（国境の長いトンネルを抜けると、雪国であった）
　とは、有名な小説の書き出しだが、２人がやっと決意した夫婦
交換の道のりの先には、どんな景色が待っているのだろうか。ま
だ２人の思考は、階段で言えば（踊り場）芝居で言えば（幕間）
の状態なのだが、男の私は、踊り場から上の世界は、おそらくフ
ァンタステイックな、イクタシーの世界で無くてはならないと思
っている。女の洋子は幕が開けば、そこはオルガスムスのエンド
レスの舞台だと夢想している。
　
　夫婦交換を受け入れることを、承認した洋子の態度がこれを気
に一変したのです。

　朝、鏡の前で髪を撫で付けながら
”まだ若い。お肌もこんなにきれい。熟女と言うには早過ぎるわ”
　自己満足している。私も大きくうなずきながら
”男にとって今の洋子が食べごろ、一番美味しいはずだと思う”
”そうよ。洋子の賞味期限は灰になるまでよ。それよりあなたの
品質保持期限は、まだまだ大丈夫なんでしょうね”
　ムーッとした顔で
”当然、いつも洋子がよく立つわね、と満足しながら誉めてくれ
ているじゃないか”
　と２人して悦に入っている。特に洋子は、悩んでいたときは少
し肌も荒れていたが、決断した今はおしろいののりもよく、上機
嫌である。なんとなく、それなりに努力するのではないかと、予
感めいたものがあったが、これほど早く行動するとは思わなかっ
た。私も
”花には咲かせ時がある。いろんなご主人を知ることによって、
もっともっと美しくなれるからね”
　とヨイショしたりした。

　当然のことだが、洋子には夫婦交換の知識はない。その夜から、
どんな方法で相手のご主人と交わればよいのかを質問して来た。
私にはあまりにも愚かしい質問であるが、洋子には適切な答えが
必要である。わかりやすく説明をし、理解を積み上げていくほう
が、当面大事だと思った。

　相互観賞。同室ＳＷ。別室ＳＷ
　の３方法を、それなりの次元でわかりやすく説明してやった。
理解力の速さは常々舌を巻くくらいの洋子だけに、スボンジが水
を吸収するような早さで理解していく。

　相互観賞は、観賞って言うくらいだから、２組の夫婦がセック
スの行為を、見せ合いながら楽しむ方法のことなんだ。男女の性
愛は誰も教えてくれないから、普通の夫婦は愛撫といえばオッパ
イ、刺激といえばクリトリスと、馬鹿の二つ覚えよろしく、これ
しか知っていない。だからすぐにマンネリ化して倦怠期を迎えて
しまう。そんな自分の技巧の貧しさを、他の夫婦の行為を見て参
考にしたい。セックスを楽しむというか勉強会みたいなものだ。
だからと言って、夫婦交換までする勇気がないという、初心者入
門コースなんだ”

”意味はわかったけれど、見せるのって、恥ずかしくないのかし
ら。洋子は恥ずかしいわ”
”恥ずかしかったら布団をかぶっていればいい”
”相手の夫婦だって、私達のしているの見たいのでしょう”
”相手が見せてくれるだけ、こちらも見せればいい。公平にネ”
”その場で交換しようといわれたら？”
”その時は交換すればいい”
”そんな、場当たりすぎるわ”
”いや、場合によってそうなさるご夫婦も、いるといいたかった
だけだよ”
”だったら初心者の、洋子向きな方法だわね。それに同室ＳＷや
別室ＳＷも教えてよ”

　同室ＳＷは夫と妻を交換しあい、４人で楽しむ行為なんだけれ
ど、この方法は奥様方の要望が多いらしい。ホテルを利用すると、
２人だけの密室になってしまう。だから初めて会う男と裸で抱き
合うことに、不安を抱かれるからなんだ。例えば、変な器具や予
想もしない体位など求められたら、どうしようと危惧を抱かれる
らしいんだ。だからご主人に側で見守っていて欲しいのだろうね”

”あなたの側で、あなたに見られながら、他人のご主人を受け入
れるの”
”この場合、そうなるね”
”あなたに見られながらそんな恥ずかしいこと、洋子に出来ない”
”最初は恥ずかしいだろうけれど、安心を優先なさるんだろうな”
”初心者で夫婦で手をつないだまま、相手夫婦と結ばれる人もあ
る位だって”
”そんなこと無理よ”
”初心者夫婦が、布団の上で手をつないで仰向けになるんだ”
”じゃ相手の奥様は、女上位っていうあの体位？”
”そう、女が男をまたぐ、あの方法だよ”
”夫婦交換って、何でもありなのね”
”これはベテランのご夫婦の話。初心者をもてあそぶ楽しみかた
らしい”
　まるでセックスの国の、おとぎ話のような会話がとめどなく続く。