絆のあとさき 4
100 Re: 絆のあとさき 4
小田
2024/04/28 (日) 22:28
No.191501



翌日は土曜日です。
午前中の遅い時間のフライトなのですが、いずみ、ひろ子と同じ飛行機ではなく、意識的に
避けます。
いずみは家族三人揃ってと思っていたのですが、ひろ子にはいつもと変わらない景色を見せる
ために、午後の便を予約したのです。
このことについては、いずみと打ち合わせ済みですが、毎週末よりは少し早いフライトにします。
大阪空港での私の待ち時間を短くするためなのですが、それでも、2時間は長いと感じたのですが、
昼食を含めれば、それ程でもありません。


予定通り、7時前にいずみと一緒に客室を出ます。

「お食事って一人じゃ寂しいでしょ?」

私はホテルのレストランに、いずみはひろ子が待つPPTに帰るのです。

「ん?・・・石黒さんか?」
「譲ってもらったでしょ?お返しは必要だもの」
「それが僕との食事?」
「時間があればお部屋で。ランチはひろ子ちゃんと3人の予定だから、12時には帰して欲しいの」
「朝から?食事はいいが、その気になれないね」
「お腹一杯だから?」
「ん?・・・はははっ、それもあるかな?昨夜は特別なメニューだったからね、未だに満腹だよ」
「食べれない?朝食、それともサワちゃん?・・・うふふっ、愚問ね?」
「正直なところ、満腹もそうだが、少々疲れ気味だよ。できれば散歩でもしたいね」
「いいわね。午前中なら日本庭園もいいんじゃない?」
「石黒さんが了承してくれればだが。余計な入れ知恵をするなよ」


ホテルの玄関までいずみを送って、レストランに向かいます。
相変わらず10数人が列を成しています。
石黒さんが来る迄そう時間もかからないでしょうから、待つのは苦痛になりません。
案内されたテーブルは、料理をピックアップするには、少し離れているのですが、その反面、
客の往来を気にしなくて済みます。

少し待つのですが、一向に石黒さんは現れません。
先にと立ち上がった時に、携帯に着信です。


『ごめんね?待ってるんでしょ?』
『予定変更かい?』
『そうなの。サワちゃんね、今回は遠慮したいって。本人から話させるわね?・・・』
『そうか・・・それなら・・・』
『・・・代わりました、サワです。昨夜はいずみさんに譲ったでしょ?だから、次まで待つことに
します。お声を掛けてもらってほんとに嬉しいの。でも、お食事の後の事を考えたら、次回まで
待つ方がいいかなって。そう思ったので』
『ん?・・・散歩はダメなの?』
『えっ?・・・あれ?いずみさんはお部屋でって。違うんですか?』
『本気だったの?ジョークかと思ったわ。それじゃ・・・サワちゃん、どうする?』
『誰かさんと違って、僕はいつでも真実しか話さないからね』
『そうなの?うふっ・・・それなら大丈夫でしょ?』
『そうですけど・・・今回は・・・予定していたのに、こんなことって・・・ですから、次まで
待ちます』
『お食事の後に散歩なのよ、それならいいでしょ?』
『昨夜は、譲りたくなかったの。いずみさんだからじゃなくて、そうなんですけど、私の事情が
・・・だから・・・』
『ハッキリしないんだね?』
『昔の私に似ていない?言えないのよ、恥ずかしくて・・・そうでしょ?』
『話せない事じゃないの。でも、お食事の時に、タイミングが悪すぎるでしょ?』
『僕の事は気にしなくていいんだよ。石黒さんの気持ちが大事だからね』
『ごめんなさい・・・今回は・・・すみません』
『いいよ、二週間後迄取っておこうか?散歩は気分転換にいいからね?』
『はい、その時まで気持ちを転換させておきます。おかしい表現ですか?』
『はははっ、石黒さんらしいと言っておこうか?じゃ、その時に・・・いずみ、纏まったから
ここまでだね』
『そうね・・・サワちゃんマターだもの。お食事を楽しんでね?』
『あいよ。フライトに遅れるなよ』
『うふふっ、あなたも・・・じゃぁね?』


大阪空港に着いてすぐに食事を済ませます。
その足で、以前るみさんと入ったカフェで時間潰しです。
また会えば三回目になりますから、それはあり得ないと思いながらも、つい辺りを見渡して
しまいます。
結局、いずみとひろ子を出迎えるまでは、るみさんどころか誰にも会わないのですから、
るみさんと二回も会ったのは、奇跡に近いのかもしれません。
それにしても、いずみの実情を報告してくれるるみさんですから、非常に有難い存在だと思える
のです。


その夜は、いずみのマンションに泊まるのですが、タクマさんの事は、何に一つ口にしません。
帰ってくれば全く関係ないと言わんばかりですから、敢えて、私からも触れることもありません。