信之の憂鬱

[16] Re: 信之の憂鬱  :2019/07/02 (火) 22:59 ID:.sagHw0Q No.27174
実際にあった出来事を基にしているので、エロ要素が少なくて申し訳ないです。
事実二割、妄想八割ぐらいでしょうか。
実用性には欠けますが、もうしばらくお付き合いください。

8 始まる

達也と佑子が立ち去ってから、俺達は元来た崖下の通路ではなくジャグジー側に出た。ずっと興奮しながら覗き続けていたカズだったが、心なしか元気が無いように見えた。
(佑子があんなになって、やっぱりカズはショックだったんじゃないか?)
「凄かったな・・・。ひーこが待ってるから、俺は先に戻るよ。邪魔はしないから、お前らは入っていけよ。んじゃ、お先に」
「あ・・・」
ショックを受けているのかいないのか、カズの反応はどっちだかわからなかった。
ジャグジーに二人きりで残された俺は、さっき見てしまった光景のせいでかなり気まずかった。
紗織はどんな気持ちなんだろう・・・。
俺が無言で頭を巡らすと、紗織は浴衣の帯を解いていた。
「え、ちょっと待って」
「ん?」
紗織はそのままするすると浴衣も下着も脱いで、裸になった。
「信之さんも一緒に入りましょう?」
ついさっき見たことは何も気にしていないという様子でそう言って、さっさと入ってしまった。
(この娘、何なの・・・?)
とんでもない光景を見たはずなのに、紗織は興奮した訳でも無く、平然と湯に浸かっている。だけど、さすがに紗織をここに残して、俺だけ先に戻る訳にはいかない。全て脱いで、正面に座るのもすぐ横に座るのも何となく躊躇われて、少しだけ離れた場所に俺は座った。紗織は俺を見つめ続けていた。
「伸之さんはそういうタイプじゃないって聞いてるんですけど」
「由美から?」
「真面目ないい人を演じている気がしますよ。それに、私のこと、避けてません?」
「別に避けてるわけじゃ・・・」
「昨夜も何も無かったし・・・」
「あのね、思いっきり爆睡してたよね」
「あれだけのイタズラされて眼を覚まさなかった人に言われたくないです」
「うう・・・」
「触ってもいいですか? いいですよね」
そう言いながら、返事を待たずに紗織は俺の胸に触ってきた。
「ふふ、筋肉すごーい。鍛えてるんですね」
「もう現役じゃないから必要無いんだけどな」
「素敵ですよ、鍛えてる男の人って。由美さんも・・・」
「なに?」
「何でもないです。私も鍛えたいんですけど、ぜんぜん育たないんですよねぇ・・・」
そう言いながら紗織は自分の胸を両手で揉んでいる。俺は紗織はBと見ていた。秀美もBかな。綾乃はCだ。あとの二人はDかEか・・・
俺が胸を見ていたことに気付いているはずの紗織が、俺の方は見ずにポツリと呟いた。
「裸で二人っきりなのに、なんで何もしないんですかね・・・」
(そんな言われ方をされちゃうと、余計に何もできないじゃないか・・・)
達也と佑子を見た後だ。何かをしても許されるのだろうという気はしていた。すごくわかりやすく、紗織はサインを出している。手を出しても大丈夫なのだろう。由美と隆弘も了解済みの気はする。
(でも、知り合いに手を出すっていうのもなぁ・・・)
「あのさ・・・」
俺はこの旅行で採用されているカップル入れ替えシステムのことを聞いてみようかと思っていた。くじ引きの時の暗黙の了解なんかじゃない。俺以外の参加者は事前に知らされていたに違いない。何より、修司さんと紗織は途中参加だし。
俺が疑問を口にしようとした時、突然すぐ近くから声をかけられた。泡立つジャグジーの音で足音は聞こえず、入り口に背を向けていた俺は全く気付いていなかった。

