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[40295] 30歳の記念撮影から 最終章 マック 投稿日:2009/03/12 (木) 07:04 あれから高島氏は毎日のように謝罪をしに私たちのところにやってきました。当事者である三上氏に代わって。 しかし、妻は決して話を聞こうとはしませんでした。 あの時ことを自分の記憶から、今すぐにでも抹殺しようと苦しんでいました。 警察に届けるとか、裁判を起こすということは、妻にとっても耐えがたい苦痛を引きずる事になり、私も妻も望んでいませんでした。 高島氏は最初、慰謝料という名目ではなく、報酬という名目で多額の金額を私たちに支払うと言ってきましたが、妻は私に決してそれを受け取ろうとはしませんでした。 おそらくそれを受け取れば、妻はお金で身体を買われたということを認めてしまうからです。 妻はあの日に撮影した全ての映像を抹消することだけを高島氏に強く要求しました。 そう、妻の30歳の記念の写真までも全てです。 高島氏は来るたびに、申し訳ないと頭を下げ、肩を落としたまま帰っていきました。 そんなある日、高島氏は平日の昼間に正装して私の仕事場を訪ねてきました。 私は、昼休みの時間に高島氏と会うことにしました。 待ち合わせた喫茶店で高島氏は額に汗をにじませながら、今回の経緯を私に説明しだしました。 高島氏はあの日、語った通り、妻を初めて見た時に自分の芸術を完成させることの出来る女性だと直感したようでした。 その想いは三上氏も同じで、妄想のまま次回作の構想を二人で話したりしたそうです。 次第に高島氏の想いは強くなっていき、同時に現実を考えてその妄想を頭から打ち消そうとしたそうです。三上氏はそんな高島氏に、ダメでもともとだからと、妻に打ち明けてみてはと説得してきたそうです。高島氏は何度もそれを打ち明けようと撮影まで眠れない日々が続いていて、苦しんだそうです。 三上氏はそんな高島氏の姿をみて、とても心配してくれたのです。 意を決して何度か妻に電話をしたそうですが、結局素人の人妻にそんなことを言い出せることが出来ず、打ち合わせの時に言い忘れていた簡単な撮影の話などをして電話を切ってしまっていたようです。 とうとう言い出せないまま撮影の当日を向かえ、高島氏は妻の30歳の記念撮影を始めました。 しかし、妻の裸を目の当たりにして、自分の心から沸いてくる創作意欲を抑えることが出来なくなっていったようです。 私が言ってしまった軽率な言葉で、高島氏と三上氏は自然と行動に移し、撮影は始まりました。 撮影の冒頭から三上氏の様子が違っていた事を高島氏は分っていたようです。 しかし妻を撮影できる喜びから、それを咎めることができなかったと言いました。 だから今回のすべての責任は自分にあるのだと言って三上氏をかばっていました。 三上氏はもうじき結婚するフィアンセもいて、仕事では常に冷静で高島氏の指示に従ってくれていたので、その時少し暴走気味でも、決して過ちを犯す人間ではないと信用していたようでした。 私はただ黙って高島氏の話を聞きました。 「慰謝料として受け取ってください」 高島氏はそう言うと、内ポケットから300万の小切手を私の前に差し出しました。 私は、妻の意思を尊重して、決してそれを受け取ることはしませんでした。 「写真はもう全部なくしてしまったんですか?」 私は高島氏に尋ねました。妻は高島氏に撮影した写真を全て抹消することだけを要求し、高島氏もそれを承諾していたので、本当に抹消してしまったのか確認したかったのです。 「い、いえ・・・・でも、必ずすべて抹消します・・」 高島氏はそう答えました。 「よかった。ならば最後に僕の願いを聞いてもらえないですか?」 突然の私の言葉に高島氏は驚いたように顔を上げました。 「妻の写真集を作って欲しいのです」 私はきっぱりと高島氏にそう言いました。 「で、でも・・・奥様が・・・」 高島氏は私の言葉に困惑してそう口にしました。 「もちろん妻には内緒です。でも、私たちがこの先何十年かして、お互いが老人になった時、妻の傷が癒されていたなら、その写真集を二人で見てみたいのです。あの美しかった妻の写真を・・・」 私がそう言うと、高島氏は人目もはばからずその場で涙を流しました。 喫茶店を出る時に高島氏は私に尋ねてきました。 「あなたは何故そんなにやさしいのですか?」 「それは・・・。私はこの世で一番妻を愛している人間ですから・・・」 私は高島氏にそう答えました。 数日後、休日に私はあの写真館で妻の写真集の製作に携わりました。もちろん妻には言っていません。 写真館の正面には張り紙がしてありました。 「都合により営業を休みます」 薄汚れたその張り紙から、高島氏はあれから店を閉めていた事をはじめて知りました。 