色は思案の外

[49] 色は思案の外  最後のティッシュ :2017/12/26 (火) 22:51 ID:KaDFHXQ. No.25424
大学最後の年末、珍しく雪が降ったクリスマスは友人と過ごした
彼氏という存在を避けるようになったのは高校一年生の夏
お互い好意を持って付き合っていたハズなのに、キスという肉体的な接触が目の前に迫った時
その行為が堪え難いほどに汚らわしく感じ拒んでしまった
恋人の関係になれても男女の関係にはなれないと分かってからは、お付き合いの申し出があっても断っている

 恋愛だけが人生じゃないって割り切ったつもりだけど
 やっぱり、友達から聞かされる恋愛話は耳が痛くなるのよね・・・

両親と年を越すために実家へ向かう足が重い
セックスに対する嫌悪感を私に植え付けた二人と顔を合わせる事になるから・・・


駅に着くと一台の見慣れた車が目に入り、ドアが開いて母さんが降りてきた
34歳の時に私を産み今は56歳のはずなんだけど、その容姿は四十代前半ぐらいに見える
一緒に暮らし、毎日当たり前のように顔を合わせていた時は意識する事はなかったけど
離れて暮らし顔を見るのは年に一度か二度になると、他の五十代の女性とは一線を画している事に気付かされた

『私の美貌に余計な装飾はいらない』

そう言い放っているかのような薄化粧にラフな衣服
厚手の冬服を着ていても分かる、私が子供だった頃から変わらないプロポーション
それを一層輝かせているのは180近い身長
この女帝のようなオーラを纏った女性が私の母で実家の近所の有名人

「一年振りね」
「うん・・・」
「少し前にこの近くに喫茶店ができたの レトロな雰囲気で良いお店よ」
「そう・・・」
「家に帰る前に寄るから付き合って」
「うん」
母さんは居心地の良い空間を見つける事が得意な人
私と弟が小さな頃から雰囲気の良いお店を見つけては連れて行ってくれて
その甲斐あっての事か、大学を卒業した後は建築設計の会社に就職する事が決まっている

母さんが「良い」と言ったお店は、本当に良い雰囲気のお店で心が安らぐ

 私の気持ちが見透かされているみたい・・・

そして目の前にした実家の玄関
この中で父さんが私を待っている
父さんと母さん、別々に顔を合わせるのは大丈夫だけど
二人が揃っているところを見ると、中学二年生の時に覗き見てしまった二人の寝室を思い出してしまう

「ただいま」
「あ、おかえり あれ?背伸びた?」
「伸びてない! 178のままよ」
 (気にしてるのに・・・)
「はは・・・ そうか・・・ でも、そんなに怒る事ないのに・・・」
「その話は、もう止めて」
 (そんな事より気にならないの?)
「そういえば就職先決まったんだって?」
「うん」
 (そうよ、私が父さんと話したいのはその事よ)
父さんは家では仕事の話しなんてしない、勤め先の話しなんて聞いた記憶がない
でも、建築関係の仕事をしている事ぐらい知っている
 (何かアドバイスのような事を・・・)
「卒業旅行とか行くのか?」
「行かない」
「そうか 父さんも単位取ってからは入社するまでフルでバイトしてたからな」
 (そうじゃない!母さんから私が何の会社に入るのか聞いてないの!?)
「それより父さんの仕事の事・・・」
「仕事?家にいる時ぐらい仕事の事は忘れたいな・・・」
「そう・・・」
 (役に立たないわね!娘の話しも聞けないの!?)

「荷物を部屋に置いてきなさい」
「はーい」
「返事は伸ばさない!」
「はい」
母さんに言われてリビングを出た
一年振りの実家は相変わらずで、いつもの父さんと母さん
でも、あの二人には秘密があり その秘密の行為を私は知っている

料理が上手で聡明で、それでいて更に美人の母さん
小学校に上がった時は、クラスの半分の男子の初恋の相手は母さんだったわ
いつも母さんに叱られてばかりで、どこか頼りない所はあるけど優しい父さん
何人か人が集まれば、いつの間にか輪の中心にいる不思議な一面を持っているのよね

他の人から見れば仲の良い普通の夫婦なんだけど・・・


今日は大晦日 リビングでは父さんと日課のヨガを終えた母さんが並んで座り、テレビを観ながら年越しを待っているけど
寝る前のひと時に二人が並んで座る こんな夜は・・・
「もう寝るね」
「あら、寝ちゃうの? 後二時間ほどで年が明けるのよ」
「うん でも、もう寝る」
「そう あ、そうそう 父さんね、少し先の話しだけど役員になるのよ」
 (え?)
「言わないでくれよ・・・ 忘れてたのに・・・」
 (どういうこと?出世する事が嬉しくないの?)
「なに言ってるの、経営側に立つのよ 覚悟を決めてしっかりしなさい」
「はい・・・」
相変わらず父さんは母さんに叱られている
 (こんな父さんでも重役になれる会社って・・・ どんな会社に勤めてるのよ・・・)

本当は「おめでとう」の一言でも言えばよかったかもしれないけど
二人の様子に呆れて言いそびれてしまった
階段を上がり入った部屋は私が高校を卒業するまで使っていた部屋で
母さんが掃除してくれているのか一年振りでも隅々まで綺麗にしてある
私がお風呂に入っている間に暖房を入れてくれたらしく温かい
ベッドに寝転んで見る部屋の風景も懐かしく居心地が良い
弟が隣の部屋を使っていた時は壁越しに物音が聞こえてきていたけど、今は何も聞こえてこない
両親は私達の好きなようにさせてくれて、弟は中学を卒業すると同時に家を出て料理人の道を歩み始めた