「あれ、先客がいたね」
「お邪魔だったかしら」
修司さんと綾乃だった。カズが『貸し切り』の札を外したんだろう。
(俺達をけしかけておきながら、何て危ないことをするんだよ!)
「きゃあー、綾乃お姉様ぁー。お邪魔じゃない、お邪魔じゃないですぅ」
紗織は立ち上がって手をバタバタさせている。前を隠そうという気が無いのか、この娘の羞恥心のハードルはもの凄く低いのだろう。
「さおりん、せめて手で隠そうよ」
修司さんと綾乃も温泉のついでにちょっとジャグジーを覗いてみたようだ。
「あ、水着じゃないのね」
「そうなんです。裸なのに、嶋田先輩ってば何もしないんですよぉ。何が足りないんですかねぇ・・・」
『足りない』と聞いた二人が同じことを思ったのは間違いないが、もちろん紗織には言えない。それに、理由は『胸が小さいから』じゃないし。
二人も裸になって、ジャグジーに入って来た。これまでに見た限りでは、綾乃は他人に裸を見せて平気でいられるような性格には見えなかった。
「あまり見ないでね」
タオルも無しっていうのが恥ずかしいようだ。でも、嫌がらずに入って来た。秀美もそうだが、去年会った時とは様子がずいぶん変わった気がする。それとも、みんなこの旅行では別人を演じているのだろうか。

「ところでさ、ノブ君とさおちゃんって、付き合ってんの?」
「い・・・、いきなり、直球で来ますね」
(修司さんと綾乃も付き合っているのは秘密だろうに、何で二人で来たんだ?)
「全力で、攻略中であります!」
紗織は何故か敬礼をする。敬礼を返す修司さんにだけは通じているみたいだ。
「へえ、紗織ちゃんの方が積極的なんだ」
「そうなんです。でも、嶋田先輩、女の子に興味無いみたいで・・・」
「伸之さん、やっぱりカズさんと・・・」
「だから、違うって」
「じゃあ、どうして?」
俺は少し困った。今朝の公式設定では二人をくっつけることは俺には内緒のはずだったのだが。それに・・・。
「さおりんには、彼がいるし」
修司さんと綾乃が顔を見合わせた。
「ノブ君、悩みがあるの?」
「え、あぁ・・・」
俺は、今回の旅行のカップル入れ替えという企画に戸惑っていた。
(全員、夫婦じゃない組み合わせで同じ部屋に寝るんだぞ。俺だけなのか? 修司さん達に悩みは無いのか? ・・・する、のか?)
この二人は真面目だから、最後の一線は越えないのかもしれない。でも、達也と佑子はもう・・・。由美は隆弘に、変態的なプレイをされるのか?
俺が考え込んでいると、修司さんが軽く言った。
「悩み事は、自分で解決しなきゃ、な」
「な、じゃあ無いですよ! 今の流れなら、『悩みなら聞くぜ』、でしょう?」
「あのね、伸之さん。他人に相談するのは、まだ早いと思うの。もう少し悩んでみましょうか。それに、聞き役は私達じゃないですよね」
修司さんはともかく、綾乃も変な反応だと思った。綾乃は俺の悩みに見当がついているのか? 確かにこれは紗織と話し合うべきことかもしれないが、この娘がちゃんと話を聞いてくれるのか、不安があった。

   *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

部屋に戻ると、当然のことながら、まだ宴会は続いていた。さっきまでの飲んで騒いでの雰囲気とは変わって、静かに語らっているようだ。浴衣姿の奥様方が妙に色っぽく感じる。ていうか、顔が赤いせいか?
座椅子に背をあずけるように由美は座っていた。羽織を肩にかけているが、浴衣に乱れは無かった。すぐ横に隆弘がぴったりと寄り添っていたが、俺がいなかった時には、浴衣の合わせ目から手を入れるぐらいはしていたのかもしれない。何度も言うが、俺は隆弘がド変態だと・・・
「遅かったな」
「散歩でもしてきたの? ・・・はぁん・・・」
達也は座布団にうつ伏せになった佑子に『真面目な』マッサージをしていた。指圧であげた声が、あの時の声に聞こえてしまうのは俺の考え過ぎなんだろうけど、ついさっきまであんなに激しい行為をしていたようには見えない、今は穏やかな二人だった。
「温泉の後で露天のジャグジーがあることに気付いてさ、星空を見ながら語りあってた」
「へぇ、ジャグジーは露天だったのか。気付かなかったよ」
(いやいや、達也、お前も佑子と二人で・・・。)
突っ込もうかと思ったが、カズも紗織も黙っていたので、俺も聞き流すことにした。
「ノブ君もやってもらう? 冗談だと思ってたんだけど、達也のマッサージほんとに上手よ」
「嫌だね。男の体になんか触りたくねぇ」
「あ、ほら、やっぱり私に触りたいだけなんじゃない!」
「佑子も気持ちいい、俺も気持ちいい。何も問題無ぇだろ」
そう言いながら達也は腰の辺りを触っていた手を尻に。
「こらぁ!」
佑子は怒っている感じが全然しない。達也がたぶんわざとぎりぎりまで浴衣を捲り上げて足を揉み始めても、言葉と態度は全く別で、嫌がる素振りは見せずに身体を委ねている。
「ちょっと和ちゃん、どこ見てるの?」
エッチなことをされている佑子を見て興奮しているカズに、秀美が新妻らしいやきもちを焼く。・・・でも、佑子のマッサージ動画を撮影しているのはカズではなく秀美だった。
達也はしばらくきわどい辺りを触っていたが、これ以上エスカレートさせる気は無いらしく、佑子の浴衣を元に戻して今度は手のひらの指圧を始めた。
「ああ、それ・・・。なんかすごく気持ちいい」

