遅かった出会い
3 告白
東風
2020/08/03 (月) 19:35
No.27643
「今日はもう勘弁してくれ」
山田と香は、接待の飲み会のあと、上司を二次会に誘った。上司の疲労は分かっていたが、それも「もう一軒行きましょう」と、誘うのも礼儀である。酔った上司は、一万円札を出して、
「これで若い連中を誘ってやってくれ。すまんな」
と、香に万札を押し付けた。
香も山田も三十代となり、部署の若手のリーダーとなっていた。上司に丁重に礼を言って、タクシー乗せたが、二十代の若手には、その辺の気配りが出来るわけもなく、皆どこかの店に消えていた。
「どうする?このお金。返すわけにもいかないよねえ?美味しいものでも食べて帰るか?」
「そうですね。香さんは、飲まずにお酌ばかりしてて、疲れたでしょう。ちょっといい寿司屋を知ってるので少し摘まみませんか?」
二人は、近くの品のいい寿司屋の暖簾をくぐった。香は、子供が出来てから飲み会でもお酒を飲むことはなく、車で来ることが多く、この日も山田の自宅に迎えに行き、「旦那さんお借りしまーす」と、山田の家内に告げてきた。実際、香のお酌の返盃は、「私の分は山田くんが倍飲みますから」と、おじさん達をあしらっていた。そのため、酒に強い山田もやや酔い加減で、寿司屋でも軽くビールに口を付け、互いに二三個口にしてて店を出た。