遅かった出会い
40 変化
東風
2021/09/01 (水) 20:37
No.29214
もう!危ないところに付けないでよ」
仕事帰りのB地点での逢瀬のために、車に乗り込んだ山田にむかって、笑いながら言った。
「一昨日、家についてご飯作るのに髪の毛を縛ったら、こんなところにキスマークがあるじゃない、気が付かなかったら危なかったよー。慌てて、髪の毛を縛りなおして、ファンデーションで隠しておいたけど・・・、服の中ならいいけど、見えるところはダメだよ」
山田は、悪戯っぽく微笑んだ。山田にとってみれば、家族よりも職場の誰かに見られた方が面白いと思っていた。
 山田と関係を持ってからの香は、髪の毛の色も明るくなり、母親らしいショートカットから、ややカールの入ったロングヘアへと変わりつつあった。体系や顔だちも産後のぽっちゃりとしたものから、ややシャープになってきた。
 下の子が徐々に手が離れたこともあり、子育てに空いた時間にジムに通うことも始めた。変化に一番敏感に感じたのは本人で、自分の変化を楽しんでいた。職場でも若手の男性社員の目が明らかに変わり、自他ともに「もて期」を感じていた。
 そんな香りの変化に対し、山田は更なる性欲を感じるとともに不安をも感じた。
「営業の洋二君がね、打合せしてたらね、後ろから耳元で、『今度一杯やりに行きませんか』って誘ってくるのよね。私を幾つだと思ってるんだろうね。軽い男だよねえ・・・」
と満更でもないような顔で話してきた。
また、別の日は、
「この間ジムに行ったらね、会ったことのない外人が話しかけてきて、『ヨウコさんですよね』って声をかけてくるの。いいえ違いますって答えたら、『久しぶりに日本に戻ってきたので、お世話になったヨウコさんに似てたので』ってしつこくて」
とニヤニヤして話してきた。
 山田が初めて香にあった頃は、一人目の子供を妊娠中で、どちらかと言えばどこにでもいる若いお母さんの雰囲気。妊娠前も特別男にチヤホヤされていたような雰囲気には感じられなかった。後に知ることになるが、実際は、結婚前後もそこそこ持てていたようだが、明らかに人生最大のモテキを迎えて喜んでいるように見えた。
 それに対し、山田は、子どもの頃から運動神経がそこそこ良かったので、常に部活動や大学の体育会でもキャプテンを務め、中学高校では彼女がいてもバレンタインには女の子が群がっていたので、そんな香を半ば蔑んでみていた。