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[30661] 魔性【番外編30】 樹氷 投稿日:2008/04/21 (月) 22:03
全てが氷解した訳では無い‥
しかし、十数年の長きに渡った明美の私に対する怨念にも似た呪縛は解き放たれ、薄らいだと信じたい・・。

「なぁ、あのりょう言う奴は何をしている奴なんや?」

私は尋ねた。

妻の所在を調べ、一緒に居る相手であるりょう氏についての情報を知り得るには明美の協力は欠かせないのだ。

「りょうが何をしてるかやて?
・・アイツは、まともやあらへん。

自分では会社を経営してる言うてるけど、ツルンどる連中はいかがわしい奴ばかりや。」

[やはり、まともな奴では無いのか・・]

不安が募り、しかっめっ面でいる私に明美は

「あのな‥ りょうはアンタに昔、自分の女を盗られたて思うてるんよ。十数年振りにアンタの奥さん‥由香利さんに逢うて、エライ女っ振りが上がっとるんで、何としてでも自分の手元に置きたい思うてるみたいや‥」
あの【Z】での、りょう氏と絡んでいる時の妻の狂態、DVDに収められていた顔付きまで変わって、りょう氏の凶器のようなイボマラに歓喜する妻の姿。
そして私の不在を見計らったように帰宅して、着替え、まるで三行半のようにDVDを置いて再び出掛けてしまった妻。
どう考えてもマイナス要素ばかりなのだ。

苛立ちと不安を抑えるように腕組みをし、思いを巡らせる私に明美は切ないような、困ったような顔をしながら、視線を天井に向けて呟くように言った。

「・・そんな顔せんといて‥
あ〜ぁ‥ ウチは結局、損な役回りやわぁ‥。

しゃあない、ウチが奥さんを連れ出したる。

ウチが出来るのはそこまでや‥。

後はアンタが奥さんとキチンと話し会って、諭すなりしたらエェ‥。」

「あ・明美・・・ 」

「エェんや‥

罪滅ぼしや‥ ウチもやり過ぎやったんやろうし‥ 。

何か‥ もうどうでも良 くなってしもうた。

でもな‥ ウチがアン タを恨んだり‥、憎しん だり‥
痛いぐらいに悲しくなってしもうたり‥
そんな意味だけは忘れんといてな‥ 。」

私は明美の言葉に複雑な胸中で頷いた。

静まり返ったリビングには重苦しい空気が流れていた。

その空気の重さが、より己の冒した、かつての身勝手な過ちを痛感させ、のしかかるような贖罪の重みを実感させていた。

[Res: 30661] Re: 魔性【番外編30】 樹氷 投稿日:2008/04/21 (月) 22:05
明美はリビングの掛け時計に目をやりながらポツリ、ポツリと言った。

「後な‥ アイツは‥りょうは、変に頭が回るとこがあるねん。

何となく今この段階で、準備してるような気がする。

由香利さんと二人きりじゃないんやないやろか?
危ない連中を引っ張り込んで無ければエェんやけど‥ 」

「危ない連中かいな‥
ホンマ洒落にならんわ。

明美?オドレは何時に、りょうと連絡を取る事になっとるんや? 」

私は気が気で無かった。もう二度と取り返しのつかない事はしたくない。
【一刻も早く妻を取り戻さなくては!!】

明美は指を折るようにして掛け時計を見ている。
「そやな‥後一時間ぐらいしてから、りょうの携帯に連絡入れたらちょうどエェ感じやないやろか?」

妻を奪還する折りの不測の事態に備えて、こちらも最低限の準備が必要なのかも知れない。

明美が、りょうに連絡を入れて合流するまでの時間を考えれば、ギリギリ手は打てそうだ。

トラブルは基本的にゴメンだ。
しかし状況が状況だけに理想論ばかり吐いていても問題は解決しない。

備えあれば憂い無しだ。
私は西島氏に電話を入れた。

昨夜、西島氏と同じ空間に居ながら西島氏に伝えられなかった複雑極まりない出来事、その流れを事細かに、そして正確に伝えたのだった。

西島氏は私の話を聞き、驚きの中にも何か予期していた風であった。

昨夜【Z】での妻の動きと私の行動に西島氏も嫌な予感があったようなのだ。

西島氏は「分かった、いざアンタが嫁ハンを迎えに行って、アホうどもが暴走して、アンタやアンタの嫁ハンに万が一の事があっては洒落にならん‥ 。
ワシのルートで出来る事はするさかい、ちょっと待っててや。」と携帯電話の向こう側で慌ただしく電話を切った。

[Res: 30661] Re: 魔性【番外編30】 カス夫 投稿日:2008/04/22 (火) 00:50
樹氷さま、お話ありがとうございます。
いよいよりょう氏と対決、クライマックスですね。西島氏に明美さんが、すごく頼もしく感じます。
引き続き、お話をお願いします。