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[2141] 珠代への罠B のりのり 投稿日:2007/07/13 (金) 18:43
出迎えた斉藤は長身のハンサムな若々しい男性だった。黒のTシャツにジーンス姿というラフな格好で、夫の浩介よりもはるかに若く見えた。難しそうな人間を想像していた珠代はかなり安心した。
「今夜は無理を言ってすいません。さあ、どうぞ」
笑顔を浮かべながら、斉藤はそう言って二人を広いダイニングルームに案内した。ビール、ワインボトル、そして高級そうなグラスが並び、既に食事も用意されていた。しかしそれは聞いていた斉藤の妻の手料理とは異なり、豪華な寿司の出前であった。
珠代のアパートの倍はあると思わせる、広いLDKであった。TVの上には家族であろうか、ディズニーランドの入場ゲート前で微笑む小学校高学年くらいの女の子二人と夫婦の写真とが飾ってある。
「広いですね、ここ」
斉藤に促されスーツの上着を脱いでダイニングに座った珠代は、部屋を見回しながらそう言った。
「いやあ、結構古いんですよ、これでも。駅から遠いですしね」
と斉藤は謙遜したように答える。
「奥様は白ワインでよろしいですか?」
既にワインボトルを持った斉藤にそう聞かれた珠代は
「あっ、でも私それほど飲めませんから」
と躊躇してみせた。
「いやあ、私は奥様に一緒に飲んでもらったほうがうれしいなあ。さあ、今日は是非」
そういう斉藤に、社長も
「奥さん、まあ、ゆっくり進めてくださっていいんですから、今夜は」
と声をかけた。
そういう社長は車は置いてタクシーで帰るからと言って、ビールをグラスに斉藤になみなみと注がせた。

180センチは優に超える斉藤は、スポーツマンらしくがっしりとした体格であった。170センチそこそこの浩介とは違い、腕もたるみのない筋肉質のものだった。うっすらと日焼けしたその外見は、清潔感が溢れ、好感が持てた。
珠代と社長が並んで座り、斉藤は珠代の向かい側に座った。簡単な乾杯の後、食事を始めた。近所の鮨屋の出前ということだが、高級なネタが揃った豪華なものであった。
「何かスポーツでもやってらっしゃったんですか、斉藤さんは」
何とか話をしようと、当たり障りのない話題を珠代は持ち出した。
「学生時代、バスケットをやってました。最近はすっかり体がなまってしまってますが」
寿司をつまみながら、斉藤が答える。
「失礼な言い方かもしれませんが、奥様も素晴らしいプロポーションをしていらっしゃる」
斉藤は、目の前に座る珠代を改めて観察するかのように、見つめた。しかしその行為は決して不快感を与えるそれではなかった。
「昔、クラシックバレエをしていたんですが。子供も二人できて、もうすっかりおばさんですわ」
「おばさんどころか、余計な贅肉も全くついてらっしゃらないようですし」
「やせている分、胸もお尻も寂しいものですわ」
「そうでしょうか」
珠代と斉藤の会話に社長が割って入る。
「いやあ、とてもお子さんが二人もいる奥様には見えませんでしょう。むしろ20代の女性よりも色っぽいというか、熟しているといいますか、おきれいに見えますよ。はっはっは」
飲み始めたばかりというのに、どんどんビールを進める社長がやや下品な笑いを浮かべながら言った。

「しかし、こんなおきれいで控えめな奥様とは予想してませんでしたよ」
斉藤が珠代を見つめながら言う。
「今回の件では大変積極的にアプローチをされたと社長から聞きました。そのおかげでというか、まあ、こちらもあきらめざるを得なかったわけですが、正直、もっと豪快な女性を想像していましたよ」
決してとげのある言い方ではないが、土地の件の話題となったことに、珠代は内心少し不安になった。
「そんな、積極的だなんて・・・・・」
珠代は申し訳なさそうに、斉藤に言った。
「いやあ、斉藤さん。ま、奥様には私が負けたんですよ。このおしとやかな外見からは想像できないですが、奥様はやるときは大変積極的になりますからな。はっはっは」
社長のその下品な言い方に、珠代は裏の意味を感じ取った。明らかにあの夜のことを社長は匂わせていた。
「こんなおきれいな奥様ですからね。社長さんがそちらを優先したのもわかりますよ」
斉藤が言った。
「ほんとうに、斉藤さんにはご迷惑をおかけしました。こちらのわがままをきいてもらって・・」
食事をやめて、改めて斉藤に頭を下げる珠代に、
「いいんです、奥さん、本当に。今夜、こうして食事ができるわけですから、私はそれでいいんですよ。さ、飲みましょう」
斉藤はそういうと、珠代にワインを促した。
「え、ええ」
珠代は仕方なく、ワイングラスを手に取ると、フランス産とボトルに書かれた辛口の白ワインを口にした。