空白の日々に
65
Re: 空白の日々に
小田
2026/07/19 (日) 16:31
No.210576
その週の水曜日の午後、機械商社と打ち合わせのため、近隣の市に向かいます。
一般的には商社が客との橋渡し役ですから、こちらから出向くことはありませんが、工場設備の
打診があった客が来訪するとのことで、新規の客ということもあって、営業を伴って訪れます。
詳細の打ち合わせではありませんから、過去の実績などの説明程度で、実質的には、推測通り
顔合わせだったと言えそうです。
その商社は当社から車で1時間程ですから、午後5時過ぎには街の中心部まで戻って来ます。
営業部員に直帰する事を伝えて、JR駅近く迄送ってもらいます。
その駅から例の喫茶店には西に一駅です。
乗車時間は2〜3分ですから、徒歩でも気になる距離ではありません。
帰社しなかった理由は、その喫茶店が気になっていたからに他なりません。
平野さんの説明では、ウィークディは本業の喫茶店と聞いていますが、どことなく怪しい雰囲気が
漂っていたことが気になっていました。
私が来店した時が、そういう状況でしたから、どうしても疑わずにはいられません。
特に深い理由もなく、曖昧な気持に変わりはないのですが、今の状況に身を置いてみないと、
信じようにも信じ切れません。
営業時間は全く分らないのですが、昼間のOL、サラリーマン相手だろうと推測できますから、
遅くまで開いているとは思えません。
早ければ、午後6時閉店も考えられますから、この時間からならJRを利用するしかありません。
その喫茶店に着いたのは、午後5時30分頃です。
一階には客の姿は見られないのですが、気にせず二階に上がります。
土曜日に平野さんから説明を受けた壁際の席を避けて、その隣のテーブル席で窓側に坐ります。
二階に上がって来る、或は、二階にいる客の動きが見渡せる席だと判断したからです。
ただ、三列ある真ん中の列の一番東側は、仕切り壁で見えません。
その席は土曜日にいずみが居たテーブルでもあります。
怪訝そうな表情を隠すこともなく、マスターと思しき男が、注文のホットコーヒーをテーブルに
置きます。
「6時閉店ですが・・・」
「そうですか・・・」
「約束とか?」
「越智さんですよね」
「何も聞いていないので・・・」
「約束はしていません」
「じゃ、何故?」
「喫茶店でしょ?」
「もう直ぐ閉店ですが・・・」
「それ迄ならここに居ても問題ないですね?」
「まぁ、そうだが・・・聞いているのか?」
少し粗い口振りになってきます。
「さて?誰から?」
「莉子じゃないのか?」
「誰からも・・・何かあるとか?」
「見たいのなら・・・いいのか?」
「見るとは?」
「小田さんね、しつこいんじゃないか?」
「一人で来たのは初めてだが、意味するところが理解できないね」
「ふざけてるのか?」
「至って普通だが、歪んで取ってるのは・・・名前が分らないが、マスターじゃないか?」
「知らないぞ、吠え面をかいても」
「最近よく聞くフレーズだね。ここで流行ってるのか?」
「何だと!もう一度言ってみろ!」
私の胸元に手を掛けてきます。
「で?殴るのか?」
「お望みなら、殴ってやろうか?」
「誰が殴られたいと言った?態度も耳も悪いね」