短編です
18 Re: 短編です
ハタケリョウ
2023/03/19 (日) 08:21
No.30640
1話
センター長の高砂健一(たかさご けんいち42歳)は、研究論文の執筆にあたっていた。健一がコーヒーをすすっていると、窓の外で車の音がした。
「来たか。」
健一は出迎えに行った。
赤い高級外車から、肩まである髪を後ろで束ねた白衣の女が降りた。
「やあ麻耶。よく来たね。」
「貴方。聞いてはいたけど道が酷いわ。クルマ替えないとダメね。」
高砂麻耶(たかさご まや30歳)は、昨年から夫がセンター長を務めている自然保護と研究を主にする山間の施設に獣医として赴任したのだった。

麻耶が新しく自分の職場となる医務室で荷物の整理をしていると、健一が施設を案内すると言ってきた。
麻耶と健一は、東京でお見合い結婚して3年になるが子供はなかった。お互いに仕事人間なので、それで良かった。

健一が麻耶の前を歩きながら言った。
「この辺りがこのセンター所有の自然保護区だよ
。君の仕事は、保護されている動物たちの健康管理ということになる。」
「そう…。わかったわ。」
麻耶が答えた。
少し間があって、健一が尋ねた。
「どうだい?気持ちの整理はついたかい?」

ここでの勤務のきっかけは3ヶ月前の事だった。麻耶は、独立を目指して働いていた動物病院で手痛いミスをし、酷くクレームがついた。自信を失った麻耶は、病院を去ることにしたのだった。
「ええ。ここで頑張ってみるわ。」
そうは言ったものの、麻耶の声のトーンは低かった。

麻耶は、保護区の一角に目を止めた。
「健一さん。あれは?」
健一は立ち止まった。
「ああ、4日前に保護された猿だよ。」
「大きいわね。」
「ああ。他の仲間に比べると一際目立つね。しかし、もう2日間、何も食べないんだ。」
「そう。心配ね。」
「名前はあるの?」
「管理上、適当な名前を付けるけど、そう言えば、あの猿はまだ無いな。君が付けてやって。」
麻耶はうずくまる猿に近づいた。
その猿は同じ種類の仲間よりずいぶん大きかった。立ち上がれば高学年の子供くらいはあろうか。しかし、元気と言うか生気があまり感じられない。
見ると猿の額には雷のような傷がある。
「じゃあ、ライゾウ(雷蔵)はどう?」
「オーケー。いいよ。」
「よろしくね。ライゾウ。」
猿がピクリと反応したように思えた。

2話
麻耶は、着任したその日は手続きに追われた。動物の診療ができたのが次の日になった。

やはり気になるのはライゾウだった。昨日もエサを食べていなかった。ライゾウが腹を押さえているような姿を見た。
麻耶は内臓に異常があるのではないかと思い、ライゾウを診察台に寝かせた。麻酔を打つとライゾウはまどろんだ。
触診をしてみる。麻耶がライゾウの腹部を軽く押すと、ウッと痛がった。
「近くで見るとこの子は結構な高齢だわ。やはり内臓に疾患がありそうね。」


その晩、ライゾウは昔の夢を見た。すいぶん前のことだが、その時もライゾウと呼ばれていた。

ライゾウは、生まれたときから人間のそばにいた。旅の一座で芸を仕込まれていた。一座の人間はとても優しく、ライゾウは人間を信頼していた。
ところが、途中から一座に加わった女が、ライゾウをひどく扱った。ある晩、女は檻にやってきてライゾウを起こすと、ライゾウのペニスを弄り始めた。雌の猿も知らないライゾウが恐怖で声を上げると、女はライゾウを痛めつけた。ライゾウが静かになると、またペニスを弄り、口に咥えた。ライゾウは、初めて勃起した。
女は服を脱いだ。大きくて垂れた乳が目の前にあった。ライゾウは、本能でこれから何が行われるのか察した。女は尻をライゾウに向けると、ライゾウのペニスを招き入れた。そして何かよく分からないことを言って喜んだ。女の大きな乳が前後に揺れていた。

その晩、ライゾウは女から何度も交尾を学んだ。女が疲れて動かなくなっているときに、ライゾウは素早く一座を離れた。

生まれて初めて自由だった。
身体の大きかったライゾウは、合流した群れでは別格だった。だから雌には困らなかった。随分とたくさんの子孫を残した。しかし、生まれた時から人間と暮らしていたライゾウにとって、群れは居心地が悪かった。群れから離れ、山中に潜み、人間の女が山に入ると、襲って犯した。そして、また別の群れに行き、また離れてという生活を続けた。
そうして歳を取ったライゾウは覇気もなくなり、身体の調子も悪くなった。今となっては保護された身だ。

夢から覚めたライゾウは、今日のことを思い出していた。このまま自分の命は終わると思っていたが、今日現れた麻耶という女はどうだ。人間にしておくのはもったいないと思うほど、ライゾウの好みだった。あの女を犯し、自分の最後の妻にしようと思った。
ライゾウのペニスは、若い頃を取り戻したかの様に硬く勃っていた。