さっきあんなものを見なかったら、二人はただ仲が良いだけの『職場の同僚』にも見える。それに触発されたのか、紗織が俺の方に向き直って正座しながら言った。
「嶋田先輩。私にもマッサージしてください」
「いや、それはさすがに・・・」
これだけ友人たちの目があるところで未婚の娘に触るのもなぁ・・・
「じゃあ、私がしてあげます」
「それもヤメテ」
「えーん、振られたぁ・・・」
「振ってないし。あ、そういうことじゃなくて・・・」
俺達のやり取りを見ていた佑子が、
「ノブ君、なんだか、さおちゃんと良い感じじゃない」
「え、そうかな?」
「お風呂の後ってことは、裸だよねぇ。二人っきりで裸でジャグジーで・・・『何か』してたのかなー」
軽く爆弾を投げる。
(何かしてたのは、あなたでしょうに・・・!)
「え、なに、あそこって水着着用じゃないの?」
秀美は風呂に行った後、カズが先に帰ったものと思って真っ直ぐ部屋に戻ったらしい。
「風呂入りに行ったついでなんだし」
それに、・・・と言いかけて、俺はやめた。途中から修司さん達が来たことは、ヒミツの二人を邪魔することになるから。
「あやしいなぁ」
「何もしてないって!」
内心のうろたえを隠して由美をちらっと見る。あれ・・・?
「・・・由美、具合悪いのか?」
ここぞとばかりにイジリにくるはずの由美が、おとなしくしている。変だ。
「ん、・・・少し、酔ったかな」
「外で風に当たってきたら?」
「一緒に行こうか?」
隆弘が軽く肩に触れた時、かすかに震えたように見えた。
「・・・いい。ここにいる」
風呂に行くまでは、わざと隆弘にしなだれかかったりして俺を挑発していた由美が、何かに怯えている。こんなキャラじゃないはずだ。隆弘が何をしたんだ。
隆弘が寄せたグラスに由美はおとなしく口を付ける。
由美はこんなに従順な女じゃないんだけどな。そういうキャラを被ったにしても・・・何か違和感がある。

思えば、今回の旅行は不自然なことだらけだった。
どう考えても、俺だけが知らされていないことがあるのは間違い無い。
しかも、俺が薄々そこに気が付いていることがわかっていそうなものなのに、それはまだ明かされる気配は無い。
俺がさっき見た光景は何だったのだろう。達也と佑子の不倫? 
普通に考えれば、あれは今回の旅行の『夫婦組み換え』の設定に従った、ただの下手な芝居のはずだ。まさか、芝居で本当にセックスするとは思っていなかったけど。
いずれにしても、少なくとも夫婦じゃない一組の男女二人がセックスしたのは事実だ。俺を含めて残り四組はどうなんだ?
俺が知らなかっただけで、他のみんなはもう『そういう関係』なんだろうか・・・
常識人だったはずの佑子の痴態を見て、さすがに乳児がいる綾乃やおとなしい秀美はそんなことしないだろう・・・という考えが揺らぎ始めていた。
別人を演じているのなら、普段だったら絶対にしないことだって・・・

