空白の日々に
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Re: 空白の日々に
小田
2026/06/21 (日) 12:01
No.210049
私の返事も聞かずに、急ぎ足で奥のテーブルに行くのです。
携帯の相手が誰なのか分かりませんが、焦りの表情、慌てた様子から何かマズいことがあった
事は、隠しようもありません。
気にはなるのですが、詳細が分からないことに加えて、平野さんがいつ戻って来るとも表明して
いないのですから、動くに動けない状況です。
彼女が向かったテーブルに誰か居たのでしょう、彼女の話し声は聞えるのですが、相手の声は
全く聞こえません。
彼女の声が聞えると言っても、話しの内容までは理解できないのですが、声のトーンから慌て
ふためき取り乱している様子が伝わって来ます。
こちらから見える彼女の後姿にも、焦りの色が浮かび上がってくるようです。
どうしたものかと、気になりながらも静観するしかないと思っていた矢先に、慌しく階段を上が
って来る足音が聞こえてきます。
一瞬、その音は途切れるのですが、数秒も経たずに、
「いずみ!・・・お前!俺に恥をかかすのか?」
彼女の名前を叫んでから、奥のテーブルに移動したようです。
私達二人以外に誰もいないと思っていたのは、単なる思い込みだったのです。
いずみが居る、あの男が怒り狂っている、その理由も何も分らないとしても、尋常ではない空気が
ここまで伝わって来ます。
”ガチャ!”と、何かがぶつかる音がして、
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
いずみの謝る声が聞こえてきます。
二階の物音が聞えたと思うのですが、マスターは上がって来ません。
”バン!”と、先程よりも大きな音が二度聞こえて、
「いい加減にしろよ!何時だと思ってるんだ?・・・」
微かに聞こえるのですが、
「・・・聞こえてるのか?」
それへの返答もか細い声です。
あの男が、越智が、怒る理由があるだろうことは、彼女が謝っていることからも分るのですが、
余りにも怒りが大き過ぎると思えるのです。
これ以上、静観は出来そうもありません。
彼が手を掛けるかもしれない程の怒り方ですから、その前に止めなくてはなりません。
重い腰を上げる、妻だからという訳ではなく、ほんとに重い腰です。
仲裁など、私の得意とするジャンルではありません。
ただ、暴力、それも女に、歴然とした力の差があるのですから、それを肯定させることは私の
許容範囲を逸脱しています。
決して、正義感からではありません。
立ち上がって、声のする奥のテーブルにゆっくりと歩きます。
重い足には変わりありませんが、こうする他に選択肢はないのです。
私が近付いたのが分かったのでしょう、いずみの首を右手で掴んだまま振り返ります。
彼女は後ろ斜めの半身ですから、後ろから彼が挑みかかったようです。