写真館の中に入ると、高島氏が一人で仕事をしています。 パソコンの画像には妻の姿が映っていました。 無数の写真の中から一点一点私の納得する写真を選び、時間をかけ私は写真集の構成まで行いました。 深夜にまで及んだその作業の中で、私と高島氏の間には太い絆のような物が生まれていったのです。 一週間後、高島氏は再び私の職場に姿をみせました。 手には大きな妻の写真集があります。 私は出来上がったその写真集にとても満足し、高島氏と堅い握手をかわしました。 「ありがとうございます」 私が高島氏にそう言うと、彼は私に持っていたカバンを渡しました。 その中には、フィルムのネガやデジタルデータを収めたチップが数枚、打ち合わせの時の資料。 さらには妻があの時着ていたバスローブまでもが入っていました。 そして、内容証明書が添えられていて、あの時記録した物がすべてその中にあり、複写物などは一切存在しないという内容が高島氏の直筆で書かれていました。 高島氏の表情から、そのことに疑いの余地がないことを悟り、私はそれを受け取りました。 別れ際、私は高島氏に向かって言いました。 「高島さん、写真・・・続けてくださいね」 「ありがとうございます・・・」 高島氏は、その場を去っていく私に、いつまでも頭を下げていました。 出来上がった妻の写真集。 30歳の妻の恥じらいととまどいをたたえた表情。 30年間生きてきた女性としての誇りをもった表情。 子供の頃から変わっていないと思われる無邪気な笑顔。 人生を経験してきた妖艶な女の輝き。 妻の30歳の記念の写真集は、そのカットのすべてがこの上なく美しい裸体です。 そしてその最後のページは、妻がバスローブを脱ぎ捨てる瞬間の写真です。 そして、こうしるしていました。 「敦子、誠の永遠の愛はここから始まる・・・」 モノクロのその写真は、男性の手によってやさしく脱がされる妻の姿でした。 完 [Res: 40295] Re: 30歳の記念撮影から 最終章 りゅう 投稿日:2009/03/12 (木) 07:32 写真集、出来上がったんですね。
奥様の気持ちを考えると、なんとも言えないでしょうが。 完投お疲れ様でした。後日談がありましたら、お知らせください。 [Res: 40295] Re: 30歳の記念撮影から 最終章 十一年愛 投稿日:2009/03/12 (木) 13:02 いやいや感動しました。(涙)
単に愛欲に溺れていく展開でなく素晴らしいラスト! 拍手の嵐にございまする。 [Res: 40295] Re: 30歳の記念撮影から 最終章 ゆみ 投稿日:2009/03/12 (木) 13:16 良かったです
さわやかな感じで終わってホント良かったです [Res: 40295] Re: 30歳の記念撮影から 最終章 助手 投稿日:2009/03/12 (木) 21:04 マックさんの器量の大きさに感服致しました。
また、中島みゆきの"時代"を思い出してしまいました。 いつかきっと老後の時にその写真集を見ながら、♪あんな時代もあ〜ったねと〜、きーっと笑える日が来るわ。だから今日はクヨクヨしないで〜♪ 完投有難うございました! [Res: 40295] Re: 30歳の記念撮影から 最終章 ぴんぴん丸 投稿日:2009/03/12 (木) 23:31 しっかりとした文章力。
起承転結のある内容。 感服いたしました。 結論的に ハメ撮りカメラマンと ハメ撮り男優に流されて いいようにされた 素人夫婦が苦しむ物語で 得したのは友達夫婦の 旦那だけでした。 ってここの管理人が言ってましたよ。 [Res: 40295] Re: 30歳の記念撮影から 最終章 ムーミン 投稿日:2009/03/13 (金) 00:06 こんばんは。最初から拝読させて頂きました。
はじめはタイトルから想像するように、撮影から、どの様な展開になっていくのだろうとワクワクと期待しながら読んでいました。私の想像と違った結果になりましたが。 素晴らしい文章、内容も素晴らしかったです。 私は、カメラマン、助手の方、友達夫婦、そしてご主人も含め、その場に居た方々が、撮影を通し奥様の神々しい姿に魅了され、まさに女性の美、芸術(神々しいまでの)に感銘を受けたのだと思います。 だから、自然の流れ(男女の行為)で、こういった結果になられたのではと思いました。 決して最初から意図したことではないと思います。 奥様にしても自然と受け入れてしまったのではないでしょうか。 そのくらい、自然な流れだったのだと思います。 しかしながら、現実に戻った時、奥様は驚き、そしてショックを受けたのでしょう。 マックさんが、これから奥様の心のケアを、その時の状況を踏まえ優しく語って頂きたいと切に思う次第です。 神々しいまでの芸術を想像してしまいました。ありがとうございました。 |