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1 スレッドオーナー
kuma
2026/07/08 (水) 05:27
No.32916
雨の夕暮れ、リビングのソファに腰掛けた恵美子の指が、スマートフォンの画面を無意識に滑らせている。窓の外では、しとしとと降る雨がアスファルトを濡らし、車のヘッドライトがぼんやりと光る。二階からは、夫の隆がキーボードを叩くかすかな音が聞こえてくるだけだ。

彼女の目が、ふと一つの広告に留まった。文字は小さく、控えめなフォントで書かれている。「入墨師・緊縛師 出張致します」。一瞬、何かの間違いかと思った。こんな田舎町に、そんなサービスがあるはずがない。しかし、その言葉は彼女の胸の奥で、長い間忘れていた何かをそっと揺さぶった。

恵美子は五十三歳。専業主婦として、平凡な日常を送ってきた。若い頃はスレンダーだった体も、年齢とともに下半身に肉がつき、乳房も少し垂れてきたことを、彼女は鏡を見るたびに意識せずにはいられなかった。地味な服装で、控えめに振る舞う自分。しかし、心の奥底では、「自分はまだ終わっていない」という密かな焦りと渇望が、静かに燃え続けている。
5 Re: 境界線
kuma
2026/07/09 (木) 12:23
No.32926
恵美子の声は、思ったよりもしっかりと響いた。緊張で震えそうになるのを必死に抑えながら、彼女は続ける。すると男は、穏やかな笑みを浮かべ、うなずいた。

「そうですね。今日はお話だけ。せっかくですから、少し見ていかれますか」

彼の言葉は、まるで彼女の不安を汲み取るかのように優しかった。安心と同時に、胸の奥で何かがざわつくのを感じる。恵美子は小さくうなずいた。
省略・・ここ
6 Re: 境界線
矢部
2026/07/09 (木) 12:49
No.32927
kuma様

更新ありがとうございました。

>「解放」毎日の家事や、夫との無言の時間、そして自分自身の古びた殻。すべてから、少しだけ逃れたい。
省略・・ここ
7 Re: 境界線
kuma
2026/07/10 (金) 04:24
No.32929
矢部様拙い文章にコメントありがとうございます
男は、部屋の中央に置かれた低い台座のようなものを指さした。

「そこに座ってみますか?そのまま、縄を触っていてください。無理に何かをする必要はありません」

省略・・ここ
8 Re: 境界線
kuma
2026/07/11 (土) 12:40
No.32936
恵美子の指が麻縄の表面をなぞるたび、背筋を何かが這い上がるような感覚が広がる。それは心地よい震えであり、同時に自分でも制御できない何かが目を覚ましつつある予感でもあった。

「……すみません」

彼女は立ち上がった。声が上ずっていた。手に持ったままの縄を、慌てて台座の上に置く。男が何か言いかけるのが聞こえたが、その言葉は耳の奥で空回りした。
省略・・ここ
9 Re: 境界線
ファンです
2026/07/14 (火) 11:17
No.32949
深いスレッドと思わされてます。興味深々で待ってます。
10 Re: 境界線
kuma
2026/07/14 (火) 13:30
No.32951
コメントありがとうございます
続きです
家に着いたのは、六時を過ぎていた。玄関を開けると、二階の書斎から漏れる灯りと、パソコンのファンが回るかすかな音が聞こえる。隆はまだ仕事をしているのだ。恵美子は声をかけようとしてやめた。何を言えばいいのか、わからなかった。

リビングのソファに座り込む。手のひらには、まだ麻縄の感触が残っている。蝋引きされた滑らかさ、そして縄の一本一本が織りなす微妙な凹凸。その記憶が、指先から全身へと広がっていく。
省略・・ここ
11 Re: 境界線
kuma
2026/07/16 (木) 15:29
No.32960
隆が階段を降りてくる足音が、リビングの空気を震わせる。

恵美子はソファに座ったまま、夫の顔を見ることができなかった。目線を床に落とし、自分の指先を見つめる。麻縄の感触がまだ残っているその指を、彼は何も知らずに台所へ向かう。

「夕飯、もうできてるよ」
省略・・ここ
12 Re: 境界線
ファンです
2026/07/16 (木) 19:22
No.32961
千草忠夫を思い出させる綺麗な文章の出だしで、期待が膨らんでます。
頑張って下さい。
13 Re: 境界線
kuma
2026/07/16 (木) 20:20
No.32963
ありがとうございます。いつまで続けられるか がんばります
14 Re: 境界線
kuma
2026/07/17 (金) 19:53
No.32967
恵美子の指が、スマートフォンの画面をなぞる。

昼間に訪れたあのスタジオで見た光景が、まぶたの裏に焼き付いている。壁に掛けられた幾何学模様の縄、薄暗い照明、そして彼女の体に触れたあの男の指の温度。

布団の中で体を丸めながら、恵美子は検索結果をスクロールする。表示された画像の一つ一つが、彼女の呼吸を浅くする。縄に巻かれた女性の白い肌、赤く浮かぶ縄の跡、そしてその表情ーー苦痛と快楽の狭間で揺れる、曖昧な微笑み。
省略・・ここ
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