色は思案の外
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色は思案の外
最後のティッシュ
2017/08/20 (日) 15:09
No.24897
玄関のドアを開け、先ず目に入ってきたのは見慣れない二足の靴だった
低目だけど、ちゃんとヒールがついている女物の靴で小さくて可愛く感じる
まぁ、凛子さんの足のサイズは身長に合わせて女性にしては大きめだし
普段はヒールが付いた靴なんか履かない、仕事を辞めてからは皆無だ
何所となく新鮮に感じた玄関の風景を背にしてリビングに向かった
「ただいま」
「おかえりなさい」
(なぜだ・・・ なぜ機嫌が悪い時の声なんだ・・・)
「お邪魔してます」
と言った声の主は僕も見覚えのある顔だ
家が程近い御近所の安達さんの奥さんと
隣で笑顔を見せているのは、今朝の清掃で初めて顔を合わせた吉崎さんの奥さんだ
二人の歳は分からないが僕らと近い歳だと思う
そして何故か二人の笑顔が止まらない、というより僕が笑われている様な・・・
理由が分からずに笑われるのは何となく不快に感じるものだ
「あの・・・ 僕が何か?」
「うふふっ いえ 別に」
(何なんだ?絶対に何かあるだろ!?)
「あの・・・ 吉崎さん」
「大丈夫ですよ、大丈夫ですから」
(いやいや、大丈夫って意味がわからん・・・)
「凛子さん、何かあった?」
「分からない?」
「うん・・・ 分からないから聞いてるんだけど・・・」
「思い出しなさい、公園の掃除が終わってから一度帰ってきたの?」
「いや、そのまま競馬に・・・」
(何だ?思い出す?僕は何をやらかしたんだ?)
「それなら、家を出る前の事を思い出して」
「う〜ん・・・ん! あ・・・」
「思い出した?」
「うん・・・ たぶん、このテーブルに箱が置いてあったと思うんだけど・・・」
「たぶんじゃないでしょ、宗太くんが置いたんでしょ?」
「はい・・・」
(という事は・・・ まさか・・・)
僕の頭の中に浮かんでいるのは夜の玩具が入った箱だ
昨夜のセックスが良過ぎて、凛子さんをもう一押しするために出掛ける前に仕掛けたトラップだが
それは凛子さんと二人で帰宅して・・・という前提があったわけで
開封したディルドとローションを並べて置く程の徹底したレイアウトのビックリ箱だったのに
枷も拘束をイメージしてもらうために枷同士を繋いだ芸術的な作品だったのに
なんで部外者が二人もいるんだよ・・・
「もお!何考えてるのよ!」
「ごめん、ちょっと驚かせようと思って・・・」
「ええ、驚いたわ」
「はは・・・ じゃぁ、サプライズは大成功だね」
「怒られてる自覚ある?」
「あります・・・ お客さんが来るとは思わなくて」
「思いなさい!」
「はい」
なんて事だ、凛子さんは随分怒っている
お客さんの前で僕を叱ることに躊躇する様子がない
しかし、安達さんと吉崎さんには大ウケのようだ
肩を震わせながら笑いを堪えている
「まぁまぁ、いいじゃない ふふっ 面白い旦那さんね」
(安達さん! もっと強めの擁護をお願いします)
「凛ちゃんも大変ね」
(吉崎さん・・・ って、凛ちゃん!?)
「まぁ・・・ 僕は反省してるから、この件はこの辺で・・・」
「そうね、夕飯の支度もあるから、続きは後にしましょ」
「はい・・・」
安達さんと吉崎さんが立ち上がり帰り支度を始めるが
この状態で凛子さんと二人きりにされる事に対しては危機感しか感じない
「あの・・・ 安達さん吉崎さん、よければウチで夕食を・・・」
「何言ってるの!恵美さんも加奈さんも家の事があるのよ!」
「ですよね・・・」
(エミさん?カナさん?どっちがどっちだ・・・)
安達さんは帰り際に「色々考えてくれる良い旦那さんね」と最後の援護射撃をしてくれた
吉崎さんは「宗太さんガンバってね、凛ちゃんまたね」と馴れ馴れしくもアッサリ帰って行った
そしてこの日、凛子さんと僕の立ち位置は上司と部下だった頃と変わっていないという事を改めて確認できた
それにしても、エロい玩具を見ただけであれ程笑えるものだろうか
僕がいない時に三人で何の話をしてたのだろう・・・ 気になる・・・
でも良かった、凛子さんに友達ができたみたいだ
出会ってから最近まで、会社での凛子さんと周りの関係を考えるとそれだけが心配だったけど
どうやら僕の取り越し苦労だったようだ
後は僕が凛子さんの怒りの嵐をやり過ごせば万事解決ってところかな
何の問題もない、今の僕は絶好調・・・のハズだ