妻の変貌
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謙治
2024/03/06 (水) 11:37
No.190080
私の名は謙治といい46歳、小さい工務店を営んでいる。
妻の名は静香で44歳、工務店の事務をする傍ら、
学生時代から親しくしている友人に懇願されて彼女が営んでいる居酒屋を手伝ってもいる。

営んでいる工務店はそれほど儲からない。
しかし普通の生活を過ごす程度の利益があるのは妻も承知しているから、
居酒屋の手伝いは妻の趣味といえるかもしれない。
それに、居酒屋の女将の香子さんには息子の就職などで世話になったし、
もう昔のことだが、同じ大学の学生だった私は彼女と妻を天秤にかけていた時期があったので、
今となっても彼女の恨みを買っているような気がして始末が悪い。

家庭生活は若い頃のような情熱は溢れていないが、
かといって倦怠感が充満しているのでもなく、今でも良い雰囲気と思っている。
そして、そうした雰囲気を保っていられるのは、
居酒屋を手伝っている妻のお陰なのは間違いないところだろう。

若い頃の妻はタレントの橋本マ〇ミ似で、
小顔で色白、手足が長く胸も豊かだった。
30代半ば過ぎになって無駄肉がつき始め自然劣化が始まったが、
逆に熟した熟れた無花果のような妙に艶っぽさが生まれ、
居酒屋に集まる酔客の人気を得ているという。

月に何度か訪ねてくる女将の香子さんは、妻がキッチンに立って離れているとき、
「静香を放っておくと盗まれちゃうかもよ」
などと言い、私を悪戯っぽく睨みつけてくる。
「そんなこと言ってた? だけど40過ぎのおばさんなんて、どうなの?」
呆れてそう返すと、彼女は含み笑いしたまま、
「だから、い・い・ん・だよ」
と言った。
そして、続けて、
「わたしはバツイチだから誰と遊んでも文句言われないけど、静香は違うしね。
どうする? 盗まれちゃったら?」
そう言う彼女の心の底には、過去の恨み辛みが今も鮮やかに残っているようにしか思えない。
口をへの字にして押し黙っていると、
「ははぁん…、もしかしたら寝取られたいとか? 違う? うわぁ、イヤらしい」
と言って、クスクスと笑う。

妻がキッチンからリビングに戻ってきて、
「楽しそうね、なに話してたの?」
と屈託ない調子で言う。
「いや、特に何も」
私が話を繕うと、
「静香が寝取られないか心配なんだって、旦那が」
彼女はあからさまにそう言った。
「はぁ? おかしくない?」
目を丸くして妻が言う。
「でしょう? 旦那って寝取られなの?」
「どうかなぁ、聞いたことないよ」
「まぁ、普通そんなこと言わないしね、男は」
彼女がもっともらしく言うと、妻は私をチラリと見てから視線を戻し、
「でも、ほんとに寝取られっているの?」
と、彼女にきいている。

「いるらしいよ、この前、ほら、いつも来てくれるあの人、そう言ってたよ」
「あの人って…?」
「茶町で不動産してる○○さん」
「そうなの?」
「寝取られじゃないよ、〇〇さんは。寝取りの方」
「まぁ! そうなの? ほんとに?」
チラリと窺うと、妻は本当に驚いたような表情をしていた。
「○○さん、もう齢でしょ?」
「剥げてるでしょ、ああいう人って強いって言うじゃない、昔から」
「いやだぁ、ほんとに?」
「静香、いつも相手してるでしょ、聞いたこことない?」
「ないない」
「ははぁ、投網掛けられてるかも」
「投網? わたしが?」
「たぶんね」
「どうしてそう思うの?」
チラリと私を見てから、妻は彼女に顔を近づけていた。
「わたしも口説かれたもの」
「まぁ! そうなの?」

四十路の女同士のエロ話に呆れつつ、私はその場を離れてリビングのソファに移った。
彼女ならまだしも、そんなエロ話に無縁と思っていた妻が興味津々というふうに身を乗り出している。
しかしながら既述したように、家庭内における妻と私が良い関係を保っていられるのは、
口に出せない趣味を持っている私に刺激を与えてくれる妻のお陰なのは間違いない。

妻は穏やかで人見知りもしない社交的な性格だから、
工務店に出入りする業者や手伝いの従業員からも好感を持たれているし、
居酒屋の女将の香子さんに至っては、
「静香に手伝いを止めろなんて言ったら、昔のこと、バラしちゃうからね」
などと脅かされるほどだった。
妻を尊重するのは夫婦関係を維持するためにも必要だから、
居酒屋の手伝いを止めろなどと言うつもりは毛頭ない。
実際、そうして我家を訪れる香子さんと妻の会話から、
居酒屋での様子を垣間見た気になって、内心、私は心を躍らせていた。