくて、私の待つ病室に戻るに戻れない妻悠莉子に付き添うようにして連れて来てくれたのでしょう。

私は塔子に

『気を使わせて悪かったな‥ 』と言い

塔子は無言で首を横に振りました。

今だ延々と鳴咽したままの妻悠莉子を見て塔子が
『悠莉子、涙で顔がぐちゃぐちゃだよ‥ そんな顔で病室に居たら何事かと思われて、お兄ちゃんが他の患者さん達に変に思われちゃう‥ お化粧直さなきゃ‥ ねっ?‥ 』

悠莉子の肩を抱くようにして促し、病室から連れ出す塔子。


一人カーテンに仕切られた病室のベッドに残された私は、事故の影響の偏頭痛と言いようの無い寂しさを感じながら

《終わったのかも知れない‥
もう悠莉子の温もりを感じる事は出来ないのかも知れない‥ 》

そんな気持ちに苛まれていたのです。

どのぐらい時が過ぎたでしょうか?

塔子だけが病室に戻って来ました。

[Res: 41361] Re: 壊れかけの絆(33)  投稿日:2009/04/11 (土) 02:04
《終わったのかも知れない‥
もう悠莉子の温もりを感じる事は出来ないのかも知れない‥ 》

そんな気持ちに苛まれていたのです。

どのぐらい時が過ぎたでしょうか?

塔子だけが病室に戻って来ました。

《悠莉子は? 悠莉子はどうしたのだ?》

そんな私の気持ちを見透かしたように塔子は

『大丈夫よ‥ お兄ちゃん。
悠莉子‥動揺が酷くて、精神的に不安定になってしまっていて‥

詰め所の横のベンチに座って私が落ち着かせようとしていたんだけど、なかなか動揺が収まらなくて‥
それを見かねた看護師さんが心配してくれて‥

すぐにドクターに見せてくれたの。

今、安定剤を打って貰って処置室で眠っているわ。』

『そうか‥ 』

私は少しだけ安堵しました。

『でも‥お兄ちゃん、驚いたわよ。

事故だなんて‥ ここに来る途中で車を見て腰を抜かしそうになったわ。

フロント潰れてグチャグチャなんだもの‥』

『あぁ‥そうらしいな。シートベルトとエアバックが無ければヤバかったらしい‥

あの3枚目のDVDを見た直後だもの。

俺もテンパってしまっていたんだよ。』


『悠莉子‥お兄ちゃんの部屋でノートパソコン見てしまって凄い剣幕で私に電話して来て‥

〔酷い‥酷い‥ 嘘つき‥
何故‥あの人にDVDを見せたりするの?

あんな物を見られてしまったら‥

塔子さんの嘘つきっ!て‥〕

最初は事情が飲み込めなかった私も、話が見えて来て慌ててマンションまで飛んで行ったわよ。』

『済まなかったな‥ 』
『うぅん‥ 謝らないでよ。

でも‥もう隠していても意味が無い‥

私は私でその意味を分かった上で、全部話してしまったの。

あのDVDの事があるから、言わなければ言わないで悠莉子には説明がつかないし‥』

私は塔子の言葉に頷きながら

『結局、これで良かったんだよ‥

探偵社からの報告を受けて澤田統括部長の弱みとかが分かった段階で、悠莉子とは膝を突き合わせてこの10日間の事を話さない訳にはいかなかったんだ‥
これで良かったんだよ‥』

私は自分自身に言い聞かせるように言いました。

[Res: 41361] Re: 壊れかけの絆(33)  投稿日:2009/04/11 (土) 02:09
『これで良かったんだよ‥』

私が自分自身に言い聞かせるように言った言葉。
その言葉にしばし無言のままで私を見つめていた塔子が

『お兄ちゃん‥ 今の状態の悠莉子を一人にしておく訳に行かないから、私の実家でお兄ちゃんが退院するまで預かるね。
もうお母さんにも言ってあるから‥

仕事も休ませてあげた方が良いと思って‥

私から会社の方には連絡を入れておくから。

澤田部長との音信も絶った方が間違い無いのだし‥。
悠莉子には携帯は留守電にして、メールも開かないように言っておく。

何かあれば私の実家に直接連絡して。』

私は塔子の気遣いに感謝し

『何から何まで済まない‥
悠莉子の事は後回しになりそうだが、これで澤田潰しに専念出来そうだ。
俺も検査入院程度の事だから2.3日で退院出来そうだし、早ければその辺りで探偵社からの連絡もあるだろう。

