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[4210] 絆-12 ヨコシマ ◆9bpgRg 投稿日:2005/01/18(Tue) 20:18

なんということか、、、、、

彼は、盲目でした。

ドアが開いて最初に白い棒が見えました。
車の縁で身体を支えながら老人のようにゆっくりと立ち上がり、
送ってくれた運転者には一切の会釈もなく、
足下の黄色いイボイボの付いたブロックを探し当てると、一定のリズムで
カチ、カチ、カチ、と地面を叩き始めた時に、
彼が持っていたその棒が盲人用の杖であるという事に始めて気付きました。
彼は少し上を向き加減に胸を張って歩き始めました。
妻の車はしばらく止まっていました。恐らく彼が途中でころばずに改札を通り抜けられるか
心配で見ていたのでしょう。
妻の車が去った後、私は急いで切符を買い、彼の後を追いました。
階段を登ってホームで電車を待つ彼の横に立ち、恐る恐る彼の顔を見ました。
輪郭は丸く、モンゴル人のようにのっぺりとして頬にはアバタがあり、
不自然に上を向いて何かをぶつぶつ呟いている横顔が、ホームの蛍光灯の明かりに
青白く照らされて無気味に見えました。
私は彼が盲目であるのをいいことにじっとりと見据えていました。
この赤ら顔で、、妻の細い顎に、、ミルクの香のするこめかみにほおずりしていたのか。
この紫色の分厚い唇で、、妻のさくらんぼのような唇を吸い込み、そしゃくして、
出してはまた含み、そして汚い唾液を注いでいたのか、、、。

その時、、、彼がこちらを見たのです。しっかり私の目を、、、。
その目はシベリアンハスキーのように少し碧がかった透明な色をしていました。
ほんの0、5秒くらい、でも確実に彼の視線は私の目を貫きました。
私は身動きも、息も出来ず、ただそこに立ち尽くしました。

電車が来て、後ろに並んでいた若いサラリーマンの男性にサポートを受けながら、
彼は電車に乗り込み、どこかの街へ帰って行きました。
私は彼を見送った後暫くホームのベンチで放心状態になっていました。

彼は障害者であり、弱者です。独り荒野に置き去りにされたら帰って来れないのです。
考えてみると、彼は今まで一度も自分から積極的に何かをする事は無かった。
休みの日にデートにも誘わなかったし、ホテルに連れ込もうともしなかった。
始めてのキスも妻からしたのでしょう。それは妻の優しさというか、同情だったのか、
付きまとわれたりする事は決してない余りにも安全な男に油断したのか、、、
妻が勝手に彼にハマり、抜けられなくなった。
不細工な、恵まれない人生の彼を妻が犯したのです。
そう言えば、いつも別れる時に必ず「大丈夫?」と声をかけていたっけ。
メールのやり取りもきっと音声変換ソフトを使っているのでしょう。
、、、盲人が?なぜ介護の講習を受ける必要がある?介護受けるのはオメーだろ!?
メクラのくせに!、、、、、、、、、、、、、、、、、、

「北風と太陽」の話を思い出していました。彼はテキトーに生きている多くの人々の
何倍も生きる事に真剣で勇気があり、謙虚で、盲目であるにもかかわらず自分よりさらに弱者を
助けようとしている。それだけでもう十分に尊敬に値する。
おごらず、人に命令せず、攻め込んで略奪しない。孤独な闇に耐え、静かに暮らす。
最初の頃、彼の話し方はいつも穏やかで、たくさん言葉を知っていて知性的でした。
視覚を頼りに出来ない者にとって、言葉が唯一の伝達手段だからなのでしょうか、、
聞いていて心地よかった。

もうひとつ、重要な伝達手段とセンサーがある事に気が付きました。
触覚です。

彼の執拗なまでの、深く何処までも続くキス、、、、。
私達健常者は持ち合わせない、いや、忘れてしまった?   深い感覚。
唇で相手の気持を察しようとする深い愛情。

太刀打ち出来ません。反則だよ、、、、。
私は浅い、、、。

[Res: 4210] 全部読ませていただきました。 タテシマ 投稿日:2005/01/19(Wed) 02:01
この状況をヨコシマさんが少しでも喜ぶのであればよいとは思うのですが、
一つ言わせて頂きますとご自分を卑下する必要は全くありませんよ。
攻め込んで略奪しない。と仰いますが彼は十分にそれをやっています。
どれだけ弱者に貢献しようが貴方に内緒で楽しもうという意思は、貴方の領域を
無断で汚そうという下卑た思考に他ならないのです。
この状況でもなお下卑た相手を美化できる貴方は決して浅はかなどではない。