空白の日々に
98 Re: 空白の日々に
小田
2026/08/02 (日) 22:34
No.210982



隣にいる二人に振ります。
二人共、その男性と同じだとヨダレを垂らしそうな様子で頷きます。

「嬉しいわ・・・アトでね?・・・」

彼女の直ぐ後ろで待機している私を手招きして、

「・・・彼ね、黒服なの。分かるでしょ?」
「お会いしたことはないですね?」
「前の人じゃないけど、安心できる人だから、大丈夫よ」

挨拶しろとも名前も言いません。
黒服とはそういうモノなのかもしれません。
菊本さんは、口を挟まず、彼女に任せている様です。
覗きの真似事でも大事にならないように、黒服を用意していたことが分かりますが、今夜は
即席の私なのですから、端から考えていなかったことが窺えます。
それとも、急遽変更したのかもしれませんが、事実は闇の中です。

「それなら・・・じゃ、私はこれで・・・菊本さん、お願いしますね?」
「終ったら連絡します」

彼らしくない様子が気になります。

その女性は、彼女と軽くハグして、耳元で何か呟いたようです。

「そうね・・・」

歩き出したその女性が離れるのを確認してから、

「・・・菊ちゃん、始める?」

傍のベンチは、背もたれがなく座面は比較的低い設計になっています。
この季節ですから、散歩している人がいてもおかしくないのですが、いるとしても市街地から
車でやってくる人が殆どだと思います。
下心のある男女だと断定するには性急かもしれませんが、現に目の前でその情景が繰り広げられ
様としている事実は、その一端を物語っていると言えなくもありません。
ですから、カップルと出くわすことがあっても、それはそれ了解済みと理解するでしょうから、
それに気付いた時は、遠目で観るか離れて行くだろうと推測できます。

そのベンチの直ぐ後ろは草が生い茂っていて、灌木が不規則に立っています。
高い木ではなく幹も比較的細く、それだけで体を隠すことは出来ません。
ただ、寝転がれば、灌木であっても気付かれないだろうことは、容易に理解できそうです。
状況から判断して、黒服としての役目は、実のところ、かなり低いと思うのですが、それなりの
姿勢は見せないといけません。

トートバッグは菊本さんが持っていたのですが、ベンチの上に置かれています。

振り返った彼女が、

「いいかしら?」

小さく微笑むのですが、彼女の瞳に映るのは、私以外に去って行くその女性しかいません。
彼女の意図を計りかねて、口にした言葉が、

「ナニか?」

黒服の言葉遣いが分りません。