退院した後も、今週いっぱいは自宅療養の名目で仕事も休む。

全て今週中に決着をつけてやる。』


『分かったわ‥
でもお兄ちゃん余り無理はしないでね‥頭を強く打っているんだし、ムチウチは後々に痛くなるんだし。
私も調べられる事、やれる事は何でも協力するから。
じゃあ私は悠莉子が心配だから付いているね。』

『あぁ‥本当にありがとう。
悠莉子の事を頼むな。』

塔子はニッコリと微笑み病室を出て行きました。

結局、私はこの日曜日から火曜日まで、諸々の検査、経過観察を経て水曜日の午前中に退院する事が出来ました。

悠莉子も精神状態が少しづつ安定し、叔母に付き添われて退院する私を病院まで迎えに来ました。
私は叔母に甘えついでにもう一日だけ悠莉子を預かって貰いたい旨を伝え、悠莉子には

『何も心配しなくていい‥
どうしても済ませなければならない事があるからもう一日叔母さんの所でゆっくり休んでいてな‥』 と告げて、不安気な表情の妻悠莉子をよそに私は叔母に一礼するようにして叔母に悠莉子を託したのです。

[Res: 41361] Re: 壊れかけの絆(33)  投稿日:2009/04/11 (土) 02:09
この入院中、偏頭痛や所々の痛みに耐えながら、私は私なりに今後の事について考えていました。

妻悠莉子の事、澤田統括部長の事、澤田統括部長と一緒に悠莉子を蹂躙した連中の事‥。

そして私自身の事も。

たかが浮気なのかも知れません。

しかし‥されど浮気なのです。

澤田統括部長の偏執的なやり口に嵌まった妻悠莉子。

自己防衛の為とは言え、解離性同一性障害のような症状が出てしまう所まで澤田統括部長に追い詰められてしまった妻悠莉子‥。

例えそれが幻影のような物だったとしても、夫婦二人の幸せな日常を最悪の形で踏みにじった澤田統括部長の数々の所業。
私の忍耐もすでに限界を越えていました。

理性を持って考え、行動しなくてはならない事は分かっているのです。

だけど‥だけどもう限界なのです。

どんな手段を用いても、あの澤田統括部長だけは‥あの男が1番失いたく無い物を粉々にしてやりたい。
人格が崩壊するまでとことん追い込んでやりたいと‥。

私は退院した足で、そのまま澤田統括部長の身辺調査を依頼していた探偵社の調査員と会うべく待ち合わせ場所に向かったのでした。

私は待たせていたタクシーに乗り込みました。

一体どのような調査結果が出ているのか?‥。
調査員が持って来た情報は、私の想像や期待を遥かに上回る物だったのです。

[Res: 41361] Re: 壊れかけの絆(33) だいき 投稿日:2009/04/11 (土) 02:25
続き 待ってました 先の展開が きになります

[Res: 41361] Re: 壊れかけの絆(33) こてっちゃん◆PC3Y7o 投稿日:2009/04/11 (土) 03:29
待ち遠しかったです。
いよいよ、澤田の本性が暴かれるのですね…
対決の時が近づいてきました。
完膚なきまでに叩いてください。
しかし、奥さんとはその後どうなるのでしょうか。
こちらも心配です。

[Res: 41361] Re: 壊れかけの絆(33) 十一年愛 投稿日:2009/04/11 (土) 07:22
悪しき者には正義の刃で・・・

がんばってください。

絆を守るために。

[Res: 41361] Re: 壊れかけの絆(33) MM 投稿日:2009/04/11 (土) 07:30
奥様の場合、進んで浮気に走ったわけじゃないし、脅されていたという事、心は旦那さんに
あったという事、セックスレスが長かったという事など考えると、奥様に非が全てあるとは
思えないですよね。
ただ、そうやって簡単に割り切る事ができないのも確かでしょう。
私が叶さんの立場だったら許せるか・・・そもそも、あそこまで仕込まれてしまった体を
持つ奥さんをどのように満足させていくのか、という事の方に途方がくれてしまいそうです。

とにかく、まずは澤田とその取り巻きつぶしですね。
続きが待ち遠しいです。