真一と桂子と恵
8 Re: 真一と桂子と恵
ラクトアイス
2023/07/07 (金) 21:53
No.30898
真一の部屋の様子を伺って、省吾が立ち去ろうとした時だった。
宅配業者が、段ボール箱を抱えて真一の部屋へとやって来た。

 「あッ、成田さんですか?お荷物です。」

 「あッ、ああハイ。ご苦労様です。」

省吾は、宅配業者の差し出した箱を受取った。
騙すつもりの無かった省吾と、省吾の事を真一だと思った宅配業者。
その荷物は、真也がネット注文した品物だった。
5分ほど前、宅配業者から配送確認の連絡が、桂子に来ていた。

 「お荷物が届いてます。これからお届けに伺います。」

 「ハイ。わかりました。」

桂子と宅配業者の、やり取りだった。

荷物を真一の替わりに受取った省吾が、部屋のチャイムを鳴らす。
部屋の中から、女性の声が。

 「は〜い。ご苦労様です。今、開けます。」

カチャカチャとドアチェーンと鍵を開ける音がする。
そして、カチャリとドアが開いた。
省吾は、すかさずドア枠とドアの間に脚を入れた。

 「えッ、ええ・・・・貴方は?・・・ちょっと・・・ちょっと。」

桂子は、そう言うのがやっとだった。
省吾は、抱えた箱で桂子の躰を押して部屋の中へと入った。
桂子は、省吾に押されるまま、後退りをする。

部屋に入った省吾は、逃げるように後退りをする桂子を追うようにリビングへ。
リビングの隅で震える桂子。
慎吾は、スマホを取り出して真一の同僚の健太に連絡をする。

 「あッ、もしもし。健太さん?・・・省吾です。居ました、居ましたよ。成田さんの部屋に女が。」

 「何?真一のアパートに女?。」

 「ええ、今。俺の眼の前に・・・・俺?部屋の中です。・・・・ええ、直ぐに来てください。」

 「よし、わかった。直ぐに行く。」

電話を切った省吾は、桂子が逃げ出さないように、リビングの入口に仁王立ちになって仲間の到着を待った。
桂子は、身動き出来ずに部屋の隅で小さくなっていた。

省吾から連絡を受けた健太は、利一と連絡を取り合って真一のアパートへ急いだ。
桂子は、真一と連絡を取りたがったが身動き出来ないでいた。

30分程して、玄関ドアの開く音がして、健太と利一が部屋の中へ入って来た。

 「省吾。良くやった。やっぱり、真一には女が・・・・女が出来てたんだな。しかも、こんな上玉の女が。」

健太は、部屋の隅で小さくなって震えていた桂子の肩を抱いた。
桂子は、その手を振り解こうと抵抗する。

 「おやおや。元気の良い“彼女さん”だ。そんなに嫌わなくても・・・別に取って食おうなんて思って無いから・・・。」

健太は、桂子の肩を強く抱えて部屋の中央のクッションに座らせた。

 「ねえ、彼女?・・・お名前は?。名前、教えてくれるかな?。」

桂子は、口を真一文字に結んで開こうとしなかった。

 「参ったなぁ、名前が分からないんじゃ・・・なんてお呼びすれば良いのかな?・・・・明美さん?陽子さん?」

桂子は、健太の問い掛けに応えずに、顔を背けた。

 「まッ、良いか。真一に聞けば・・・・真一も、その内帰って来るだろう。」

省吾は、健太が来た事で安心したのか、その場にへたり込んだ。

健太と利一が、真一の部屋に来てから15分ほど過ぎた頃、玄関チャイムが鳴った。

 「桂子ぉ〜。ただいま。帰ったよぉ〜・・・・」