絆のあとさき 4
87 Re: 絆のあとさき 4
小田
2024/04/07 (日) 16:00
No.191036



素肌にナイトウエアを着たいずみは、ベッドボードにもたれて足を投げ出しています。
その時に必要とする準備をしているのでしょう。
宿泊約款は、ハードカバーに収まっていますが、中身がその役に立つと判断したようです。

「あっ?大変だ〜!」

慌ててベッドを降ります。
クローゼットに納めたショルダーバッグから、携帯を取り出したのでしょう、右手に持って
私に見せます。

「ダメね?まだまだだわ、うふっ」
「だね、はははっ」


ベッドに戻って、先程と同じようにリラックスした様子を演出します。
ナイトテーブルに置いた携帯には目もくれずに、約款の内容を読んでいる様に見えます。

「いずみ、約款を読んでるのか?」
「うふふっ、この時間はお仕事の時間なの。タクマさんは、そう思ってるのね。
ほんとにそうなんだけど、今は偽装でやり過ごさないといけないでしょ?
だからね、作成途中の書類のチェックとか、そうだわ、今夜はこれでいこうかな?うふっ」
「楽しそうじゃないか?」
「嫌味なの?ほんと大変なんだから・・・あれ?これも二面性?」
「はははっ、二面性が多くて大変だね?」
「もう!多面性でしょ?それは今度ね?・・・あなた、ベッドの方に移動してくれない?
スピーカーにするけど、近くの方が良く聞こえるでしょ?」

いずみとの距離は、テーブルを挟んで2m程ですが、椅子をベッド寄りに移動すれば、その距離は
1.5m弱とかなり近くなります。


腕時計は、11時35分を回ったところです。

「何だか緊張するかな?うふっ」

そうは見えないのですが、内心は穏やかではないのかもしれません。
タクマさんとの会話を私に聴かせること、それは一大イベントとは思っていないでしょうし、
以前にも録音した会話を聴かせているのですから、緊張感があるとしても、それ程の事でもないと
思うのですが、性行為を見せた後となると、少なくない不安も感じているのかもしれません。

私が口を開こうとした時、静寂の中で携帯の着信音が響き渡ります。
少し引き締まった顔を私に見せてから、そっと手を伸ばして携帯を取り上げます。

「あなた、ちょこっとイヤらしいお話もすると思うけど、気にしないでしょ?」
「あぁ、良しなに。僕が話題に上るのかな?」
「かな?・・・出るわね?」

ホテルの宿泊約款はベッドに置き、携帯は左手で持ったまま、下腹部の少し上に乗せます。


『大丈夫?』

いずみの第一声は、タクマさんへの気遣いです。