静かで心地の良い気分の中で眠気を覚え始めた時、部屋に近付いてくる足音が耳に入ってきた
 (これは母さんの足音・・・)
「入るわよ」
「うん」
私が身体を起こすと、部屋に入ってきた母さんがベッドに腰を下ろす
「この家が嫌い?」
 (母さんらしい真っ直ぐな質問ね・・・)
「別に・・・」
「そう、それならいいけど 近くに住んでいるんだから時々帰ってきなさい」
「うん・・・」
「父さんに何か聞きたい事があったんじゃないの?」
「うん・・・」
「不安なんでしょ?」
「うん・・・ 少しだけ・・・」
「ふふっ 考え過ぎて悪い方に考えてしまうところは私に似ちゃったわね」
「母さんはそんな事ないでしょ」
「あるわよ せっかく頭の良い所は父さんに似たのに、心臓の強い所も似ればよかったわね」
「え・・・ 父さんが頭が良いって・・・」
「ふふっ 本当よ」
「そんなウソ言って誰が得するのよ・・・」
「本当よ、高校は偏差値70台の進学校を出てるのよ」
「そうは見えないんだけど・・・」
「信じられないのなら田舎のおじいちゃんに聞いてみなさい」
「じゃぁ、大学も?」
「ううん、自分の名前が書ければ入れるような大学よ」
「え・・・ 意味分からないんだけど・・・」
「ちょっとした反抗だったらしいわよ 中学を卒業したら大工になるつもりでいたらしいけど、おじいちゃんに反対されたって言ってたわ」
「そうなんだ・・・」
 (全然頭良くないじゃない!頭悪過ぎでしょ!)
「だからよ、あなた達の進路の事には何も口出さなかったのは やりたいようにやってきたでしょ?」
「うん・・・」
「聞きたい事があるなら何でも聞きいてみなさい 何でも答えてくれると思うわ」
「うん」
 (競馬の事なら何でも答えてくれそうだけど・・・)
初めて聞いた父さんが父さんになる前の話し
母さんの事なら、高校の時はバスケ部の主将でインターハイの準決勝まで行ったという事ぐらいは聞いた事あるけど
父さんも学生だった事があるのよね 想像できないけど・・・

中学の二年の頃から両親とは向い合って話をしなくなった事もあり、目に映る二人しか見ていなかった
どんな恋愛をして結ばれたのかなんて、そんな話は一度もしてくれた事が無い
母さんが部屋から出て行って一時間ほど経った頃、私の心臓は少し鼓動を速める
思い出しているのは二人並んで寛ぐ両親の様子で、今頃あの二人は・・・
そっとドアを開けて耳を澄ませてみても階段の下からは何も聞こえてこない
息を殺して階段を一段一段確かめるように降り、二段ほど残して足を止めて耳を澄ませてみる

中学の二年生だったあの夜、私は喉の渇きを覚え部屋を出た
一階の廊下を目前にして私の足を止めさせたのは、耳に入ってきた聞きなれない声で
その声は両親の寝室から聞こえてくる
恐る恐る足を進め寝室の前に立った時、ハッキリと聞こえたのは母さんが許しを請う声
その声を拒否するかのように父さんが叱咤している
理解できなかった どちらも私が知る父さんと母さんの声じゃない
見たくない気持ちはあったけど、二人の事を心配する気持ちが勝り
そっとドアを開けた私の目に飛び込んできたのは狂気の世界だった
手足の自由を奪われた母さんは許しを請い
そんな母さんを責め立てる父さん
そして二人は裸のあられもない姿で、ドアを開けてしまった私には気付かない程に陶酔していた


男女の関係から私を遠ざけるきっかけとなった中学二年の初夏
あの日から私は何度も両親の寝室を覗き見て
そして、今夜も・・・

リビングには明かりは無い
息を殺して寝室の前に立ち、耳を澄ませてどんなに小さな音でも拾い聞こうと努めてみると
ドアの向こうから母さんの声が聞こえてきた
 (もう始まってるの?)
「どういうことですか?私はこんなつもりで来たわけじゃありません」
 (え?なに?どういうこと?)
「僕はそのつもりだったよ、野上主任」
 (う〜ん・・・ 父さん、母さんと何の話をしてるの?「野上主任」って何の事?)
「帰ります」
「待ちなさい!」
「あッ!手を放してください!取締役!」
 (取締役??)
「放さないよ 今夜、君は僕のモノになるんだ」
「いい加減にしてください」
「よく考えたまえ、僕が持つ権力で君を本社から追い出す事もできるんだぞ」
「あなたに弄ばれるぐらいなら、こんな会社・・・」
「君は僕の事を甘く見ているようだね 僕が一声かければ、この業界に君の再就職先は無くなるんだぞ」
「そんな・・・」
 (え・・・ これって・・・)
「安心しろ、夜が明けるころには君は僕のチンポの虜になっている」
「そんな事にはなりません!」
「どうかな その答えは数時間後には出ているだろう」
「あっ!いやっ!」
「野上主任!諦めて僕の女になるんだ!」
「取締役!やめてください!嫌です!」
 (なんなの・・・ この寸劇は・・・)

 こんなパターンもあったなんて・・・
 いい歳して恥かしくないの!? バカ過ぎるわ! マックスバカ夫婦よ!
 それと 父さん! 家にいる時は仕事の事は忘れたいって私に言ったわよね!
 これはどういうことなの!!


覗き見る気も失せて部屋に戻った私は、何とも言えない腹立たしさで中々眠りに付けなかった