信之の憂鬱

[21] Re: 信之の憂鬱  :2019/08/07 (水) 21:30 ID:RcdB1yq6 No.27206
10 崩壊

「さおりん、こんなの・・・」
「伸之さん音を上げるの早過ぎますよ。まだ始まってもいないのに」
どれくらいの時間キスをしていただろうか。・・・まさか、キスだけでいかされたり?
「せめて、触ってくれない?」
俺は、トランクスじゃなければ『こんにちわ』しているはずの、下半身を見ながら言った。半分以上は、拒否される予感に絶望しながら・・・。
「あら、まだわかっていませんでした?」
(ああ、やっぱり・・・)
「質問の他に、要求も禁止です」
「えぇー」
そんなことだろうとは思っていたけど。
「キスはしてあげますよ」
今となっては、蕩けるようなキスも、辛いだけだ。
「キス、は」
紗織の唇が、俺の頬に場所を移した。いや、違う。
「して、あげ、ます、よ」
首筋、鎖骨、胸の筋肉・・・。場所を移してキス。
全身にキスの雨を降らせながら、忘れた頃にまた唇に戻って来る。
紗織が唇に戻って来ると、俺はほっとした。そして、幸せを感じた。また、キスしてもらえる・・・。
「さお・・・、いつも、こんな・・・?」
質問には一切答えない。嬉しそうに笑いながら、キスの雨は続く。なんだか本当に楽しそうだ。
過去に付き合った相手で、こんなに長い時間キスばかりしていた娘はいない。キスが好きな娘はいたが、気持ちが盛り上がってしまったら、結局は始まってしまうのが普通じゃないか。
感じる場所じゃないはずの乳首を紗織は舌と唇で弄ってから、胸の真ん中辺りから音を立ててキスを・・・
「あ、おい!」
密かに怖れていたことになった。紗織がキスマークを付け始めたのだ。これで明日も海だったら、・・・
(でも、こんなことになってるのは、バレてんだよな・・・)
今回は何故かイジラれキャラにされてるんだ。いまさら、恥ずかしいも何も無い。と思ったが、さすがに数が多すぎる。しかも、
「ひどいよ・・・」
「逞しい男の人の逆レイプネタっていったら、こういうのでしょう?」
「違うと思うぞ」
胸のキスマークが巨大なハート型を描いている。ただのキスマークよりも恥ずかしい。
「でも、嫌じゃないって顔してますよ」
「嫌だよ」
「泣かないで」
笑いながら、紗織がまたキスをする。
不思議な気分だ。恥ずかしくて、嫌で、もどかしくて、せつなくて。でも、この娘にキスをされると、癒される。好みのタイプとはまるっきりかけ離れているのに・・・。
まだ紗織のことは好きになれそうも無かったが、紗織のキスにはすっかり参っていた。
由美とはこんなに長い時間キスをしていたことは、たぶん無い。
俺達のセックスは子供を作るためのものでは無い。飽きないように、とはいつも思っていたが、完全に由美が主導権を握っている俺達だったから、新しい事を受け入れてくれるかどうかは危ない賭けだった。由美の機嫌を損ねたら、そりゃあ辛い日々が続く・・・。
でも、由美もあんな性格だから、喧嘩したとしてもあまり尾を引くことは無かった。大抵は俺が謝って、それで終わり。何事も無かったように元に戻るんだ。
自分に悪いところがあっても、それを認めたくはない。だから、俺が謝ったらそれで終わりにするつもりでいつも待っているんじゃないか。

「あの・・・、嫌なこと、思い出してしまいました?」
キスをやめた紗織が俺の顔を覗き込んでいた。
「ん・・・、何か幸せでさ・・・。さおりんのキスだけで、いろんなこと考えた。元妻とのこととか・・・」
「前の奥さんのこと・・・、考えていたんですか?」
「ああ、大好きだったからね・・・」
「今は、私のことだけ考えて」
「・・・ごめん」
「いいの。心に忘れられない女性がいる男の人を夢中にさせるのも、女冥利ですもの」
「さおりんはどうして・・・」
「こーら。どさくさ紛れに質問しようとしても、ダメですよ」
「ばれたか・・・」
紗織はあくまでもプレイとして、俺のことを好きになってくれているのだろう。
嫌じゃないんだろうか。隆弘の命令に従っているだけなのか。・・・質問を許されていないのがもどかしい。