そう言えば、あれから由美は常にチョーカーを着けていた。隆弘がSだとすると、あれは首輪の代わりのようなものなのかもしれない。だが、今はそのチョーカーが無かった。風呂から帰って来た時点でしていなかったが、入浴時に外してそのまま忘れているんだろう、位に思っていた。でも、隆弘がそれを許さないんじゃないかという気はしていた。
(チョーカーが下着と同じ色、ということは、まさか・・・着けていないのか? 下着を・・・。そういうサインなのか? 他にも何かされているのか? そうで無ければ、あの由美がこんなにおとなしくしている訳が無い。)
しばらくして、俺はようやく由美の違和感の正体に気付いた。飲むにしろ食べるにしろ、由美はさっきから全く手を使っていなかった。隆弘が運ぶままを口にしている。
腕を拘束されているんじゃないのか。由美だけが羽織をかけている理由もそれなら納得できる。S男ならやりかねないが、・・・俺の目の前でよくやる。
隆弘が俺を見て微かに笑った。セリフを考えるとすると、『楽しませてもらっているよ』、といったところか。

実は、隆弘にエッチなプレイを仕掛けられている由美に俺は激しく嫉妬していた。
俺にはできないが、どSな由美がS男に責められているのを見てみたい気もする。昨年のバーベキューの時の修司さんの寝取られ性癖告白に、気持ちがわからないと思っていた俺だが、今ならわかる。自分に少しでもこんな気持ちがあったなんて、意外だった。でも、実際に隆弘にエッチなことを仕掛けられて、おとなしくなってしまった由美の姿に新鮮な魅力を感じていた。いつも強気のこの女に、弱々しく『許して』とか言われてみたい。
一方で、由美をこんなにしてしまった隆弘には、底知れぬ畏怖を感じていた。実は、こいつはサディストには全く見えない。真面目で頭が良さそうで優しそうな男だ。達也やカズに比べれば会話も上品だし、物腰も柔らかい。そんな奴に由美はあっさりと落ちて、言いなりになっている。くじ引きで決まったからと言えばそうだけど、相手がカズや修司さんだったなら、たぶんこうはなっていない。由美は、後で何があったのか教えてくれるのだろうか。

俺も紗織に何かをしなきゃ、割りに合わない。そう思っていたら、隆弘に合図をされたわけでもないのだろうが、
「嶋田先輩、私もちょっと酔っちゃったみたい」
そう言って紗織が倒れ込んで来た。そのまま膝枕の態勢に持ち込む。
「かたーい。筋肉の枕だ」
「悪かったな」
「ううん、低反発でとっても寝やすい」
「ここで寝るなよ」
「駄目ですかぁ?」
「ここで寝たらみんなにいたずらされるぜ」
「どんなこと、されちゃうの?」
「もちろん裸にされて、身体には落書きだな」
「え、『肉便器』とか書かれちゃうんですか? いやーん」
「おま・・・! 」
俺は素早く周囲に目を走らせた。幸い、誰にも紗織の爆弾発言は聞こえていなかったらしい。さすがに変態隆弘の婚約者だ・・・
「何言ってんだよ・・・!」
「え、何のことですか?」
絶対にわかっているはずなのに、紗織は無邪気な笑顔。
「お前なぁ・・・。ほら、眠いんなら、部屋に行けよ」
「連れてって・・・」
紗織が俺を見上げながら浴衣の袂をつんつんと引っ張る。
・・・この娘には逆らえないと思った。
仕草とか表情とか・・・、自分が可愛いことを十分にわかっていて、それを武器に攻撃してくる。
(そういえば、由美にはこんな風に甘えられたこと無いかもなぁ)
「嶋田君、お姫様抱っこで連れてってあげたら?」
由美が首だけを横に向けて言った。
(もう、縛られているのは確定だな、こりゃ・・・)
「帰って来なくていいからな」

俺はもう一度この部屋に戻るつもりだったが、達也は帰って来るなと言う。
そんな気配は感じたことが無かったが、以前から俺抜きでこんなイベントをやっていたのだろうか。
考えたくはない。でも、俺以外の全員の振る舞いが少なくとも俺には『自然』に見えていた。
「じゃ、行くか」
俺はひょいと紗織を抱っこした。
「うーん・・・」
「なんだよ」
カズが首をかしげる。
「お姫様というより・・・普通に人命救助?」
「あのなあ・・・!」
紗織は俺を潤んだ眼で見ていたが、他の奴らには紗織の表情までは見えていなかったんだろう。