続々 せ・ふ・れ

[5] Re: 続々 せ・ふ・れ  洋祐 :2024/03/29 (金) 21:08 ID:wMGMZc8U No.190788

けいさん、まつさん、ジーンさん、レスありがとうございます。



美穂に会う前日の金曜の昼に、綾夏からメールが届いた。

『生理が来たから、明日は、J駅に一人で来てね
 寝坊して遅刻しないように』

ちょうど二週間前の金曜は、俺が綾夏の中に射精しようとした日だ。
もしも、あのとき、俺が綾夏の中に射精していたら、
今日、綾夏は無事に生理を迎えることができただろうか。
ふとそんなことを考えたら、俺の胸の鼓動が速くなった。

そう言えば、綾夏に生理中に会うのは、いつ以来だろう。
社会人になってからは、一度もないはずだから、
学生時代のサークルで会ったとき以来か…
綾夏の生理中に逢わないことを、俺と綾夏で決めたわけではないが、
二人の関係を考えれば、それが当然なのだろう。

翌日、俺は午後0時半頃に部屋を出て、J駅に向かった。
電車の時間の関係で、待ち合わせの1時よりも10分近く早くJ駅に着いたが、
改札を出ると、すでに綾夏と美穂と思しき女性が、二人並んで待っていた。

綾夏が、俺と美穂をそれぞれ紹介した後、互いに挨拶を交わした。
俺にとっては、美穂とは、事実上今日が初対面と言っていいが、
美穂は綾夏ほどの美人ではないものの、綾夏の言う通り、小柄で可愛らしい顔立ちだった。
綾夏よりも童顔で、確かに同い年には見えない。
俺は、美穂の胸の感触を思い出し、つい彼女の胸に目がいってしまった。

「先日は、大変ご迷惑をお掛けしまして、本当に申しわけありません。」
「そんなに気にしなくても大丈夫です。」
「綾夏が連絡して駆けつけて下さったそうで、ありがとうございました。」

美穂は、少し緊張しながら、そんな堅苦しい挨拶をしていたが、彼女の表情を見れば、
それは決して形式的なものではなく、心からお礼を言っているように窺えた。
美穂はその顔立ちとは裏腹に、低くて落ち着いた声なのが印象的だった。
綾夏もそうだが、アルトボイスは、俺にとって心地よい声だ。

「同い年なんだから、そんなに畏まらなくてもいいのに。」

俺たちの横で会話を聞いていた綾夏が、笑いながらそう言った。

とりあえず挨拶が終わった後、三人で駅の近くのレストランに入った。
店では、俺と綾夏が並んで座り、美穂が綾夏の前に座った。
男性一人女性二人の組み合わせでは、きっと女性二人が並んで座るケースが多いだろう。
ただ、女性二人が隣同士で会話すると、男性は蚊帳の外に置かれやすくなる。
俺は蚊帳の外でも構わなかったが、綾夏が、そうならないよう気を遣ったようだ、

とは言え、店での会話は、綾夏と美穂の二人の会話がほとんどで、
俺は、話しを振られたときに喋る程度だった。
それでも、俺と美穂は徐々に打ち解けていき、
店に入って1時間程経つ頃には、俺と美穂の二人で会話するようになっていた。

「綾夏、彼の連絡先、聞いてもいい?」

店を出る少し前、美穂が綾夏に尋ねた。

「何で私に聞くの?」
「一応、綾夏が紹介してくれた人だから。」
「洋祐が良ければ、私は構わないけど…、洋祐の連絡先を聞いて、どうするの?」
「たまに私の話しを聞いて貰えたらと思って…」
「ふーん、別にいいんじゃない。」
「あのー、迷惑でなければ、教えて貰えますか?」

美穂が俺の方を向いて尋ねてきた。
綾夏の視線を気にしながらどうするか考えたが、美穂の目の前で断るのも気が引けるし、
断る理由もなかったので、お互いに携帯番号とメアドを交換した。

