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｢…ええ…そうですか…はい…いえ、その条件で…はい、結構です…では明日…｣携帯を切り大きく深呼吸をしてみる。肺いっぱいに酸素を取り込むが、ちっとも気分が落ち着きません。
専務室から出た私は、体調不良を理由に早退して家に帰りました。帰ってみると、居るはずの妻が居ません。そう言えば昨夜、町内会の奥様連中とゴルフの打ちっ放しに行くと言っていました。本当かどうか、疑わしいものですが、今更もうどうでもいい…好きにしてくれ状態です。どうせ、そんな事出来るのも今日までですから。
しかし、彼女が居なくて私は助かったのかもしれません。あの写真を見た後ですから…。気持ちが完全に離れたと言っても多少は動揺(多少ではないか…)しています。そんな状態で和代に会えば何かしらのボロを出して明日の『作戦』に支障が出るかもしれません。クールダウンもせずに帰って来た事から、やはり、かなり動揺していたのかもしれません。なので、和代が居ない間に頭を冷却し、平常心を取り戻せるのは却って好都合でした。
私は、気分を落ち着かせる為にシャワーを浴び、頭をスッキリさせる為にウィスキーを１杯だけ飲みました。そして、書斎に籠もり、『作戦』の詰めを始めました。≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
大方準備を終え、私は一つの疑問に頭を悩ませていました。それは、『写真の男は誰だ？』です。
確かに、岸本だけと勘違い(と言うか思い込んでいた)していた事は事実です。まさか他にも居たなんて思いもしませんでした。色々な憶測が頭を飛び交います。 (どっちが本命なんだ？…岸本か？写真の男か？…今も続いているのか？…)考えながら、専務に借りた写真を見つめます。ただ、私にはこの写真から違和感を感じるのです。写真の中の和代は、確かに腕を絡め、寄り添うように密着してはいますが、何かこう…表情に悲しみを感じるのです。写真だし、表情の詳細までは残念ながら判りませんが、何故か私にはそう感じました。しかし、今となってはどうしようもない事です。制裁発動日は明日なのです。仮に調べるにしても、未だ関係してるかも判っていないのです。却って余計な時間と金を消費しるだけですから。この男については、和代、岸本、双方揃った時にでも聞けば良い事だし。ふと時計を見ると、14時30分過ぎ。最近余り眠れていなかった為か、ウトウトしてきました。まどろむ意識の中、ここ最近の和代の事を考え始めていました。