『作品』はハートマークだけらしく、それからはキスマークが付くようなキスを紗織はしなかった。
全身にキスの雨を降らせながら、紗織のキスはとうとうヘソの辺りまで来ていた。もう、すぐそこだ。でも、やっぱりなかなか近付いてこない。
(じらされるの、ツライよ・・・)
紗織が再び口に戻って来てくれた。だが、軽くキスをして紗織は離れてしまった。俺は放置された気分でぼーっと天井を見ていた。
ふと見ると、紗織が見つめていた。何だか真面目な表情だった。
「伸之さん。・・・部屋、暗くしても良いですか?」
(え・・・。この娘、裸を見られるの、平気じゃなかった?)
「あ、良いけど・・・」
どうして、と思っても、もちろん質問には答えてもらえないので、俺は紗織の言う通りにするしかなかった。
後から思えば、紗織が聞いてきたということは、俺が拒否したら部屋は暗くしなかったのかもしれない。でも、その時の俺は紗織の言うがままだった。
カーテンをきっちりと閉め、照明を一つずつ消して行く。ついでにBGMの音量も少し大きくした。真っ暗になった部屋に、するすると衣擦れの音が聞こえる。

「念のため、目隠しもしますね」
「そんなことしなくても、全然見えないけど」
「慣れたら、見えるでしょ」
たぶん浴衣の帯だろう、紗織に目隠しをされた。平気そうなのに、何故見られたくないんだろう。でも、もちろん俺は質問はしなかった。答えてもらえるはずが無いから。
『チュ』と軽くキスをしてから、紗織は初めてトランクスに手を当てた。
「うふ、お待たせー」
最後までお預けかと半分は思っていたが、ちゃんとおさまりはつけてくれるらしいことがわかって、俺はほっとしていた。
「あらあら。ちょっと濡れてますねぇ」
くすくす笑いながら、撫で回す。
「我慢させ過ぎだよ」
「えー、何がぁ?」
「ほんとにイジワルだなぁ」
「いっぱい我慢したご褒美に、ちゃんと気持ち良くさせてあげますから」
「え・・・?」
「暴れちゃダメですよ」
「・・・ん、わかった」
トランクスを撫でていた手が握る手に変わった。
「かたーい。ここも筋肉なんですか?」
「違うし」
言葉も無く、トランクスが脱がされた。
「ちょっとぬるぬるしてるぅー。いっぱい我慢して、いい子ねー」
そう言うと、紗織はいきなり口に含んだ、・・・らしい。視覚を遮断された俺には触覚と聴覚だけが頼りだ。
わざとなのか、紗織はAVみたいな派手な音をたてている。由美も普通にフェラはしてくれるが、いつもはあまり音はさせなかった。
あれだけ長い時間のキスでじらしていたのに、こっちへの攻めはチロチロ舐めたりはしないのが不思議だ。
「さ、さおりん、激し過ぎ・・・」
「ん・・・まだ終わっちゃダメですよ」
「いや、ほんとにヤバい。すぐにいきそう」
「じゃあ、・・・最初はすぐに終わっても許してあげます」
ということで、紗織は手加減はしてくれなかった。とにかく俺をいかせることしか考えていないのか・・・?
あ、口だけで終わりにするつもりなのかも・・・。
達也と佑子はホントにセックスしてしまったが、紗織はそのつもりは無いのかもしれない。結婚前の身だし。
そろそろ、ほんとにヤバいと思っていた俺に配慮している筈は無いのだが、紗織は口での行為を止めた。
ベッドの上を動く気配がした。俺の上に跨ったことがはっきりとわかる。
(え、まさか、ホントにするのか?)
俺はこの期に及んでもまだ、紗織は挿入まではしない、手か、せいぜい口で済ませるものだと思っていた。ド変態の隆弘の婚約者が処女だとは思っていなかったが、するのは・・・。