三人で店を出てから駅に向かうとき、俺の前を綾夏と美穂が話しながら歩いていた。

「でも、綾夏の彼氏じゃなぁ…」
「だから、彼氏じゃないって…」
「綾夏には勝てる気がしないのよね…、負けるのは悔しいけど…」
「その勝ちとか負けって、何なの?」

歩いている途中、そんな二人の会話が俺の耳に入ったが、
その前後の会話は聞こえなかった。

「洋祐、美穂を送ってあげたら?」

駅に着くと、綾夏が俺にそう言った。
二人だけにするなと釘を刺しておいたのに、綾夏には全く困ったものだ。
美穂は恐縮して遠慮していたが、ここでも綾夏が「送ってもらいなよ」と勧めて、
結局、IB駅まで俺が美穂を送ることになった。
二人で電車に乗ると、運よく並んで座ることができた。

「今度会ったとき、何て呼べばいいですか?
 私のことは美穂って呼んでもらえればいいですけど…」
「別に何でも構わないよ。」
「綾夏は、洋祐って呼んでいますよね。」
「うん。男は皆、洋祐って呼んでいるな。あいつは男じゃないけど…、
 女性で洋祐と呼ぶのは、俺の母親と綾夏ぐらいかな。」
「洋祐くんという呼び方は?」
「子供の頃とか、学生のときは、そう呼ばれることもあったけど、
 最近はないかな。」
「洋ちゃんは?」
「親戚からは、そう呼ばれるけど、さすがにちゃん付けは止めて欲しい…」
「洋くんは?」
「そう呼ばれたことは記憶にないね。」
「じゃあ、洋くんって呼んでもいいですか?」
「えっ…、まあ…、別にいいんじゃない。」
「じゃあ、そう呼ぶことにします。」
「同い年なんだから、タメ口でいいよ。」
「そうですね。そうします。」

電車に乗って直ぐに、美穂とそんな話しをしたが、
美穂は、それから直ぐに、俺を洋くんと呼ぶようになり、
話し方も、まだ敬語が混ざってはいるが、タメ口に変わっていった。
美穂から綾夏との関係を聞かれるのではないかと、俺は内心冷や冷やしていたが、
何も聞かれずに済んでほっとした。

「来月、必ず連絡するね。」

IB駅で美穂と別れるとき、彼女が人懐っこそうな笑顔でそう言った。
美穂は、見た目も性格も可愛らしい女性で、以前の俺なら好きになっていたかもしれない。
だが、美穂の笑顔を見ても、美穂の胸の感触を思い出しても、
不思議と彼女を女として強く意識することはなかった。
綾夏が傍に居る限り、俺はどんな女性であっても、
女としてあまり意識することはないのかもしれない。

翌週の水曜の夜、綾夏からメールが届いた。

『生理終わったよ
 明日はジムの日だけど、J駅まで迎えに来てくれる?
 それまで、私の部屋で待っていていいから』

この週は、金曜の勤労感謝の日から三連休だった。
綾夏から、木曜の夜から過ごそうという、誘いのメールなのだろう。
綾夏は、俺に会いたいとは決して言わない。
俺が『わかった』と綾夏に返信すると、
直ぐに綾夏から『時間は明日連絡するね』と返ってきた。

翌日、午後8時半頃に綾夏の部屋に到着した。
綾夏のジムでのメニューを詳しくは知らないが、
筋トレと有酸素運動を合わせて1時間半ほどやるらしい。
ウォーミングアップやストレッチ、シャワーなどの時間を含めると、
全体で2時間ほど掛かるようだ。

午後6時頃から始めたとすると、終わるのは8時頃だろうか。
そうとすると、軽く食事をして帰ると言っていたから、
綾夏が帰って来るのは、10時近くになりそうだ。
少し早く来てしまったが、仕方がない。
久しぶりに、綾夏の部屋の中を眺めてみるか…

本棚を見ると、以前は、映画のパンフレットが並べられていたり、
テーマパークのグッズが飾られていたりしたが、今は、すでに無くなっていた。
本棚の抽斗を開けてみると、以前はネックレスが仕舞ってあったが、
それもどこにも見当たらない。

これらはBとの思い出の品や彼からのプレゼントと思われるので、
きっと綾夏が処分したに違いない。
Bと別れてからすでに2カ月程経つが、綾夏は気持ちの整理がついたのだろうか。